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アデルが失念していた君とな主人公の特殊能力。

それは君とな無印の頃から変わらず存在する裏設定で、存在が明かされたのは3作目の時だった。

実は歴代主人公は皆無意識にその能力を使って攻略対象者達を虜にしていたのだと。

その能力とは『魅了』の力。

無印の主人公シャーリーも、2の主人公カロンも、3の主人公リーネも、そして当然4の主人公であるルナも持っている能力で、あの時見たピンクと紫の煙のようなものがルナの感情に合わせて可視化した魅了のフェロモンだったのならばライカとウォルターの急な態度の変化にも説明がつく。

というか先ほどまで想い合っていたはずの婚約者に突然あんな態度を取られたら、いかな完璧令嬢のアデルでも悪役令嬢になろうというものだ。

心変わりの理由もわからないし、自分は悪いことしてないのに何故と思って当然だろう。

なのにゲームのアデルは先ほどのカティア達と同様にあくまでも口撃(彼女の至らない点を強めの口調で指摘すること)だけで矛を収めていたのだから、むしろ褒められるべきだ。

決して冤罪で追放されるような人間ではない。

「ああ、それにしても気がつくのが遅かった…」

一度魅了にかかってしまえばそれを解くのは難しい。

術者から引き離し我に返らせればいい、と方法だけ言えば簡単そうに思えるが、そもそも主人公は攻略対象者から離れようとしないだろうし、魅入られている彼らも離れないはずだ。

そして我に返らせるに至っては方法がわからない。

一体何が気付け薬となるのか。

残念ながらゲームは魅了状態を維持することが目的だったのだから、その知識の中に解呪のヒントとなるものはない。

アデルは手詰まりとなってしまった。

どこかに手がかりが落ちていないものか…。


ライカたちがルナの魅了にかかってから1ヶ月。

アデルはいまだ打開策を見つけられず、元々のアデルの心情に引っ張られて鬱々とした日々を過ごしていた。

先日王妃のお茶会に参加した際にこのままでは婚約破棄もありえるかもしれないと相談したが王妃には「あの子は貴女にベタ惚れだもの、心配ないわ」としか言われなかった。

ああ、本当にどうしたらいいのか。

悩めるアデルに転機が訪れたのはそれからさらに1週間が経った頃だった。


「隣国の王太子妃様とのお茶会、ですか」

アデルが王妃に呼び出され告げられたのは、2週間後に結婚報告のためにクローヴィア王城へ訪ねてくる隣国ディアの王太子と王太子妃の相手をしてもらいたいという依頼だった。

「そうなの。ライカはまだ立太子されていないけれど、地位的には王太子でしょう?だから婚約者であるアディちゃんと2人を持て成す手伝いをしてほしくて」

にこにこと「お願い」と告げる王妃は穏やかで品があり、あどけない少女のような雰囲気を持っているので非常に断りづらい。

それにライカは友人であるディア国王太子の相手をし、自分は王太子妃の相手をするだけで、2人一緒に行動しなければならないわけではないというのだから、今の関係性のままでも支障はないだろう。

元より王妃の依頼を断るなど王子の婚約者に過ぎない一侯爵令嬢にはできない話だ。

「承知いたしました。では当日は当家自慢のフィナンシェと共に参ります」

アデルは当日王城で用意する予定の茶菓子と被らないように、どこに持って行っても評判のいいウィレル家自慢のフィナンシェを持参することを告げる。

チョコとナッツの生地に香り付けでオレンジピールを混ぜ込んだそれは王妃の大好物でもあった。

「本当!?嬉しいわ」

王妃は頬を紅潮させ、全身で嬉しいと表現するようにウキウキし出した。

世界が変わってもスイーツが女性に愛されるのは変わらない。

ライカのことは気にかかるが、王太子妃とのお茶会だけならば彼に会うこともないだろう。

最後に彼とまともに会話したのはあの中庭で、それからもう1ヶ月半も話すどころか会ってすらいない。

それを淋しいとは感じるが、同時に戸惑いも大きい今はどうしようもないのでアデルはこのお茶会に向けて全力で準備に取り掛かろうと思った。

「あ、そうそう、ディアの王太子妃様なんだけれど、以前面白いことをしたと話題だったから是非お話を聞いてみましょう?」

決意も固まりそろそろお暇しようと思っていたアデルの耳に、未だウキウキと浮かれている王妃の声が届く。

「ルリアーナ様と仰ってね、元は第一王子の婚約者だったのだけれど婚約を破棄なさって、でもひと悶着あった末にその方が廃嫡されて、第二王子だった今の王太子様と婚約して結婚したのよ」

その時の話が広まって劇にまでなってね…と王妃の話は続いていたが、アデルはそれどころではなくなった。

今、打開策の手がかりを手に入れたかもしれない。

ディア国の王太子妃ルリアーナ。

それはシリーズ全てを網羅しているアデルには聞き覚えのある名前だった。

だがそれは王太子妃などではなく、ヒロインでもなく、君となの2作目の悪役令嬢ルリアーナ・バールディ・ダイランドとしてだ。

もし同一人物であるのなら、断罪され追放されているはずの彼女が何故王太子妃になれたのか、そこに解呪の手掛かりがあるかもしれない。

と考えたところでアデルの頭にあるひらめきが浮かぶ。

「…まさか、いえ、でも…、もしかして…」

ルリアーナが断罪を回避できた理由。

もしかしてその答えは、今の自分と同じ存在だからなのではないか。

つまり、彼女も転生者なのではないだろうか、と。

読了ありがとうございました。

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