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アデル編スタートです。

カロンの死から3年後。

21歳になったルリアーナはヴァルトが16歳になったその日に彼と結婚した。

『王族は5歳から婚約者選びを始め、16歳から結婚できる』というのがこの国の王族の習わしであるが、16歳になると同時に結婚したのは王国史上彼が初めてだという。

それはほとんどの王族が学園在学中に婚姻をしないこと、そして卒業後の2年間は王族の仕事を学ぶ時間に充てることを前提としているため20歳以降に結婚するものだと考えているためだ。

だがヴァルトは王族としては珍しく飛び級をしてすでに学園を卒業しているし、立太子した時から王族としての仕事を任されていたため、16歳という若さながらすでに20歳の王族と同じレベルに達していた。

そのためどこからも反対の声はなく、むしろ諸侯は拍手喝采、万歳三唱という状況であった。

なお、王族は学園で己の右腕となる補佐を見つけることが多いため飛び級をせずに卒業をするだけで、歴代の王族たちに飛び級できる頭脳がなかったわけではない。

しかし、ではヴァルトが王族として普通かと問われれば、優秀なものが多い王族の中でもさらに頭一つ抜けて優秀であると言わざるを得ない。

だからこそ諸々が許されたわけだが、その動機が『ルリアーナと早く結婚したい』というただそれだけであることをルリアーナだけが知らない。

もちろん諸侯が「反対したらヴァルトになにされるかわかったものじゃない」と怯えていたことも「これでやっと心安らかに仕事ができる」と喜んだこともルリアーナは知らなかった。

ところで、王族、それも王太子が結婚したとなれば、それ即ち未来の国王と王妃が決まったようなものである。

であるならば当然のようにそれを国民知らしめることはもちろん、交流のある他国にも伝えなければならない。

というわけで、ルリアーナとヴァルトは結婚から1ヶ月も経たぬうちに旅立つこととなった。


「え?クローヴィアだけでいい?」

2日後に公務で国王がクローヴィアを訪ねる予定であったが、丁度いいからと結婚報告を兼ねて代理でヴァルトが向かうことになり、「ついでにそのまま各国へ結婚報告をして来い」と国王に言われたので、共に旅立つルリアーナも急いで旅支度をしていたのだが「なんかクローヴィアだけでいいらしいよ」というヴァルトの言葉に肩透かしを食らった気分になる。

「うん。昨日ハーティアの王妃が宝石の買い付けに来たついでだって寄って行ったでしょう?あの時に付き添いで国王陛下もいらっしゃっていたから、父様が「あれが報告の挨拶でいいだろう」ってゴリ押しして、なんか通っちゃったみたい」

「えぇ…?」

その際、ハーティアの国王は困ったように苦笑していたという。

「お前どんだけ息子の嫁が可愛いんだ」と。

それに対し国王は「そりゃあもう世界一!うちには娘がいないけど、嫁が理想の娘そのもの!!できるだけ家(王宮)にいてほしい!!」と真顔で返した。

ちなみに2人の国王は同い年だったこともあり、昔から気の置けない、親友と言ってもいいような間柄であった。

「私ハーティアの国王陛下にご挨拶していないのに…」

それなのに本当にいいのかとルリアーナの懸念は拭えない。

正確に言えば、挨拶には行ったのだ。

ただ、その際ハーティア王妃とディア王妃に捕まり強制連行されたので、国王とは顔さえ合わせられなかっただけで。

「気になるだろうけど、向こうもそれでいいって言ってるんだし、次の機会なんてすぐだから」

顔を曇らせるルリアーナにヴァルトは大丈夫と言い切り笑うだけなので、これ以上言っても仕方ないと諦めて息を吐いて、もう一国についても訪ねてみる。

「えっと、スペーディアは…」

「スペーディアは再来月国王夫妻が訪ねてくるから、その時でいいって」

「ええ、ええぇ…?」

しかし返されたのはそちらもついでで済まそうというあっけらかんとした言葉で、ルリアーナは「結婚の報告がそんな適当でいいのか」と頬を引き攣らせたが、逆に考えればその程度で済むほど周辺国との関係が良好なのだと思えばいいと自分に言い聞かせ、今度は用意していた荷物を減らす作業に取り掛かった。


クローヴィアへは急ぐ旅ではないとダイロスという国境の街で1泊したので、ルリアーナたちは翌日の昼前に王城へ到着した。

そしてすぐに謁見の間へと通され、待っていたクローヴィア国王と王妃に温かく迎え入れられる。

「おおヴァルト、この度は結婚おめでとう。わざわざご足労だったね」

「いえ、陛下の壮健なお姿を拝謁でき、私も嬉しく思います」

国王夫妻は設えの玉座ではなく下に降りて2人を待っていた。

そして入場するとすぐに国王はヴァルトに近寄り、肩を叩いて結婚を寿ぐ。

自分の息子、つまりクローヴィアの王子がヴァルトと同い年で且つ仲が良かったため、国王はヴァルトのことも息子のように可愛がっていたのだ。

それを知っていたから王妃もヴァルトを、そしてルリアーナを見つめて嬉しそうに微笑み、謁見の間には温かな空気が流れていた。

「ははは、相変わらず君はそつがないな。では隣にいる麗しい細君を紹介してくれるかい?」

「ええ、と言っても面識はおありでしょうから、改めて紹介するまでもないのですが」

「まあそう言うな。君の奥方としては初めて会うのだから」

「仕方ないですね。本当は大切に仕舞い込んで誰にも見せたくない思いですが、それでは来た意味もありませんし」

「……監禁はダメだよ?」

「…………」

「ヴァルト!?ダメだからね!?」

「……わかってますよ?もちろん」

「その間がね、どうにも信用できないんだよ…」

「大丈夫ですって。さ、リア、陛下にご挨拶を」

国王とヴァルトは時折不穏な空気を醸し出しながらもテンポよく言葉を交わす。

口を挟む間さえなかったが、微妙なタイミングで水を向けられたルリアーナは「え?この空気で挨拶するの?」という内心を全く表に出さず、一歩踏み出してカーツィをし、口上を述べる。

「クローヴィア国王陛下、並びに王妃殿下。この度ディア国王太子の妃となる栄誉を賜りましたルリアーナ・バールディ・ロウ・ディアでございます。一度はお別れを申し上げておきながら再びお会いするのは憚られましたが、またこうしてお目にかかれて光栄の至りにございます」

流れるような美しいカーツィから続く一連の動作にクローヴィア国王と王妃は目を細める。

ディアの王妃と同じくこの2人もルリアーナの所作の美しさを知っており、彼女を気に入っていた。

ジーク元王子との婚約を破棄したからと別れの挨拶をしに来た時はもう二度と見られないのかと淋しくなったものだが、こうしてまた見ることができるようになって2人は密かに喜んでいる。

「私たちも再び君に会えて嬉しいよ。さあ、積もる話もあるだろう。向こうに食事を用意したから、ゆっくり話を聞かせておくれ」

「はい。ありがとうございます」

穏やかに微笑む国王夫妻に導かれ、ルリアーナたちは昼食を用意したという中庭に面したテラスに移動し、のんびりとした時間を過ごした。


「相談、ですか?私に?」

「ええ」

翌日、クローヴィア王妃に誘われてお茶を楽しんでいたルリアーナは思いもよらぬ単語に軽く目を瞠る。

常に大らかに構えて何事も笑顔で受け止めるような印象のあるこの王妃が相談してくる悩み事とは一体何だろうかと。

「実は、ライカの婚約者のアディちゃん…アデル・ウィレルちゃんが、最近悩んでいるみたいなの」

「ライカ様の…?」

ライカというのはライカ・ジュリアス・クローヴィア、つまりこの国の第一王子のことである。

ヴァルトの親友でありながら、そうとは思えないほど穏やかで聡明な少年だった。

とは言ってもジークの婚約者であった時には面識はなかったし、ヴァルトと婚約してからも2、3回くらいしか話したことはない。

ましてその婚約者など、顔すら見たことはなかった。

けれど2人は仲が良いとヴァルトに聞いたことがある。

そのせいで喧嘩をしたこともあったと。

ちなみに「僕はルリアーナ姉様と結婚できないのに、なんでお前は婚約者と相思相愛なんだ!!」とヴァルトが理不尽ないちゃもんをつけたことが原因らしいので、100%ライカは悪くない。

「ええ。なんでも最近ライカと上手くいっていないらしいの。一応『あの子は貴方にベタ惚れだから心配ないわ』と伝えたけれど、最近会った時も顔は曇ったままだったから気になって」

「……え?」

ルリアーナがヴァルトから聞いた2人の話を思い出して不思議がっていると、王妃から思いもよらぬ単語が聞こえて来た。

それは所謂恋バナというやつで、つい3年ほど前までは似たような悩みを持つ令嬢たちにアドバイスをしていたこともある。

尤も、それはこの世界から悪役令嬢という役割を与えられてしまった子たちに対してであり、実際の恋愛という観点から見ればルリアーナの経験値は限りなくゼロに近い。

果たして自分で役に立つのか。

疑問はあるが、王妃たっての願いならば仕方ない。

「…わかりました。お役に立てるかはわかりませんが、お話を聞くくらいなら私でもできますし」

不安な心の内を隠したルリアーナが了承を返すと王妃は顔を輝かせる。

「ありがとう。明日のお茶にはあの子も呼ぶつもりだったから、その時にでも話を聞いてあげて?」

「はい」

嬉しそうな王妃の顔を見れば不得手ではあるが了承してよかったと思え、ルリアーナは胸を撫で下ろす。

まさかそのお茶会で自分の『続き』に出会うなどとは思いもよらなかった。

読了ありがとうございました。

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