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一瞬、耳が痛いほどの沈黙が大聖堂を支配した。

「………は?」

『はあああぁぁぁ!!?』

だがルリアーナがぽつりと声を漏らしたのをきっかけに、大聖堂内は一転、蜂の巣を突いたような騒ぎになった。

「おま、ふざけんなよ!!」

「リアが魅力的なのは認めるけどね、だからって渡せるわけがない」

「ルリアーナ様は絶対に渡しませんからね!?」

「そーよ!!黙って神狩の魂でも食ってなさいよ!!」

ルカリオが三度取り出したナイフを悪魔目掛けて投げつけ、ヴァルトがルリアーナを隠すように前に立ち、アデルやリーネが両脇を固め、他の5人のヒロインと悪役令嬢は腰や背中にぴったりとくっつく。

フージャやトプルはそこまでの反応を示さないものの、気持ちは皆と同じ方を向いていた。

「貴方がどういうつもりか存じませんが、私たちはそう簡単にルリアーナ様を手放しはしなくてよ?」

ルリアーナを守る全員の意見の締めくくりとしてアナスタシアは悪魔を厳しい目で睨みつける。

それに呼応するように残りの面々も悪魔を睨みつけた。

『ふ、ふふ、そうでしょうね。こんなに素晴らしい方、早々手放せなるはずもない』

ルカリオのナイフを難なく避けた悪魔はにっこりと、それまでの慇懃無礼さが滲む嗤い顔とは異なる、どこかの貴公子のような完璧で美しい笑みを浮かべる。

『ところで、貴女はルリアーナ様と仰る?』

「へ?ええ、そうですけれど?」

その笑みに逆に言い知れぬ不安感を抱きながらもアデルたちに囲まれたルリアーナは悪魔の問いかけに答える。

周りが散々呼んでいるのだから「違う」と嘘を吐いたところですぐにバレるだろうと思ってだったが、悪魔はさらににっこりとルリアーナに向けて笑い掛ける。

『貴女の名前だと思うとその音すら素晴らしいものに思えますね。私の名はベリアル。是非その可憐な唇で我が名を呼んでいただいても?』

「え?ええと、ベリアルでもごもごむぐ」

頭に『?』を浮かべながらルリアーナがそう言うのと

「ああ!?待ってお姉様!!」

と慌てた優里花が後ろからルリアーナの口を塞ぐのはほぼ同時、より少し優里花が遅かった。

そのため優里花の制止も空しくルリアーナが悪魔の名前を呼んでしまった瞬間だった。

何の前触れもなくベリアルと名乗った悪魔の足元からぼうっと広がるように黒い光の魔法陣が現れる。

ルカリオにしかわからないことだったが、それは優里花が召喚された時のように風を渦巻かせて部屋を冷やしていく。

『ふふふ、駄目ですよ、悪魔の声に耳を傾けては…』

ベリアルは両手を広げて天を仰いで、嬉々とした声を上げた。

『我、ベリアルは我が真名を口にし乙女ルリアーナに忠誠を誓う!我が身の自由を対価に、今この時よりこの地に降り立たん!』

そして何やら契約呪文らしきものを唱えると、その声に答えるように黒い光がぶわりと広がり部屋を満たしていく。

「え?ええ!?」

聞こえた文言にルリアーナが戸惑うも、すでに時は遅く、

『……これにて無事に契約は成りました。私はこれから貴女に忠誠を誓う悪魔として、貴女の傍でのみこの世に在れる存在です』

しゅううう、と光が収束してベリアルに集まり、彼は勝手にルリアーナの支配下に入ってしまった。


「どうしてこうなった…」

ルリアーナは頭を抱えるが答えは出ない。

『おお、乙女よ、悩み沈む貴女もまた美しい』

その横に立つ頭痛の原因ことベリアルは歌劇の俳優のような大げさな身振りでルリアーナの前に跪いたが、

「ちょっと黙ってて」

ぴしゃりとルリアーナに言い切られると、何事もなかったかのように元の位置に戻った。

心なしかその顔はとても嬉しそうだ。

「なあ旦那、俺あんな同僚嫌なんだけど」

「奇遇だね、僕もあんな配下は嫌だ」

ルリアーナ以外の面々は危険は去ったのだろうと一先ずルリアーナから体を離し、頭を抱える彼女を礼拝用のクッションの上に座らせたのだが、すぐさまベリアルが横に侍ったため、なんとなく遠巻きにその様子を見ていた。

ルリアーナには頭を整理する時間が必要なことはわかっていたし、自分たちの力ではベリアルを退けることはできないと理解していたからだ。

「あのー、ちょっといいですか?」

するとフージャが遠慮がちに手を挙げる。

手持無沙汰で暇だ、などとは言い出さないだろうが、その顔には苦悩と戸惑いが浮かんでいた。

「何かな?」

ヴァルトが首を傾げつつフージャに訊ねれば、

「あそこで放置されてる3人、どうしたらいいですかね…?」

フージャは「あれです、あれ」と件の3人を指差す。

即ち、神狩と魔王とカロンだ。

ずっと目を瞑って眠っているようなカロンはともかく、目覚めてからずっと放置されている魔王と、いつの間にか悪魔からも忘れ去られてしまった神狩は実に所在なさげである。

「うわ…」

「ああ、完全に忘れていたよ…」

フージャの示す先にいる3人の姿を見て、さしものヴァルトも「気にしている余裕なんてなかったからなぁ」と頬を掻いた。

読了ありがとうございました。

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