プロローグ
何時の事だったか・・・
それすらも忘れてしまっていたとは、我ながら情けないことである。
「ねぇ、私のこと覚えてる?」
そう俺に言ったのは・・・一体誰だ?
言った当人の顔をまじまじと見つめると、目をぱちくりさせている。
そうだ、この小鹿を思わせる瞳に見覚えがある。記憶が、あれは俺が中学生の頃だったろうか。
遠い遠い、過去の思い出。
中学生の頃か。
まだ思春期真っただ中の苦い苦い思い出である。
「ねぇ、君、タケダ君だよね?」
「そうだけど、君は・・・、普通、人に名前を聞くなら、まず自分が名乗るのが礼儀ってものでは?」
あの時もそう言った俺に目をぱちくりさせていたな。
「ごめん、ごめん、私、ミサキって言います。隣のクラスのB組。君はA組だよね?」
馴れ馴れしいやつだなと思ったのが、ミサキの第一印象だ。
「タケダで合ってるけど、何か用でもあるの?」
ミサキがちょっと緊張した面持ちになったのがわかる。
「あのね、私と友だちになって欲しいんだ・・・ダメかな?」
俺に特に断る理由もなかった。それに、正直言うと、ミサキの顔立ちは俺の好みなのもあった。
「別にいいけど、どうして俺と?」
「う~ん、内緒」
「何だよ、それ」
「いいじゃん、いいじゃん、じゃあ、よろしくね。タケダ君」
「何かよくわからんが、よろしくされた」
「じゃあ、私、先生に呼ばれてるから、行くね」
「ああ、じゃあな」
これが俺とミサキとの出会いである。
そして、俺たちの運命の歯車は廻り始めた。