表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
零の願い  作者: 澁谷 優
3/3

第三話:過去式 弌

 ◇  (Aspect change)


 ――暗い。光は……何処どこ? 何処へ行ってしまったのだろう。


 数年前まで、私は平和な生活を送っていた。……喜び、怒り、哀しみ、楽しむ。そんな当たり前で、永遠に続くはずだった日常。

 でも、私にはもう何も無い。日常も、感覚も、力も、光も、何も……無い。感じない。時間の流れさえ止まってしまった世界。感情の欠落、虚無の意識、うつろな心――。




 ◆  (Person change)


只今ただいま、緊急事態が発生しました。脱獄者が出たもようです。警備員は速やかに脱獄者の確保に移ってください。繰り返します……』

 警告のサイレンが鳴り響いている。刑務所の幹部は指令室でうるさく怒声をいている。

「警備員どもは何を手こずっているのだ! たかが子供ごとき捕まえられんようでは上に申し訳がつかんのだぞ!!」

「分かっております。しかし相手は子供と言えど、ただの人間ではありません」

「言い訳など要らん! 我々が欲しいのは結果だけだ! さっさと捕まえてこちらに差し出せばそれでいい! 分かったな!」

「了解しました……」

 深い溜息を吐いて、一人の隊長は他の警備員に指示を出した。

「捕縛対象はA−67に監禁されていた白帝院はくていいんれい。気をつけろ、これは戦いといってもいい。油断をしていると殺されるかもしれないぞ。相手はただの人間ではない。総力戦だ、いいな? 失敗でもしたら上がうるさいぞ。これが終わったら、みんなで飲みにでも行こう……」

 そして彼は走り出していった。


 

 ◇ /過去式 1

 

 2010年、今から4年前の事だった。私の家を何人かのスーツを着た男達が訪ねてきた。

「ごめんください。失礼ですが、零さんは御在宅でしょうか?」

 私の母が玄関に出てきてそれに応えた。

「えぇ、いますが……。何か用でしょうか?」

「はい、とても大事な用が……」

 

 その時、玄関から銃声が聞こえた。大きな音に驚き、私は階段を降りていった。

 母は死んでいた。血だらけで、こっちを見ながら……。

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 思わず声を上げ、その場に崩れ込んでしまった。

「ウソ……いやだよ、死なないでよお母さん!!」

 男達はそんな私を気にも留めず、ズカズカと上がり込んで家を物色し始めた。

「他に人がいないか調べろ。見つけ次第殺せ。終わったらこの娘をあの方のもとへただちに連行しろ」

 

 私はショックで目の前が真っ白になってしまった。声も出せない。男達は物色が終わったようで、私の前に立って上から睨みつけている。いきなり一人の男に髪を引っ張られ、立つように促された。もう、私は抵抗する気力も失い、引っ張られている痛みも感じず、よろめきながら男達に連れていかれた。

 


 乱暴に車に乗せられ、抵抗できないように手錠まで掛けられた。

「どうして……どうしてなの?」

 私の力のない問いに、一人の男がボソッと答えた。

「これは、お前の運命なのだ」

 男はそう言ったあと、ふっと笑みを浮かべた。憐憫? 侮蔑? 

 既に走り出していた車の中で、私は後ろを振り向いた。どんどん家が小さくなる。

  

 あぁ……離れてゆく。幸せだった日々が、永遠に続くはずだった日常が……。

 


 ◇

 

 やっとの事で家の前まで辿り着いた。人一人背負ってくるのが、こんなにも大変だったとはな……。

 それに此処ここまで連れて来たのはいいが、この子はどうすればいいんだ? 怪我もしてるし、気絶してる。今すぐに怪我の手当ぐらいはしてあげたい。

 しかし、この家にいる俺の家族はどのような反応をするのだろうか。多分、ドアを開けた瞬間にはまず、母親の怒声が響くだろう。後に続いて妹も……。

 いや、今はそんなことどうでもいい。早くどうにかしないと……。

 覚悟を決めて、玄関のドアを開く。

 

 そして、

「儀式、こんな時間まで何処で何をしていた……の?」

 ドアを開けた先には、やはり鬼の様な母親が待ち構えていた。さすがの鬼もこの光景には驚いてしまったらしく、目を丸くして沈黙してしまった。続いて妹が登場して、不思議そうに言った。

「儀式くん、その子だぁれ?」

 すると母親も、

「儀式……その子、誰?」

 正直に答えるのは嫌だったので、俺は少し嘘を含めて適当に話した。

「そこの角に倒れてた。雨で濡れてたし、怪我もしてるみたいだったから、手当てするために連れて来た。それに気絶してるから」

「気絶!? 大変だわ! 早くその子を中に入れてちょうだい! 儀式、暖房用意して!」

「暖房!? このクソ暑いのに?」

「しょうがないでしょ! まず冷えた体を温めてあげなきゃ!」

 母親はおろおろしながら奥の方に救急箱を取りに行った。

 

 女の子をリビングのソファーに寝かせて、暖房のスイッチを入れた。

 ゴォーっという音がして、熱風が俺の顔に吹き付ける。

「暑い……」

 

 女の子はまだ目を覚まさない……。

      

やっと投稿することができました。この作品の構造というか、どのように創っていこうかとずっと考えていたら……時間が経ってしまいました。投稿ペースも安定させて、引き続き頑張っていきたいと思います。 また誤字脱字の指摘、辛口コメントでも構わないのでどんどんください。よい作品を創るために、励みにしたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ