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零の願い  作者: 澁谷 優
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第二話:女の子

 雨は激しく降り続いている。そんな中、男達は何かを襲っていた。殴ったり蹴ったり、怒り狂った鬼の様に……。

「何やってんだよ……お前ら……」

 俺が不意に発した言葉に気づくことも無く、ただひたすらに何かを襲い続けている。あいつらは何なんだ? 一体何をしてるんだ? 

 未だにしっかりと目には見えないが、その何かがうっすらと見て取れた。肩のあたりまで伸ばした漆黒のショートカットは、近くにある街路灯の僅かな光に照らされて艶めいていた。しかしその髪先は、いかにも適当に切りましたと言わんばかりに不揃いで鋭利だ。服装は……上が白で、下が……赤? 俺は目を疑った。どう見ても巫女さんが着るような装束を身にまとっていた。

「……女の子……か?」

 女の子? 

 

 

 俺は男達が襲っていたのが、女の子だと分かった瞬間、頭に血が昇るのを感じた。大人が二人も、一人の女の子相手に……寄って多寡たかって……。ふざけるなよ!!

「何してんだよ……クソ野郎!!」

 カラオケで歌った時より大きな声が出て、周辺に響き渡った。怒りだけが込み上げてくる。自然にこぶしに力が入るのが分かった。このクソ共を殴り殺したい!!

 やっと俺の声に気づいたのか、男達はこっちを睨みつけた。

「何だテメェ……何こっち見てんだよ! あれ? さっきぶつかった奴か?」

「お前、クソ野郎って言ったよね? それ、もしかして俺らのこと? 吠えるねぇ……。なんかいいことでもあったのかなぁ?」

「うるせぇよ……愚図ども。そこにいる女の子から離れろっつてんだよ」

「はぁ? 愚図どもだとテメェ! ふざけんじゃねーぞ!!」

 一人、俺に殴りかかって来た。振りが大きすぎる。体を少しだけ左側に傾け、それをかわす。相手の拳が空を斬った。

「甘いな。愚図が……」

 相手の耳元に冷めた声で囁き、そのがら空きの懐に一発食らわした。

「ぐはぁッ!」

 膝から崩れ込み、地面に倒れ込みながら腹を押さえてる。そしてもだえているそいつの股間に、思い切りに蹴りを食らわす。

「うぎゃぁぁぁぁ!!」

 悲鳴を上げて悶絶し、濡れたアスファルトの上を芋虫のように這いずりまわり始めた。俺はそれを尻目に、もう一人の男を睨みつける。

「なっ舐めやがって! くそガキが!」

 女の子を乱暴に放置し、そいつはポケットから、折りたたみ式のナイフを取り出して向かってきた。そして女の子は、疲れ果てたように目を閉じて倒れ込んでしまった。

「面倒くさいのが出てきたな……」

 男はナイフを俺の首元をめがけて、ほぼ水平に斬りつけてきた。

「死ねぇぇ!!」

 俺はそれに瞬時に反応し、体制を下げて、相手の足元に蹴りを入れた。

「うわッ!」

 バランスを崩し、男は前方に倒れ込んだ。ひるんでいるところを、俺はナイフを握っている手首を間髪入れずに踏みつけた。かかとに力を入れながら、徐々にそれを強めていく。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い……」

 

 

 しだいに男の握力が無くなってきたようで、掌からナイフが落ちた。拾い上げて、それを突き付ける。ナイフさえ確保すればこっちのもんだ。

「わッ分かった! 許してくれよ、な?」

「はぁ? 誰が許すかよ。愚図どもが……」

 俺は再び冷めた声で、冷たい笑みを浮べながら言った。男は未だに悶絶している仲間を強引に引き連れて、走りながら逃げて行った。



 やっと終わった……。実は言うと、俺は喧嘩や殴り合いとかの荒事がめっぽう強かった。昔引っ越した時、通っていた学校ではそういう事ばかりしていた。記憶としては忘れてしまいたい事なのだが、体にはその頃の名残がまだしっかりと残っているのだ。



 雨はすでに止んでいた。静けさを取り戻した街角には、俺と街路灯の弱い光に照らされている女の子だけ……。

 

 ゆっくりとその女の子の方に近づいていくと、本当に巫女服を着た少女が不格好に横たわっている。さらに近づいて、目の前まで来た。しゃがみ込んで、その女の子の容貌をじっくりと観察する。背丈は俺より少しばかり小さいようだ。雨に濡れてしまったせいなのか、巫女服はもうスケスケで、素肌の色がはっきりとうかがえる……。丸みを帯びていていかにも女らしいのだが、美しく引き締まったその体つきは、濡れて纏わりつく巫女服で強調されて、さらに妖艶さを醸し出していた。エロい……。しかしその体には、まだ男達に傷つけられた跡が痛々しく残っていた。

 顔つきは目を閉じているにも関わらず、とても凛々しくて、涼しげな印象を与えた。女子にモテそうな感じがする。

 顔の特徴として、気になることが一つあった。その女の子の左目部分は、眼帯に隠されていた。さらにその眼帯の下からは、数本の赤い線のような模様が出ていたのだ。

「何だ? この模様……」

 

 

 俺はこれからどうすればいいのだろう。どう対処していいのか分からない。手始めに、その女の子の肩に手を触れてゆっくり揺すってみたが、目を閉じたまま反応しなかった。気絶してしまっているようだ。あれだけ激しくやられていたんだ。無理もない。しかし、このままにはしておけない。どうしようかと考えた挙げ句、家もそう遠くなかったので、一晩自分の家で看病することにした。

 

 

 俺は女の子をできるだけ優しく背負って、ゆっくりと歩き始めた。 

第二話を投稿してみました。

今回の話は、簡単なバトルアクションなどあるので、第一話よりも楽しんでいただけるとおもいます。


誤字脱字の訂正や感想、辛口コメントなども受け入れます。これからの励みにして頑張っていきたいと思いますので、以後どうぞよろしくお願いします。

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