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零の願い  作者: 澁谷 優
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第一話:淀み雨

神様物語製作企画:第二弾

 東京――そこはかつて、日本の首都だった。

 確かにその場所は、日本の首都として居座り続けた。しかし、世界はまれに見る大恐慌に襲われたのだ。株価の大暴落、物価の高騰、地方の財政難、政治腐敗、国の借金、カネ、犯罪……。

 日本列島は未曾有の混乱に陥った。

 

 そして遂に、東京が崩れた。


 

 

 日本のとある場所に建設された、東京に代わる新首都「第一市」。

 俺はいつもどおり高校へと足を運んでいる。もっぱら自転車やバスでは登校しない昔から歩くのが好きだった。

 後ろから俺の方へ向かってくる自転車の数台から、

「おはよう鳴宮なるみや!」

 とか、

「ちーす、儀式ぎしき

 などという元気のいい挨拶が耳元に届く。その呼びかけに、

「おう、おはよう」

 と掌を低く挙げながら、平坦な口調で返答する。

 

 そんな朝の短い会話を数回繰り返しながら、高校へ続く長い坂道を黙々と歩いていると、この日一番であろう元気のいい声を投げかけられた。

「儀式オハヨーッ!!」

 後ろを振り向くと、そいつの乗っている自転車は既に俺の横に並び、片手で背中をバンバン叩いてきた。

「痛ッ! 痛いって! 叩くのをやめろ朱奈あすな!」

 大崎おおさき朱奈――俺の幼馴染で、同じ高校に通っている。朱奈は俺と同じクラスで、その中でも底抜けに明るく、友人も多い。だが、こんな性格とは裏腹に、勤勉で真面目なうえ、音楽的才能もあるらしい。一年ぐらい前に朱奈の家にお邪魔させてもらった時、パッヘルベルのカノンをヴァイオリンを弾いてくれたのだが、かなりのうまさだった。

「一応男なんだから朝ぐらいシャキッとしなさいシャキッと! 幸運が逃げて行っちゃうわよ!」

「一応って……俺はれっきとした男だ! それにシャキッとしてないと幸運が逃げるなんて話は聞いたこと無いぞ」

「言っておくけど、あたしの言うことは絶対にハズれないわ」

 何処どこからこの自信に充ち溢れた言葉が出てくるのだろうか……俺には到底理解できない。

「根拠は?」

「そんなもん無いわよ」

 俺の放った疑問は当り前のように返答され、あっさり殺されてしまった。まあ、最初からわかっていたんだ。こいつに質問など通じないのだ……。朱奈は時々、当たって欲しくもない予言を口にすることがあるが、そのほとんどが何故なぜか良く当たる。どうしてだろう……。

「一体どうすればそんなにハイテンションでいられるんだ? 一応聞くが、お前は平均何時間ぐらい寝てるんだ?」

「そうねぇ……だいたい八時間くらいかしら。睡眠不足は美容の大敵なのよ!」

「八時間!? お前部活終わって帰ってきたら九時だろ! 勉強とかは?」

「授業だけで覚えられるわよ。全然難しくないじゃない」

 こいつと俺は幼馴染だが、今までお互いの私生活までは触れていなかった。朱奈の周りの人間が勤勉だと称賛してるから、家でもさぞかし立派なんだろうなと思っていたのだが……。

「授業だけで十分勉強を理解できる其の脳みそをわけてくれ」

 朱奈はその言葉に呆れたようで、バカじゃないのというような顔つきで俺を見つめた。そして、

「脳みそを分けるなんて出来る訳ないじゃない、バカじゃないの?」

 表情に出たことをそのまま言葉にしやがった。やっぱりお前にボケは通じないのか……。

 

 朱奈はふと何かを思い出したように、雲一つない晴れ渡った空を見上げておもむろに言った。

「ねぇ知ってる? 今日の夜に大雨が降るらしいわよ。あんた今日傘持ってきた?」

「持って来てない。でもまぁ大丈夫だろ。帰るの夕方だしな」

「あたしは自転車の横に傘つけて走ってるから大丈夫ね。雨が降ったら傘を差して帰るわ」

 

 そんな会話をしているうちに学校に到着した。朱奈とクラスが同じということもあり、部活に行くまではいつも一緒なのだ。正直言ってこいつといると疲れるが、結構可愛いし、何より飽きないのだ。


 

 放課後……帰り際の教室には、焼けつく様な強烈な西日が差し込んでいた。

「暑い……」

 こんな日は早く家に帰って、涼しいエアコンに当たりながらくつろぎたいと思っていた。帰ろうとした直後、俺の友人が話しかけてきた。

「おい儀式、三丁目のカラオケ屋に早くも新曲が入ったらしいんだ。今から行くんだけどさ、お前も来ない?」

 そう言えば、昨日の晩に小遣いをもらった。ふところにも余裕ができたし、いってやるか。カラオケ屋でもエアコンは利いてるだろうしな。

「はぁ……、わかったよ。行こうぜ」

 結局家には帰らずに、カラオケ屋へ直行した。何を歌おうかなと色々考えていたら、もう着いていた。

「今日は声が出なくなるまで歌おうぜ!」

「じゃあまず誰から歌う?」

 


そんな感じで始まったカラオケ合戦だったが、時間の事なんて誰一人として考えてはいなかった。俺が気付いた頃には、もう八時になっていた。

「おい、八時だぞ! そろそろ帰らないとヤバいだろ」

「そうだな。今日はもうお開きとういことで……」

 俺がカラオケ合戦の終了を宣言した瞬間だった。

 物凄い音の雷鳴で地面が地震のように揺れた。その直後に滝のような雨が降ってきた。俺は今日の朝に朱奈が言っていた事を思い出した。

『今日の夜に大雨が降るらしいわよ……』

 すっかり忘れてた……。もう、溜息しか出て来ない。

 友人の二人は何とか親に話しをつけて帰るらしい。その迎えが来た時に彼らの親から、

「儀式君乗っていくかい?」

 と言ってもらった。けど、もう夜も遅いので走って帰ることを告げて遠慮した。

 

 俺の目の前は、何も見えないほどの雨が降っていた。俺は学生バッグを傘代わりにして、疲れない程度に、出来るだけ速く走った。街中の光はほとんど消えていた。人通りが無いからだろうか。何故か淋しく見える街路灯や自販機を頼りにして、やっとの事で家までだいたい200メートルの所まで辿り着いた。

「もう少しだ」

 疲れない程度に走っていたつもりだったが、結局疲れてしまっていた。そんな体に鞭を入れて、足を踏み出そうとした……。

 

 

 ――その時だった――

 

 

 俺の横を、何か白い物が通り過ぎたような気がした。

 なんだ今の……風か? その時は気のせいだとしか思わなかった。しかし、その瞬間

「邪魔だ! 其処そこをどけ!」

 急に黒い恰好をした二人の男が走ってきて、肩に思いっきりぶつかってきた。

「うわっ!」

 俺はぶつかった衝撃に耐えきれずに転んでしまった。何が起こったのか、未だによく分からない内に男達はすぐそばの角を曲がって行ってしまった。

「一体何なんだよあいつら……」

 なんでこんな夜に大人が走り回ってんだよ……。不思議でならなかったのだが、そんなことより……。

 転んでしまい、おかげで制服は泥まみれになってしまった。気持ち悪い……。

「最悪だ……」

 起き上がり、再び歩き始めた。


「きゃぁッ!」

 悲鳴が微かに聞こえた。

 降っている雨のせいではっきりとは聞こえなかったが、水音に混じって次第にその声は痛々しい悲鳴となって耳に届いた。何だ……何が起こってる?

 俺は危険だと知っていて、悲鳴の聞こえた方に向かって走り出した。興味本位……いや違う。何故か助けないといけないと感じたのだ。

 何かしらの本能ってやつなのかもしれない……。

 俺はその角を曲がって、思わず足を止めた。数メートル先に何かが見てとれたためだ。雨は一層激しくなって降り続いている。当然視界は悪く、ほとんど前は見えない。俺はじっと目を凝らしてその何かを見つめた。

 さっきの男達が何かを取り囲み、殴ったり押さえつけようと手を延ばしたり、その容貌はまるで鬼のようだった。そんな男達に囲まれている何かは、殴られながらも捕まるまいと必死に抵抗していた。


 その暴行の対象が目に入るなり、俺の頭に血が昇った。



「何やってんだよ……お前ら……」

 


 初投稿です。

なので、文章的にも内容的にもあまり自信はありません。広い心で見てもらえると幸いです。

 また、誤字脱字の訂正や感想、辛口コメントなども受け入れます。これからの励みにして頑張っていきたいと思いますので、以後どうぞよろしくお願いします。


※今僕は、Gold And Lapis Lazuliを執筆しているNOTEさんと一緒に、神様物語製作企画を立ち上げました。ちなみに第一弾は、NOTE作:Divine Natureです。

 しかし、それぞれの物語は連立しているわけでも並行世界として成り立っているわけでもない、独立したものです。

 それぞれ世界で神様が登場し、異なる主人公がその世界で活躍していきます。


 これからも企画作品を宜しくお願いします。


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