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裏世界の牢獄にて  作者: Navi
40/131

〈第40話〉似たもの同士の喧騒


「さあ古城の術印使い…!こっからは第二ラウンドと行こうか!オレと同じく転生した身であるアンタの術印とオレの術印…どちらが上かをここでハッキリ決めさせてもらうぞ!!」


「…っ!どっちが上かなんてここで判明しても何の意味もないだろが…!?…流石に付き合ってられるかよ…!」


 ロロハリスは無理矢理笑みを貼り付けたような表情となって、再び背後の銃火器を一斉に総射してきた。

 俺はそれに対して地面からそびえ立つように巨大な岩石を壁のように出現させて放たれた銃弾の雨を防いだ。


「(いくら何も無い空間に銃火器を出現させると言っても、壁で姿が全く見えていない状況なら俺の居場所は正確に判別することはできないだろ…!)」


 自分からも奴の姿が見えないほどに視界全体を壁で覆ったのは、こうして姿が見えない状況だと奴は術印で壁を破壊するまで正確に俺の位置を把握することが出来ないからである。

 現に奴は俺がいる立っている位置とは違う壁の部分に対して集中的に銃弾を打ち込んでおり、これが奴が俺の位置を把握していないと分かる証拠である。


「(よし…とりあえずは今は奴に構うより最短でシャゼルさんたちのところに…)」


 そしてコチラは奴が壁によって俺の姿が見えていないうちに建物の形状を変化させて生活感のある中へと入り込み、最短距離でシャゼルさんたちの元へ向かおうと一歩踏み出した時だった。


「…カチッ!」


「…ん?」


 「カチッ」と音を立てて何か硬い地面とは違う感触のものを踏んだ感覚を覚えたため視線を下に向けようとしたが、その前に凄まじい衝撃が地面から襲いかかってきた。

 

「…っっ!?」


 その衝撃は凄まじく、建物の中身を全て爆風によって吹き飛ばし、1番爆心地点の近くにいた俺の身体は建物の天井を突き破って宙へ高々と打ち上げられた。

 目を刺すような光とあり得ないほどの爆音によって聴力と視力の両方が一瞬機能しなくなり、背中に走った衝撃の中で自分の身体が宙に舞っているということだけが何となく分かった。


「どうや……予想通り、『踏ん…』……たみたいだな!!」


 咄嗟に目だけを守るように手を差し込んでいたためぼんやりと視界が回復してきたが、爆発に気づいた奴はすでに宙にいる自分に向けて銃口を向けている。

 耳には甲高い不協和音の中に奴の声が途切れ途切れに届いてきたが、その中に『踏んでくれた』という言葉があったような気がしたため、何をしたのか何となくだが予想がついた。


「(アイ…ツっ…!この爆発は…クッ…銃火器は無理でも地面に『地雷』を埋め込めるってことかよ!?じゃあこの周りには見えてないだけであり得ない数の地雷が…!?)」


 空中で身動きがほぼ取れないでいる俺に対して弾丸の雨が襲いかかってきたが、その全てが身体に触れた瞬間に質量を感じないほどの小さな粒子になって消えていく。

 俺の術印が視力が聴力が回復するまで自動的にネルギリスさんの術印を使用してくれているようであり、再び地面に着地する頃には概ねだが両方が回復していた。


「はぁ〜〜…それは黒羊シープの長の術印だな?まさかそれまで持っているとはな〜…本当に厄介過ぎるだろ、アンタ…?地雷の爆撃もアンタの着ている服を少し焦がしたくらいで身体は無傷か…」


「…マジか…」


 奴が銃撃がやめて口を開いたため、警戒しながらも再びのっそりと立ち上がって身体中を見ていたが、自分でも驚いたことに確かに身体のどこにも外傷は見られず言葉通り『無傷』であった。

 ここまで完璧にシャゼルさんの術印で作り出した壁を貫通させようとしていたあの銃弾を全て防いだネルギリスさんの術印の凄まじさをまじまじと感じ取れた。

 しかし、今の時間でコイツも自分の術印が俺の術印とは相性が悪いということは察することは出来たはずだ。


「…おい!今のでお前だって分かっただろ!?お前の術印と俺の術印の相性は明らかに悪いはずだ!ここで2人で争ってもこの国の人間が集まって…」


 奴の顔から一切の視線を外さないようにしながら一旦停戦を申し込もうとしたが、話している途中で頬を何かが凄まじいスピードで掠めた。 

 しかし…今の攻撃は明らかに奴からのものであるはずだったが、予備動作もそして今も奴自身を含めて周りの景色に変化は全く見られなかったが……今の攻撃に対して『自動的に術印が発動しなかった』…

 

「…っ!?なん…で…?!」


「…この国の他の人間がここに来ることは絶対にない。そして……なめるなよ?アイツとオレの術印の相性が最悪なのはオレが1番理解してるんだ。オレも1番厄介な存在であろう奴の術印に対しての攻略を日々考えているんでな?」


 奴はそう言うと手をコチラに向けて背後から見た事のない機械のようなものを出現させた。

 剥き出しのモーターに様々な部品や色のついたチューブが取り付けられており、見れば見るほど俺が前世にいた世界に存在する兵器の一部に近いものを感じた。


「だからこそハッキリと分かる。アンタはネルギリスの術印である歪曲を…いや、アンタ自身の術印を『全く使いこなせていない』な!」


 胸の鼓動をいつも以上に感じながら頬からの出血を拭いながら奴の言葉を聞いていたが、この言葉は奴の陽動だと思って気にも止められてなかった。


 いや…実際はちがうか…?


 俺の術印によって炙り出される相手の術印の能力や発動の条件に今まで間違いはなかったはずであり、今の攻撃もかわす事なく術印が対処してくれる…と思っていた。

 そのため、今は頭の中ではさっきの目にも術印にも止まらなかった攻撃が奴が出現させた『あの機械から繰り出された』というあり得ないはずの事実ばかりについて考えていた。


「(まずい来る…!さっきの攻撃はあの機械から確かに発せられていた…!それでも…何で術印に反応せずに俺の頬を攻撃が掠めた…!?後ろの建物には破壊された跡も無かったんだぞ…!!?)」


「今の攻撃はわざと外させてもらった…アンタが自分の術印を過信しているのが見て分かったからなぁ…それは目を覚まさせてやるための1発だ。…だが…次は外さないぞ?」


 奴はニヤリとコチラの冷や汗を出しながら焦っている表情を見て、それを心から面白がった表情を一瞬だけ作ったが、すぐに目つきを再び細めて深く呼吸をした。

 するとバチバチッと何かが感電しているような音が奴が作り出した機械の塊から聞こえ、段々と目に見えるほどの電気が機械を覆い始めているのが見えた。

 ()()も奴の世界に存在していた武器であるのだろうが、顔サイズの大きさの機械からあの攻撃が本当に飛んでくるのかと疑問に思ってしまうほどである。


「さあ、焼き切れな!!」  


「…!!グッ…」


 エネルギーが完全に溜まり切ったタイミングで音は一瞬止み、奴の目と俺の目がバッチリ合ったのだが、それと同じタイミングで咄嗟に地面から先程と同じように壁を出現させて身体を捻じり横に避けたが、バチバチッと電撃の音がすぐ近くで聞こえた後に目の前に出現させた壁に穴が空いた後に、ヒビを入れて粉々に砕けて砂埃を上げた。

 想像以上の破壊力…しかし今の一瞬で得た情報から奴がどのように攻撃を行ったのか予想はついた。


「『電撃』……どうやらその機械の塊は雷のような強力な電気を直線状に放つ機械らしいな…!しかもそれは術印で作った壁に触れても伝っていかずに貫通するほどの威力か…!」


「おお?今の攻撃だけでそこまで分かるものか…?…そこまで今の攻撃だけで分かったのなら、アンタも生前は兵器に触れることが多かったのか?」


「(ネルギリスさんの術印は電撃は防御の対象じゃないのか…?)…武器や機械の詳しい知識はからっきしだ。豆知識的な感じで頭の中に入れていたことが少し役立っただけだ…」


 舞い上がった事で吸い込み、口に入り込んだ砂を吐き出しながら立ち上がると砂埃の中からすぐ目の前に短剣を持った奴が迫ってきていた。

 

「あんま油断を見せたらダメだぞ?」

 

「うおっ…!?お前…!!」


 何とか紙一重でそれをかわすと地面から奴と同じように剣を作り出して引かずに刃を交えが、コイツは身体からは想像できないほどの凄まじい力で押し込みをしてきたため持っていた剣が宙に弾かれた。

 無防備な俺に対して奴は流れるように横一文に剣を薙いできたが、先程のことも相舞って術印が反応しない何ならの能力がこの剣にも込められているのではと咄嗟に思い、すぐ横にあった建物に張り付いたツタを操って掴み、身体を宙に浮かせて回避した。


「(ダメだ…!接近戦に持ち込まれても奴の視界内にいる限り、あの電撃が背後からいきなり放たれる可能性が…!)」

  

「…戦いの最中に迷いを見せたらダメだろ?」


 奴は俺の方を見上げながらそう口にしたが、視線は俺の顔ではなくさらにその後ろに向けられていた。

 すると再び俺が全く意識していない状態から凄まじい爆音と共に後頭部を鈍い衝撃が襲い掛かり、視界が何重にもなったり酔いを覚えるほど激しく揺れたりした。

 電撃でもない、明らかの先程の実弾の比じゃない一撃が意識外から飛んできた事によって、うつろな視界の中で奴から目を離さないようにするしか出来なかった。


「…〜〜っ!!…グッ…ガァッ!」


 まともな声も出せる暇も無くなり、一方的な状況になりかけているためそれを打破しようと奴の周辺から巨大な根を作り出して勢いよく叩きつけようとしたが…


「それも想定済みだ。」


 人の手が止まった虫を叩きつけるかのように動き始めたタイミングで再びその根本付近で巨大な爆発が起こり、操っていた根が焦げ千切れて地面に散り散りになって力無く落ちてくる。

 爆炎の中に佇む奴を歪む視界で身体を動かすことなく見ていたが、奴は地面に剣を突き刺してじっと俺の後ろを見つめていた。


「(マジ……か……)」


「さあ、まずは腕だな?」


 頭に余りにも強い衝撃が加わったことで握力が一気に抜け落ち掴んでいたツタを離してしまったため、力無く逆さまになって地面に向かって落ちる。

 そんな落下している途中で左腕に強烈な痺れと熱を感じ取り、感覚が全くなくなった。

 後ろから来た貫くようなものであったが、すでに振り向く力すら俺には残っておらず、奴の地面に突き刺している剣が光を浴びているのだけが目に入った。

 

「ガッ……アァッ…!」


 地面への頭からの激突はギリギリで先程操っていた灰まみれの巨大な根の上に落ちることで避けたが、俺は言葉に出来ない声を出しながら地面にうつ伏せのような形になって全く動かすことの出来ない身体で奴の正面で倒れていた。

 未だに後頭部から全身に襲いかかってきた痺れは身体全体の自由を奪っており、ただ首筋を伝ってきた生暖かい液体の流れを感じることしか出来ない。


「アンタはまさに『器用貧乏』だな?他人の術印の多くの利用できるのはかなりの利点だが、それはアンタの国の長みたいな長い時を戦いに捧げた奴だけが扱えるようなものだ。」


 膝を折ってすぐそばまで寄ってきていた奴は、顔を上げることすら出来ずにいる俺に向かってそう話し始めた。

 赤い液体が広がる地面に顔を擦り付けながら少しずつ目線を上げようとするが、再び脳天に向かって重い金属の塊を押し付けられて動かすことが出来なくなった。


「…オレの見立てではアンタはこの世界に来てからまだ数ヶ月しか経っていないだろ…?そんな奴が黒に組分けされる多量の術印を適時扱えるわけないだろうが…どんな仕組みで術印を発動させているのかは知らないが、戦い方を見たら物量だけで押そうとする雑な奴だったてのは一目で分かったよ。」


 命の取り合いの主導権を握られ、ろくに視点すら合わせられずにいるため閉じた片目の中で心眼の術印を作り出して周りの生物から見た今の自分の状況を確かめる。

 周りを通して建物の屋根の上からじっとコチラを見つめていたカラスの視界を共有して自分の姿を見ていたが、倒れ込む俺に向かって数え切れないほどの銃火器が向けられて空中で静止させられていた。


「(…やば……死ぬ…のか…?)…っく……ッ…ソ…」


 視界をカラスから再び自分のものに戻し、圧倒的な実力の差を感じながら自分の力の限界を思い知らされた。

 こうして意識を保てているだけでも奇跡的な衝撃であったが、段々と目の前に落ちている砂の形も捉えられるほどにまでに視力は回復してきており、攻撃されなかった右手の指先の感覚も段々と戻ってきた。


「(…っ……感覚が…あと…少しで…!)」


「はぁ…もう少しで日の入りで『自主学習』するために他の奴らがこの場所にやってくる。今この場所には虫一匹入ることすら出来ないが…後が厄介だからパパッと終わらせてもらうぞ?」


 奴はそう言うとスッと立ち上がり、一呼吸置くことなく引き金を引いて再び轟音を響かせた。

 銃口がどこに向けられているか見ることすら出来なかったが、凄まじい音とほぼ同時に右手に激痛が走ったためここで銃弾の行き先がわかった。


「アッ…アァァァッ…!!」


「声が出るようになって来たじゃないか?後頭部の傷がもう治りかけているのを見るに…術印を歪曲じゃなくて『人体の修復』に使ってたか?…まあ、こうして別の場所に穴が開けられたら意味はないが…」


「フゥーー…!フゥー…ッ!!」


 焼けるような痛みに襲われたが未だに身体は四肢の指先と声が出せるくらいにしか回復していない。

 もう少しで術印を発動させるほどに霞んだ意識の回復はできそうではあった。

 しかし…こうして右手が撃ち抜かれたことでコイツがいかにこちらの術印の発動に気を張っているのか分からされた。

 …無駄な動きは絶対にできない…


「『私を見ろ』」


「(…っ?)」


 思考を巡らせて打開策を打ち出そうとしていた頭の中にどこからか声が聞こえてきた。

 声がした方…再び屋根の上にいたカラスに視界を共有させてたが、ここで違和感に気づいた。


「(…あ……なんで…だ…?…なんで今も…変わらず俺を見て…)」


 奴が銃の引き金を引く前と全く同じ、建物の屋根の上に立ったカラスは変わらず俺とコイツのやり取りと見ていた。

 だが…明らかにそれはおかしな事である。


「(普通なら…あの音…で…空に…)」


 そう…いくらこの世界の生物であっても、一度あの銃声に驚いてどこか違う場所に飛び去るはずであるが、そのカラスは本当にまるで固定されたカメラのように変わらず俺たちのことを見ていたのだ。

 それにロロハリス(コイツ)は…


「グッ……誰か…来る前に終わらすんじゃ…なかったのか?…屋根の上から視線……向けられてたらどうすんだ…?そんな中で他の術印使いを…殺すなんてとこ…」


「別にアンタを殺しやしねーよ。こうして殺意をぶつけたのもアンタをその気にさせるだけだったしな?…それに言っただろ?この場所には虫すら入ることが出来ない…」


「ハァ…ッ……それは……『鳥』でもだよ…な?」


「はぁ?当たり前だろ?アンタにフルドの心眼を使われたら厄介だからな。こっちに視線を向けているなら例え空を飛んでいても撃ち落とす……どうした?何で首をソッチに動かしている?」


 …全くあのカラスの存在には気づいていない…それどころかまるで存在を認識していない様子であった。

 不審に思った奴は自分の持っている銃を俺のこめかみに押し付けたが、コッチはその前に首を何とか回し、『実際に見たいもの』に対して視線を向けていた。


「(…!…やっぱりな…!…『反目…悔悟』!!)」


 …目線を実際にカラスがいるであろう屋根の上に向けて確信したことがあった。

 そして同時に…コイツに対する『勝ち筋』も見えたようか気がした。

 奴はろくに動くことすら出来ていない俺を見て雰囲気を俺と始めて対面した時のように戻して口を開いた。


「銃弾は流石に殺しかねないからなぁ…ここは電気を流して拘束してニヒルのところにでも……っ!」


 …奴は自分の背後に現れた気配に気づいたようである。

 再び殺気を込めて銃のみを素早く背後に向け引き金を指をかけ、その轟音を響かせた。

 残響が細々くなるのと同じタイミングで、奴の背後にあったはずの気配が消えた。


「……」


「アンタ…まだやる気があんの…ん?」


 首を細かく振動させながら何とか持ち上げた俺と目が合った奴は、冷たい視線を送り睨みつけるように俺に向かって口を開いた。

 その時、俺の瞳に作り出されている心眼を見て空いたもう片方の手の中で銃を作り出し、銃口を目の前に突きつけた。


「…?なんでアイツの術印を今……それに、何でそんなニヤニヤ笑ってるんだ?…ハッ!まさか死にかけて死神でも見えておかしくなったか?」


「…ああ……俺もやっと『見ること』が出来たからな…?嬉しくって…思わずニヤけてるのかもな…?」


 俺の声に反応してロロハリスの背後にいた『ソイツ』は、上げていた鋭利な鉤爪を振り下ろして奴の背中を引き裂いた。


「…はっ?」


 奴は痛みよりも先に驚きが来たようであり、苦悶の表情を浮かべることなく無表情で俺を飛び越えて背後から再び現れた気配と距離をとって自分の視界が無くなるほどの量の銃火器を一斉に総射した。

 しかし、銃弾の雨の中から黒い帯のようなものが伸びて来て奴の首に瞬時に巻き付いてそのまま空中へ持ち上げ、建物に向かって頭から投げつけた。


「…ッ…!!なに…がぁ…!?」


 家の形が跡形もなくなる程崩れ、その瓦礫の中から頭から出血したロロハリスがフラフラと現れた。

 俺も頭からアドレナリンが出ているせいか、一気に軽減した痺れを払い除けてプルプルと震えた足で立ち上がって見せたが、奴はそんな俺の姿よりもさらに『後ろの光景』を怪訝な表情で見ていた。


「…!!なっ…何で…『ソイツ』がいる…?!まさかアンタは…『その術印』まで…!」


「ハッ…ハァッ…!ああ…だが俺もずっとこの厄印だけは操れないでいた!なんて言っても今まで俺はコイツを『見ることすら出来なかったからな』!?まさか…厄印使いとの身体の構造の違いがここでも出てくるなんて思いもしなかったよ!!」


 『コイツ』は術印を通じて接触可能となる思っていたのが、それは『コイツ』と接触するための根本的な方法ではなかったようである。

 いくら俺が術印を発動している感覚があったとしても目の前に変化がまるで現れることなく、ただ身体にも変化が現れない何の変哲もない景色が広がっていただけであった。

 だが…こうして奴が俺を追い込んでくれた影響かどうか分からないが、『心眼』を通じて『コイツ』を見ることが可能となった。


「お前は俺のことを禁忌以上に、初めて死のギリギリまで追い込んでくれたよ、ロロハリス!だが幸か不幸か…ついに俺は見ることが出来ているよ!『呪霊ウルネリス』が見ていた『魂の彷徨う世界』を…!!」


 今俺の瞳にはフルドの術印が作り出されているが見ている景色にはロロハリスだけでなく、俺のすぐ横にスウッと佇む黒い幽霊と、その周りを浮遊している黒い物体も含まれていた。

 ディオスと共にウルネリスと戦闘をしたからこそ分かることだが、奴や俺の周りを漂っているものは紛れもない過去に死んだ生物たちの『魂』なのだろう。


 すると、先ほどまで『何もいなかった』はずの屋根の上にじっとコチラを見つめているカラスを見つけ視線を向けると、そのカラスは初めて翼を広げて飛んでみせ、俺の肩の上に乗っかってきた。


「…!カラス…だと?この場所にはアンタ以外の生物は閉じ込めなかったはずだ…(アレも魂が形作ったもの…か?だが、何故俺にも急に見えるように…?)」


「ん~…?…おお…なるほどな…それはマジで酷いことをされたんだな?…それで俺に協力を…?」


 一度フルドの術印を解いて再び肩に乗っているはずのカラスを見て見たが、今度は姿が消えることなくそのまま残っており、俺の頬に頭を擦り寄らせてきた。

 横の即興で作り出した幽霊も消えていないことから、どうやら俺が心眼で見ることができた魂に触れ操ったならば、接触した魂は以降心眼を使わずとも俺だけでなく他の人間も認識可能になるようである。

 奴はそんなコチラの状況に構わず引き金を引いて来たのだが、横にいた幽霊が俺に対して飛んできた銃弾を全て弾き、カラスに飛んだきた銃弾は全て透過した。


「うおっ!?幽霊って透過させずに物理的な攻撃も防いでくれのか?自立した意思を持っている……これはかなり頼もしいな?」


「チィッ…!それで終わりなわけが無いだろうが!」


 攻撃を防がれたロロハリスは俺の周りに一瞬で大量の銃火器を出現させたが、それに対して俺も心眼で空中に浮遊している魂があるのを確認すると術印で操って球体状の壁を作り出して全て防いだ。

 同時に肩に乗っていたカラスが凄まじいスピードで奴の顔面に向かって飛んでいき、回避はされたものの鋭いくちばしで奴の帽子にさらに傷を増やした。


「ッ…!?なんでアンタはこうも正確に魂を操れる…!アンタも呪霊の術印については今まで扱ってないはず…」


「いや…幽霊や今の魂の壁に関しては『前例』を見てきたからこそ使えただけでただの猿真似だ。…だがこの『カラス』については俺も予想外だったな?」


 そう言いながら再び俺の肩に乗ってきたカラスに目をやると、形がどんどん崩れていっており、ついには浮遊している周りの魂と同じ形になるとスウッと景色に同化して消えていった。


「…どうやら今のカラスはお前に撃ち殺された過去があるみたいだぞ?お前はたかが鳥一匹だと思って覚えていないかも知れないが…その恨みがこうして俺に状況を打破するためのヒントを与えてくれたなんて、皮肉だよな…?」


 今のカラスのように死んだ後も形と意思を残した魂もある…それは理解することは出来た。

 そして魂は一度でも俺が敵対している相手に何かしらの攻撃を加えることが出来れば、再び術印を使わないと認識不可の魂に戻るようだ。


「…アンタは…」


 奴は出血している部分にいつの間にか作り出していた包帯を巻きつけており、顔に血が流れてくるのを防いでいた。

 コチラを鋭く睨みながらも俺と同じように頭から強い衝撃が身体全体に伝わった様子であり、少し足取りがおぼつかないようであるが……奴の目はまだ死なずにいた。

 それを見て俺もいよいよ沸々と溜まっていた我慢が限界を迎えようとしていた。


「…そろそろいい加減にしろよ…!コッチはお前と戦うためにこの国に来たわけじゃない!フルドもどこにいる分からないし……日の入り前に俺はエルマトに向かう必要があるんだよ!」


 俺のこの言葉に対して奴はどこか諦めの混じったような表情を作って頬を緩ませた。

 先ほどまで持っていた殺意を引っ込めた奴は、再び表情を引き締めたものにしてじっとこちらを見つめていた。

 しかしこちらは不意打ちを警戒してしてすぐにでも攻撃に対応できるよう、自分の周りに漂っている魂を手繰り寄せる準備は出来ていた。


「…アンタ、()()を扱うってのがこの世界ではどれくらい危険なことが分かっているのか?今アンタが使っているのは忌み嫌われている呪われた術印だぞ?」


「……」


 …奴の雰囲気が一気に別のものに変わったのを感じ、何だか悠然と…俺のことをこうして正面から初めて見られたような気がした。


「オレがアンタにこうして殺し合いにもなり得る戦いを申し込んできたのはオレの興味もあるが…1番はアンタの存在が『この世界にどのような影響を及ぼすか』の判断材料とするためだ。」


「影響を及ぼす…判断材料…?」


「ああ。オレはこの国の用心みたいなものだからな?そして今のアンタを見たからこそハッキリとした。悪いがアンタには…」



「…ここで一回死んでもらう。」



 奴の顔から感情の一切が消えたのが見えた。

 目の光は暗い夜が訪れたと思えるほどに黒く濁り、とても人に向けるようなものでは無くなっていた。

 しかし俺は特段驚くようなことでは無いと感じ、むしろ予想通りの言葉が返ってきたと思った。


「別に今までの攻撃でお前は取り繕っているようで俺をよく思っていないのは分かっているさ…お前だって覚悟だけはしておけよ?呪霊の術印の恐ろしさは俺もよく知っているからな!」


 今まで扱えていなかった呪霊の術印を扱えているせいか自分でもテンションが高くなっているのがわかる。

 しかし奴は鋭く冷たい眼差しを崩さないまま口を開く。


「…アンタには理解してもらう必要がある。この世界で厄印はどういったものなのかをな?」


 奴はコートに手を突っ込んでじっと動かないままのあったが突如、奴の背後から凄まじい光がこちらを爛々と照らしてきた。

 電撃とは違う凄まじい光線は俺が反応するよりも速く、幽霊の身体の上部を消し飛ばした。

 今奴から放たれた術印には見覚えがある。

 

「なっ…今の術印は…!?」


 奴は流れるようにコチラに光線を放ってきたが、今度は自動的に同じような光線が俺の右の手のひらに現れた紋様から放たれた。 

 光のぶつかる瞬間に奴が銃から手を離すのが確認できたため俺も目を覆いながらその場を離れたが…今の術印には見覚えがあった。


「(コイツ…今『陽光』の術印を使ってきた…!?)」


 奴は俺に多くの思考を与えることなく目を覆っていた俺の近くまで現れて再び接近戦に持ち込んだきた。

 俺はすぐに心眼で見えた奴の背後に漂う魂を操って横の幽霊と同じ形のものを作り出して攻撃を仕掛けた。

 幽霊の爪が奴の身体に食い込む感覚…しかしそのまま振り切ると奴の身体は煙のように宙に溶けて消えた。

  

「…蜃気楼…」


 攻撃したことによって少し隙が生まれてしまったため魂の形を操って再び自分の周りを覆おうとしたが、上空から身体のすれすれを光が通り過ぎていった。

 しかし身体に痛みが走ることはなく、照準がズレるというミスをした隙をついて魂を四方八方に弾丸のように弾けさせた。


「…っ!」


 空間から何の前触れもなくスッと現れた奴の姿を確認し、地面から幽霊達を操って足を捕まえさせる。

 だが奴は足を地面から離して空気中で身体を捻り、地面に向かって再び光の雨を降らした。


「…遊びはここまでだ。」


 ボロボロに消え去っていく幽霊達から外したギロリとした目線がこちらに向けられた瞬間、左手に急に喪失感が生まれるという違和感が生じた。

 見ると左の手のひらはこちらが気づくことなく焼かれた痕を残して消えてしまっていた。


「あ…れ?」


「…掃射!!」


 一瞬気を取られた俺の周りで電気がバチバチと何かに帯電している音が聞こえた後に再び上から光がこちらを照らし、雨のように降り注いできた。

 その場から離れるために足を動かして移動を試みたが、すぐに足から力が抜けてその場から動けなくなった。

 見ると反応が遅れたために結果的にその場に最後まで残していた片足に数箇所穴が空いていたが、それよりも異質な光景が目に入り込んだ。


「(痛みが…全く…?!それよりも一体いつ…!)」


 こうして考えている間にも数発の銃弾がもう片方の足を貫いたが、こちらも痛みが全くなかった。

 しかし、先程よりも明らかに激しくなった攻撃に対処しきれずついに動くことすらままならなくなった。


「…っ…動…けよ…!」


 地面に視線を向け、這いずるしか移動手段が無くなるほど力が抜けて動けなくなった俺の周りから、何重にもなってガチャンと金属同士が擦れる音が聞こえてきた。

 

「これが『厄印』なんだ。古城の術印使い。」


「!」


 瞬時に術印をネルギリスさんのものに切り替えて弾丸の雨を防ぎつつ、地面に向けて術印を放つ。

 すると俺を中心として周りの地面は一気に砂状になって脆く崩れ去った。

 これには奴も驚いたようであり、術印の接触を避けるためにすぐに俺と距離をとった。


「…っ!?(…痛みだけじゃなく…出血すら…?)」


「さあ、死ぬ覚悟は出来たか?」


 ぽっかりと空いた穴の中心で動けずにいる俺に対して奴は慈悲を感じさせない声色を向けてきた。

 見ると奴は変わらず澄ました顔をしたままこちらをじっと目を細めていたが、不意に俺の目の前に短剣が突き刺さった。


「オレはこの国に恩があるんでな?アンタという厄印の因子が存在するのはコチラとしては不都合なんでな…悪く思わないでくれよ?」


 地面を元に戻して避けようにも、ろくに立つことすらままならない状態であったが、それに追加で電気が帯びてくる音が聞こえた。

 見ると周りにはあの電気を浴びた機械を取り付けた銃火器の形をしたものが俺を囲い込むように向けられていた。


「…はっ…結局呪霊を使っても無理ってことかよ?」


「掃射。」


 一瞬の眩い光。

 そして痺れる感覚すら熱さすら感じずに、何の変化も起こることなく俺の視界のみが大きな波長を作ってぐらつく。

 しかし、重くなったまぶたを閉じようとした瞬間に目の前にあの術印の名前が鮮明に表示された。


「(…ダメだよ……それは…)」


 しかし、反目悔悟は『自動的に発動』する術印。

 コチラが本当に死の淵に立たされた場合は俺の意識とは関係なく持ち得るあらゆる術印が発動してしまう。


「クソッ……もう…」


 まだ動ける…意識は保たれた。

 いや、自分の術印の力によって『無理矢理』保たされた。

 こうなってしまっては、どうすることもできない自分の身体に恨みをぶつけるように言葉を紡ぐ。


「…!(まだ意識が…?)」


「もうどうなっても…知らねえぞ…!!」


 今の電撃によって確実に身体の機能が失ったのが分かった。

 だが、反目悔悟はそれすら押しのけて術印の発動を強行し、瘴気を身体に巡らせて強制的に身体能力を回復させてきた。

 倒れ込む寸前で踏み止まり、さらに異質な術印まで発動させた俺に対して奴は驚きを隠せていなかった。


「アンタ…その術印は…!!」


 後で…シャゼルさんに謝らなければいけない。

 今この瞬間、俺はもう一つの禁止事項…『古城ラグニクス以外での禁忌の術印の使用を禁ずる』を破ってしまった。

 相変わらず全身から溢れる不快感に耐えながら、俺は再び正面から奴に向き合った。

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