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裏世界の牢獄にて  作者: Navi
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〈第4話〉罪狩りは本心を探る


 一言で表すのならばそこは『無の世界』。

 ここでは何もないどこまでも暗い世界が広がっていた。

 しかしこれは、自分がどこかでかつて見たことのあるような世界であり、歩いているのかはたまた何かに引きつけられるようにして落ちているのかも分からない。

 圧迫感もなにも感じずに心音のみが聞こえる暗い視界の先を開いた目を凝らしてじっと見つめているだけだった。


「(…どこだ……ここは…俺は確か…)…っ!?」


 心地よさすら感じる深い闇の中、こちら思考を妨げるかのように眩い光が目の前に現れる。

 光を避けるように一度ゆっくりと瞬きをする。

 すると目を開ける頃には視界からは少年の姿は消えており、代わりに澄み切った青色をした空が広がっていた。


「…べル……アベル!」


 聞き覚えのある声を聞いて、目を見開く。

 そうして俺はまた何かに払い落とされた感覚を覚え、あの時と同じように、あまりにも唐突に世界そのものが移り変わった感覚を覚えた。

 

*******


 『僕の作り出した世界』から抜け出したアベルはフルドに呼び止められてゆっくりと起き上がった。

 頭についた土や砂を払い、開き切っていない目で辺りを見渡していた。

 僕はその光景をこっそりと眺め、アベルの消えるべき記憶が消えているのかどうかを確認する。

 

「うう…頭が……それにしてもここは一体どこだ?…どうもさっきまでいた場所とは違うような感じがする…」


「…それが……僕も分からないんだ。…気がついたら、この場所にいた感じだよ…」


 2人が現在いる場所からは先程いた草原とは違い、そこからは巨大な湖が見える。

 青い色が反射して空とまるで対抗しているように澄み切った色合いをしているその景色を一通りした後にアベルはひとまず最初に状況の理解を行った。


「…ああ…思い出した。確か俺はあいつと…禁忌の術印使いと戦ってて…」


「あっ…えっと…」


 アベルがさらに付け加えて言葉を言おうとした時、フルドはその言葉を遮りながら呟いた。

 そのことを言うことを躊躇った口調である。


「…『負けた』よ、アベル…僕も君に転送された場所からずっと見ていたんだけど…しばらくして何故か一瞬で意識を失った。…その後に何故かこの場所にいて見たのは…」


「…そっか……俺の負けた姿って訳か…クソッ…正面から戦って初めて負けたのか。傷はほぼなしだけど…はぁ…なんだか虚無感みたいなのがあるな…?記憶にないけど本当に完膚なきにやられた感じがするし…でもどういう風に負けたのか何故か覚えてないんだが……何でだ…?」


「…ごめんね…役に立たなくて…」


 二人は揃って今何故この場所にいるのか、何があったのかを詮索している。

 そして僕は見ているだけでは悪いと感じ、この状況から話の展開を進める為に近くの草むらから出て二人に声をかけた。


「悩んでいても答えは出ないと思うよお二人さん!かと言っても悩むこと自体はとてもいいことだよね?考えるっていう行動は人間の持っている数少ない特徴だかね〜?」


 僕はいつか見た本の内容を思い返しながら笑顔を作ったまま林から出てきて二人に向かって歩きながら話す。

 二人は驚いた様にして瞬時に湖とは反対側は僕が出て来た林の方へ目を向けた。


「お前…は…!」


「ひぇッ…!?き、禁忌の…!」


 一瞬にして二人と視線が合うや否な、僕の顔を見た瞬間に二人の顔の色がどんどん悪くなっていくのが分かった。

 二人の記憶は、僕が二人に戦いを吹っかけたところまでしかないためやはり面白いと思わせてくれる新鮮な表情を作った。


「いやいや〜、ビックリしすぎだよ!そこまで僕のことをそこまで警戒しなくても大丈夫だよ!今の僕は君たちにとっては無害な存在だからね!」


 両手を上げて抵抗の意思がないことを示す。

 しかし、こちらを威圧するように目つきを鋭くさせたアベルは瞬時にその場から姿を消した。

 あえて今は動かないでいようかと考えているうちに背後からその声は聞こえた。


「ここに連れて来たのはお前だよな?…まずそこの答えだけは聞いておくぞ…『禁忌の術印使い』?」


 そう言うとその手に握られている短剣を僕の首に突きつけていた。

 原作通り、今はまだ警戒心の強い人物だと思ったのと同時に、先ほどの会話の内容はしっかり消えているのが確認が取れた。

 僕はその目を見ながらゆっくりと口を開く。


「答えは『そう』。でも僕はあくまで君たちを『試す』ためにあんなことをしたまでさ。…ねえ?嘘はついてないのは君がよーーく分かっているでしょ?便利な術印だよね〜?」


「(…!?コイツ…フルドの術印を知っている…!?)」


 警戒心を強めたのを感じ取ったアベルから目を逸らしてもう1人の術印使いに向かって視線を送ると、フルドの紋様のようなものが入った目を見る。

 僕が笑顔を作りながらそう言うと、こちらを警戒しながらもフルドは小さく頷いて口を開いた。

 

「…うん、確かに嘘はついてない。…全く澱みのない本当のことだよ…でも僕たちのことを試したってどういうことなの?…厄印を…禁忌の術印を扱う君が…」


 フルドからその返答を聞くとアベルはため息を一回ついてその短剣を僕の首から離した。

 どうやら僕に対しての警戒心は本当に意外にも早くおおかた解けたようだ。

 かと言っても今僕は古城とは完全に敵対している相手になっている状態なので、100から70までになったくらいだろうが?


「解放感謝!君たちは物分かりが早くて助かるよ〜…他の国の術印使いは本当のことを言ってもすーぐに攻撃してくるからね?やーっと対等に話が出来る人たちに会ったよ!」


「(…あれ…なんか……聞いてたイメージと大分違うような…)」


「……」


 二人に茶々をいれながら話を進めるが、硬い表情を見るにやはりまだ完全には疑いは解けてはいないだろう。

 証拠にアベルはまだ鋭い目つきを自分に向けている。

 しかし僕はその視線から再び目を逸らしてもう1人の古城の術印使いであるフルドに向かって話す。


「君たちを試したのは他でもない、あることを『協力』して欲しいからさ。これにはそれなりに強い協力者が必要だからね。」


「…協力?禁忌の術印使いが…敵のはずの僕たちに何を…」


 目を合わせて会話をしたフルドも、瞳に術印を発現させたりまま警戒心をまだ緩めていない。

 しかし、僕はそんな状況を知らないような顔をして笑いながら腕を組み、二人の前に現れた最大の目的を話す。


「それはズバリ……『人探し』だね!」


 警戒心を緩めていない2人に対して罪狩りを『人探し』と称して二人にそう言ってみたが、二人の顔は面白いものである。

 どんなことを言われるかと警戒していたがあまりに普通、ありふれた答えが帰ってきたため拍子抜けた表情になっていた。


「…何言ってんだ、お前?」


「ふふ。いやーそこまで白けたり驚くようなことかな?いや〜…うん…本当になんでそんな顔をしてるの?僕的にはあまり意外性のあることは言ってはないとは思ったけど?」


「こんな風になるのは当たり前だよ…!?君は…僕たちのことを一度殺しかけたんだよ?!そんな相手が急に人探しなんて…普通はおかしいと思うでしょ…!ましてや…君は『禁忌』なのに…!」


 フルドは僕のことを震え見つめながらそう呟いたが、突然目の前に現れた僕の言い分は確かにおかしなものであると改めて認識した。

 一度自分たちのことを殺しかけた存在がそんなことを言い出しても困惑するのは当然だと思う…しかし、実際こう言うしかないため特段自分の言い放った言葉に対して変に思うことはなかった。


「うーん…そんなこと言われてもねぇ?実際人探しなんだからそう言うしかないんだけどね…?まあ、言い方が変になったのは事実だし、ここは反省点だね?…でも、君は僕の言ってることは『嘘』だと思ってる?ねえ、アベル?」


「(…?!なんでアベルの名前を…!?)」


 僕のアベルに向けた質問に対して、アベルではなくフルドは驚いた表情を作った。

 理由は得体の知れない誰かに急に名前を呼ばれたからである、ということは簡単に想像できる。


「(…声に出してはないけどいい反応するね?…でも、今からもっと良い表情を見せてくれるかもね?)」


 しかしそれを上回る驚くべきことは、これから出てくるはずのアベルの言葉であろう。

 僕はその言葉がアベルの方を向き少し胸を弾ませながらその言葉を待ち構える。


「そうだな…俺はコイツの言葉を信じる…か…?」


「ハハッ!そう言ってくれて助かるよ!」


 フルドはその言葉を聞いて目を見開いてさらに驚いた表情をしていた。

 そんなフルドの表情を横目にアベルは続けて言う。


「…多分大丈夫だフルド。コイツは…ディオスは『嘘』は言ってはいない……はずだ。」


「嘘……アベルのことだから厄印や信仰者のことを突き放すことを言うと思ってたよ…?それに、何でアベルがこの禁忌の術印使いの名前を知ってるの…!?」


 フルドは震えのない透き通った声で途切れながらもそうアベルに尋ねた。

 確かにアベルは本来『この場面』ではいないはずのヴォルティートに対し「次に会ったら潰す」と不吉な言葉を言っており、この言葉から分かるように敵だと判断した存在はとことん突き放す人物だ。

 

 しかし、今のアベルは記憶はなくても僕に対する何ならかの感情は少なからず抱いているだろう。

 その証拠に『嘘』と言う言葉に反応していた。

 これはあの世界にいた時の『微々に残しておいた記憶』が反応してくれたのだろう。


「(やっぱり自分以外の認識を書き換えるって…すごく便利だね。)……はは。」


「んん〜…何でかは分からないけど、嘘は言ってないと思うんだよな……ん?でも何でだ…俺だってなんとなく名前も……本当に何故か覚えていただけだしな…?」


 本人も完璧にすらすらと自分の口から出てきている言葉の真意を理解していないような、アベルの断片的な回答を聞かされフルドは視線をアベルから僕に変えた。

 少し睨みを効かせた視線であり、あまり目は合わせたいとは思わなかった。

 しかし、それはフルドの人間性に対してではなく、持っている『術印』が少し厄介だからである。


「…正直、まだ僕は疑ってるよ?アベルは、自分を殺そうとしてきた相手は突き放すはずだし、そして何より無差別に命を奪っていた君を…禁忌の術印使いはとことん嫌うはずなんだよ?!」


 その疑問はやはり自分に向けられたものであった。

 フルドの言うようにアベルは『禁忌の術印を嫌う』…っと言うよりは、どちらかと言えば『殺すことが目的』である術印は嫌っている。

 フルドの今の言葉を聞いただけでも、先人の思想が色濃く継承されているのがよく分かった。

 

「…つまり君が言いたいのは『僕がアベルに何かしら変なことをした』ってことなのかな?例えば…記憶操作の術印を使ったとか?」


 フルドは言葉を詰まらせゆっくりと首を縦に振った。

 この世界でアベルと長く一緒にいるのはフルドであるが故に、アベルの不可解な心情の変化に困惑と疑いを隠せないのは想像できる。

 こう言葉が詰まったのも、自身よりも上のアベルほどの実力者の記憶を改ざんするほどに力を僕が持っていると思っている警戒心からだろう。


「残念ながら禁忌の術印の中にも、そして僕にもそんな術印は無いよ!まあ、せっかくだし今度は僕が君の術印の力を当ててあげよう!…君の術印は『心眼』。見たものの感情、そして身体の状態を全て見ることができる。視界の共有や、その他諸々もね?」


 僕がこう言うと目を見開いたフルドの警戒心がさらに高まったのを感じ、その様子を見た後フルドを笑いながら宥める。

 少し悪い癖が出てしまったと思いつつも、ペースを途切らせないために言葉を続ける。


「ハハハ!なーに、言ったでしょ!?僕は君たちには害は与えないって!なんなら僕だって今みたいに相手の術印を分析することぐらい簡単にできるよ!」


「もう一度聞くけど…そんな術印が存在するの?」


「さあ?どうだろうね?今君たちの前で笑っている僕は禁忌の術印使いだ。…そんな簡単に自分の手の内を明かすと思っているのかな?」


 悪意ゼロの言葉をフルドの表情を見ながら話し、出てきた疑問をさらりと回避すると僕は再び同じような質問をする。

 フルドの表情は、先程の世界でアベルが見せたものと同じように、僕を得体の知れないものに置き換えているようなものになっていた。

 だからこそ…少し揺さぶりをかけようという気持ちになった。


「…さて、君にもう一度聞くよフルド。君はその術印で僕が嘘をついていないと言った。僕と自分の力を信じ、殺意を持つ敵ではないと認めてくれるか、はたまた突き放すか。僕はね〜…君自身の言葉が聞きたい。もちろんアベルの意見は抜きでねぇ?」


 この言葉にフルドは再び困惑の表情を作る。

 僕が重視したのは『アベルの意見はなし』と言うことだ。

 この表情の変化から分かるように、フルドの術印である『心眼』は本人のことをよく表している力を持っている。

 フルドには『相手の考えを読み、そしてそれに合わせるようにして行動する』という決して致命傷に繋がるとは言えないが、唯一と言っていいほどの欠点である。

 

「…君は〜、どうするんだい?僕は深い意味なんて何にもない質問をしているだけだよ?誰かの意見を聞かなきゃ行動できないなら、君の本心はいつまでも埋もれたまま。これは君にとっても重要な質問になると思うよ?…さぁ、どうするんだい?」


「…っ…」


 軽くフルドに詰め寄って腰を折って上目遣いでその目を見るが、答えを戸惑っているような表情が伺える。

 アベルはこのやり取りを静かに見守っているがこれは敵意のない僕へのアベルなりの気遣いだろう。


「…もしかして術印の力を使って僕の考えを読もうとしてるでしょ?残念ながら、君の術印は僕には影響はない。感情とかを読み取ることで君は相手にとって最適な答えを出すことができるけど、今の僕は『君の考えにのみ』興味があるから、いくら僕の心を見たとしても結局答えは自分で出さなきゃいけないよ?」


「…!」


 初めて自分が本当の感情がないことに利点を感じた。

 今の僕は言ったようにフルドの『考え』にしか興味がない。

 つまり、『僕を敵としてみないか、突き放すか』という質問に対する『答え』しか望んでおらず、別に答えによって2人を殺害する気などはさらさらない。

 心を読んだとしても僕の感情から相手の真意を読み取るフルドの術印に悪く反応することはないのだ。


「……僕は…」


 時間を少しかけた後、フルドが重い口を開いた。

 その目は鋭いものから再び少し怯えたものなっていた。

 しかし、少しばかりの覚悟を感じ取れる表情をしていたためどうやら答えは出たようだ。

 

「ふぅ……とりあえずは…僕は君を『信じる』。…僕なりに考えて、君は…今の時点だとやっぱりまだ完全に敵だとは思えからね…」


「へえ…何でその答えにしたのかな?単純に僕が君たちを殺しかけて尚且つ、現在進行形で脅迫まがいのことをしてると思ってるからかな?」


 少し悪いと思いながらも本心を確かめるためにフルドに核心を知るための質問をする。

 僕のこの返答にフルドは焦ったような顔つきで反論する。


「ち、違うよ!僕の聞いた話の禁忌とあまりにも違うから…僕なりに考えたんだ…それに君は本当に、僕たちに敵意が…ないから…」


 言葉を途切らせながらもこの答えになった経緯を自分の口から説明していく。

 続けてフルド「それに…」と言う。


「…君は、言ってたから…『僕たちを試した』って。…普通に考えて僕たちを生かす理由なんて、君からしたら絶対ないはずだからね…?…『古城』の術印使いである僕たちを、このまま殺さないなんて…それこそ敵意とは違う何かをもってると思ったから…」


「…禁忌ヴォルティートをよく理解しているようで助かるよ。」


 こうしてフルドは自分で考えた答えについて説明し終えた。

 その顔からは張り詰めた緊張が解き放たれたためか、空気を深く吸い込んで少しの安堵しているのが伺えた。


「…ハハッ!なるほどね〜…じゃあ、君たちは本当に僕のことを一旦は仲間として認めてくれるってことでいいのかな?いやぁ〜、嬉しいことだなぁ!」


 少し強引な部分はあったが、上手く入り込むことが出来たと思い、僕は笑顔を作りながら2人と自分に向けて手を叩く。

 そして一歩フルドから離れると、今まで何か告げ口をするようなことがなかったアベルが口を開いた。


「…ああ、とりあえずはお前を俺たちの…仲間とまではいかないが、一緒に行動できるようにする。…でも、俺自身もまだお前への疑いは完全には晴れてないけどな?記憶も曖昧だし…なんで禁忌の術印使いであるお前を見ても殺意が湧かないんだ…?」


「自分で言うのもなんだけど、僕は人の警戒心が薄くなるような人間だからね〜?それにしても…フフッ!君たちと一緒に行動してくれるのは本当にありがたいね!それじゃあ、早速改めて僕の自己紹介からだね!」


 僕は二人の方を向き軽く頭を下げる。

 ここからは僕が二人に対して完全に敵対心がないことをこれから証明しないといけない。


「僕の名前はヴォルティート…っていうのは君たちも把握していると思うから、正しい方の名前でディオスって覚えて欲しいな!僕は禁忌の術印使いであり、君たちもよく悪い意味で聞くことが多い禁忌の術印を使うことが出来る存在さ。…まあ二人とも、詳しい詳細は多分もう『長たち』聞いているんじゃないかな?」


「禁忌の…術印…それも信仰者でもなく本物の禁忌の血筋…」


 僕がこう言うとフルドも神妙な顔つきになりそう呟いた。

 禁忌の血筋は数ある術印の中でも、飛び抜けて残虐性のある禁忌の術印を主体として戦う一族である。

 そのためヴォルティートの名前を持つ一族は他二つの厄印を含め他の術印使いからも忌み嫌われている存在である。

 そんなこともあり重い空気が漂っているのを感じるが僕はこれを振り払うように話を続ける。


「なんで僕が本来敵対関係であるはずの古城の術印使いである君たちに近づいたかことにはしっかりとした理由があるよ!さっきも言った通り、僕は人探しをしているんだけど…探している人物は僕のことをできるだけ避けていて、そしておそらく…僕よりも強い存在だからさ。僕もそれなりに手を焼いているんだよね?」


「なっ!?厄印である禁忌の術印よりも強い存在!?…そんな術印が存在するのか?…お前は禁忌の『長』…それを認められてヴォルティートの名前を持っているはずだろ?」


 僕の言葉に今度はアベルが反応した。

 確かに、『この世界の基準』では罪人は術印使いとしての僕よりも圧倒的に強いだろう。

 しかしヴォルティートは原作では常に強敵という描写で書かれているが、罪人や僕のような呪陣を使う者には強いという認識では通らないだろう。

 むしろその逆であると言ってもいい。


「奴の力の種類と強さの詳細については僕にはよくは分からない。だけども僕にとっても、君たちにとっても確実に害になりうる存在さ。」

 

「うっ…そんな存在を探し出せって言われても…」


 自分自身、術印の強さは言葉だけでは感じにくいタイプの人間である。

 フルドは僕の回答に弱音を吐いたが、僕はそれを鼓舞するように話す。


「君たちがそんなに心配しなくても大丈夫だよ!だってそいつも同じようにあくまで目的は僕だならね?だから君たちには何もしなければ最小限の害しか与えないと思うよ?…それに…」


 一拍間を置いて息を吸い込むが、湖から流れてきたためか肺に入ってくる空気は少し冷たいものであった。

 話の内容に合わせて目つきを変え二人の顔を見て話す。


「僕が来たからには『誰も死なせない』…それは約束しよう。…ああ、それと。僕はある制約があって『嘘はつけない』ってものがあるんだよね?だから僕の言うことは基本信じていい…どうかな?僕は目的も、その他もとりあえずは話終わったけど?」


 僕がそう言い終えると重い空気は少し軽くなったのを感じた。

 包み隠さずに真実を言うだけでもこんなにも空気がスッキリするのだと実感した。


「…何で、そんな重要なことを初対面の僕たちに話してくれたの?その情報は結構君にとっては弱点にもなるんじゃないの?」


 確かに僕にとってはこの罰は唯一の弱点と呼ぶのに相応しいものであろう。

 嘘をつけないということは、同時にそれは全ての問いに対して正直に答えなければいけないということになる。

 つまり、自分にとって不利益になる情報を無条件で相手に与えるということになる。


「…むふふ……そう思うよね?」

 

 しかし、それはあくまで『答えに対しての執着』が強い相手場合であり、この罰はあくまで『嘘をつけない』というもの。

 言い換えれば嘘をつかずにその質問を回避することは可能であるということである。

 さっきのフルドの質問もその方法で回避し、瞬時に別の質問に切り替えることで興味を逸らすことができた。

 

「ふふふ…まあまあ、そこらへんは大丈夫だよ!実は結構この制約は穴があってね…うまくいけば別にその情報について正直に答えなくても回避することは可能だよ!そして、それはもう君たちにも実践済みだしね〜?」


「(…回避はできるんだ。)…あっ……そう言えば、僕もさっきの質問中に僕の質問の内容の答えを聞いてないけど……もしかしてそれも?」


 僕のこの発言から何かを察したように、フルドからあの時の答えを仰がれる。

 しかし、正直もう僕には答える気もないため再び受け流すようにして話す。


「フフッ、どうだろうね?それはノーコメントで!……ね?単純にこうして僕が口を開かないだけでも良いと言うことになる。まあ?君達の信頼を勝ち取るっていう意味合いを込めれば、僕が進んで口を開かないことはないけど。」


 舌を出しながらそう言うと、横目で僕を見ながらフルドは少し不貞腐れたような表情を作った。

 このやり取りを見てアベルが笑っていたいるが、様子を見る限りどうやらアベルもこのことには気付いていたようだ。


「…あーあ、また上手い感じにかわされたな?フルドはもっと物を言えるようにならないといけないし…あとは術印以外の観察眼もつけないとな?相手の感情を読み取るだけじゃ本心を知ったとは言い難いしな?」


「おやおや〜?そのいい草は、君はこのことには気づいていたみたいだねぇ?」


「…まぁな。」


 悠長な口調でそう言うとフルドは少し不貞腐れた表情から驚いた表情を作った。

 このことが気に入らなかったのか少し食い気味になってアベルに近づき問いただす。


「その言い方は…アベルってもしかして本当に気付いてたの!?はあ…こっちは、本当にこの世界の終わりみたいな雰囲気の中で過ごしてたのにぃ…」


「コイツは結構露骨に受け流してたけど、フルドはガチガチだったから全然気づけてなかったな?」


「…もう!なんか人と話してる感じがしなくて本当に怖かったんだからね!?」

 

 フルドはアベルからの返答を聞くとさらに表情を厳しくしてアベルに詰め寄っていった。

 アベルは自分よりも小さいフルドの下からの睨みつけを慰めるようにして「まあまあ」と話す。

 その二人のやり取りをして思わず僕も軽く笑ってしまった。


「ハハハッ!いやー、君たち二人っていいコンビなんだね?二人でいる時だけそんなに互いのことを言い合ったりして本心を語れるなんて…羨ましいね?僕の『相方』はそんな単純さがないからねぇ…」


「…えっ?禁忌の術印使いの『相方』ってことは…」

 

 僕が二人に向かってそう言うと互いの顔を見合わせる。

 禁忌の術印使いのみが『従えている存在』にも二人は既に気づいているようであるが、それを話すのは別に今でなくためここは話の内容を断ち切らせる。

 しかしながら、この表情の変化の様子を見るだけでも二人の性格が見て取れるため面白いものだと思う。


「さて、そろそろ本題だね?僕のこれからの目的はある人物の抹殺。そして二人は古城に害を与えるであろう僕の追っている人物を突き止めること。…一見目的は違うように見えるけど、実際はどちらにも関係ある脅威がこの世界にはいる。それで〜…僕は情報収集のために古城には行きたいんだ?僕たちの利害は一致してるし、行けるんじゃないかって踏んでるんだけど〜…」


「えっ!?厄印使いなのに古城に来るって…正気なの…!?」


「…うん。頭のおかしな人間って思うかもしれないけど、正面から言われると流石に傷ついちゃうな…?」


「あっ……ごめん…」


 2人の表情は再び面白いと思うものに変わったが、僕が暗い顔を作ったためか、すぐに別の表情に切り替わった。

 単純に『ある人物』というだけでも不確かな情報だと思うが、禁忌の術印使いが敵意を持たずに目的を話すほど異常性がある相手だということに二人は理解を示してくれたようである。

 …だが古城に行くのにもそれなりに『厄介な条件』があるため、ただで「こんにちは〜」と訪れるわけにはいかないのだ。

 

「そうそう…それでね?お願いがあるんだよね?…君たちよりも前に古城の術印使いになった存在で…『古城の長』…彼のことをどうにか説得してくれないかな?…『あの人』は君たち以上に僕に対して疑ってかかるだろうし?…なんなら出会った瞬間にこの世界からバイバイしないとも行けない可能性もあるし?…まぁ、これでも恐ろしいって言われて警戒されてる禁忌だし…?…言い訳くらいは欲しいんだ…」


「…何で君はそこまで知ってるの?あの人はあまり人前に出たりするのは嫌ってるから自分の情報をあまり外に出したことはないのに?」


「いや〜結構僕以外にも信仰者とかはあの人のことを知ってるし、一番警戒もしてるよ?それに彼、立ち位置的に古城外で術印を使うこともあるでしょ?その時に使ってる様子を見てた他の信仰者が僕らにも情報としていろいろ教えてくれるんだよね。あの人は一番……禁忌()のことを憎んでるだろうし?」


 僕がそう言うと二人は同時に表情を暗くした。

 僕が話した人物は今言ったように特にかなり禁忌の術印使いを嫌っている。

 『相手を痛めつけ殺す』のが目的となっている術印はこの世界にいる他の術印使いから一番警戒はされているのだが…忌み嫌われるようになったのは術印の性質以外の『あること』が原因である。


「…はあ、ますます古城の雰囲気悪くなるな……最近は古城外で活動するようになったから、あまり俺たちが古城にいる時に姿を見ることがないけど、『シャゼル』さんからはあまり機嫌を損ねないようにしてって言われてるんだけどなぁ……何故か古城を狙う術印使いたちが増えてきたって言ってたし…『フィリア』さんが特に…」      


「…アベルの言ってることは理解できるよ。…それでも、ディオスには完全に敵意がないし……それに、禁忌の術印の重要な情報まで話してくれた。だから僕は…」

 

 フルドは表情を暗くしたアベルにそう言うと最後の言葉が詰まった。

 その様子を見て僕は改めて二人の目を見て笑顔を作りながら言葉を発する。


「ハハハッ!なーに、心配は無用だよ!僕は裏切るようなことはしないさ。なんて言ったって僕たちがしたいことは一致してるんだしね!…まあ、僕のことは今の時点で完全に信用してもらわなくて構わないさ。一旦はここからは仲間(仮)としていこうよ。」


 そう僕が二人に向かっていうと、それぞれ深く深呼吸した。

 背後に見える湖が輝き二人の背中を明るく照らしている。


ーーこうして改めてこの世界での罪狩りが始まった。


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