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注文の多いファーストフード

 部屋に帰って、ノブコのことをハイジに聞いてみた。


「うーーん。不思議だねぇ。ただ、天界からの精神操作にも限界があるとも言ったよね。人の記憶は、そもそも『そういう物』でもあるということかな? 操作といっても何かを忘れさせて、別のシナリオを覚えさせる、みたいな?」


「何か引き金(トリガー)があると、忘れていた記憶が蘇る?」


「そう。その子、ノブコはイリスへの強い想いがあるのだと思う。だから、貴女に纏わる事を天界の力でも完全には忘れさせられない、ということかな」


「強い想い?」


「まぁ、シンパシー、友情かな? 多分」


 月曜はのんびりしたが、火曜朝から「Big Burgers」でのアルバイトが始まった。更衣室で制服に着替える体験はもちろん初めて。ここの制服は可愛い感じではなく機能的だ。妙なフリフリメイドさん風はなくてよかった。帽子があるのは髪の毛が落ちない配慮だろう。


初日は、見習いから始めてくれるらしい。アルバイトスタッフのお仕事は、大きく分けて接客と厨房。「おいおい全て」とも言われているが、私は接客からということになった。まずは、基本の手洗いから。


 「いらっしゃいませ」


 笑顔を作るのは「生を告げる時」と同じでいいようだ。もっとも生を告げても誰にも見えてはいないわけで、これは私が作る初めてのリアル笑顔(スマイル)だ。もちろんタダ。


 コンピューターというものは天界にはないが、タッチパネルっぽいものは存在する。もっとも手を触れて精神集中するというようなガラス板だが。とはいえ、端末操作自体は特に問題なかった。オーダーを受けて、ボタンをタップすると言葉で言えば簡単なのだが。内容はそれほど単純でもなかった。


 メニューの組み合わせがとても多いのだ。だから、このお店はとても繁盛しているのだろうけれど。例えば、セットメニュー、ドリンクは何か? コーヒーのアイス、ホット、コーラ……、コーヒーなら砂糖は? ミルクは? サイドメニューはポテトがデフォだが、ナゲットに変更も可、そのソースは何か? ということをお客様自身が把握している訳ではない。


 スタッフが上手く誘導しないと、すぐモタモタしてしまい、お客様の列が長く延び、イライラ…… というハメになる。


 まぁ、本来ならスタッフを倍近く雇っておけば何の問題もないのだろうけれど、人の世界は効率的にお金を儲けることを美徳としている以上致し方ない。べ、別に、天使だってちゃんと理解してるわよ。七罪は、どうか? とは思うけど、功利主義を真っ向から否定する気はないわ。


 数日働いていると少し分かってきた。接客の方は私に向いていたみたいだ、何となく様になってきた気がする。だけど、うーーん。少し手伝った厨房の方は、ダメダメだった。手順、ちゃんとメモもするのだが、いちいちメモを見ながらって訳にも行かず。お魚を揚げてはいけないフライヤーでやっちまったり、卵焼きを潰しちゃったり……。


 ポンコツ? うーーん。天使は人ができない事ができるけど、人ができることを全て天使がこなせるとも限らない。人から見れば天使は一種の発達障害を持っているということかもしれない。だけど、少しずつ、少しずつ周りに迷惑をかけつつつも、何とか、何とか一人前にはやれるようになっていった。


 そんなある日、ケンジさんは。


「イリスさん、頑張ってくれてるね。君がバイト始めてからね。お客さんが一割くらい増えだんだよ。本当、感謝してる」


「ああ、なんだか、いろいろスタッフの方にはご迷惑もかけてしまっています。でも、決して、叱責したりせず、暖かくご指導いただいて。こちらこそ、感謝しています」


「うん。うん。君のそういう真面目なところ、スタッフの間でも評判だよ」


 なんだかいい人みたいなのだけど、ちょっと考え過ぎというか頼りないところのある、ケンジさん。兎にも角にも、人界でもアルバイトは順調に進み出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 9/9 ・生を告げる笑顔を向けられたらリピーター若干増えそうですね。 [気になる点] ・一種の発達障害………言い得て妙。 [一言] 遅れましたが、人間椅子、ゾワゾワしました。いい声です
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