天使のいる天国
「もう。あわてんぼさん。今頃、霊力を使えないことに気がついたのかしら? でも、大丈夫かな。貴女のSP(spiritual point)、今はゼロだけど、お花のSPを借りれば、ちょっとくらいの霊力は行使できるわ」
「え? そうなの! でもそのQ●顔、何か裏が?」
「Q●って何、それ? 姿形が似ているからって失礼だなぁ〜。分かった。分かったよぉ。あのね。花のSPを使うには対価は必要ってこと。SPを使えば花びらが萎む。そもそも、花が咲くということは、貴女が人の心を知ることでもあり、人に纏わる思い出を得るということでもある。花が萎むと、貴女の記憶が誰かから消えるってこと」
「ただ、人の脳の仕組みからして、思い出は周辺の記憶が残っていれば再生可能でしょ? だから、お花を一つ使って小さな霊力を使うくらいなら、大きな害はないと思うけど……」
「一つならって言葉引っかかるなぁ。 まだ、あるでしょ? 白状しなさいQ●!!」
「意外に鋭いなぁ。ポンコツのくせに」
「別に隠している訳じゃないけど。花が満開になった時、貴女がお花のSPの全てを使って霊力を行使したら花自体が枯れる。そうなったら、貴女は人界で会った全ての人の記憶から消え、修復は不可能。分かるよね?」
「全SPって。魂を操る禁断の力を使えばということ?」
「そういうこと。ああ、ついでに言っておくと、花の精に『死』という概念はない。花が枯れても、僕は大丈夫。別の花の精として転生するだけ。貴女のことを忘れるというペナルティはあるのだけれど」
私のそもそもは、生と死を告げる天使。魂を操れる者ということよ。死の直後であれば、死者を蘇らせることだって可能ってわけ。って、たとえ力を取り戻したとしても、下っ端天使ごときのSPで人の蘇生を行うことは不可能で、自らの全SPと満開のお花の力を使って初めてなし得る一度っきりの「大技」という意味だけどね。
でも。でも。そんなことは。当然でしょ? 天界のルールに反する。もし、そんな霊力を行使してしまったら「全ての人が私を忘れる」だけでは済まないはず。
「ああ、お気持ちは嬉しいのですが、私、このまま借金を返さずに天国に行くなんて。いくらなんでも、無責任というか」
「えっ?」
「ああ、天使がいるくらいだから、悪魔もいるんでしょう? ちょっとした提案を受けていまして。ギャンブルで彼女? なのでしょうか。に勝てば帳消しにしてくれるとか」
「あああああ!!! 危ないところでした。貴方、騙されていませんか? 私、まだ人界に来たばかりですが、いろいろ勉強はしてきました。人界には生命保険というものがあると聞きますが」
「あっ! あれ??? なんで僕、そのことを忘れていたんだろう???」
「それは悪魔の奸計というのです。どんなオファーだったんですか?」
「えっとですね。悪魔とサイコロ勝負をして、私がゾロ目を出したら帳消しと」
「ダメなら魂を貰うと言われたのですね!! 『六分の五の確率で魂をもらいます』と言われたら、貴方どう思います??」
「そんな高確率で負けなんて…… あっ!!」
「同じことですよ。貴方は借金を負っていると思い込まされていた。人はピンチに追い込まれると、リスクの高い勝負をしたくなるものなのです。しかも。しかもです。ポジティブな言葉で提案されると、何となく『よい提案だ!』と錯覚してしまう」
「分かりました。危ないところをお助けいただいた上に、天国に導いていただけるなんて。貴女はなんて」
「あああ、こう見えても、天使ですから♪ 悪魔がまた誘惑してこないうちに始めましょう! でわ。貴方に問います。貴方は神を信じますか?」
「ぬいぐるみが言葉を話し、貴女には私が見えている。信じるも何も。当然です!」
「悔い改めなさい。そうすれば、貴方は神の御名により、洗礼を受け全ての罪を赦されるでしょう。貴方が光とともにありますことを」
梅枝オサムさん。少々線が細い感じだが、なかなかのイケメンだ。どこか母性を擽る空気を纏っている。生前はさぞや女性にモテたことだろう。人の女性はなぜか知らないが「ダメな男」を愛でるらしい。でも、であるが故に彼は人生を誤ったのかもしれない。彼は全てを失った。だけど。彼には、自らの行いに慙愧の念を持てる力が残っていた。
「心の貧しい人々は幸いである」彼の幽体は光に包まれ天に登っていった。私は、いつもの仕事、左手に現れた生者の本から彼の名を消した。
「ところで、猫さん、このお花。お水を上げないと枯れるのかしら?」
「猫さん? 何? ソレ? まぁいいけど。もちろん、貴女が霊力を使わなければ枯れることはない。でも、時々、お水をやるフリはしておいた方がいいかもね。あのノブコって子、とっても鋭い。バレるのも時間の問題かもねぇ」
「注意しておくわ。ああ、もうこんな時間。寝るわね」
時計を見ると日付が変わって数時間は経っている。
「おやすみなさい」
夕方から降り続いた雨は止み、レースのカーテン越しに青い満月が中天に浮かんでいた。
長い後書きを書いてしまうことが多い私ですが、読むときの邪魔になることもあるようです。VTuberチャンネルとの連携の関係で、小説は今回で一区切りとなりますので、まとめて書きます。もちろん小説は、完結までに、うーーん、この十倍?くらい。かな。かな。
ことの発端は、声優さん、動画編集担当、私の三人で「花詠」という同人&YouTubeチャンネルを作ったことによります。著作権切れ文学作品をバイノーラルでキャラが読むという企画なのですが、「キャラの背景いるよね?」みたいなノリで、小説を安請け合いした次第です。
普段は、あんなのやこんなの、しか書いていないので、国営教育放送みたいな内容。正直、恥いです。でも、先々のストーリーには少女漫画的なイジワルもあります。リスペクトしているCLAMPさん、みたいな(とても及びませんが「風」くらいで)ストーリーにできるといいなぁ〜。
朗読に合わせ、文学作品にちなんだ内容としています。まず、サブタイですが、小説のタイトルを捻っています。(うっ、今後続くのかっ!)登場人物も文豪のお名前をもじったり。本パートは、朗読作品に合わせて太宰治の「人間失格」をイメージしています。ああ、さすがに、今後、朗読作品と合わせるのは難しいと思いますが、初回スペシャルということで。
その他、本パートのネタ元を記しておきます。
・「死神」(古典落語)
・アルプスの少女ハイジ〜エーデルワイスに花にちなんだ名前でハイジはその短縮形です。一般にはアーデルハイトなのですが、ハイジではアーデルハイドと濁音となっているため、そちらを採用しています。
・「罪と罰」(ドストエフスキー)
・「天国への階段」(レッド・ツェッペリン)
・「人間失格」(太宰治)
・静御前の歌〜吉野なので。姓の吉野は吉屋と与謝野を合わせた。
・行動経済学のフレーミング効果、プロスペクト理論〜あくまでネタで厳密ではありません!
ちなみに、大家のアキコさんが関西弁なのは、与謝野晶子が堺出身だからですが、実はアニメ&ゲームの「AIR」も少し意識しています。ってことは、その子のノブコは?? です。私の別作品の人とは特に関係ありません。偶然の一致です。
【花詠】
https://www.youtube.com/channel/UCB3N6DHLEH_kzCqImrS4ljg