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葉桜の森の下

 少々、困ったことになったなと思っていた時、どこからともなく香辛料の香りが漂ってきた。これの香りは天界でも嗅いだことがある。コリアンダーだと思う。手持ちの宝石は5つ。日本の通貨で一つは一万円くらいの価値があるとのこと。一つあれば雨宿りと夕食の対価としては問題ないだろう。少々、厚かましいとも思ったが、背に腹はかえられない。


 匂いの元を辿って行くと古びた集合住宅。アパートと表現するのが適切だろうか、の1階の窓が半開きになっており、中で人の年齢だと四十歳くらいか、黒い髪に黒い目をした女性が料理を作っていた。私の気配に気づいたのだろう窓越しに目があった。


「あら? 綺麗なお嬢さんやなぁ〜。なんや、お腹すいたんか?」


「はい。お察しの通りです。大変、恐縮ですが雨宿りをお願いしたく。今、手持ちの現金はありませんが、宝石をお金に替えてお支払いすることは可能です」


「なんやてェ? 現金はないけど宝石はある? あんた、どっかの国お姫様か? クーデターでも起きて命からがら逃げてきたとか? あはは。冗談や。どうせ家出娘やろ。そやけど、家族でいろいろあったんかな? わけありそうに見えるわ。よっしゃ! オバさん面倒みたろ」


「お母さん。またいつもの悪い癖。安請け合いは…… え!」


 後ろから彼女の娘らしい女性、年齢は十代半ばに見える。が声をかけたが、私を見るなり言葉を失った。やはり私は人に似た容姿ではあるが、どうしても「人外」であるオーラを隠すことはできないようだ。いや今の表現は逆だ。人は神、私たちに似せて創られたのだから。


「ええから。ええから。そっちのドアから入って()ぃや。雨宿りはもちろん、ご飯も食べて行き」


「お言葉に甘えて」


 私は左手にあるドアから、この女性の部屋に入った。どうやら彼女はこのアパートのオーナーで管理人ということらしかった。吉野アキコという名の彼女は、二階建で六室あるアパートの入り口近くの一室を住居にしてるいようだった。彼女は親切にも私に食卓の椅子を勧め、夕食、カレーというものらしい、を振る舞ってくれた。サラダを取り分けてくれながら、娘ということだろう、吉野ノブコが。


「貴女、お名前は? お顔をみてびっくりしちゃったわ。もしかして天使か何か?」


「えっ!」


 ちゃんと知ってるんだから。これは人界で言うところの比喩的表現なのだろう。だが、いきなり正鵠を射ていて動揺を隠せなかった。


「ああ、ちょっと外国から来たので…… 名はイリスと申します」


「まぁ、なんかいろいろ、わけありやろうから深くは聞かんことにするわ。多分、泊まるところも探してるんやろ? もしジブンが良かったらやけど、このボロアパートな。一部屋空いてんねん」


「ちょっと、お母さん、あの部屋は」


「ちゃんと説明するから。あのな。わけあり物件って知ってるか?」


「いえ。存じあげませんが」


「この向かいの部屋な。前の住人が中で首吊ったんや。そういう物件はな、次に入居する人が(いや)がんねん。貴女(ジブン)にしばらく住んでもらえたらなぁ〜と。しばらくは家賃いらんから」


「ああ、確かに人が死を忌避する気持ちは分かる気がします。でも、私、『死』は見慣れてますから」


 あっ、しまった!!!


「なんや、ジブン、看護師? もしかして葬儀屋さん?」


「うふふ。ますます天使っぽい♪」


 いや、この子、鋭い。というか自分の無用心が恨めしい。


「ほな。決まりやな。お布団は、ウチのお客さん用貸したるわ。ああ、さらにお節介やけど、バイトも紹介したろか? というか、ジブン、身分証明書とかあるん? イリスもどうせ偽名やろし」


「身分証明書?」


「ああ、なら、なおのことやな。クドクド聞かれんと働けるところ紹介したるわ。任しとき!」


「お仕事はしなければならないと思っていましたが、身分証明書までは考えが及びませんでした。そこまでお言葉に甘えてしまうのは心苦しいですが……」


「情けは人の為ならずやからな。って、半分は嘘や。こんなボロアパートで事故物件。借りてくれる人なんか、いてへん。そこへ、わけありそうな家出娘。天の配剤や思た。しばらく住んでもらえれば、告知義務もなくなる。これはギブアンドテイクや」


「そういう正直なところは評価してるわ。お母さん。ね。遠慮はいらないと思うわ。幽霊を気にしそうな人でもないようにお見受けするし。もちろんお部屋はハスクリーニング済みでキレイになってる」


「そう言っていただけると気が楽になります。ご配慮痛み入ります」


「こっこそ、ありがとや! あ、そうや。ここは日本やからなぁ〜。ジブンのお国と違ごうて、偽名でも苗字がないと変やろ? なんか考えよか?」


「あっこれ。髪に」


 先程の公園にあった桜から舞って来たのだろう。私の髪に甘い香りのする葉が一枚。


「桜の葉をつけて来た天使さん。桜葉でどうかしら。桜葉イリス……いい感じじゃない?」


「素敵な苗字をありがとうございます。確か桜は皆さんの姓、吉野と縁が深いお花ですね。三万本が密生しているとか。歌にも詠まれています。『吉野山 峰の白雪 ふみわけて 入りにし人の 跡ぞ恋しき』」


「よう知ってるな。なんや。日本語も上手いし、日本マニアの外人さんか? そや、明日の午後にバイト先紹介するわ。もちろん、白拍子とか違うからな」


「ああ、それと。ボストンバッグ一つに綺麗なワンピ。普段着がいるんじゃない? 私、明日はお休みだから『かみむら』でも行こうか?」


「何から何までありがとうございます」


 私は運がいいのだろうか。いや上手く行き過ぎているのは天界からの作為を感じないではない。これは神の導きなのだろう。

後書きは5回目にまとめてのつもりでしたが、少しだけ。やっと「桜葉イリス」の名前の由来が出てきます。ネタバレするとサークル内で「どんな名前がいいかなぁ?」をTV会議でやった後の結論だったりします。


VTuberの方もこちらもそれほどの数字は出ていないのですが、前者は強豪ひしめく中で出してて、かつ、フォロワー数ほとんどいないTwitter告知だけ。後者も、経験則的にUUがあまり出ない「真面目な」物。(文学作品朗読と合わせるのでHなこと書けないです;;)それを勘案すると、そこそこかなぁ〜な感じです。視聴、閲読、ありがとうございます!!


ちなみに、なぜ、アキコが関西弁か?は後日!

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― 新着の感想 ―
[良い点] あ、アキコさーん!? [気になる点] 面白いです。 読み聞かせはもっと評価されるべき [一言] やっべ、色々忘れてる。あと1話で完結、百合磁石読まないと
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