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天使なんだけど、人界に降りて本を読めって、どゆこと?  作者: 里井雪
イリスのこと

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お兄さん@がんばる!

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 人というものの寿命なとても短い。それなのに、こちらに来てからの時間経過は、天界よりずいぶんと速いように感じる。季節は巡る。夏休みが終わり、二学期が始まった。ノブコも元気に登校しているようだ。ユキオ君とは、よい友達になれたらしい。部屋に戻って、ハイジと。


「人界に来てから半年かぁ〜。でも、思ったよりお花の咲き具合が早いし。この分だと年内には帰れるかな」


「うん。読書の方も随分頑張ってるし、いけそうだね。霊力の方も、かなり使えるようになってきたんじゃない?」


「ええ。多分。試す機会はないけれど」


「うん? なんだか、浮かない顔だなぁ」


「これは神のお導きかもしれないけれど、私の周りには優しい人が集まり過ぎた。帰るとなると、なんだか、後ろ髪引かれる想いというか」


「そういうことかぁ。人を知れば知るほど、逆にそうなるか。それは、君が人を知ることの代償なのかもしれないね」


「何事にも対価は必要ということかしら?」


「それはそうさ。お店に並んでいる果物を黙って持って来たら、泥棒だろ?」


 秋が深まり、金木犀の香も芳しいある日。私はキミタケさんと会う機会に恵まれた。ある日の夕食。今日はサンマ。秋鮭というように今が旬、脂が乗っていている。天界では、そもそも動物性タンパク質を摂取することは少ないし、物珍しいという意味でも、とても美味だ。


 もっとも天使は、食事をしなくとも死なないという体なのだけど、こちらにいると空腹感はある。そして、食という文化は人を「体験」できるし、正直、ちょっとハマっている。


「ねぇ。イリス。今度、ミチタケさんに会いに行かない?」


「ああ、ユキオ君のお兄さん?」


「ユキオ君経由でね。『是非、私たちに会いたい』と言っているみたいなの。恩人とか言われてるらしいけど、イリスへの興味というか好奇心みたいな感じかもだけど」


「今更、ここで、私は客寄せパンダじゃねぇ! とか言わないわよ。それに、私の方も、お兄さん、どんな人か興味もあるし」


「『客寄せパンダ』って、見せ物じゃねぇ! みたいな意味? ちょっと使い方がズレてるかも」


「あははは。でも、努力してるってことで」


「うん。それは認める。じゃ、今度の土曜日に!」


 約束の土曜日、私たちは連れ立ってキミタケ、ユキオ兄弟の家に行った。ファミレスという案もあったが、お兄さんが、まだ、外はちょっと……ということらしい。


 ご両親は出かけて留守のようで、迎えに出たユキオ君に二階奥の部屋に通された。室内は、この数ヶ月で整理され、明るくなったのだろう。パソコンとディスプレが所狭しと置かれている以外は、こざっぱりとした綺麗な室内だった。


 部屋の中央に置かれたちゃぶ台には、ユキオ君が入れてくれたダージリンと、なぜか、なぜ? お菓子の代わりにバナナ?


「おおお、マジ、天使が二人もぉ。キミタケです。ああ、バナナ、ブニュブニュじゃないけど、食べてぇ」


 え? あああ、天使というのは比喩的表現というヤツか。ノブコがクスッと笑う。アレ? 何がおかしいの?


「はじめまして、イリスです」


「ノブコです」


「イリスは分からないか。さすがに」


「ええ。何かの冗談ですか?」


「うん。お兄さんは良く似てるのよ。あるアニメキャラに。だから、演技というか、それ風のね」


「兄さんったら。女子が来るからって、張り切っちゃって。そうだ。もういらなくなるから、今度、僕の野球帽あげるよ。部屋でも被ってたら?」


「それほどでもある。こう見えてもモテるんだお。美麗コスプレイヤーと結ばれる運命なんだし。って、もう、キャラマネも疲れたから。こんくらいで」


「中学まで私は超優等生でした。名門有名高校への合格は確実と言われていて。でも、なぜか、受験当日、お腹が痛くなってしまい。結局不合格。今、思えば、キッカケはたったそれだけのこと」


「お兄さんは、きっと、それまで、全てが上手く行き過ぎて。というか、失礼ながら、ご両親の方針通りに行き過ぎてという言い方ががいいかしら」


「イリスさん、さすがですね。その洞察力。ちょっと線路を外れただけで、もう、絶望しか待ってないと思い込んでいました。ですが、引き篭もって、ネット三昧をしてみると、むしろ、見えることがあって」


「そう思いますよ。今、ネットは功罪の罪の部分が語られることが多過ぎます。いろいろな価値観を知るという意味では、好適なメディアですもの」


「割と早い段階で、私は、私なりに『立ち直っていた』のだと思います。ネットを使った勉強から、プログラミングのお仕事、さらには、その報酬で投資をやったり、結構、前向きに動けていたのです。ですが、引っ込みがつかないというか、この歳でお恥ずかしいですが、両親への反発もあって」


 キミタケさんは恥ずかしそうにそう語った。どこか付き物が落ちたようだ。

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