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ストレス発散は大事

 手当てが終わった私は狼の隣に座り、狼も私の太ももに頭を置いて完全にリラックスしていた。生きてる動物は暖かいし、疲れが出て眠くなってくる。寝てもいいのかな。危険かな。


「………」


 暇だ。正直眠たいけれど、寝たら危険な気もする。それでも、欠伸は止まらない。


「ひゃ!」


 蝙蝠のような黒い物体が洞窟内を急に飛んでいった。あぁ、びっくりした。驚いた私に対して驚いたのか、狼も顔を上げていた。


「あ、ごめんね。寝てていいよ」


 背中を撫でると、またぱたりと頭を太腿に置き寝始める。本当に大型犬みたいだな。


 少し声を出したことにより、洞窟内の音がよく響くことに気付いた。これ、歌ったら気持ちよさそう。最近カラオケに行ってなかったしな。


「………ん〜んん〜」


 狼が起きないように小さく鼻唄を歌う。気持ちいい。声が響く感じがマイクを使っているような感覚で楽しい。休日はいつも一人でカラオケに通っていた。一緒に行く友人はいなかったし、誰かと行って選曲に気を使うのも嫌だったから。ストレス発散の唯一の趣味だ。







 あんなに狼に気を使って鼻唄に留めていたはずなのに、気がつけばノリノリで普通に歌を歌っていた。好きだった昔の曲や流行の曲、映画やドラマの主題歌など、さっきまでの遠慮は何処かに行ってしまった。

 歌っていて気付いたが、なんだろう、周囲がキラキラしている。心なしか地底湖の奥底が光り輝いているように感じるし、体もポカポカ暖かい。元気が出るような………? 考えてもわからないから、今日のもやもやを忘れる気持ちで好きな歌ばかり歌ってやる。誰もいないどころか、どうせいたって魔物だ。襲われて死ぬくらいなら最期に歌を歌うくらいいいでしょ。





「………喉渇いた」


 どれくらい歌い続けていたのだろうか。喉が疲れたので、大人しくすることにした。はぁ、久しぶりに歌ったかも。最近忙しくてカラオケ行ってなかったし。

 洞窟内にはさっきまでなかったのに、所々に雑草が生えている。急成長したけれど、何なんだろう。さっき地底湖の底が光ってたけれど、そのせいかな。狼はすっかり眠ってしまっている。煩くなかったのかな。また気まぐれに狼の背を撫でながら、私は水筒で水分補給をした。










 結局、俺はレナを見つけられないまま夜を迎えた。魔物の多くは夜にあまり動かないが、当然活発になる魔物もいる。

 甘い匂いで誘い出し襲ってくる植物型の魔物もいれば、毒の鱗粉をかけて相手を弱らせる昆虫型の魔物もいる。レナがそいつらに捕まっていないといいが………


「ん?」


 なんだ? 歌? 急に鳥肌がたった。遠くから歌のような何が聞こえる。優しくて心地良いような、悲しい気持ちが湧き出てくるような、相反する感情が同時に出てきて戸惑うが、それでもまだ聞きたくなるような歌だ。とりあえずもっと近づいてみよう。


「………なんなんだ」


 歌の発信源に近づいていくと魔物が多くなっていくが、どれも敵意が全くなく、ただじっと動かない。目の前を通り過ぎても気付いてさえいないようだ。何が起きてるんだ? 今までこんなの見たことないが………



 もう歌は大分近くで聞こえている。歌ではあるが、歌詞が全く読み取れない。異国の言葉か、呪文のようにさえ思えた。そして、聞いているだけで身体が暖かいのは何なんだ? この歌を歌うのはレナなのか? でも、こんな声だったか? もしかして、俺は新手の魔物に誘われているのか? もしそうだとするなら、斬り伏せるだけだ。進もう。



 どうやら歌は洞窟から聞こえてきているようだ。このキラキラと光るものは何なんだろう。幻覚の一種か? 洞窟に近づくとキラキラと何かが宙を舞っている。身体が暖かくなる正体はこれか?

 気になるのは、謎のキラキラだけじゃない。洞窟の周りに大量の魔物がじっと動かずに歌を聴いている。洞窟に入りたくても魔物をどうにかしないと入れないくらいに。何匹、いや、何十匹いるんだろうか。それでも、敵意のない魔物を斬るのは何となく抵抗がある。避けながら入るか? まぁ、やってみるか。俺は刺激しないように魔物を避けつつ洞窟の中に入った。


 この洞窟には、何度か入ったことはあった。雨が降った時や一休みしたい時は度々ここに入ったが、奥まで進むことはなかった。奥に進んだところで特に何も転がっていないからだが、今は違う。洞窟に入ったと思ったと同時に歌が止んでしまったが、奥からほんのりと灯りが見え、周囲は相変わらずキラキラと何かが舞っている。そういえば、この洞窟に草なんて生えていたか? 日も当たらずジメジメしているので、せいぜい苔がある程度だったはずだが、あちこちに雑草が生えている。さっきの歌のせいなのだろうか。


「誰かいるの?」

「?!」


 奥から急に声が聞こえた。間違いない。レナの声だ。俺は走り出した。よかった。無事だったんだ。


「レナ!」











「誰かいるの?」


 魔物ではない二足歩行の足音が聞こえたので、そう問いかけた。声をかけると歩く音から走る音に変わり焦ったが、聞こえてきた声は待ち望んだ声だった。


「レナ!」

「リオネル!」

「どこも怪我はな………!」


 リオネルは若干息を切らした様子で、私の目の前に来たが、太腿に頭を置いて休む狼を見て固まった。やっぱりそうなるよね。


「な、何やってんだ?!」

「怪我してたから。放っておけなくて」

「放っておけないって、そいつ、シエロウルフだぞ」


 リオネルはドン引きしている。そんな近寄っちゃいけない狼なのかな。太腿を枕にするくらいに打ち解けている気がするんだけれど。


「強い魔力を持つ立派な魔狼だ。希少種でこの辺には生息してないし、警戒心も戦闘力も魔狼のトップクラスだ。まだ子供みたいだが、噛み殺されていないのが奇跡だよ」

「でも、弱ってたから」

「そういえば、どこ怪我してんだ?」

「体中傷だらけで、特に脚が………」


 毛布をめくってみると、血で汚れてはいるものの、怪我なんてどこにもなかった。

 え? 傷あったよね? 私は自分のシャツで作った包帯を解き、怪我を確認してみたが、ふわふわの毛並みで柔らかいってことしか証明出来なかった。


「………なんで?」

「いや、俺に聞かれても」

「た、確かに怪我してたの!」

「わかったわかった」


 えー! なんで?! 怪我してたよ?! どうしちゃったの?! なんで治ってんの?! いや、治るのは喜ばしいんだけれど。まるで私が嘘ついたみたいじゃない!


「そいつはいいとして、レナは怪我はないのか?」

「うん。掌擦りむいたり、ちょっと首が………あれ?」


 地底湖で洗ったときに、傷口にしみて痛かったはずなのに、掌の傷は無くなっていた。蛾のような魔物に空中でぶつかった時の首の痛みも気が付けば全くない。何なんだろう。


「痛むとこはないのか?」

「うん。大丈夫」


 なんだかふに落ちないが、今の私にも魔狼にも怪我はない。


「そういえば、歌が聞こえたんだが、レナか?」

「え?!」


 聞こえてたの?! 確かに大きい声で気持ちよく歌ってたけれど!


「………み、耳汚しだったね」

「いや………そういう訳じゃなくて」


 言葉に詰まっているところを見ると、単刀直入に下手ってことなんだろうな。恥ずかしい。


「とりあえず、今日はここで休め。俺が見張るから、寝て大丈夫だ」

「………ありがとう」


 疲れてたから凄い助かる。身体はどうしてか傷ひとつないけれど、リオネルと合流出来て安心したのか精神的な疲れがどっと出た。


「そういえば、水晶花は?」

「それどころじゃなかっただろうが。猶予はあるから、明日も付き合ってもらうからな」

「………はい」


 だよね。私は大人しく背中の岩壁に寄りかかり、目を閉じた。

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