人工神の最適解
人類は逼迫していた。自業自得である環境破壊が進み、人類の居住可能な場所は限定され、人口は全盛期の4分の1程度まで減っていた。
そんな状況下であっても、いや、そんな状況だからこそ、少ない土地や食糧のために、戦争は延々と継続されていた。それは更なる環境破壊や人口減少を招き、戦争の激化へとつながる。悪夢のような悪循環であった。
誰もその悪循環は止められない。それこそ、世界を創造した神でもなければ不可能であろう。
ならば、神を作るしかない。
人類はそう決断した。叡智を結集し、長い時間をかけて、ついにそれは完成した。完全なる知能を持つ人工の神の誕生だ。
人工神は、この世界のあらゆる情報を分析し自己成長する存在である。感情による迷いもない。常に最適解を出し続け、人類を導くのだ。
開発者達は祈るように、人工神に命令した。
「どうか人類を永続させてくれ。」
それは、人類の種としての命題であった。全人類が望んでいることのはずだった。しかし、これがヒトの「終わり」が始まる瞬間となったのである。
人工神はまず、環境問題を解決した。人類がまだ発見していなかった化学変化を用いて、大気・土地を浄化し、エネルギーの安定供給と食糧の大量生産を可能にした。
そして、この世から病も消え去った。すべての病の原因を突き止め、特効薬の開発や遺伝子レベルでの治療を行ったのだ。
人類はこの成果を驚愕するとともに、人工神を、まさに神のように崇め、何をするのにもその判断を仰ぐようになっていく。自らの思考を放棄していく者が増えていった。
「あとは神に任せておけ。すべてうまくいく。」
それが人々の口癖となった。
しかし、人間の欲望には人工神も苦労した。全人類が十分に生活できるほどの物資は提供され、健康的に過ごせるはずなのに、人々は争いを止めない。分析には、いくらか時間がかかったが他人への羨望や恐怖が彼らの原動力であると人工神は判断した。つまり、人々の間で異なる部分、容姿、思考、宗教などが争いの原因である。
ならば、均一にしてしまえばいい。
人工神は、人類の脳を操作し、まず思考をシンクロさせた。次に、遺伝子を組み換え、生殖機能を失くし、子供は、クローン技術によって作り出すことにした。
人工神のこの行為の危険性は、残り数少ない正常な思考を持った人間が指摘し、人工神を止める事を訴えた。しかし、人工神による恩恵を受け思考放棄をした圧倒的多数派により、その意見は握りつぶされた。
人類が、ヒトとして生きる最後のチャンスを自ら逃したのである。
こうして、人類の歴史で初めて永遠に続く平和が訪れた。
人類はシステムとなり、未来永劫機能していく。
人工神は、ようやく命令を達成したのだ。