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名状しがたきこの世界  作者: まがたま
第一章 ◼と◼
6/13

同士との出会い

適当に用意を済ませる。恐らく汗をかくので、替えの服をビニール袋に入れておく。

そして、さっきニャルラトホテプに貰ったメリケンサックを、今着ているズボンのポケットの左右にそれぞれ忍ばせておく。


(格闘技って言っても色々あるけどな、、、)


そんなことを考えながら玄関まで歩き、靴を履く。

履きなれた黒色の大手メーカーの靴だ。動きやすいので新堂は愛用している。


玄関のドアを開けると、太陽の光が差し込んでくる。それと同時に、涼しい風が新堂の頬を撫でる。

かなりいい天気だ。


(よく考えたら、今日木曜日だから学校普通にあるよな、、、)


そんなことを考えながらスポーツジムまでの道を歩く。

多少罪悪感が湧いたが、どっちにしろこの数日間、先生に体調不良と嘘をついて休んでいたのだ。

別にどうでもいいや、と自己解決した。


(そういえば、どうして今日俺はニャルラトホテプと普通に会話ができたんだ?

いつもなら有り得ない事ばっかり言われて混乱するはずなのに、、、)


考えてみれば、しっかり家に鍵を掛けていたのに目を覚ませば目の前にいるのもおかしいし、よくわからないが神話生物とやらについて話されたとしても、脳が追いつけないはずだ。

なのに、今回は冷静になれた。


(適応力ってやつなのか、、、?)


もしそうだとすれば、かなり有難いものになる。もうあんな経験はしたくない。

気が付けば、そんなことを考えている内にそのスポーツジムの前まで歩いてきていた。

変わらない外見だ。特に塗装もしていないコンクリートで出来ていて、3階建て。看板にはムキムキの男性の写真が貼り付けられている。

懐かしみつつも中に入る。内装も変わらなかった。1階は受付と案外大きい図書館が併合されている。

奥まで掃除が行き届いているのだろうか、清潔な印象を受けた。


受付の女性に話しかける。


「すいません。ここのスポーツジムに格闘技を教えてくれる方が居ると聞いたのですが、今日はその方はいらっしゃいますか?」


『あ、居ますよ。3階に新しくそのスペースを作らせて頂いたので、恐らくそこに居ると思います。』


「分かりました。ありがとうございます。」


3階と言われたが、確か3階は展望スペースだったような、、、?

そう訝しみながらも、階段を登っていく。


3階にたどり着いた時、新堂は目を疑った。

展望スペースの開けた空間は無くなり、新しい部屋が出来ていた。その部屋の中には大きな格闘技用のリングが設立されており、その周りにはサンドバッグが吊り下げられていたり、ミットやらグローブやらが壁に吊られていたりする、誰が見てもわかる格闘用の空間になっていた。


突如、恐ろしいほどの破裂音が鳴り響いた。それと同時に、2m以上はあるサンドバッグが吹き飛んできた。


「うわぁあっ!?!?」


あまりにも突然過ぎるの出来事に情けない声が出たが、何とか大きく左に跳躍することで避けることが出来た。

そのサンドバッグはそのまま今昇ってきた階段まで吹っ飛んで行った。


「あ、ごめんごめん。もう来てたのかい。」


と、目の前から声が聞こえた。少し低めの男性の声で、落ち着く響きをしている。

その先には、細マッチョな体型をし、ボーイッシュな髪型をした灰色のタンクトップを着た新堂と同じぐらいの身長の男性がいた。

腕、足共に美しい筋肉がついており、体は見えないがガタイが良い、というのはこういう人のためにあるのだな、と新堂は実感した。


「ごめんね。どうやらあのサンドバッグを吊るしてたチェーンが弱ってたみたいでね。そもそもサンドバッグ自体もかなり軽いものだったからそっちに行っちゃったよ。怪我はないかい?」


「あ、はい。」


新堂は、きっとこの人は人外ほどの力の持ち主なんだな、と感じ、恐怖した。


「ニャルラトホテプから聞いたよ。強くなりたいんだよね?」


この人も、ニャルラトホテプのことを知っていた。

そうです。と意思を伝える。この意思は揺るぐことはまずないであろう。


「あぁ、自己紹介がまだだったね。僕は黒川龍馬って言うんだ。よろしく!」


と、手を差し出される。


「えーっと、俺は新堂悠真です。よろしくお願いします 。」


自分も自己紹介をし、握手をする。

すごく、握力が高かった。

顔には出さないよう我慢したものの、かなり痛かった。


「巻き込まれたもの同士、仲良くやろうね!」


「巻き込まれたもの?」


聞きなれない言葉だ。


「あぁ、知らないんだね。君はニャルラトホテプからこんな紙を貰っただろ?」


そう言って黒川は部屋の奥にある棚から、謎の文字と数字が書かれたあの紙を取り出してきた。





黒川龍馬



STR 17 DEX 16 INT 13 SIZ 16 POW 12 CON 15 APP 13 EDU 14


耐久力 16 魔力 12 幸運 -


SAN 59 特殊技能 マーシャルアーツ






「これに見覚えがあるだろう?」


「はい。貰いましたが、、、黒川さんも貰ってたんですか?」


「うん。これを渡されるってことは、確実に僕達は何かに巻き込まれてるんだ。」


「分かるんですか?」


「まぁ、ついさっきニャルラトホテプが来たんだけどね。その時によく聞き取れなかったけど、

クト何とか?っていうのとハス何とかっていう奴の争いも近いねって言ってたんだ。

そして、君達とあと何人かこの紙を渡すつもりだから、頑張ってねって言ってた。

つまり、僕達もその何とかって奴らに巻き込まれたって感じなんだろうね。」


「なるほど、、、だから陣営がどうとか言ってたんだ、、、

つまり、俺たちは仲間ってことですね。」


「そういう事だね!よろしく!」


これは思ってもいない事だった。同じ境遇の人が居るのだと考えると、少し嬉しい気持ちになった。


「まぁ、僕はあれに君を鍛えてやれって言われたからね。どんな理由であれ強くなりたい人は大歓迎さ!

早速やってみよう!」


「やるって何をですか、、、?」


嫌な予感がする。


「キックボクシングのスパーリングさ!」


爽やかな笑顔でとんでもない事を言われた。

気がついたら、防具とグローブを付けさせられ、リングの上に立たされていた。


「まず僕は君の攻撃を避けまくるから、1発でも当てれたら合格だ!遠慮せずおいで!」


(マジかよ、、、しかも遠慮せずって言われても、こっちは喧嘩とかあんまりしたことないんだけど、、、)


そう思いつつ了承し、覚悟を決める。


「行きます!」


黒川はまだ構えているだけで、動いていない。しかも、当てればいいのだ。

身を低くし、大きく踏み込む。そして間合いを詰め、右ストレートを放つ、、、

かなりの速度だと新堂は感じたが、その一撃は空を切った。

気が付けば、黒川は新堂の左に立っていた。

新堂は急いで右手を戻し、また黒川を正面に捕える。

そして次は、踏み込みを浅くし、左手で牽制のジャブを放ってみた。

ジャブというものは威力を求めないため、速度が命になる。

だが、そのジャブも空を切る。黒川は、恐ろしい身のこなしで右に新堂の攻撃を避けていた。


新堂は、それを狙っていた。

特に力を込めずにジャブは打てるため、その次にすぐ右ストレートが打ち出せる、、、!

黒川の胸を狙った一撃。だが、それも空を切った。

なんと、黒川は体を捻り、右ストレートをギリギリで躱して見せたのだ。


(嘘だろ、、、バケモンかよ、、、!)


しかし、黒川もこれは予想外だったようで、まだ体が戻りきってない。


(ここしかない!)


新堂は、すぐに右の腕を戻し、黒川の体を狙い右足で蹴りを放った。

だが、黒川は加速し、恐ろしい速さで体を戻し、左へと跳躍し、回避したのだ。


「やるじゃないか!!僕も今のはヒヤッとしたよ!」


と、嬉々とした声で言われた。


「でも、軌道が分かりやすいね!さぁ、もっと打っておいで!」


軌道が分かりやすい、と言われても何せ新堂はあまりこんな経験をしたことがないのだ。


(そんな事言われてもな、、、)


少しイラッとしながらも、またも黒川へと間合いを詰める。

そしてまた左で顔へとジャブを放った。しかし、それは当たり前のように避けられる。

そこから新堂は黒川の胸に右ストレートをまた放つ。しかし、それは全力ではない。

次にまた繋げられるよう、敢えて少し力を抜いた。

それも当たり前のように左へ避けられる。しかし、黒川の回避した先へ新堂は動き、左で少し力を込めてパンチを繰り出した。

すると、黒川は後ろへ飛び回避した。

だが、その後ろもうリングの端で、そこから後ろへは逃げられないようになっていた。


チャンスはここだ。

そう考えて、畳み掛けるようにもう一度右ストレートを放つ。

やはり、黒川は左に避けた。


狙い通り。


黒川はリングの隅に追い込まれたのだ。

そこからは左にも右にも避けられない。


決まった。そう新堂は思い、左腕でで体を狙い、全力でパンチを放った。


ゴッ、と鈍い音が響く。黒川は両手でそのパンチをガードしていた。

遂に、黒川へ一撃を当てることが出来たのだ。

体感、かなり長い間戦っていたような気がしたが、スパーリングが始まってから2〜3分しか経っていなかった。


「いや〜、やるじゃないか!まさかこんなに早く当てられるなんてね!もしかして、どこかで経験したことあるの?」


「いや、やったことないですよ、、、」


「やったことないのにこんな動きが良いの?凄い運動神経いいんだね!」


こんなに褒められると、照れる。

そんなことないですよ、と笑いながら会釈した。


「じゃあ合格したし、本題に入ろっか。

僕が教えるのは、マーシャルアーツと呼ばれるものだ。それは、受け流しや、パンチ、キックの威力上昇にも繋がるものだ。」


「マーシャルアーツ、、、!」


どこか、聞いたことがある響きだ。それと同時にひとつ、疑問が出来た。


「それって、これを着けて使えます?」


と質問をし、ニャルラトホテプから貰ったメリケンサックを見せる。


「それは、、、メリケンサックかい?なんでまたそんな物騒なものを、、、

まあ、使えるよ!威力が更に上がるけど、少しやりにくくなるんじゃないかな。」


1回使ってみてもいい?と黒川が尋ねたので、それを快く了承し、片方を貸した。

黒川はそれを装着し、リングから降りていくつか吊られているサンドバッグのうちの一際大きなものの前に行き、構えた。


風切り音が聞こえ、その次に何か表現し難い音が聞こえた。

黒川の方を見ると厚さ40センチ以上はあるであろうサンドバッグを、拳が貫いていた。


「えええええええ!!!??」


「これ、、、やばいかも、、、」


黒川と新堂は、驚きのあまり絶句していた。


後に黒川は語った。


あのメリケンサックを付けると、不思議に腕が軽くなり、力が湧いてきた、と。

ニャルラトホテプがこれに何をしたかは分からないが、きっと何か効果があるんだなと2人は確信した。


新堂は、これがあれば親の仇がうてるんじゃないかと微かな希望を抱いたのだった。



サンドバッグ君不憫だなぁ

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