アルフォンスは勇敢に魔族に挑む
魔王の胴から剣が引き抜かれる。
膝を着き倒れる魔王は、その場から微動だにしない。
「…つい、に」
アルは渾身の力を使い果たし、魔王を倒した。
倒れるアル。
「あっ、アルー!」
シャロがアルの元に駆け寄っていくが、魔力を使い果たしたのかアルに回復魔術を使わない。
「エリンシア!シャロンに魔力を!」
マークが私に叫ぶ。
「あぁ、今行く!」
私は回復魔術が苦手だ。
「マーク!魔王領との国境で争いが激しくなっているらしい。助けに行かないと!」
まだ13歳になったばかりのアルは、このごろ悪化した魔族とのいざこざに興味津々だった。
「まだ駄目だ。魔族は魔力を駆使して戦ってくる。まだ、エリンシアの魔術攻撃の対処にも手間取っているんだ。…俺達はまだ弱い。もう少し修行しないと…」
マークは冷静だな。
私と二人が出会って3年、各国を旅しながら剣の稽古をし、魔王討伐への下準備を進めている。
その提案をしたのもマークだ。
「いいかアルフォンス。僕達は年齢の割には強い。多分、王国軍の前衛と同じくらいには戦えるだろう。しかし、魔族は1体で王国軍10人と同等の強さだと言われている。俺達二人では殺されるのがおちだ」
マークはアルを諭す。
「でもっ、それは王国軍が魔術攻撃の対処法が不十分だからだって、マークが言ってたじゃないか。僕達はこの3年、エリンシアのおかげで大分上手くなった。マークに至ってはほぼ完璧にレジストできるじゃないかっ!」
アルが食らいつく。
「でも俺はお前ほど剣術が上手くない。いざという時、アルを助けることができないだろう」
「…でも、困っている人が近くにいるのに助けないなんてこと、僕にはできないっ!」
アルが力強く叫んだ。
私はマークの肩を叩く。
「…諦めろ。こうなったらアルは人の話を聞かない。私も戦う。だから心配するな」
マークは俯くと、深く息を吸い込んだ。
「…分かったよ!作戦を立てる。…少し待ってくれ」
「やったー!」
アルは高く飛びあがり、拳を天に振りかざした。
王都から東にある国境付近の田舎町で悲鳴が聞こえる。
家や畑にはところどころ火が付き、煙が上がっている。
地面には住民の死体が転がっており、ひどい臭いがした。
「…あれっ!」
アルが壊れかけの教会を指さす。
…そこには一人の女がいた。
その近くには…
「…魔族だ。プランBで行く。手筈通りに」
マークは私とアルの目を見ながら小声で言う。
私もアルも無言で頷いた。
「魔族は基本的に頭が悪い。攻撃をされれば、その人に注意を向けるだろう。…まずエリンシアが弱い魔術で魔人に攻撃する。魔族に当たらなくてもいいし当たってもいい。威力がないと知った魔族は、油断するだろう。打ってきたのがエルフとなればなおさらだ。その油断しているところに、一番突進力があるアルフォンスが突っ込む。そこで仕留めることができればいいが、多分無理だ。その時は俺が切りかかる。それでも無理かもしれないから、その間にエリンシアが高威力の魔法詠唱を終わらせて打ち込んでくれ。そこで一度離脱する。虫の息だと判断したら俺が止めを刺しに畳みかけるから、アルフォンスはそれを見て、追従してくれ」
マークは作戦の概要を説明した。
…だけど。
「それだと、2人を巻き込んでしまうと思うけど…」
「アルは俺が撃ち込んだ時には離脱しているし、俺は魔術のレジストができる。君が使う魔法ならなおさらだ」
「…分かった」
「僕もマークの案に賛成だ」
「…よし。これがプランBだ。次はプランCだが…」
マークの戦術は見事にはまって、3人で魔族1体をしとめることができた。
爆風が辺りを薙ぎ払う。
これではさすがの魔族も死んだだろう。
…二人はどこだ?
…あっ!
瓦礫から足が生えている。
走って近づき足を引っ張ると、隙間からマークが出てきた。
「…レジストするんじゃなかった?」
足を吊られ逆さまのマークに言う。
「お前、馬鹿かよっ!限度があるだろ!」
…どうやら計算外だったらしい。
「それより、アルフォンスは?」
マークは宙吊りのまま辺りを見渡す。
そういえばどこだ?
「…アルフォンスっ!」
マークは私の手を振りほどき走り出した。
アルが血だらけで倒れていた。
ところどころに焼け跡があり、腕も変な方向を向いている。
…頭が真っ白になる。
「アルフォンスっ!…エリンシア、回復魔術を!」
…どうしよう。
「…私、回復魔術、使えない」
「えっ!…嘘だろ…」
そういえばこの3年、大きな怪我もなく過ごしてきた。
この二人はそれなりに強く、盗賊と争った時も無傷だった。
マークは私が回復魔術を使えないことを知らなかったんだ…
「…とっ、とりあえず、傷薬と包帯を!」
「あっ、あぁ!」
どこかに使えるものは…
辺りを見渡す。
私たちの近くにはボロボロの服を着た女が立っていた。
…さっきの。
「私に診せて下さい!。私は回復魔術が使えます」
「…ありがとう。君のおかげで助かったよ」
アルは笑顔でその女に言った。
「いえ、私の方こそ、助けていただいてありがとうございます」
女は優雅に礼をする。
…綺麗な人だな。
見た目から、アルたちよりも大人だろうか。
「…お前はっ!加減ってのを知らないのか!?」
二人の話をしり目にマークに怒鳴られる。
高威力って言ったのはマークじゃないか…
「なんでこんな回りくどい作戦でいったと思う?人が近くにいたからだ。気付かれてないのなら最初から君の大魔術で蹴散らせばいいだろう。作戦の意味を理解しろ!」
…難しいことを言う。
私は馬鹿なんだ。
それはマークも知ってるだろ。
「まぁ、マークもその辺にしなよ。僕はこの通り生きてる。エリンシアのおかげで魔族を倒せたんだ。何も問題ないでしょ?」
アルは笑顔でそう言った。
「…そうだな。助かった。エリンシア、ありがとう…」
マークはそう言うと、緊張の糸が切れたのか、涙ぐんでしまった。
「マーク、泣くなって。少しはその泣き癖もなくなったと思ってたのに」
アルはマークを茶化す。
「…うるさい」
マークはしばらく泣き続けた。
「それにしても、今回は運がよかったな」
マークが今日の戦闘を振り返る。
「魔族がみんな馬鹿とは限らないしね」
アルも今日のことを考えてるみたいだ。
二人のこういう前向きなところはすごいな。
「そうだな。馬鹿なエルフもいるんだ。賢い魔族がいてもおかしくない」
「…悪かった」
私は素直に反省した。
「いや、これは俺の落ち度だ。作戦を任されている以上、2人の性能を見誤った俺に責任がある。済まなかった」
「いや、僕が魔術をレジストしきれなかったのが悪いんだ。ごめん」
重い空気が流れる。
「まぁ、それぞれ反省点があるね。次に生かすってことで。問題は…」
「…僧侶がいないってことだな」
アルの言葉にマークが続いて言う。
二人は私を見ている。
「…実は私、攻撃魔術しか使えない」
改めて自分から口にした。
…。
「…俺たち、よく今まで生きてこれたな」
マークの言葉が心に刺さる。
「まぁ、これから僧侶を探せばいいよ!。…大丈夫、僕には当てがあるから」
アルはベットから飛び出すと、壊れかけの教会から出て行った。
「…女王様」
従者に声をかけられる。
…あぁ。
待ち惚けて寝てしまっていたようだ。
「クレーべ様がいらしたようです」
クレーべか。
…あの子は大きくなったかな?