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頬杖のエルフ女王  作者: 佐々木研
頬杖のエルフ女王(AtoZ)
11/86

ユリウスは苦渋の選択を強いられる

 「なぜ私がこんなことを…」

 シャロが短いスカートの裾を引っ張りながら小言を言う。

 「文句を言うな。そもそもこれはシャロが言い出したんだから」

 マークが体調を崩し、冒険が出来なくなったところにシャロが「なら私たちだけで出来ることをしましょう!」と言い出したのがきっかけだ。

 「だからってこんな扇情的な格好をしなければならないなんて…」

 シャロは衣装が気に入らないらしい。

 「別にいいじゃないか。私たちが相手するわけでもないんだろ?」

 「それはもっと問題ですっ!」

 顔を真っ赤にして怒る。

 シャロとはまだ一緒に冒険をして日が浅いけど、彼女は怒ってばかりいる。

 …疲れないのか?

 「そんなに言うなら、マークに回復魔術を使ってやればいいじゃないか」

 そもそも何で、最初から使わないんだろう?

 「…ある程度の病気や怪我は直すことができますが、疲労には効果が薄いんです。…ここ最近マークは金策で苦労していたのは分かっていましたのに…。まさか倒れるまで考え込むなんて…」

 …確かに。

 冒険者連盟の仕事も、マークが一人で内容の確認から報酬の受け取りまでやっていた。

 それが居なくなった今、こんな状態になるのは当たり前だとも言える。

 「…マークにばかり、負担をかけてしまっていたな」

 私達のパーティは一人でも欠けると機能しない。

 「そうですね。…そうです、文句ばかり言ってられません!少しでも二人の負担を減らしましょう!」

 シャロは胸に手を当て叫ぶ。

 どうやら決意したみたいだな。

 「…あれっ?」

 シャロが遠くを見て固まる。

 「…どうしたんだ?」

 …返事がない。

 「いったい何を見ているんだ?」

 シャロの視線の先を追う。

 そこには、露出の多い姿をした女に手を引かれるアルがいた。

 …ふっ。

 …締まりのない顔だな。

 


 「…誰ですか?アイク王って」

 「現王の親です。ヘクトル様の第一子息に当たります。アイク様は2年前に老衰されました。今は息子のユリウス様が王位についていますが、時期に息子のクレイン様に王座を譲るでしょう」

 …聞いたことのない名ばかりです。

 最後に王族に会ったのは、グレイル様が魔族の根絶を告げに来た時だったはずです。

 あの時グレイル様が40代で、ヘクトル様は15歳になられて間もないはず。

 荒く見積もって、あれから100年近く経っていることになる。

 最近、来客が来ないと思っていましたけれど、そんなに経ってしまっていたのですね…

 「エリンシア様はエルフですから、時間の流れに疎いのは仕方のないことです」

 …仕方のないこと、か。

 「…そうですか。アイク王の死から国が変わったとはどういうことですか?」

 取り敢えず、今の王国の現状を知ることが重要です。

 「アイク様は隣国との圧力に耐えかねていました。我が国は魔王領の制圧により国力は向上しましたが、元魔王領の開墾に人手を要しています。そのため防衛に力を割くことができていません。先代マークもこのことを危惧していましたが、それを追求することは、国民からすると戦果を味わっている最中に水をかけられるような行為です。そこを隣国が付け狙っている兆しがあります。近年、隣国から訪ねてくる冒険者が激増しており、等級は最下層なのに受ける依頼は討伐系や護衛系の武闘派ばかり。しかも依頼の達成率も異常に高い。これは明らかに密偵です。当たりを付け、何組か尋問したところ、その多くがヌートリア帝国の手のものだと判明しました。…帝国は多くの属州を持つ強大な国です。今までは魔族と人間の緩衝材的位置だった王国が、魔族を根絶させたことで危険視され、隷属させようと裏で動いています。今はまだ取るに足らないと考えられているはずなので強攻策には乗り出さないでしょうが、王国の将来性を評価されれば、今にも攻め入られるでしょう」

 不穏な話ですね…

 「このまま戦争になれば、結果はどのようになると考えているのですか?」 

 7世の意見を窺う。

 「対人兵器の開発は順調です。試作品を組み込んだ戦術は、軍でも十分訓練されています。ですが相手の戦力は膨大で、今、帝国と事を構えれば勝率は30%もないでしょう」

 …30%。

 「悲観的に言う割に高いですね」

 絶望的な数字ではないと思いますが…

 「今のところ、帝国は王国を侮ってくれていますからね。そうなるように動いていたと言うのもありますが…。王国としても、こちら側からは攻める気がないため防衛に専念出来ます。罠などの設置も完了していてこの勝率は負けも同然なのですよ」

 …そうなのか。

 「ユリウス様は戦争の決意をなされました。今はまだ防衛と軍事強化に努めるよう説得は出来ましたが、この流れは変えられないでしょう。本来の予定とは異なりますが…」

 7世は続ける。

 「女王様、今までありがとうございました。いずれ滅ぶ国に、もう縛られる必要がないのです」



 7世は王都に帰ってしまわれた。

 「少し、考える時間が欲しい」という私に対して、配慮したようです。

 私が呆けている間に、王国は深刻な状態になっていたのですね…

 …そういえば、昔からその兆しは伝えられていました。

 その言葉に「私は愚かだから」となんの力添えもしなかった…

 改善する努力もしないまま。

 私は今も昔も愚かなエルフで、私に出来ることなんて何もない。

 王家と疎遠になったのも、きっと私が何の役にも立たないエルフだからなのでしょうね…

 …分かりません。

 私にはいったい何が出来るのでしょう?

 「…ねぇ、ソマリ」

 ベットメイクをしているソマリに問いかける。

 「何でしょう?」

 シーツを置き、手を止める。

 「私は、どうすればいいのかしら?」

 「それは女王様が決めることです」

 ソマリは考える素振りも見せずに私に言う。

 それはそうですが…

 マーク7世の話を思い出す。 

 グレイル様の曾孫のユリウス王は、現状から戦争の決意をなされたらしい。

 今すぐに行うわけではないでしょうけれど、それも時間の問題のようですし…

 ひとたび開戦すれば、善戦できても勝利は出来ないだろうとも。

 …。

 「…縛られる必要がない、ですか」

 私がこの生活に退屈していたのは事実。

 特に最近は来客もなく、暇を持て余していましたしね…

 …自由になったらどうしましょう?

 きっとまた旅に出て、沢山の風景に感動し、素敵な仲間と巡り合い…

 「…そしてまた」

 …別れが来るのでしょうね。

 それは決まっている。

 別れ際の皆の言葉を思い出す。

 『エリンシアさん、貴女のおかげでアルと幸せの日々を過ごすことが出来ました』

 …これはシャロの言葉。

 『エリンシアとの出会いを、僕は最期まで忘れないよ』

 …これはアル。

 『君との旅は最高に楽しかった。レミングス家をよろしく』

 マーク…

 『自信を持って下さい』

 エイリークの笑顔…

 …そうです。

 答えは最初から決まっている。

 「…まだ、頑張ってみます」

 少なくとも、皆の国がなくなるまでは…

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