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頬杖のエルフ女王  作者: 佐々木研
頬杖のエルフ女王(AtoZ)
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アイクは係属することなく天寿を全うする

 「…マークか?」

 「あぁ、久しぶりだな」

 マークは結構、老けていた。

 まだ全然、時間は経っていないと思っていたけど…

 人は成長が早いな。

 「城門の前に居た二人は?」

 マークが問う。

 「先日召喚した天使だ。今は私の従者をしてもらってる。お前とシャロのおかげだな」

 彼女達は言い伝え通り、感情がないような様子だった。

 「じゃあ、あの召喚魔法陣はしっかり起動したようだな。…でも、君は召喚魔術くらい、持ち前の魔力で力業で呼べそうだけどな」

 …馬鹿にしてるな。

 「あんな高性能な天使、教会の魔法陣無しで召喚できるか」

 熟練の魔術師でも、召喚魔術を魔法陣無しで使える奴なんて聞いたこともないぞ。

 「…やはり、君でも無理か」

 当たりを付けていたのか、マークは適当に答えた。

 「…それにしても、立派な城になったな」

 マークが宮殿の装飾を眺めながら呟く。

 「マークの設計のお蔭だ。私は別に小屋でもよかったけどな」

 皆がここに来てくれるなら。

 「そういう訳にもいかないだろう。君は勇者一行の英雄の一人なんだ。威信を示さなければならないこともある」

 「…そういうものか」

 分からん。

 「そういうものだ」

 マークははっきり断言した。

 …沈黙が続く。

 「…私はこれから何をすればいいんだ?」

 沈黙に耐えかねて、話題を切り開いた。

 別れる前に一度聞いた話だけど、改めて確認する。

 「この城には特殊な魔法陣があって、君の魔力を常に吸い続ける仕組みになっている。その魔力は俺たちの領土に供給され、やせた土地に活力を芽吹かせるんだ。君にはその供給源になって貰っている。…今のところ、体に不自由を感じていないか?」

 マークは私を見ながら尋ねた。

 不自由か…

 「問題ない。体から感じる魔力はかなり弱くなったけど、魔術を使えないということはないと思う」

 それくらいだな。

 「そうか。でも君は旅をしていた時のように魔術を使うことは出来ない。くれぐれも無理をしないで欲しい」

 …辛そうな顔。

 きっと私に辛い役目を押し付けていると思っているんだろう。

 マークは賢くて優しい。

 だから誰よりも傷ついていてしまうんだ。

 「心配するな。私は望んでここに住んでいるんだ」

 彼は重荷を背負っている。

 これ以上、面倒事を押し付けるわけにはいかないだろう。

 「…分かった。ありがとう」

 マークはそう言うとまた黙ってしまった。

 


 「女王様、お客様です」

 従者の一人が私を起こす。

 「…ソマリですか?」

 「バーミラです。1時間もすればいらっしゃると思いますので…」

 バーミラはそう言うと一礼し寝室から出ていった。

 …何か見分けのつくものを着けさせねばなりませんね。

 指を組み、体を伸ばす。

 「…誰かしら?」

 お客様なんて、もう何年もいらしてないわね。


 開かれた扉の先には一人の青年が立っていた。

 端正な顔立ちの黒髪の男性で、眼鏡をかけている。

 見覚えがありません…

 「初めまして。私はエルフの女王、エリンシアでございます。旅人の方、貴方のお名前をお聞かせください」

 一応、無礼のないよう心掛けなければなりませんね。

 正規のルートを辿っていらっしゃっているのですから…

 「…俺の書いた本はしっかり身に付いたようだな」

 …?

 何を言っているの?

 それに失礼な方ですね。

 私にそんな態度をとる人なんて、もういないはず。

 …誰?

 「申し訳ありませんが、私は貴方に見覚えがありません。名乗って頂けますか?」

 冷静に問いただす。

 こんなことで我を忘れている様では、王の名が廃る。

 「見違えた。これでは「愚かなエルフ」と馬鹿にすることはもうできないな」

 …なっ!

 なんて失礼な方でしょう!

 初対面の相手に向かって敬意を払えないとは…

 確かに昔はそう呼ばれたこともありましたけれど…

 …?

 「愚かなエルフ?」

 私がそうであることを知る人間は少ない。

 そう呼ぶ人はもっと少ないはずです。

 …それに。

 「俺の書いた本…」

 …まさか。

 けれど、そうとしか考えられません。

 そのことを知っている人間は一人しかいないはずです!

 「…マーク、なのですか?」

 青年と目が合う。

 「初めまして。私はマーク7世と呼ばれています」

 先ほどの無礼をお許しください、と彼は言い、真剣な面持ちで跪いた。



 応接間に7世を通す。

 彼は部屋に入ると辺りを見渡し始めた。

 「…本当にマークなのですか?」

 「はい。そう呼ばれております。血は繋がっておりませんが先代の6世より、紋章も継承しました」

 彼はそう言うと懐から銀装飾を取り出した。

 装飾には二本の剣と一本の杖が立てかけられ三角錐を作り、その中にいる一人の女性が祈るように両手を組んで跪いている。

 「これは初代がデザインして作ったものです。代々マークに継承されています。これからマークを名乗る人と会う場合、これの確認をしていただければある程度、身元の保証ができると思います」

 …7世は淡々と言う。

 まるでこのような事態が来るとあらかじめ予想していたかのようですね…

 だからこそ一抹の不安がよぎる。

 「…あまり疑うようなことはしたくありませんが、貴方がマークである根拠が乏しいのです。その紋章も。ヘクトル王がいらっしゃれば話は早いのですが…」

 グレイル様は退位されたようですし、レミングス家がいれば少しは信用できるのですがね。

 彼は少し悩むと表情が変わった。

 「…俺たちはエルフの里の外れの山小屋で出会った。当時の君はどことなく人を寄せ付けない雰囲気があって、なかなか喋らなかったよな。それは君があまりにも言葉知らずで、子供が使うような言葉ですら分からなかったからだ。…そして、俺たちは旅に出た。アルフォンスと俺とエリンシアの三人で。君は俺たちの顔色から感情を読み取って、言葉を覚えていくにつれ少しづつ話すようになった。その時は感動したよ。だから君は表情を読むのが上手い。…これは恥ずかしいから内緒だったか?…最初はお金がなくて心底、困ったよな。君は魔力の制御が下手で、アルフォンスが倒した猪を焼こうとして消し炭にしたこともあった。結局その日は何も食べることができなくて、アルフォンスと俺は終始不機嫌だったな。魔術制御もかねて三人で修行しながら、冒険者連盟から受けた仕事を片っ端からやる日々は楽しかった。俺が馬車台を出し渋って次の町まで歩いて行ったら、魔族に侵略された後で補給がままならなかったこともあったよな。あの時のアルフォンスは怖かった。滅多に怒らないアイツが…」

 …7世は懐かしい話を永遠と話す。

 それもかなり細部まで。

 まるで経験したかのように話す彼にマークの面影が重なる。

 「…本当にマークなのですね」

 この見たことのない青年が…

 「あぁ、久しぶりだな」

 彼はそう言うと、また一礼した。


 「どういうことか説明して頂けますか?」

 聞きたいことが山積だ。

 「…初代は心配性な人で、王国の未来を案じていました。「俺にすべてのことは出来ないだろうけれど、何か出来ることはあるはずだ」と考えた初代が、自分のすべてを継承できる人を選別し育てていたのです。最初は小さな孤児院でしたが、今では立派な教育機関にまでなりました。私はその教育機関の出身で、先代の目にとまったことでマークを継承したのですよ」

 彼は紅茶を飲む。

 孤児院のことは聞いていましたけれど…

 「貴方の言うマークとは何なのですか?」

 どうも要領を得ません。

 「初代の記憶を要約したものです。知識から思考の過程、仲間との記憶など、初代を形成する全てを学ぶことで私自身が「マーク」となるのです」

 彼は平然と言う。

 …訳が分からない。

 彼がマークそのものってことなのかしら?

 にわかには信じられませんが、彼の言動が説得力を与える。

 「初代も実現したらいいな程度の認識だったらしいです。なのでこの計画は国家規模ではなく、初代の頭の中で実行されてきました。まさか、ここまでうまくいくとは予想外だったらしく、二代目の仕事ぶりから2世などと呼ばれるようになった時は驚きましたよ」

 彼の言葉には人伝に聞いたような、自分の経験談を話しているかのような曖昧な言葉でを話す。

 …そんなことをして彼は大丈夫なのでしょうか?

 「初代はエリンシア様の心配をしていましたよ。貴女を独り、ここに閉じ込めてしまうことに。「君を不自由にしているのは俺の能力不足のせいだ」と。将来的にも、女王様の魔力に頼り切って胡坐をかくことは王国のためにならない。ですので私達は代々、女王様に頼らずとも運営できるように下準備して参りました。その時期が来たのです」

 7世は力強く私を見る。

 …魔力の供給をしなくて済むの?

 別にそれは苦ではないのですけれど…

 「…それで王国は大丈夫なのですか?」

 …7世は黙ってしまう。

 やはり、何か他の事情があるのでしょう。

 「…実は、アイク王が亡くなってから、国の方針が大分変わりましてね…」

 …アイク王?

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