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頬杖のエルフ女王  作者: 佐々木研
頬杖のエルフ女王(AtoZ)
1/86

オープニング

 魔王を殺したのはもう何年前かな…。

 宮殿の玉座に座り頬杖をつきながら、昔の記憶を遡る。

 アルも、シャロも、みんな死んでしまった。

 マークもいずれ…

 

 

 アルは勇敢で、困った人を見ると助けずにはいられない少年だった。

 魔王領を占領した時、混乱に乗じて暴徒と化した魔族に困った街人に、救いの手を差し伸べている姿を見た時は、さすがに呆れたけど。

 シャロは病弱だったけど、誰よりも優しくて慈愛に満ちた女性だった。

 誰よりも弱く、誰よりも争いを好まないが故に、誰よりも弱者の味方であり続けた。

 結局、最後まで嫉妬狂いの性格は直らなかったな。

 マークは冷静で頭脳明晰なアルの幼馴染だ。

 彼の戦略で何度も窮地を救われた。

 私とはそりが合わなかったけど、アルの生前から王国の繁栄を誰よりも考え、死後もなお、アルの血族に使える宰相の地位に収まり続けている。

 「女王様、使者が参られました」

 魔力で召喚した従者が私に呼びかける。

 「…分かった。通しなさい」

 今回は誰?


 従者二人によって開かれた扉の先には、年老いて白髪だらけの老人と、青年、小さな子供がいた。

 「よう。相変わらずだな。元気にしてたか?」

 マークは気安く私に話しかける。

 「これはベルクト王にマーク様、お久しぶりでございます。今日はどのような御用でいらしたのですか?」

 「畏まるな。今日はそんな用じゃない。ただの顔見せだ」

 マークは4人で冒険していたあの頃と同じ口調で続ける。

 「ですが、国王の前でとなると些か不敬だと…」

 「構いませんよ。エリンシア様」

 …。

 「…ベルクト、王が遜るものじゃありません」

 この子はまったく…。

 「ははっ。そうでしたね」

 ベルクトは嬉しそうだ。

 「…お父様、この人は?」

 小さな子がベルクトの裾を引き、尋ねている。

 ベルクトの子か。

 もう、そんなに時が経ったのか…

 「昔、僕のお父様やお母様、マーク様が魔王と戦った時に助けてくれた仲間だよ」

 ベルクトが子供に語り掛ける。

 「おじい様が?」

 子供の目が輝いている。

 …懐かしいな。

 アルとシャロに連れてこられたベルクトもこんな顔をしていた。

 ベルクトはどちらかと言うとシャロに似ているが、この子は出会ったときのアルにそっくりだ。

 「…君、お名前は?」

 子供に向かって尋ねる。

 「く、クレーべ。クレーべ・レミングスです、女王様!」

 クレーべは緊張交じりに一礼して挨拶をした。

 

 「マーク、それであの二人を引き連れてなんの用?」

 応接間で紅茶を啜る彼に要件を聞く。

 「だから、顔見せだと言っただろう。クレーべ様が生まれて、ある程度大きくなったから見せに来た。どうだ?アルフォンスそっくりだろう?」

 マークはなぜか得意げに言う。

 「…そうね。笑った顔なんて特に」

 クレーべは城内の探索したいと言い出し、ベルクトがそれに着いていった。

 この子も冒険が好きなのだろうか…

 「でも、ここに来るのは、15歳の成人の時にって話じゃなかった?」

 クレーべはどう見ても成人している様には見えない。

 「…実はな、俺はもう長くない。医師には1年と言われている。クレーべの成人まではどうあがいても持たないだろう。…だから最期くらいお前に会っておこうと思ってな」

 どんよりした空気が立ちこめる。

 「貴方、いくつになったっけ?」

 「今年で60になる」

 60歳…。

 …あれからもう40年近く経ったのか。

 私と出会ったのが確か、アルとマークが10歳の時。

 そこから10年以上共に旅をして、その間にシャロと出会って、魔王を討伐して…

 アルは王国の国王になった。

 「時が経つのは早いな…」

 「…そうだな」

 私の呟きにマークは小さく相槌を打った。

 「…済まない」

 マークは突然、謝罪の言葉を告げる。

 …。

 「私が望んだことだ。謝るな」

 魔王討伐後、静かに暮らしたいと要望を言ったら、こんな山奥に宮殿を建ててくれたんだ。

 感謝こそすれ、恨むことはない。

 「それではない。君を独りにしてしまうことが、だ」

 …そういう事か。

 「仕方ないことだよ。こればっかりは」

 エルフには寿命がない。

 人間と仲良くなれば、別れは必然。

 …そんなこと、旅を共にするときから分かっていたことだ。

 それなのに…

 いざ、別れの時が来ると名残惜しい。

 これから私は独りになる。

 気心の知れた人はみんな、死んでしまうのだから。

 「…ふっ。可笑しなもんだ。旅の間は喧嘩ばかりしてたのに」

 今や最後の仲間であるマークが私に頭を下げている。

 人間は成長が早く、変わるのが早いな。

 「いつの話してるんだよ」

 マークは「茶化すな」と手を振る。

 そうだけど…

 「私にとっては、ついこの間だよ」

 マークの顔に陰りが差した。


 「それではエリンシア様、また伺います。今度はクレーべが成人した時に…」

 ベルクトはそう言うと頭を下げた。

 「えぇ、お待ちしております。…クレーべも私のことは忘れないでね?」

 「はいっ!」

 クレーべは元気よく私に返事をする。

 やっぱりその笑顔は、私を冒険に誘ったアルそっくりだ。

 「エリンシア様、どうかこれからもレミング王国に豊穣をもたらしてくださいませ」

 マークは手を胸に置き、深々と頭を下げる。

 「…畏まるな。でないと聞かんぞ」

 マークは困った顔をした。

 …最期くらい、いいじゃないか。

 「…じゃあなエリンシア!君との旅は最高に楽しかった。ベルクトとクレーべ、それにレミングス家をよろしくな!」

 「あぁ、私も楽しかった!この子たちは任せろ」

 …泣き虫マークはこの年になっても直ってないらしい。



 3人が帰り、玉座は再び沈黙に包まれた。

 1人の従者が私に近づきハンカチを渡す。

 「女王様、これでお拭き下さい」

 「煩い。…私に構うな」

 差し伸べられたハンカチを私は乱暴に奪い取った。

不定期掲載です。

顛末は頭にあるので、今、毎日掲載しているDouble Bindが終わり次第、書きます。

こっちの方が人気になればこっちを毎日掲載しますので、ぜひ評価等を。

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