畳み掛ける感情の深遠なゆがみii
どこまでも広がるアビスに、鎖を繋いだ鉄球を落とす。
しかしながら、ここが何処かさえも分かりはしない。
あの日から依然として立ち枯れたままの樹に、薬を飲むたびグラスに余る水をまだ零してみているもののそれは息を吹き返さない。
だけど、世話をすれば森林限界の上に立つ白骨樹のようにはなるんじゃないだろうか。
たぶん、あの人ならそう言う。
そう言うかしら。
時を経るごとに疑問符へと姿を変えていくあの人の言葉を記憶から借り出してみる。
そんなことが未だに多々ある。
あの時首を傾げてしまったものを今また取り出してもきっと、目を背けてしまうだろう。
凹凸を同じくするだけの、わずかに嵌らないパズルのピースのように破綻させてしまった。
非を認めないとは言っていない。
「だけど、あれを壊したのは確かに私たち2人だったはずでしょう?」
そう言うべきだった。そう言えたら良かった。
あなたを蛹に変えてしまうのは怖い。
でも、こうなってしまった今をモラトリアムと言うにはあまりに痛ましい。
あなたは、蛹になってしまった。
それを蛹と言ってしまうのは、あまりにも恐ろしい。
あなたはそこで、融けてしまった。
それが羽根を広げることができると、もう言えないなんて。
もう言えない?
まだ言えないだけ。
そう思っていたい。
死んだ蛹を抱いて、あなたがいつか来る海岸で待ち続けたって構わない。
あなたが来たら、月が落ちてくると嘘をついてでも止めよう。
星にすべてあげようと手を繋いで約束して、
できることなら、笑って。
その中は、深遠なるアビス。
真っ黒な血に、何も跳ね返っては来ない。