チートの力を考え無しに振るえるヤツが俺は死ぬほど羨ましいB√
あのラストが好きな人は読まない事を強くお勧めします。
『エピソードB√』
「「「「俺たちの勝ちだ」」」」
勝った…やり切った。
後はアザトースの完全支配権を奪えば。
こっそりとニャルラトホテプが出てくるのを待ちながら『簒奪』で完全支配権を奪う。
詠唱が必要な訳ではないのだ。アニメやラノベではあるまいし。
奪え…え?
????
何、だ?
違う。
何で?
沸騰したヤカンを押し付けたみたいに胸から腹にかけてカァッと熱くなり紅い色が溢れ出す。
「何でここに来て裏切った…ルピナスゥゥゥゥッ!!!」
俺は奪う前にルピナスの大鎌によって袈裟切りにされたのだ。
「ティア!!回復符寄越せ!!」
しかし、ティアは動かない。
まさかニャルラトホテプの術中に嵌ったのか?
そんな馬鹿な!!?
「ユーリィ…ティアを拘束しろぉ!」
ユーリィも動かない。
緩慢な動作で左右に揺れながらニタニタ笑っているだけだ。
誰も動かない。
パチパチ。
耳障りな拍手の音。
黒幕の音。
「ニャルラトホテプゥゥ!!!お前が…お前がやったのか!!」
「違えなあ、清人ォ。俺は最初から敵だったろォ?」
「そうだよ清人。今更何を言ってるんだい?君に仲間なんて一人も居なかったじゃないか」
思い出した。
ああ、ああ!!
こんな事を忘れていたなんて!!
『俺に掛けられていた呪いの意味』
俺は馬鹿だった。
どうして呪いが二種類だと勘違いしていた?
少なくとも数十万の呪いがアクティブになっているはずなのに。
敵は神、ニャルラトホテプだぞ?
それを相手にして二つですむ訳が無い。
『ティアに対価を支払っていた簒奪の力』
当然だよな。
ティアがーニャルラトホテプが俺に呪いを掛けたのだから。
限定的に解呪する事で生まれついての簒奪の力をニャルラトホテプが貸しているように錯覚させた。
『俺の悪魔の如き変容を見せる心象解放』
そもそも心象解放って何だよ。
ニャルラトホテプが作った世界だぞ?
存在しない。
これが答えだ。
じゃあ、俺の心象解放は?
決まってる。
堕天だ。
『アルクィンジェが呼んだ俺の名前』
オルクィンジェ。
それが俺の真名。
杉原清人なんて人物は存在しないのだ。
全部全部、嘘っぱちだ!!
『ティアを名乗る知恵の盃』
ティアが現れたタイミングを思い出せ。
俺が可能性を潰していた時だよな?
俺は狂気に浸っていたがティアが出張って来たその理由。
見られたく無い可能性があった。
誤魔化す為にわざわざ人型になったそのアドリブ力はやはり感嘆に値する。
『唐突過ぎるアッシュの神格化』
寧ろ当然過ぎた。
今の状況がその証左に他ならない。
俺以外、全部ニャルラトホテプかよ。
ニャルラトホテプは単体では無くネットワーク。
ニャルラトホテプ単体の自我を持ちながらそれらはニャルラトホテプの一端でしかない。
俺はーオルクィンジェはニャルラトホテプだらけの狂った世界で自分の内側にニャルラトホテプを飼い慣らしながら滑稽にも友情ゴッコを展開した挙句惚れた女に斬られて死ぬ。
ハハッ!!
あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははッ!!!!
クソが!!!
忘れるなよ…オルクィンジェの名をッ!!
ニャルラトホテプ、お前は俺に呪われろ!!
呪われてしまえ!!!
◆◆◆
「いやァ、中々良いモノを見せて貰ったなァ」
ニャルラトホテプは懐から一枚の写真を取り出す。
鼻血を出すオルクィンジェとカメラに向かって嘲笑を浮かべる四人の写真。
「最後の顔は傑作だった。待ち受けにして毎日眺めたい位だね」
「怨めしそうな顔してるじゃねえかァ。力への渇望がよく分かるなァ」
遠くで一人、日記を書いているニャルラトホテプは笑った。
「おっちゃんの小説の題材にはピッタリの死に顔だな。これは…そうだな。『チートの力を考え無しに振るえるヤツが俺は死ぬほど羨ましい』って顔だな」
ニャルラトホテプはオルクィンジェの生首を見ながら筆を進める。
「こりゃ、参ったなぁ。筆が進んで止まらない。完結が本当に楽しみだな」
ニャルラトホテプはこう書き出した。
これは虚構に堕ちる物語。
これは僕達が足掻いて、踠いて、掴み取った答えの物語。
これはエンヴィー・メランコリアが救済される唯一の物語。
或いは最高に醜い一握りの熱と友情の英雄譚。
さぁ、騙ろうか。
ありえない世界を
ニャルラトホテプは語らない。
ニャルラトホテプはただ、騙るのみだった。