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【最後の召喚・小話】 ホシマツリ

『最後の召喚』の小話。

きっとジュリならいろいろな童話を北国に残していったんだろうなと思ったので。


語り部は北国で暴露本を書いた作者サン(名前を決めてない)


「ジュリ、それなに?」

先日訪れた時は置かれていなかったモノが部屋の片隅に置かれていた。

「あ、これ?これは……」


ジュリの説明によると、部屋の片隅に置かれているモノは『タナバタカザリ』というらしい。

なんでもジュリの世界の神話が元になっている行事だとか。



☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡


天の川の西岸にオリヒメという姫君が住んでいました。

オリヒメは機織りの名手で、美しい布を織り上げては父親である天帝を大変喜ばせておりました。

そんな娘の結婚相手を探していた天帝は、東岸に住む働き者の牛使いヒコボシを引き合わせ、二人はめでたく夫婦になりました。

ところが、結婚してからというもの、二人は仕事もせずに仲睦まじくするばかり。

これに怒った天帝が、天の川を隔てて二人を離れ離れにしてしまいました。

しかし、悲しみに明け暮れる二人を不憫に思った天帝は、七夕の夜に限って二人が再会することを許しました。

こうして二人は、天帝の命を受けたカササギの翼にのって天の川を渡り、年に一度の逢瀬をするようになったのです。


☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡


「え!?1年に1度しか会えないの!?夫婦なのに!?」

驚く私にジュリは笑いながら

「教訓よ。仕事をサボってばかりいては大切なものを失うというね」

「ああ、なるほど……ってちょっと違うような気がするけど……」

「捉え方は人それぞれよ。私はそう思っただけ。恋に現を抜かして仕事を疎かにするなってね」

「……で、コレになんか文字らしきものが書いてあるけど……」

飾りの一つを手に取ると私の知らない文字が書かれていた。

きっとジュリの世界の言葉だろう。

「それは短冊。願い事を書いてあるの」

「この飾り一つ一つに意味があるの?」

「あるわよ」

にっこり笑みを浮かべて一つひとつ丁寧に説明してくれるジュリ。


「ねえ、ジュリ。このお話を絵本にしていい?」

「え?こっちの世界には関係ない神話が元なのに!?」

「べつに神話として紹介するわけじゃないわよ。最近面白い話が浮かばなくてね……」

「うーん、まあいいか。他にも私の世界の童話でよければ教えるわよ」

気前のいいジュリの好意に甘えて、私は多くの童話を教えてもらった。

なかには本当に子供向けか!?と思う話もあったけど、ジュリは子供向け用に優しく(ご都合主義に)なっているのよって笑っていた。


「ジュリはどんな願いを書いたの」

「秘密」

口元に人差し指を当ててにっこりと笑うジュリ。

それ以上は聞くなという意味だろう。


ジュリが願っていた願い事を知ることが出来たのはジュリが二度とこの世界に来ることがないとわかったあとだった。


***


絵本が出来上がったのはジュリが元の世界に戻って1年ほどたった頃。

ジュリから教えてもらった『タナバタ物語』と私が調子に乗って書いてしまった『ホシマツリ』

『タナバタ物語』は女の子を中心に人気を博した。

某近衛騎士殿は

「一年に一度でも会えるだけ羨ましい」

と呟いていたとかいないとか……

もう一つの絵本『ホシマツリ』は発売後、庶民に爆発的に広まっていった。

翌年から、各村や町で『星祭り』という名の祭りが行われるようになり、そのメインとなるのが『ホシマツリ』の寸劇だった。

数年後には王都でコンテストが開かれるまでになった『ホシマツリ』の寸劇。


もし、ジュリがまだこの世界にいたらどんな表情をしただろうか。



☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


昔々、空のずっと上に神様と『神の子』が幸せに暮らしておりました。


ある日、地上の王様が神様に助けを求めました。

神様は地上の王様の願いを叶えるべきか悩んでおりました。

本来ならば地上の王様たちが自分たちの力で解決しなければならないことだからです。

しかし、地上の王様は神様の返事を聞く前に、強制的に封印されていた術を使って『神の子』を地上に降ろしてしまったのです。


『神の子』は二人現れました。

地上の王様は美しい小麦色の髪をした少女を『神の子』とし、もう一人の闇の色を纏った少女は縁起が悪いといないモノとして扱いました。


『神の子』と呼ばれた小麦色の髪の少女は突然地上に降ろされて驚きましたが、地上の王様の息子……見目麗しい王子様から事情を聴き、地上の人々を助けることにしました。

それを聞いた地上の王様は大喜び!

あれもこれもと『神子』に頼みました。

『神の子』は笑顔で次々と地上の王様の願いを叶えていきました。


しかし、地上の王子様は『神の子』が自分たちの目の前で問題を解決していく姿を一度も見ていないことに疑問を抱きました。


ある日、『神の子』が地上の王様の願いを叶えるために部屋に籠ると告げた時、こっそりと部屋の中を覗き込みました。


そこで見たのは地上の王様にいないモノとして扱われていた闇色の少女が『神の子』に怒鳴られながら次々と地上の王様の願いを叶えている姿でした。

闇色の少女は誰も見たこともない術を使って『神の子』の言う通りにしていました。


数日後、あの日、闇色の少女が行っていた事はすべて『神の子』が行っていた事になっていました。


地上の王子様はすぐに神殿に赴き、神様に自分の見たことを告げました。

神様はニコニコ笑顔を浮かべていました。

「そなたたちが『神の子』と呼んでいる者は我の子ではない。我の子がそなたたちの言う『神の子』が死にかけていた時に手を差し伸べ、保護した地上の子に過ぎない。そなたたちの『神の子』は命を助けた我の子をぞんざいに扱っているようだな」

笑顔を浮かべているはずの神様から今まで感じたことがない怒気を感じ取った地上の王子様はすぐに地面に頭を付けて謝りました。

しかし、神様の怒りは収まりません。

愛しい我が子がぞんざいに扱われて平気な親などおりません。

神様だろうが地上の人の子だろうが何も変わらないのです。

ただ、神様は無理やり地上から愛しい我が子を連れ戻すことが出来ずにいたのです。

もし、神様が無理やり我が子を連れ戻していたら地上は一瞬にして砂漠となり誰一人として住めない世界になってしまうほどの力が出てしまうからです。



地上の王子様は毎日のように神殿に赴き、神様の怒りを解こうと必死でしたが解決策が見つかりません。


ある日、地上の王子様は闇色の少女が城の片隅で膝を抱えて泣いている姿を目撃しました。

お城に勤めている人たちの話を聞いた地上の王子様は『神の子』に怒りを覚えました。


『神の子』は闇色の少女が神様より頂いた大切な写し絵を目の前で破り捨てたというのです。

その写し絵は闇色の少女が大切に肌身離さず持っていたモノです。

写し絵には一人の青年の姿が描かれていたそうです。

闇色の少女と親しくしている侍女が言うには将来を約束している人の絵姿だったそうです。

闇色の少女の父親も彼のことを大変気に入っており、成人した暁には婚姻を結ぶ手筈が整っていたと涙ながらに話したそうです。


お城に勤める人たちの話を聞いた地上の王子様は気づいていなかったのです。

『神の子』が常に闇色の少女を苛めていたことを。

お城に勤める人たちは地上の王子様に直接お話しできるこの機会を逃しませんでした。


『神の子』は貴族と呼ばれる人たちには愛想が大変よろしかったのですが、お城に勤めている平民と呼ばれる人たちには常に見下したような態度を取っていたからです。

『神の子』だからと我慢をしていた彼らでしたが積み重なる暴言や暴力の数々に我慢の限界が来ていました。

そのことにいち早く気づいた闇色の少女は彼らから話を聞き、『神の子』に苦言を呈したことでいじめを受けるようになったというのです。


最初は些細な悪戯程度だったそうです。

闇色の少女も苦笑いを浮かべながらも受け流していたそうです。

しかし、日に日にいじめはひどくなっていったそうです。

熱湯をかけられたり、階段の上から突き落とされそうになったのは一度や二度ではないそうです。

闇色の少女はそれらにたった一人で耐えていたというのです。

お城に勤める人達はなんとか闇色の少女を助けようとしましたが闇色の少女自身に止められていたというのです。


地上の王子様は『神の子』に遠回しに闇色の少女の事を聞きました。

『神の子』の話は神様から聞いた話とは真逆でした。


地上の王子様は闇色の少女にも話を聞きましたが彼女はただ小さく笑うだけで答えてくれませんでした。


地上の王子様はある決断をしました。


『神の子』を地上にとどめ、闇色の少女を天に還すと。

それが神様の怒りを解く唯一の方法だという事に気づいたのです。


地上の王子様は幼馴染の魔術師に闇色の少女を天に還す術を完成してほしいと頼み込みました。

幼馴染の魔術師は笑顔で快諾しました。

幼馴染の魔術師は地上の王子様が知らない間に闇色の少女と友情をはぐくんでおり、いつか彼女と天に還してあげたいと思っていたからです。


地上の王子様が幼馴染の魔術師に依頼をしてから半年後。

幼馴染の魔術師は術を完成させ、闇色の少女を無事に天に還したそうです。


地上の王子様は闇色の少女を見送った時

「君の幸せを地上から祈っている」

たったそれだけを告げたと言います。


闇色の少女は嬉しそうに微笑むと地上を振り返ることなく天に帰っていきました。


一年後。

地上の王子様の机の上に一枚の小さな姿絵と手紙が現れました。


地上の王子様は手紙を読み終えると嬉しそうに涙を流したそうです。


ちょうどその日は『タナバタ』と呼ばれる天の姫と天の王子が一年に一度だけ会える奇跡の日。

地上の王子様はその姿絵を執務室の机の上……目が届く場所に飾ったそうです。


姿絵には闇色の少女と黒い髪と青い瞳を持つ青年が幸せそうに微笑んでいる姿が描かれていました。


それから毎年地上の王子様の元には『タナバタ』の日に手紙と小さな姿絵が届くようになったそうです。

姿絵に描かれているのは闇色の少女とその家族。

幸せそうな姿に地上の王子様は毎年嬉しそうに微笑むのでした。


地上の王子様は毎年『タナバタ』の日に神殿で祈るようになりました。

いつしか、『タナバタ』は『ホシマツリ』と呼ばれるようになりました。

それは地上の王子様が星に天に帰った闇色の少女を重ねて奉るようになったからと言われています。


☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


北国では毎年7の月になると家の軒先に色とりどりの飾りがついた木の枝を吊るすのが風習化しつつある。

枝の先には天の姫と天の王子の幸せを願う飾りが掲げられているという。


数年前まではなかった風習だが、今では当たり前になりつつある行事。


この行事はいつしか他国にも流れ、大陸全土に広まっていった。


『タナバタ物語』と『ホシマツリ』という名の絵本と共に……




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