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人間ダイアリー  作者: 夢菜
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 理科の発表は、二学期が始まってすぐ行った。

 もちろん私の班の発表は大成功! これも全部ツバキのおかげなんだけどね。

 ツバキは班の人をまとめるのがとても上手くて、もうみんなツバキに頼りっぱなしだった。まあ私もそうだけど……

 ああ、あの班は最高だったなあ。毎日がすごく楽しくて、幸せだったなあ。


 それに比べて、今の班はすごく嫌だ。

 別に何か班に不満があるわけではない、何か問題があるわけではない、むしろ優秀班と言っていい。

 しかしあの楽しかった班と比べると、どうしてもこの班は劣ってしまう。


「ああ、ツバキ……」


 放課後の教室で一人座って、夕焼け空を眺めながらそう呟いた。

 秋の夕焼け空はとても綺麗だ。しかし私の目にそんな景色は入らなかった。

 そう、私はこの頃ツバキのことばかり考えているのだ。ツバキのことしか目に映っていないのだ。

 それも今に始まったことではないが、前よりも考えるようになったのだ。

 時や場所を問わず、いつでもどこでも頭の中はツバキでいっぱい。


「あ、マイコ、まだいたんだ」


 後ろのドアからアイが入ってきた。

 しかし私は見向きもせず、ツバキのことを考えていた。


 ツバキの住所と電話番号はもう知っているし、誕生日や血液型や趣味まで知っている。

 他に私の知らないことがあるのだろうか。いや、きっとまだまだたくさんあるだろう。

 でも、このクラスで一番ツバキのことを知っているのは私だろうな。

 私しかいない、そう、私ただ一人がツバキの理解者。

 それなのになんでまだ二人は結ばれないのだろう。こんなに私は好きなのに。


「……イコ、マイコ!」


 はっとした。

 前に目を向ければそこにはアイの顔。


「あ、アイ。ごめんごめん、ちょっと考え事してて」

「……マイコ、最近様子おかしいよ? どうしたの?」


 アイが怪訝な顔をしてそう言った。

 確かに私は四六時中ツバキのことを考えているが、表情に出てしまっているのだろうか?


「ううん、なんでもない。なんか最近ボーッとすること多いんだよね」

「何かあったの?」

「うーん……眠いのかな?」


 別にアイに隠すつもりではないのだが、なんとなく言いたくなかった。

 アイは私がツバキのことが好きだと知っているが、なんとなくアイにツバキのことを話したくなかった。

 恋愛相談、ってタイプじゃないんだよな、アイは。


「マイコ、ツバキのことを考えているからいつもボーッとしてるんじゃない?」


 アイは最初から気づいていたのかもしれない。

 さすが長年寄り添ってきただけある。


「……アイにはごまかせないね。そうだよ、私ツバキのことばかり考えているの」

「マイコ」

「やっぱりツバキはかっこいいよ。私には眩しすぎるくらいだよ」

「聞いて、あのねマイコ」

「こんなに私は好きなのに、どうしてツバキは振り向いてくれないんだろう? まだ私の努力が足りない? まだツバキと釣り合える女の子じゃないから?」

「……なんか、マイコ。ツバキと出会ってマイコは変わっちゃったね。おかしくなってる、というか……」


 おかしい、ということは自分でもわかってる。

 でも恋とはこういうものなのだ。

 好きすぎて辛い、好きすぎておかしくなる、という気持ちをきっとアイは知らないのだろう。

 アイは初恋もまだだしなあ。仕方ないか。


「アイ、恋をすると人は変わるの。ツバキに恋してすごくわかったよ。それにね、恋はいつも戦争なの。もたもたしてると誰かに盗られちゃう。だから決めたの、私ツバキと結ばれるためならどんなことだってするって。ライバルは蹴落とすつもりだし、ツバキへの好感度が上がるなら、どんなチャンスも無駄にしない。私は恋に生きるって決めたの」

「マイコ、どうしちゃったの? いつものマイコじゃない、まるで別人みたいだよ」

「そうかな? ああ、恋をすると人が変わるって本当だね。自分でもわかるもん。でも私は変わらなくちゃいけないの。ツバキにふさわしい女の子になるためにね。やっぱりツバキも女の子らしい子が好みなのかな」

「そんな、マイコが変わる必要なんてないと思うけど……」


 アイは何もわかっていない。

 好きな人のために自分を変えるということが、どれほど大事なのかわかってない。

 アイはこういう知識は皆無だからなあ。


「……それにマイコ、こんなこと言いたくないけど、ツバキは」


 アイがとても悲しそうな顔をしてこう言った。

 それは確実に、私たちの仲が壊れる威力を持つ言葉を。



「ツバキは、マイコが思っているほどいい人じゃない」



 今、アイは、

 アイは今なんて言ったの?


「マイコ、ツバキへの想いは捨てるべきだと思う。あんな奴と一緒にいて、マイコが幸せになるとは思えない」


 その瞬間、アイは確実に私の逆鱗に触れた。

 相手が誰であろうと、ツバキの悪口を言うなんて、



 ――許さない。



「……アイ、どうしてそんなこと言うの」


 湧き上がる怒りを必死にこらえようとした。でも無理だった。

 私はものすごい目つきでアイを睨んで掴みかかった。


「なんで! どうして! アイは私の親友でしょ!? どうして私の恋を応援してくれないの!? 親友なら、親友の恋の応援をすることは当然でしょ!?」

「違う! 私はマイコのためを思って言ってるの! マイコはツバキのこと勘違いしてる! ツバキがいい人なんていう妄想、もう捨ててよ! 現実を見ようよ! ツバキは悪い奴なんだよ! あんな最低な奴、好きになったら絶対後悔するよ!」

「妄想なんかじゃない!ツバキは誰よりも優しくて、誰よりも正義感が強い人なの!アイだって知ってるでしょ!?」

「違うの! お願い……マイコ、目を覚まして……私の話を聞いて……」


 アイが何を言っているのか、私には全然わからない。

 ツバキが悪い奴? 妄想にとり憑かれているのは、アイの方じゃないか。

 だってツバキはあんなにもかっこよくて、優しくて……


「……アイが、そんなこと言うなんて思わなかった。ツバキのことを悪く言うなんて……」

「マイコ……」

「もうアイがわからないよ。なんなの? 私たちの中を引き裂いてどうするつもりだったの?」


ここで最悪な考えが頭をよぎった。

まさか、アイに限ってそんなはずはないと思うけど……

もしかして、もしかしたら。


「アイはツバキのことが好きなの?」


「え……?」


「ツバキが好きだからそんなこと言うんでしょ!? 私たちの中が羨ましくて! 引き裂きたくて! だからこんなこと言うんでしょ!? そっか、そういうことか。やっとわかったよ、最低なのはアイの方だよ。私そんな手には乗らないから。そんなことで、ツバキを諦めたりなんかしないから」

「だから違うって! マイコ何か誤解してるよ、ツバキは」


 もうアイの話なんか聞きたくない。

 こんな子だなんて思わなかった。もしかしたらずっと騙されていたのかもしれない。

 裏切りもいいとこだ。こんなことになるなんて思わなかったな。信じてたのに。


「アイなんて、もう親友でもなんでもない。消えて。私の前から今すぐ消えろ!」


 私は叫んだ。アイに怒りをぶつけ、『親友』に言ってはならないことを言った。

 でもいいんだ。だって、アイはもう『他人』なのだから。


 アイがなんで突然そんなこと言い出したんだろうと気になったが、もうそんなことどうでもいい。


 私は教室を飛び出した。

 アイがその時私に言いかけたことも、どんな顔をしていたのかも、私は知らなかった。


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