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人間ダイアリー  作者: 夢菜
Friend
8/17

 いつまでたっても肝心の流星群は現れなかった。

 私たちの自由研究は、ついに夜中まで続くことになった。

 でもまあさすがに夜中までとなると、脱落する班員も増えてきた。

 眠いから、親が心配するから、そんな理由でみんな帰ってしまった。

 ツバキは帰らなかった。どうやら家がこの近くにあるらしい。後で見に行こうかな。


「……マイコ、とうとう俺たちだけになっちゃったな」

「……そうだね、みんなそれぞれ事情があるもんね」


 つまり今、私はツバキと二人きりなのだ。こんなチャンス滅多にない。意地でも帰るもんか。

 さっきから心臓がうるさい、ツバキに聞こえてはいないだろうか。


「マイコは帰らなくて大丈夫か? 親とか心配してるんじゃ……」

「ううん、大丈夫だよ! ツバキは優しいね、私の心配をしてくれるなんて」


 褒める、褒めて嬉しくない人はいない。

 ツバキを褒めるのはちょっと恥ずかしいけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。

 なんとしてでもここで距離を縮めておかなければ。


「マイコは大事な『友達』だからな」

「……大事な『友達』かあ……」


 ツバキはまだ私を『友達』とでしか見ていない。恋愛対象には見られていないのだ。

 どうしたら私に振り向いてくれるのだろう。

 ……まさか、ツバキは好きな人がいるのかな?


「ねえツバキ、変なこと聞くけど……」

「なんだよ?」

「ツバキは、さ、その……好きな人とかいるの?」


 もしツバキに好きな人がいたらどうしよう。

 その人がいる限り、絶対私に振り向くことはない……


「好きな人? うーん……俺はいないかな、恋とかよくわかんないし」


 そっか、そうなんだ。


「へえ……てっきりツバキには、好きな人がいるのかと思ったよ」


 そうだ、いないんだ。

 ということはつまり、私でもツバキの心に入ることができるっていうことだ。

 十分だ、勝ち目は十分にある。

 ツバキが私を好きになるという可能性はゼロじゃない。

 たとえ一パーセントでも可能性がある限り、諦めちゃいけない。諦められない。


「……流星群、来ないな」

「もう少し待ってみよう?」


 私たちが何時間待っても、流星群は現れなかった。

 こうなるとだんだん不安になってくる。

 本当に予定は今日だったのかな? 私は間違ってないよね?

 もし間違っていたら、ツバキにすごい迷惑をかけたことになる……

 ツバキと一緒にいられるのは嬉しいけど、それでツバキに嫌われてしまったら……?


 私は下を向き、すごく不安な気持ちでいっぱいになった。

 その時ツバキは呟いた。


「流れ星」


「え?」


 一瞬空で何が起こっているのかわからなかった。

 輝く星空に、流れる星。もしかしてこれって……


「ペルセウス流星群……待ったかいがあったぜ……」

「……そうだね、すごく綺麗……」


 降り注ぐ流れ星は、それはそれは綺麗なものだった。

 その流れ星を今、私はツバキと一緒に見ている。

 まるで恋人同士みたい。自分で言うのもアレだけど。私は、ツバキと恋人だという勝手な妄想に酔いしれっていた。


「あっ写真撮らないと! それとレポートも書かないといけないな。マイコ、レポート書いてくれないか?」

「あ、うん、わかった」


 そうだった、ツバキは私の『恋人』として来てるんじゃなかった。

 あくまで『自由研究』をしに来たんだった。そうだった、そうだった。


「望遠鏡でもあれば、もっとよく見えたのかな」

「どうだろうな、肉眼でも結構見えるけど」


 理由はなんだっていい、今こうやってツバキと星を見れるならそれでいい。

 流れ星は私たちの仲を祝福しているようにも見える。

 黒色の空に輝く白い点、さらに流れる輝く白い線は今、私とツバキの仲を祝福しているのだ。

 なんてロマンチックなのだろう。なんて幸せなのだろう。

 ああ、このまま時間が止まってしまえばいいのに。

 永遠にこの時間が続けばいいのに。


「マイコ、俺マイコと見れてよかったよ」


 隣では愛する人が微笑んでいる。

 こんなに幸せなことが他にあるのだろうか。


「私も、ツバキと一緒に見れてよかった」


 まるでこれ告白みたい。最も、ツバキはきっと無意識で言っているのだろうけど。

 この想いを伝えられる日は来るのかな。

 いつか二人は結ばれるのかな。


「マイコ」


「なあに?」


「俺さ、実は今日すごく楽しみだったんだ。だってこんなこと滅多にないだろ?」

「そうだね。流れ星を見れるなんてチャンス、あんまりないもん」

「いや、そうじゃなくてさ、こうやって友達と一緒に見られることだよ。だって流れ星が降る時間って、夜とか夜中だろ? 友達とは一緒に見られないじゃん。だから友達と一緒に流れ星を見られるなんて、実はすごく贅沢で幸せなことなのかな……って」


 ツバキはいつになったら、私を恋愛対象としてみてくれるのだろう。

 『友達』じゃなくて、『恋人』になりたいのに。

 だからちょっと『友達』という表現は傷つくな。私たちがそこまでの関係だって、言っているようなものだから。


「……私もね、ツバキとこうやって一緒に流れ星を見れて、すごく幸せだよ。もうこのまま、時間が止まってほしいくらいだよ」

「……そうだな。すごく綺麗だもんな、流れ星。ずっと見ていたいくらいだ」


 ツバキのその瞳には流れ星しか映っていない。私を映していない。

 どうしたらツバキに見てもらえるのだろう。

 ここまでくると、流れ星に少し嫉妬してしまう。いいなあ、流れ星。ツバキに見てもらえてさ。


「あっと! そうだった! 写真!」

「ツバキ? カメラ持ってきてたの?」

「ああ、流れ星を撮ろうと思ってな」


 さすがツバキ。準備がいいなあ。

 私もカメラを持ってくればよかった。そしたらツバキをたくさん撮ることができたのに。

 あー、そこまで頭が回らなかったなあ……


「レンズ越しでも綺麗なのがすごくよくわかる……晴れてよかったな」


 ツバキは夜空にカメラを構えている。

 私も撮ってほしいな……なんて。


「そうだマイコ、記念に一緒に写真撮ろうぜ」

「え!」


 まさかの展開! それって……ツバキとツーショットってこと?

 すごく撮りたいけど恥ずかしいな。私写真写り悪いし……


「ほら、もっとこっち寄って」

「え、うん……」


 私は今、ツバキに肩を抱かれている。しかもツバキの顔がものすごく近い!!

 ゆでダコのように真っ赤になっている私は、ツバキから視線をそらすことしかできなかった。

 恥ずかしくて、ツバキの顔を直視できない。


「流れ星が背景の写真って、後から見るとすごく幻想的に見えるよな」

「そ、そうだね……」


 私は今それどころじゃない。

 こうやって立っているだけでもう、倒れちゃいそう……


「ほら、下向かないで笑って」

「う、上手く笑えないよ……」

「ちょ、マ、マイコ、顔すっごく引きつってるけど……ははは」

「もう~!笑わないでよ」


 またツバキに笑われてしまった。これでツバキに笑われるのは何度目だろうか。

 どうやら私は今、すごく変な顔をしているらしい。

 だって仕方ない、好きな人に肩を抱かれて、好きな人の顔がすぐ近くにあって……


「はい、チーズ」

「ち、ちーず……」


 ぎこちない笑顔を作り、ツバキとのツーショットを撮った。


「マイコ、やっぱり変な顔してる、緊張してたのか?」

 写真を確認しながらツバキは言う。

「写真撮るときは誰でも緊張するよ…」

 特に、好きな人と一緒のときは、ね。


「ああそうだ、写真。できたらやるよ」

「あ、ありがとう……」


 初めてのツバキとのツーショット。

 私の顔は最悪だったけど、私のとても大切なものになった。

 ツバキは写真でもかっこいいなあ……


「あとマイコ、レポートは?」

「あっ……そうだった、忘れてた!」


 ツバキを意識しすぎて忘れてた。私はレポートを書くんだった。

 いけないいけない、うっかりするとまたツバキに笑われてしまう。


「……レポートは家でも書けるかな。流れ星について、まだまだ調べたいこともあるし」

「ははっ、マイコ意外と勉強熱心なんだな」


 ツバキとの大切なこの時間、レポートなんか書いてる場合じゃない。

 もっとツバキとの時間を大事にしなきゃ。レポートなんて後でも書ける。


「でも嘘みたいだ。あんなに理科を嫌がってたマイコが、今すごく楽しそうな顔してるもん」

「え? そ、そう……?」


 多分それはツバキと一緒にいるからだ。

 無意識に顔に出ているらしい。


「でも私、まだ理科には苦手意識あるよ?」

「いや、でも自ら学ぼうという姿勢があるだろ? それってすごく大事なことだと思う。将来、星の専門家とかになったらどうだ?」

「そ、そんな! 星の専門だなんて! 私が知っているのは星のほんの一部だけで、そんな専門家になんて……」

「星が好きなんだろ? マイコには、うってつけじゃないのか?」


 そこまで星は好きじゃないけどな、でもツバキが褒めてくれてるのですごく嬉しかった。

 ツバキが勧めるなら、星の専門家になるのもいいかもしれないな。


「それも……いいかもしれないね」


 星の専門家って、頭いい感じに見える。うん、そういうのもいいかもしれない。

 私は来年中学生なのだ。そろそろ将来のことも真剣に考えないといけない。


「ツバキは将来何になりたいの?」

「うーん……実はまだ、何になりたいか考えてないんだ。自分の将来を考えろって言われても、まだ小学生の俺たちには難しい話だよな」

「確かに、言われてみればそうかも……自分が大人になった姿なんて、想像もできないし……」

「俺はさ、今のうちにやりたいことたくさんやっておきたいんだ。ほら、大人になったら遊べなくなっちゃうだろ? だから今の時間を全力で楽しむことにしたんだ。時間が経つのはあっという間だからな」


 ツバキはそう語った。

 すごいと思う、こんなこと考えたこともなかった。ツバキはすごい、しっかりとした自分の信念を持っている。

 私も見習わなければ。ああ私、ツバキから教えられてばっかだな。


 そうだ、ツバキの言うとおり時間はあっという間だ。

 ツバキと一緒にいられる時間もわずかしかない。中学でクラスが離れてしまうかもしれない。

 もう恥ずかしいとか言ってる状況じゃないんだ、『小学生』の時間が終わってしまう前に、なんとしてでもツバキと距離を縮めないと。


 流れ星はまだ降り続く。

 その数はとどまることを知らない。

 でもそれもきっと、数時間もすれば消えてしまうのだろう。

 儚く消える『絆』のように。


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