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人間ダイアリー  作者: 夢菜
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7/17

 あのあと私とツバキは五時間目が終わったあと、四人の班員を説得しに行った。

 四人はあっさり納得してくれたので、ちょっと意外だった。

 まあ大方、やることが他になかったからだろう。

 ともかく、私はツバキと二人きりになれるチャンスを掴んだのだ。

 この達成感がすごい。


 夏休みに入り、今はもう八月。

 そして今日は、ツバキと星を見に(正確には班で星を見に)行く日だ。


「ど、どうしようかな……しまった、ツバキの好みもちゃんと調べておくべきだった」


 私は今とある問題と直面していた。

 今日はいわゆる『デート』というわけで、やっぱりこういうのは服も超重要になるわけで。

 ここでダサい服を選んでしまっては、ツバキからの好感度もガタ落ちだろう。

 私はクローゼットからありとあらゆる服を引っ張り出し、その中で苦悩していた。

 ここが見せ所なのだ。ツバキに『かわいい』って思ってもらえるように。


「どれにしようかな……はっ! 約束の時間までもう三十分しかない!」


 約束の場所は今は使われていない、古い展望台。そこから星がよく見えるのだ。

 家からそこまで歩いて、十五分はかかる。

 早く服を選んで準備をしなくては。


「え、ええーっと…もうこれとこれとこれと…これでいいや!」


 私は散らばっている服から適当なものを選び、着替えた。

 色は一応、統一した。だから変じゃないはず。

 雑誌に載ってるようなかわいい服じゃないけど…少なくとも女の子らしく見えるはず。多分。


「荷物はレポート用紙と筆記用具と…ああなんか女の子らしい持ち物も必要なのかな?」


 確か雑誌では女の子らしい持ち物が載っていたはず。

 なんだっけ、場所によってそれは違ったような……?

 今日行く場所は展望台だから……突然の雨に備えて折りたたみ傘とか? いや、ここは女の子らしく見せるメイクポーチみたいなもの? それとも……


「ああもう、ダメだ! 思いつかない!」


 私が読んだ雑誌はどこだっけ……? ああ、服でごちゃごちゃしてわからない!

 普段から、整理整頓のクセをつけとくべきだったかなあ……


「もう時間がない! 行かなきゃ!い、いってきまーす!」


 私は大急ぎで階段を駆け下り、玄関を思いっきり開けて走っていった。

 親から何か言われた気がしたけど、今そんなことを気にしてる場合じゃないのだ。

 遅刻だけは避けなければ。時間にだらしない子だと思われてしまう……!

 ツバキから嫌われるかも……!


 外はもう暗くなっていた。暗くなってもやっぱり夏は暑いもので。

 この暑い中私は全速力で走り、汗でびしょびしょになっていた。


(けど今はそんなことを気にしちゃいられない……!)


 汗は後でなんとかすればいい。今は走ることに集中しなきゃ……!

 こうなると春のリレーのことを思い出す。

 確かあの時も全速力で走ったっけな。それでツバキに笑われて……


 そんなことを考えていたら、ここはもう展望台。

 走ったら五分くらいで着いた。


 息を切らし展望台に上がると、もう班員は集まって準備をしていた。

 でもお目当てのツバキがいない。どうしたんだろう。

 ツバキは遅刻するようなタイプじゃないし、もしかしたら何かあったのかもしれない。

 来る途中で事故に遭ったとか……不吉な考えが頭をよぎる。


「マイコ、何突っ立ってるんだよ」


後ろを振り向くと、そこには好きな人。


「ツ、バキ」


「ほら、さっさと準備して始めようぜ……ん?」

「な、何? どうかした?」

「なんかマイコ、いつもと違うなーって」


 こ、これは脈アリ! チャンス到来?

 きたきたきた!


「ちょっとオシャレしてきたの! 気合い入れてね」


 リボンの青い髪飾り、水色のドット柄のワンピース、靴も青いローファー…

 いつもよりちょっと女の子らしく、かわいく、キュートに。

 もしかして『かわいい』って思ってくれてる!?


「その格好寒くないか? 夏でも夜は結構冷えるぞ」

「だ、大丈夫! 走ってきたから体はあったまってるし!」


 そ、そっちか……私としては、ツバキに『かわいい』って言ってもらいたかったな。


 私はここで気付いた。もしかして今の私は、すごく汗だくなのではないか。

 汗を拭くの忘れてた……!やばい……!


「ツバキー! これでいいかー?」


 班員の一人がツバキに声をかけた。

 ツバキは声をかけた班員に駆け寄っていった。

 よし、今のうちに汗を拭いておこう……


「準備はこれでいいな…よし、観察始めようぜ」


 どうやら準備が終わったらしい。ツバキがみんなに声をかけ、班員はツバキの方に集まった。

 私はツバキの隣に駆け寄った。『隣』っていうポジションって大事だよね。


「それじゃあ、それぞれ別れて観察しよっか。……ツバキ、私たちはあっちの方を見ない?」


「……そうだな、あっちはよく星が見えそうだし」


 実は私、とても緊張していた。

 自分から話しかけることに、未だに慣れていないのだ。

 でも今日はそんなことで恥ずかしがってる場合ではない、自分からチャンスを作らなきゃいけないからだ。


 それぞれの役割はあらかじめ決めてあった。私はツバキと一緒にやることになっていた。

 それもまあ、私がいろいろ仕組んだんだけど。

 ここまでの道のりは長かった、しかし私は今、ようやく二人きりという憧れのシチュエーションを手に入れた。


「……今日晴れてよかったね、絶好の観察日和だよ!」

「ああ、俺も天気の方は心配してたからな。台風もあるし」

「星見えるかな?」

「……星なんて空を見ればいくらでも見えるぞ。ほら」

「あ、ああ、そうじゃなくて! いや、私が言ってるのは……」


「わかってる。流れ星、だろ?」


 そりゃ上を見れば、星なんていくらでも見える。

 でも私が見たいのは、ツバキと一緒に見たいのは、流れ星。

 今日来るはずの、ペルセウス流星群。


「まあ今日やることの主役だからな。ただ星の観察ってのも味気ないし」

「予定は今日のはずなんだけど……見えるかな?」

「時間帯によって変わるからな、もしかしたら夜中まで待つかも知れない。マイコ、予定の時間って何時ぐらいだ?」

「あー……それが……」


 調べてなかったのだ。ツバキと星を見ることしか頭になく、肝心の時間帯まで調べてなかったのだ。

 やってしまった、私としたことがこんな凡ミスを……

 もしかしたらツバキは怒るかもしれない。ああ私の馬鹿、ツバキの好感度ガタ落ちじゃない。


「調べてないのか?」

「え、あ、うん……ごめん」


 そう言うとツバキはいきなり盛大に吹き出した。


「くっ……あっはははは!」

「えっ? どこがおかしいの?」


 どうしてツバキは突然笑い出したのだろう。

 何か私はおかしなことを言ったのだろうか。しかし考えても答えは出てこない。


「だって! マイコがあんなに調べていたことなのに、肝心の時間がわからないなんて……おっちょこちょいだな、マイコって! はははっ」

「え、ええ? それで笑ってんの?」

「肝心なところでやらかしたな、あー、これじゃほんとに夜中までかかるかもな」


 私はびっくりした。怒られるかと思った。

 ツバキは本当に優しくておおらかな人なんだなと、つくづく思う。

 私はツバキのこういうところを、好きになったのだろうか。


「まあ今の時間帯でも結構星の観察はできるだろうし、流星群来るまで他の奴らの手伝いでもしてよう」

「……うん、そうだね」


 でも時間を調べてなかったのは失敗だったなあ。

 ああ、でもいっか。時間が遅くなれば遅くなるほど、ツバキと一緒にいられる時間が増えるから。

 さて、私も何か他の人の手伝いをしに行こうか。

 班に協力的な姿を見せれば、私の好感度が上がるかもしれない。

 よし、ここは積極的にツバキにアピールしよう。


「マイコー! ちょっと手伝ってくれないか?」

「うん! 今行くね」


 向こうで愛する人が私の名前を呼ぶ。それだけでも幸せなのに、これ以上を求める私がいる。

 欲張っちゃダメだとわかっているけど、足りない。私は満たされない。

 もっとツバキと近づきたい、『友達」』という枠から抜け出して、更に上のステージへ。

 だからもっとツバキとの時間を増やさなきゃ。ぐずぐずしてると他の人に盗られてしまう。

 ツバキはこの性格だから、結構モテるんだよね。


(……絶対、ツバキの一番になってみせる)


 私はここで決めた。ツバキの一番になるためならば、どんなことでもすると。

 その時の私の顔は、酷く歪んでいたに違いない。


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