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人間ダイアリー  作者: 夢菜
Family
12/17

 春といえど、まだまだ寒いと思う。

 もう四月で辺りは桃色に染まっていたが、私はまだカーディガンを手放せずにいた。私は極度の冷え性なのだ。春といえど油断できない。

 そんな私はカイロまで持っている。私がどれほど冷え性なのか、おわかりいただけただろうか。はあ、夏まで衣替えはできなさそうだ。


 昼休みの図書室、そこには私と私の幼馴染、マイコしかいなかった。どうも図書室は人気がないらしい。

 クラスの人が昼休みにすることと言ったら、校庭で遊ぶか廊下で喋ることばかり。読書をする人は圧倒的に少なかった。

 まあ読書は静かにしたいから、別にいいんだけどね。


「あー……今日は暖かいね……」


 マイコがそう言った。そうだろうか? 私には少し肌寒いのだが……見ればマイコは半袖だった。寒くないのだろうか?

 マイコは私と違い、暑がりなところがある。私とマイコは、実に対照的だ。性格も全然違うし、趣味も違う。そんな二人がなぜ一緒にいるのか。いささか疑問に思う人もいるだろう。私とマイコは、実は幼稚園の頃から一緒の中なのだ。家も近く、よく一緒に遊んでいた。

 しかし、とある時期を境に、めっきりそういうことはなくなってしまったが……


「そうかな……? 今日は寒いよ」

「ルマは冷え性だからね。ルマにとっては寒いのかも」

「うん、現に今寒いもの」


 マイコと他愛のないやりとりを交わす。こういうやりとりをマイコとするのは、実に久しぶりのことだった。

 今も私たちは仲良しだが、クラスが離れてから二人で話すことはなくなってしまった。時々会って、話す程度。もう昔のように遊ぶことはなかった。


「マイコは最近、アイと一緒にいるよね。すっごく仲良さそうだけど」

「まあねー……最近アイ以外の人と喋ってないよ」

「アイもいいけど、そのうち、アイ以外の人と喋れなくなるよ? いわゆるコミュ症になっちゃうよ?」

「あはは……もう私そうなってるかも」


 マイコにはアイがいる。二人の絆はとても強く、幼馴染の私でも太刀打ちできないものだろう。私なんかが入れる隙はない。

 そして私は一人。でも私にも友達はいるし、決して一人ぼっちというわけではない。

 好き好んで、今は一人でいるだけだ。

 

 休み時間は読書の時間、大切な読書の時間を他の人に邪魔されたくない。

 読書の時間は、本の世界に入り込むことができる。

 その世界がミステリーだったり、ファンタジーだったり、あるいはSFだったり。

 それはその日の気分次第。


 本の世界は素晴らしい、辛い現実を忘れさせてくれるほどの楽しさ。自分が勇者になって世界を旅したり、探偵になって謎を解いてみたり、魔法使いになって自由自在に魔法を使ってみたり……現実の世界とは比べ物にならないほど、楽しいことばかり。

 だから私は辛いことがあると、いつも本を読んでいた。本は嫌なことを忘れさせてくれるから。

 え? 活字中毒? 何それ? そんな言葉初めて聞いたよ。


「そういうルマだって、いつも一人で本読んでるけど?」

「好きで読んでるの。ちゃんと友達もいるから安心して?」

「クラスが離れて、ルマと話すことがなくなっちゃったから、今のルマの友達とかわかんないや」

「まあ、そんなもんだよ。クラス替えなんてしたら、友達関係なんてリセットされるもん……」


 そう、今まで仲が良かった友達も、クラス替えで一気に離れていく。

 クラス替えもよしあしだ。新しい友達ができるけど、それまでの友達とは別れる。

 まあたとえ離れたとしても、永遠に別れるわけではないのだ。だから友達関係が完全にリセットされるわけではない、また始めればいいだけの話だ。


「そうだ……春といえば……ルマ、今年は行くの?」

「……」

「私は……今年も行くよ」

「……そう」


 春といえば、私たちには忘れがたい出来事があるのだ。

 忘れたくても忘れられない、楽しくて悲しい出来事が。

 まあ、今私たちが話していた『行く』『行かない』の話は、年に一度のイベントに行くかどうか、みたいな話だろうか。

 でも、イベントというのはさすがに言い過ぎだろうか……


「あ、チャイム鳴った」


 昼休み終了のチャイムが鳴った。

 私たちは教室に戻らなければいけない。


「それじゃあルマ、またね」

「……うん。またね、マイコ」


 私たちは別々の教室へと戻っていった。

 そして私は再び本の世界へ。


 授業が始まるギリギリの時間まで、私は自席で本を読もうとした。次の授業は退屈だから、授業中でも本を読んでいたい。

 しかし、今日はなかなか本の世界には入れずにいた。

 それはきっと、マイコのせいだ。マイコと話していたからだ。マイコのせいで、思い出したくない記憶を思い出してしまった。別にマイコを悪者にしようというわけではないが、この時は悪者にせざるを得なかった。

 本の世界の入口は、入る瞬間を逃してしまうとなかなか入れない。

 この時間では本を読めないな……


(ふう……早く授業が終わればいいのに)


 私は、まだ始まってもいない授業にため息をついた。



 放課後、私は一人だった。一緒に帰る友達は探せばいるが、今日はなんとなく一人で帰りたい気分だった。

 外は夕焼けが綺麗だった。茜色の空が、とても眩しく見える。特に今の私には。私は重い足取りで歩き始めた。

 ちなみに、私は基本登下校中には本を読まない。前に本を読んで歩いていたら、思いっきり電柱にぶつかったからだ。


(……ああ、そういえばここは)


 私は帰る途中に、大きな病院を通りかかった。

 この大きな病院は、幼馴染の家だ。私の幼馴染、アツシはここに住んでいた。

 マイコ、アツシ、そして私。幼稚園からの幼馴染。一昔前は、三人でよく遊んでいたっけ。今はもうそんなことないけど。私も、いつまでも子供じゃない。もうあの頃のように遊び回らない。

 それに三人で遊ぶことは、もうないのだ。そのきっかけを作ったのは、紛れもない私。

 だから、なんとなくこの幼馴染の家を通るのは気まずいのだ。


 近くにある公園に寄り道してみる。

 どうせ帰ったって一人。お父さんもお母さんも、仕事で帰らない。これが私の日常だ。親が共働きなんて、今時珍しいことではない。


(三人でよくここで遊んだなあ……)


 私は四年前のことを思い出した。まだ私たちが小学二年生だった頃の話だ。

 あの頃までは三人でよく遊んでいた。暗くなるまで遊んで、泥だらけになって家に帰ったっけ。

 まあ、家に帰ってもこんな私を叱ってくれる家族はいなかったけど。

 マイコとアツシはこっぴどく叱られたらしい。それがなんだか羨ましくもあった。


(……今更思い出に浸ってもねえ)


 私たちはあの頃と違う。もう私たちは小学六年生。来年は中学生なのだ。過去は過去。今は今。

 あの頃には決して戻ることができない。


 たとえどんなに心の底から願っても、過去はやり直せないのだ。


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