表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間ダイアリー  作者: 夢菜
Friend
11/17

10

 信じていた人に裏切られるという気持ちは、とてつもない悲しみと後悔が襲ってくるものである。

 信じていたからこそ湧き上がる悲しみと、なんであんな奴を信じていたのだろうという後悔。

 私は今回、それを身を持って知った。これもいい人生経験なのだろうか。


 さて私は、今教室でとあることについて葛藤しているのだが……

 私は未だアイに謝れずにいた。

 ツバキがカンニングをしたという事実を知って、三日経つ。

 全て私の早とちりで、アイを傷つけてしまったことについて、私はまだアイに謝っていないのだ。


「……言いづらい」


 気まずくなっているのはお互い同じ。

 しかし、私のたった一言でそれは解消されるのだ。


 今日こそ言おう、今日こそ謝ろう、そう思っていてもなかなか口に出せるものではない。

 これはまるで、告白のシチュエーションではないか。

 時間が経てば経つほど思いは募り、言いづらくなってしまう……

 まあこれもある意味、一種の『告白』なのかもしれない。


 朝休み、私はアイの席の前に立っていた。

 アイはまだ来ていない。アイは確か、学校に来るのがいつも遅かったっけ。

 まだ私がツバキに出会う前のことを思い出す。

 あの頃は確かにケンカもしたけど、次の日には仲直りが出来ていたっけ。


 考えてみれば……私とアイは本当に仲が良かったんだなあ……


 おおっと、もう過去にしてどうする。

 自分は今からその復縁に行くところではないか。

 思い出に浸っている場合ではない、アイになんて言おうか考えないと。


「……マイコ、何してるの」


 アイが登校してきた。顔は笑っていなかった。アイの表情に酷く恐怖した。

 その瞬間私は、今まで考えていたことが全部吹っ飛んでしまった。

 私はひどくうろたえながら、アイにこう言った。


「あ、あああ、あのね、アイ。実はこの前のことなんだけど……その……なんというか……」


 アイの顔を直視できない。

 申し訳なさと、気まずさが重なって。

 ああもうなんて言えばいいのだろう! なんて切り出せばいいのだろう!

 正しい謝り方ってなんだろう? なんて言えば正解なんだろう? どうすれば私は許してもらえる?


「……」

「……」


 沈黙が続く。ここは私が話を切り出さないといけないのだ。

 しかしいざとなると怖くなる。心臓がうるさく音を立て、手に汗が滲む。

 言わないと、ここで言わないと絶対に後悔する。もう後悔なんてしたくない。言うんだ私。

 私が言わないと。ずっとこのまま……ずっとこのまま……アイとは二度と仲直りなんてできない。


 さあ覚悟を決めて言おう。もしかしたら許してもらえないかもしれない。でも言わないといけないのだ。

 一つ呼吸をおいてアイに言う。それは今にも消えてしまいそうな声で。


「……ごめん、なさい」


 私はたどたどしくそう言った。

 俯きながら。アイの顔を見ることができずに。

 本来これは、正しい謝り方ではない。しかしアイはこう言ったのだった。


「ううん、いいの。マイコがいつものマイコに戻ってくれただけで、いいの」


 あなたは天使か神か。

 あんなに酷いことを言った私を許してくれるとでもいうのか。


「え……いいの? 私、アイに酷いことたくさん言ったよ? 許してくれるの?」

「うん」

「どっ……どうして? もっと責めたっていいくらいなんだよ? 私、アイに取り返しのつかないこと言って傷つけたのに……」


「だってマイコは私の親友だもん。」


 アイは笑顔でそう言ったのだ。

 アイは優しすぎる。こんな私をまだ親友と呼んでくれるのか。

 私の目から涙が溢れた。


「ま、マイコ! 大丈夫? どうしたの?」

「アイが……アイが、私を、許すから……」

「なんで泣いちゃうの~!教室で泣かないでよ~」

「アイ……ごめん、ごめん……」


 アイは私をそっと抱きしめた。


「マイコ、私、大人になってもマイコの親友はやめないよ。大人になってもずっと一緒。二人の絆は永遠不滅だよ」


 静かにアイは、私の耳元でそう言って微笑んだ。

 私には、その言葉だけで十分すぎるものだった。

 二人の絆は永遠不滅。私にはもったいない言葉。

 私は嬉しさと共に、同時に自分の愚かさを呪った。

 こんないい子に私は、とても酷いことをしてしまったんだ。


 でもアイはこんな私を許してくれた。私の大きな罪を、簡単に。

 それにアイは私とずっと一緒にいてくれるという、宣言までしている。

 ならば私もそれに応えよう。


「アイ、私もだよ。私もアイの親友は絶対やめないし、絶対誰にも譲らない。アイの親友は、私だけのポジションだよ」


 私は泣きながらアイにそう言った。

 アイに上手く伝わっただろうか。


「ありがとう、マイコ……」


 ここが教室であるということも忘れて、二人は抱き合った。

 じろじろ見られていたような気がするけど、そんなこと私たちは気にも留めなかった。

 私たちは仲直りができた。本当によかった。もしあのまま仲がこじれていたままだったら……と思うと、ゾッとする。


(もう、絶対アイを傷つけることはしない。二度とするもんか)


 そう心に誓った。



 秋の終わり頃の空は、なんだか前よりも澄んで見えた。

 私とアイは、下校中にこんな話をしながら歩いた。


「はあー……もう恋なんてしたくないよ」

「マイコは今回のことで、散々な思いをしたからね」

「ほんとだよ。なーんで私、ツバキの上辺だけのところに気づかなかったんだろう……?」

「まあ、ツバキの全てが上辺だったとは限らないんじゃない?」

「でも今思うとツバキの言葉、全部が全部嘘にしか思えないよ」


 そう、私は今回の件ではっきりわかったのだ。

 やっぱり男子は、ろくでもない奴ばかりなのだと。

 あの時の淡い恋心なんて、もう思い出せない。最も、あれは『淡い』恋心だったのだろうか……?


「ツバキの写真も捨てようっと。持ってたってしょうがないもんね」

「マイコ、ツバキの写真持ってるの?」

「うん、夏休みの自由研究の時、ツバキと一緒に写真を撮ったの」

「えっそうなの? 私そんな話聞いてないけど……」

「そうだっけ? でもいいじゃない、もう終わったことだし!」

「……そうだね。で、マイコ。次の恋の予定はあるの?」


「恋なんてもう二度としない! 私にはアイだけで十分!」


 これでいいんだ。

 恋なんて辛いことばかりじゃないか。

 報われないし、心を振り回されるだけ。

 ただ傷つくだけだ。傷ついて終わり。それに『好き』という気持ちが、ずっといつまでも続くわけではない。

 ツバキのカンニングを私が知らなくても、いつかツバキに冷める時が来ていただろう。

 それがちょっと早まっただけなのだ。


「私も、一生恋なんてしないよ。マイコがいてくれればそれでいいから。だからマイコ、ずっと、ずーっと一緒だよ?」


「もちろんだよ!だって私たちは――」


 『親友』だもんね?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ