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人間ダイアリー  作者: 夢菜
Friend
10/17

 アイと縁を切ってから、数日が過ぎた。

 アイのことなんてもうどうでもよくなっていたし、アイも私に話しかけることはなかった。

 これでよかったのだ、きっと。


 前々からアイとは合わないって思っていたし、もしあの時ケンカをしなくても、いつか私たちは仲がこじれていただろう。

 それがちょっと早くなっただけだ、どうってことない。


 それよりもツバキだ。理科の発表以来、ツバキと喋った記憶がない。

 まずい、このままではせっかく築き上げた関係が水の泡だ。

 チャンスは待っても訪れない、自分で作るものだ。


 昼休み、私はツバキに話しかけてみることにした。

 話題は何にしよう、星を見に行った日のことでも話そうか?

 あのあと私は、ツバキとのツーショットを手に入れた。

 写真に写るのは私とツバキ、二人だけ。これはもう家宝にするしかないだろう。

 いや、でもこの話はちょっと話しづらいな……


 それか、理科の発表のことについて話そうか?

 いや、だいぶ日が経ってしまっている、話題性がない。


 そうだ、確か先日理科のテストがあったはず。それが今日帰ってきた。

 おお? これなら充分話のタネになるのでは?


 早速試してみよう、善は急げだ。

 ちょうど今ツバキは一人。絶好のチャンスだ。


「ねえツバキ、理科のテストどうだった?」


 やった! やったよ! 私は今ツバキと普通に話せてる!

 普通に! 目を合わせて! おどおどしていたあの頃とは違う!

 ツバキはこう言った。


「理科のテスト? ああー……満点だったよ」

「えっ! 満点!?」


 さすがツバキだ。頭がいいとは思っていたけど、ここまで頭がいいとは。

 もっと好きになっちゃいそう。でもこれ以上好きになるなんてことあるのかな? 私はもう、この世界の誰よりもツバキを『愛してる』のだから。


「マイコはどうだったんだよ」

「私はー……七十点あたりかな。そ、それでも! 前よりは点数上がったんだよ!」


 私はツバキのおかげで、授業もちゃんと聞くようになった。

 特に気合を入れているのが理科。ツバキと仲良くなれるきっかけになった理科。

 でも私もまだまだだな。もっと勉強しないとな。

 ツバキとちゃんと、つりあえる子にならなきゃ。


「あのマイコが七十点なんてすごいな」

「それ、内心ちょっと馬鹿にしてるでしょー?」

「はは、そんなことないって」


 ツバキが笑う。私も笑う。

 他愛のない話だけども、ツバキと話している。ツバキと一緒にいることが何よりも嬉しかった。

 ずっとそばにいたい。このままずっと話していたい。でも私は心の中から湧き上がる感情を、隠した。

 まだダメだ。まだ知られてはいけない。チャンスはきっと来る。焦っちゃダメだ。今はまだその時ではない。

 そんなことを心の中で考えていたら、ツバキが今思い出したかのようにこう

言った。


「そういえばマイコ、最近アイと何かあったのか?」


 不意打ちだった。まさかツバキがこんなことを言うなんて思いも寄らなかった。


「え、いや? 何もないよ?」


 私はそう返した。ツバキが私とアイの絶縁について知ったらどう思うかな。

 優しいツバキのことだから、『仲直りしたほうがいい』って言うのかな。

 でも絶縁のきっかけがツバキだと知ったら、ツバキは一体どんな反応をするのだろうか。

 私は嫌われてしまうだろうか、この気持ちを知られたら、ツバキは私から離れていってしまうだろうか。


 だから私は嘘をつく。ツバキだけは失いたくない。


「どうしてそんなことを?」

「なんかさ、最近マイコとアイ全然話してないだろ? 何かあったのかと思って」


 ツバキは人のことをよく見てるなあ。あれ? それって私たちのことをずっと見てたってこと?

 ツバキは私に関心を抱いてるってこと? それって、ツバキの気持ちは私に向いてるってことだよね?


 ツバキは私のことを見ていてくれた。これってもしかして気があるってことだよね?

 もしかしたら本当に両思いになるかもしれない。だってツバキも私を見ているんだもの!

 希望はある、アイという邪魔者もいないし、今更ツバキが他の女子に目移りするとは考えにくい。

 今この時点で、私を超えられる人はいない。どんな美少女でも、私とツバキが築いてきた時間には敵わない。

 私はツバキの質問にこう答えた。


「アイとは『何も』ないよ」


「そうか? 俺の気のせいかな……? それでも二人でいることはなくなったよな」

「まあね。自立ってやつかな……? 私はいつもアイと一緒にいてばかりいたから、そろそろ付き合いを変えてみようかなって。ほら、私たち来年は中学生でしょ? 色んな子と付き合ったほうがいいかなって……中学校では、別の小学校出身の子もいるだろうし」

「……そうなのか?」

「うん。だから気にしないで」


 大嘘だ。私はまたツバキに嘘をついた。

 私が自分から友達を作りに行くような人でも? それは大間違い。むしろ私は人間と付き合うのが面倒に思っている。

 だって人間は簡単に裏切る。アイのように。

 信頼関係を築くだけ無駄なのだ。


 でもツバキは違うよね? 私を裏切ったりしないよね?

 ツバキが私を裏切るなんてこと、絶対にないよね?

 だってツバキは私の……


「あ、昼休み終わった」


 ここで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 もっとツバキと話していたかったなあ……

 ツバキは行ってしまった。


(ツバキと話せた……今までみたいに目をそらすことなく……ちゃんと目を合わせて……ツバキも私のこと見てた……ツバキの目に私が映っていた……)


 あともうひと押しかもしれない。

 もう一歩、あともう一歩でツバキと両思いになれるかもしれない……

 確実に『ただの友達』という関係ではなくなっている。

 このまま順調にいけば『恋人』も夢じゃない……!


 ああ、五時間目は私の『好きな』理科だ。早く理科室に行こう。

 ツバキが理科が好きなら、私も理科が好き。

 ツバキが好きなものは、私も好き。ツバキが嫌いなものは、私も嫌い。


 だって二人はすごく気が合うんだもの!



 放課後、私は一人で帰ろうとすると、筆箱を教室に忘れてしまったことに気がついた。

 慌てて階段を駆け上がり、教室に戻る。

 うっかりしてたな。いけないいけない。


 教室を覗いてみると、そこには愛するツバキと数人の男子たち。

 なんの話をしているのだろう? 何をしているのだろう? 私は聞き耳を立てた。


「……えー!? マジかよツバキ!」


 一人の男子の声が聞こえる。

 この反応……もしかしてこれは、男子の『恋バナ』というやつだろうか?

 だとしたら、これを聞き逃すわけにはいかない。

 ツバキの好みのタイプを知るチャンスだ。

 そしたら私は、ツバキの好みのタイプの女子になろう。自分を変えることくらい苦ではない。全てはツバキのため。

 確かツバキに好きな人はいなかったはず。自由研究のときに言っていた。

 でも好きなタイプくらいあるだろう。


「うん。これは内緒だぞ?」


 『内緒』と言われると、逆に気になるのが人間の心理。

 ツバキの秘密……? ツバキの秘密の部分! ここでしか知り得るのことのできない、ツバキの真実!

 私は興味津々に聞いていた。


「でも信じられねえな……あのツバキが……」

「しょうがねえだろ、成績は大事だ」

「ま、まあそうだけどよー……俺にはちょっとその勇気はないわー……」

「だよなー……まさかツバキが」



「カンニングをするなんて」



 今、あの男子はなんて言った?

 カンニング? どういうこと? ツバキが? あのツバキが?

 え、これってなんの話? ちょっと話の流れが掴めない。展開が急すぎる。


「ツバキ、本当かよ?」

「ああ、先生の机にテストの解答があってさ。全くあの先生も間抜けだよなあ、解答を堂々と机に入れてるなんて。生徒に見られるとか思わないのかな」

 嘘だ、ありえない。頭のいいツバキがカンニングするなんてありえない。


「ヤバくね? それ……」

「大丈夫大丈夫、案外バレないもんなんだよ。そのおかげで、今回の理科のテストは満点とれた」

「ツバキもゲスいなあ」


 男子たちの笑い声が聞こえる。ツバキも笑っていた。

 嘘、だ。あのツバキが……? そんなことをするなんて……


 私はあまりの衝撃に、座り込んでしまった。

 嘘だよね? 信じられない。


「まあ、今のうちから成績上げておかないとヤバイからな。子供のうちから、こういうズルい手は学んでおかないと。人生の勉強だよ。理科の勉強よりもよっぽど役に立つ。所詮大人は成績しか見てないんだよ、馬鹿は見捨てられる。でも、これもいい社会勉強になるかもな」


「わーお。ツバキは現実的だなあ」

「だってそうだろ? だからみんなも、こういう手は知っといたほうが……」


 私はこれ以上、ツバキたちの話を聞きたくなかった。

 ふらつきながら来た道を戻る。筆箱なんてどうでもいいや。

 ツバキは……私の思っている人と違ったみたい。

 理想と現実ってやつかな。たった今、現実を突きつけられたところ。


 ツバキがカンニングしていたなんて知らなかった、そしてあんな最低な人だなんて知らなかった。


 ふとアイが言っていた言葉を思い出す。

 アイは『ツバキは、マイコが思っているほどいい人じゃない』と言っていた。

 ツバキは悪い奴、あんな最低な奴を好きになったら、絶対後悔するとも言っていた。

 もしかしたらアイは、ツバキのカンニングを知っていたのだろうか。

 それに気づいて、私に忠告してきたのかもしれない。


 それなのに私はアイになんて言った?


 私は、アイに、たった一人の親友に、なんて酷いことを……


「うわあああああああああああああああ!」


 私は廊下で泣き崩れた。誰もいない廊下に、私の声が虚しく響く。


 ごめん、ごめんねアイ、ごめんなさい。

 私はあなたに、とても酷いことを言ってしまった。

 恋なんていう幻覚に惑わされて、周りが見えなくなっていて、アイの優しさに気づくことができなかった。

 一番愚かなのは私だ、カンニングをしたツバキじゃない。

 あんな奴に、私は今まで騙されていたんだね。騙されていた私も私だね。なんであいつを好きになっていたんだろう。


 たった一人の親友を失い、信じていた人にも裏切られ、私はこれからどうすればいいのだろう。


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