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可愛い恋人には可愛いお洋服が似合います。

 その日は、部屋で3人で食事をとる。

 怪我をしているファーはベッドの上で、フィアとウェイトはテーブルを寄せ、運び込まれるディナーを共にする。

 部屋にはナーガ・デールが残り、4頭のナムグは食事に向かう。

 テーブルに広げられた料理に目を輝かせる。


「わぁぁ……美味しそう。それに綺麗……あ、す、すみません。大騒ぎをして……」


 頬を赤くする少女に、フィアもウェイトもウェイターも頬笑む。


「大丈夫だよ。家の皆も、シェフの食事をとても気に入っているんだよ。ね?シェフや皆にありがとうって伝えてね?ファー……アルファーナがとても喜んでいましたって伝えてくれる?」


 ウェイトレスも兼ねる部屋専門のメイドはニッコリと、


「はい、必ずお伝え致しますわ。お嬢様、パンはどれがお好きですか?」

「あ、い、一杯……あまーい匂いです。こ、これは……」

「クロワッサンですわ。どうぞ食べてみて下さいませ」


お皿に乗せられ、そっととり、ちぎって口に入れると、頬を緩ませる。


「わぁぁ……お、美味しいです。甘くて、ふわふわです……」

「でしょう?これは、パン職人が専用にいるんだよ」

「えぇぇ?お、お家にですか?」


 ファーの声に、ウェイトが微笑み、


「このシェールダム……王都で一番広いのが王宮だけれど、その次に広いのが、このマルムスティーン侯爵邸。マルムスティーンの名前を名乗る人間は多い。子沢山で親族が多いからなんだ。私も分家の人間だから」

「フィアとウィリーお兄様は従兄弟だったんですか‼」

「ん?フィアのお祖父様と私の祖父が従兄弟。フィアのお父さん兄弟と私の父が幼なじみ。私もフィアと兄弟のように育ったんだよ」

「ご一緒のこのお屋敷に?」

「あ、部屋は戴いている。でも、ここの隣の屋敷が私の家」


ファーは、目を丸くする。


「あ、あの可愛らしい、お屋敷ですか?」

「あぁ、あれは、私の姉達が家ごと改装して、表の一角でお店をしているんだ」

「お、お店……?ですか?あの可愛い……お花も綺麗で凄いです‼」

「3日後に出発予定だから、少し元気になったら、案内するよ」

「ほ、本当ですか?で、でも、ご迷惑じゃ……」

「それはないよ。姉たちと両親が喜ぶよ。妹は騎士の館で待ってるよ。フィアより3才上なんだ」


 ウェイトに、


「そ、そうだったんですか?じゃぁ、お姉様です。お会いしたいです‼」

「良かった。ウィン……ウィンディアは、すごく楽しみにしていて、シャンプーやリンスにハンドクリームに洗顔用の石鹸とか、入浴剤とかも準備していたな。薔薇そうびやあぁ、ルエンディードの珍しいリップバームもあるって」

「リップバーム?」

「唇の乾燥や荒れを保護したりするリップだよ。ルエンディードは清楚な花で、フワッと上品な香りを放つんだよ。ルエンディードはカズール伯爵家の花で、カズールの街の人たちが大切に育てて、限定品なんだって」

「げ、限定……?」

「王家に献上するのと、カズール伯爵家、マルムスティーン侯爵家の親族かな?」


 あっさりと言うが、カズール伯爵家とマルムスティーン侯爵家は、王家と共に古代からある名家であり、二つを二爵と言って、国王が病床時、異国に視察などの場合、国内の采配を振るう。

 その権限は初代国王アルドリー1世が取り決めたものであり、そして、世界中にも認められている。

 何故なら、シェールドの王家は神の孫であり、大地の精霊神が荒れ果てた父神である星アシエルを整え、そして、マルムスティーン侯爵家の初代当主は、大地の精霊神の甥に当たる水の精霊が伯父に忠誠を誓ったと言われている。

 そして、カズール伯爵家は、風の精霊神と竜……ドラゴンの子供である風の竜が初代当主になったのである。


 眉唾ではなく、カズール伯爵家は風の精霊に守られ、マルムスティーン侯爵家は水の精霊や、大河アンブロシアス、支流の竜河、ユーザー河や溟海うみに守られている。

 そういう一族なのである。


 王家と合わせて3家は古代から続く古い一族として、他国からも崇められているのだと言う。

 その血筋を引く二人だと思い至ったファーは、


「あ、あの、あの……そんな特別な物を戴いては……」

「特別?ファーも特別だもの。僕のおお友達でしょ?いいんだよ?」

「そうそう。本当に上品な香りだから」


ウェイトは微笑む。

 しばらくファーの話を聞いたり、ファーが騎士の館について尋ねるのを答えていると、


「ローズちゃん、フィアちゃん?お客様もいらっしゃるかしら?」


と言う声と共に、美貌ではあるがウェイトやフィアよりも凛々しい、鋭さのある美貌の3人の美女と、


「ウィリー?邪魔だった?」


3人よりも目が丸く、可愛いが美貌である少年。


「あぁ、姉様たち。仕事早いね?」

「当然だ。私に努力と言う言葉はあっても、しないとは言わない‼」

「ナーニャのこの言葉に、私たち何度泣かされたか」


 よよよ……


嘘泣きをする3人に、ナーニャと呼ばれた美少年は、


「可愛い子には可愛い格好を‼似合う服で笑顔で帰って戴くこと。これが家の店のモットーでしょう?」

「そうなのよね。だから頑張れるし、大変だけど満足だわ」

「でも、私もカタリーナ姉様にターニャも結婚して、向こうの家のこととかでごめんなさいね?子供たちを連れて来てもいいけど、お父様見ると泣くのよねぇ……」

「そうなの。サリーネ姉様。うちも同じ。父上は普通なのに、軟弱なのかしら」


うり3つの美女に美少年を見ていたファーに、ウェイトは、


「左から一番上の姉カタリーナ、サリーネ、そしてターニャ、ナーニャ、このお二人は双子」

「わぁぁ……ど、ドレスが、素敵です‼わ、私は、お祖母様が残した絵を見ていて、すごいなぁって……御姉様がたもとても優雅に着こなされていて……そして、お二人で対照的なのも素敵です‼」

「絵?どんな?」

「えっと」


 みすぼらしい旅行鞄を開けるファーを見て、4人は全身コーデを考える。


「こ、これです‼えっと、『アリアンロード』と言うサインと、『アルファーナ・リリーに』って小さいサインは汚して……すみません」

「え、えぇぇぇ‼あ、これは、お母様のデザインされたドレスのデッサンよ‼だって、ここの切り替え、当時斬新だって、レイルファッションって言われたらしいわ。わぁ‼これはお母様見たら喜ぶわ。明日か明後日、見せてあげてね?」

「御姉様方のお母様?」


 4人は揃って頷き、


「ティアローズ・ウォルフガングと言うブランド知っている?」


うんうんと頷く。

 田舎町でも有名な、世界的なブランドである。

 シェールドだけでなく、他国の王族も愛用しているブランドである。


「このデッサン、ティアローズ・ウォルフガングの初期のドレスのデッサンよ。アリアンロードと言うのは、フィアくんの曾祖母で、元々3代前の国王の御姉様で、マルムスティーン侯爵家に嫁がれているの。アリアンロード様が、本当に自己流でこんなドレスを作りたい。でもイメージしか駄目で、仕立ての技術が足りない私たちのお母様がデッサンを見せて、ビックリしたのですって。で、それまでのデザイナーの方たちに技術を教えて欲しいと頼んで下さって、勉強させて下さったんだって、お母様は感謝されているわ。でも、デッサン見つかるなんて……お母様を愛していらっしゃるお父様……これを相当な価格で買い取るでしょうね」

「えっ?こ、これはお、お返しするだけで十分です……よ?」

「何をいっているの‼デッサンはデザイナーにとっては命です‼悪用されることはなかったとしても、知識の泉の雫です‼」

「その雫を大切に持っていてくれるだけでも、お母様……幸せだと思うわぁ」

「そうそう。いつもローズちゃんに何着せようか考えているものね」


 ふと、ファーは問いかける。


「あ、あの、ろ、ローズちゃん、と言うのは……」


 ウェイトにその4人の姉、フィアがウェイトを示す。


「私の愛称。小さい時から体が弱くて、女の子として育ったんだよ。私一人母上に似たから」


 ニッコリと笑う。


「元々マルムスティーン家は情報の爵と呼ばれていて、別名『シェールドの盾』。術師としての才能を持つ人も多い。私も最低限の術は扱えるんだ。でも、8才の時に、幼なじみのルーと剣術の試合を国王陛下の御前でしろと、カズール伯爵にぽいっと、練習場に置いていかれて、滅多うち。一月死にそうな目に遭ったよ」

「カズール伯爵に教わったんですか?」

「ん?ううん。伯爵……先代伯爵の弟。シエラシール・クリスティーンと言う一つ下の幼なじみ。天才的な剣の腕を持っていて、6才で成人の剣技大会で優勝した経験がある。今は、先代陛下の命令で異国に留学しているんだ」

「す、凄いですね」

「兄である伯爵とフィアがもう大好きで、愛情表現がおかしかったが、本当に天才的な……破壊力を持っていて、初心者の私に、一月でガキ大将でこの辺りの周囲のガキンチョ制圧していたルーに引き分けた位の技術を与えてくれたと言うか、スパルタ教育を……まぁ、そのお陰で、騎士の館に入ったんだけど……」


 微笑むウェイトに、


「あ、あの、ほ、本当に……騎士なんですか?フィアもウィリーお兄様も。あ、あの弱いとかじゃなくて上品で、とってもき、綺麗で……」

「あ、僕は、ファーと同じ騎士の卵だよ?でも、生まれてすぐに、次の王になる殿下の側近の騎士にと任命されたの」

「次の王と言うのは、今の……」

「ううん。僕と、今留学中のシエラ兄様は、まだ生まれていないけど、次の王になる王太子殿下の側近になる予定なの。ウェイト兄様もそう」


ファーは首を傾げる。


「で、でも、陛下はまだご結婚されていなくて……」

「先代陛下……僕のお祖父様になるんだけれど、予知の能力があって、殿下の夢を見たんだって」

「はぁぁ……す、凄いですね」

「で、僕も兄様も、王太子殿下を支える存在を探しているんだよ」




 ファーと食事を続けるフィア、ウェイトの横で、書きなぐるように、あぁでもないこうでもないとデッサンを血走った目で描き続けるナーニャとベットの奥に、幾つかのワンピースに靴、小物類や、ハンドクリームと言った物に、ふわふわと落ち着かないファーの髪を落ち着かせるワックスなどを次々と準備していく姉たちに、ナーガ・デールは、


『他人事』


と呟き、目を閉じたのだった。

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