18.種明かし
ガブリエラ・シーグバーンの装備する遺跡を、これまでカイは調律したことがない。
彼女は性別を誤魔化していたのだから、さもありなん。
さすがにどんなヘボな調律師でも、例えば強化外装の使用者の性別を間違えたりすることはない。間違えるならばそいつは調律師ではないモグリ以下の屑だ。
従って、ギルドに遺跡の調律を任せることは秘密の暴露に等しい。おそらくシーグバーンお抱えの調律師などに完全に一任していたのだろう。
仮とはいえパーティメンバーとして迎える以上、その装備のメンテナンスはカイが行わなくてはならない。
そして事によると、コアデータ以外のすべてを刷新する必要があるかもしれない。
というのも――
正直言って、カイは自分以外の調律師というのを信用していない。
より正しくは、ストールの薫陶を受けていない調律師というのを信用に足らないと思っている。
先述したように、ストールの持っていた見識というものは、世間一般からすると隔絶している。
ストールは、遺跡がどのようにして動いている――生きているのかまでは、さすがに知らないようではあったが、遺跡が起こす現象・事象の原理を理解していた。
その理解から導かれる調律は、あくまでも経験から導かれる調律と、まさしく根本からして異なる。
たとえ全く同じ結果だとしても、過程が全く異なるのだ。それは遺跡のエネルギー効率に影響として大きく表れた。
カイと違ってすべての遺跡と相性が合うというわけではなかったストールだが――彼はけれどすべての遺跡の調律における最適解を導くことが出来た。
自身が調律できずとも、例えばカイに指示してそのように調律させることができたのだ。
それこそがストールの大魔導師という称号の由来である。
自らが使用することのできない遺跡を理解するというのは、世間一般からすると埒外の行いであったのだ。
遺跡のような、理解の及ばないナニか。
その唯一直接の弟子であるカイは、だからガブリエラの使用していた装備類を検定するなり、さもありなんと溜息を吐いた。
シーグバーン家であればこうする、という調律だ。
とにかくピーキーな改造であり、仕様である。
爆発力重視というか。
とりわけ酷いのは、強化外装だ。
強化外装の多くは全身を覆うようなスーツ型だ。けれど非常に珍しい型として、義肢型というものがある。
その呼び名の通り、義肢型は欠損した四肢を補うために使用される。遺跡の力をそのまま発揮したなら、接続された生身のほうが耐えられないため、その出力にはかなり余裕を見たリミッターがかけられているのだが――どうしたことか、ガブリエラの外装は、それら義肢型のリミッターを外した上で、通常の強化外装に合成しているのだ。
これの何が問題かというと、タマキの言うところの動作補助ソフトが正常に働かないというところだ。
コア同士を合成することは間々ある。完全に動かなくなるわけではない。
ただしそれは同系統・近縁の遺跡同士の話だ。
義肢型と強化外装は、確かに似ているように思えるが、調律師として言わせてもらえば遠縁の親戚――せいぜい再従兄弟くらいにしか似ていない。
ゴーレムとはどちらとも近く、間にあると言っていいだろう。
そんな遠縁の親戚を、お互いの機能を残したまま合成するというのは、カイであっても難しい。というか、非効率が過ぎて、頼まれてもやらない。
なにより――
「これ、使用者をゴーレムにするようなもんだろ」
苛立ちが滲んだ声が思わず漏れた。
シーグバーン家の特質の正体、その一端がわかってしまったからだ。
これは遺跡に浸食されるための仕様だ。
辛うじてこの強化外装が成り立っているのは、使用者にその割を食わせているためだ。
間に近縁のモノを挟むことで、各々の機能を競合しないように誤魔化している。近縁であると見なすように、調律している。
――あくまでも誤魔化しだ。
誰もが知っているだろう。
人間はゴーレムではない。
「こんな強化外装を使い続けたら廃人になる――自分がなんなのかを忘れるぞ」
カイは怒っていた。
もちろんこんな無茶な強化外装を使っているガブリエラに、ではなく。
こんな無茶な仕様を叶えた調律師に対して。
「それがシーグバーンだ、よ」
カイの怒りの声を受けて、ガブリエラは静かに、けれど強い語調で言い返す。
「……別にあんたに文句があったわけじゃないけど、たった今文句ができた。文句ってより、疑問だけどな。納得できない。
なんであんた、シーグバーンに使い捨てられる前提で、性別を偽らさせられて――あんた自身の人生を削り捨てられて、それでもシーグバーンを否定的に見ないんだ? どうして殉じようなんて思える?」
ガブリエラは仮に首尾よく功績を挙げたとしても、彼女自身が何かを得られるわけではない。
家督を継いだというのは形だけのことにされて、次代が育てば何かを理由にすぐさま引退させられる。
場合によってはガブリエラは始末されるだろう。
少なくともただ引退するということにはならない。引退したところで彼女が解放されるわけではない。
彼女はシーグバーンに於ける汚点だからだ。
汚点に祭り上げられる、なんて。
皮肉が利きすぎて苦笑いも出てこない。
こうしたものを目の当たりにする度、カイは自分の師匠の感性につくづく同調する。
なんといってもバカバカしい。
古い家の因習もバカバカしいが、何よりも、そんな因習に進んで殉じようとする者が、理解できない。
意味がないと言っているのではなく、そこに意味を見いだしてしまうことが理解できない。
「お前には、関係ないだ、ろ」
カイを睨み返して、ガブリエラは拒絶するように顔を背けた。
頭に昇っていた血が、すっと冷えた。だから言う。
「『ひどく残念なことなんだが、世の中に関係していないことなど何一つ無いし、同時に何一つとして関係などない』――師匠の言葉だ」
「……大魔導師、の?」
貴族という体面を大事にする性質があるのならば、『大魔導師』の言葉であると言えば無視しないことはわかっていた。
「師匠はよく、事実と真実についてのことを言っていた。
事実も真実もそれぞれ一つだが、事実の見え方は複数ある。そしてそれが真実だ――って。
世の中のすべてが関係しているっていうのは事実だ。お互いの影響が見えるか見えないかというだけで、それは確かに”在る”。
関係はあるなしで見るべきものではなく、近いか遠いかで見るべきものだってことだ。
何一つとして関係がないというのは、真実だ。
何も見ようとしない者にとって、世の中のあらゆることは自分と関係がない」
「だから、なんだ、よ」
「別に。オレも『ひどく残念』なだけだ」
カイは本気でそう思う。だからその口調は殊更に素っ気なかった。
確かにカイは不躾であったかもしれないが、それでもこれからパーティメンバーとなるという相手に『関係ない』はない。
単純に、カイの機嫌に触れたというだけではない。言葉の綾にしてもその返しはない。
そんな程度の認識しかできないような輩をパーティメンバーに加えなければならないということに、失望した。
「なんにしても、オレが調律するからにはこんな装備は認められない。というか、こんなの装備しても、着られるだけで強化されないだろ」
おそらくはこれがシーグバーン家の特質の正体なのだ。
こんな無茶な仕様の強化外装を纏っておきながら、通常以上の機能を引き出せる体質――女性には受け継がれない性質。
ガブリエラにはまるで意味がないだけでなく、足を引っ張るだけの仕様。
「あんたのことはよく知らないから、専用の調律はできない。だけどこれを着るよりは未調整の強化外装を使った方がマシだ」
ガブリエラにもそれがわかっていないはずがない。
それなのに、彼女は唇を噛みしめてカイを睨み付けてくる。明らかに承伏しかねるという感じだ。
カイは、溜息を吐く。
ここに至ってようやく、ガブリエラが大魔導師の弟子に何を期待しているのか――どうして大した逡巡もなく、元パーティの裏切り者を演じるという提案を承諾したのか――を、察したからだ。
「断言するけど、大魔導師ストールでも、あんたを『シーグバーン』にするための調律はできなかった」
まっすぐに見返しながらのカイの宣告に、ガブリエラはがっくりと首を下げた。
†◇†
亜人の攻撃を無防備に受けて昏倒していたセルが眼を覚ましたのは、山岳を越えてしばらくしてのことだ。
ゴーレム車のルーフからアリリルが単独で魔物を狙撃しながら殲滅し、順調に進んでいたものの、ついに遺跡のほうに限界が来てしまったのだ。ガブリエラの分も含めて調律するために停車していたところである。
タイミングとしては悪くない。ゴーレム車で移動すれば半日の距離であり、タマキの力を借りればもう二時間以内にダンジョンが生やしたという森を目視できるところまで到達できるだろう。
最後のミーティングのタイミングとしては決して悪くない。予定外にセルが戦力外になってガブリエラも当てにできなかったがための結果であったとしてもだ。
「実際のとこ、どういう風に『戦争』するのかって、聞いて良いですか?」
「どういうって?」
カイが調律する傍からタマキが問いかけてくる。
調律と言っても単なるクールダウンだ。一部の部品を換装したり、一部の機能を眠らせたり、消耗が激しい部分を合成したりするだけ。
カイならば片手間でも充分に回せる。
「いえ、冒険者がダンジョン周辺の魔物を減らす役割なのはわかりますが、騎士団がどう動くのかっていうのがいまいち想像できないんですよね。まさかダンジョン周辺に軍隊を展開して亜人の軍隊を待ち構えるってわけじゃないでしょう?」
タマキの指摘に、カイは調律の手を止めずに少し考える。
考えた結果、メンバーを全員集めて周知しておくことにした。
「っていうのも、これは実際のところ、機密に属することだから話すかどうか迷ったんだけど。
まず、セルにオレの本当の身分って奴を話しておこうと思う」
アリリルには話していないが、どうせ彼女はとっくに察しているだろうし、ガブリエラには道中で話したばかりだ。タマキには大分初期の頃から看破されていたらしいし、この際だからセルにも明かして、全員での情報共有を進めたほうがいいだろうとカイは判断したのだ。
「薄々は気付いてたと思うけど、実はオレ、騎士団所属であって冒険者じゃないんだ。やってることは冒険者ギルドの調律師でしかないし、ギルドカードも本物だけど、身分としては騎士団から出向の監察官でその権限も持ってる。わかりやすく言うと、王都法令や冒険者規則に違反した冒険者を逮捕したり処罰したりする権限がある」
カイが端的にその秘密を明かすと、アリリルが、
「バカね」
と呟いた。
「へぇ…………――って、へぇ!?」
「セルが薄々でも気付いていたはずないじゃないの」
アリリルはセルが凝然としすぎて息をするのも忘れている様子であるのを睥睨するかのように眺めながら、さもありなんとカイに指摘する。
「い、いいや、いや! ちょっと待て! つかそもそもオレはなんでガブリエル……ラ? が? いんのかもよくわかってねぇってか聞いてないんですけどっ!?」
「うん。ガブリエラさんはオレの冒険者監察のための協力者ってことになったから。ホントは君がそれになるはずだったんだけどね」
「はぁ!? ってか――はぁぁ!? つかだからはぁぁぁあっ!?」
セルにとって寝耳に水どころの話ではなかったらしく、意味の不明な呻きと叫びを上げてパニックに陥ってしまった。
提案はセルの強化外装の仕様書に混ぜて打診してあったのだが、どうやらそこから『カイが内部監察官』であるという発想にまでは繋がっていなかったらしい。冒険者ギルドの運営に貴族の係累を騎士団の助力なしに処罰することなんてできないことから、カイが少なくとも騎士団と強いコネクションがあることくらいは想定していたと思っていたのだが。
「ミカル卿とかが強権使ってどうにかすんと思ってたんだよ!!」
「いくらミカルさんたちの発言力が強いからって横紙破りを表立ってやるわけないじゃないか? アスコ卿はそこんとこわかってなかったみたいだから、セルは気を付けた方が良い」
カイが丁寧にセルに説明する傍ら、ガブリエラがセルの喚きをうるさそうにしながらも、ややセルに同調するように彼に頷いて見せる。
「ボクも、そんな部署があるってこと、知ったのは初めてだ、った」
「そりゃね。オレの発案で半年前に立ち上がったばっかの部署だし。知ってる人間は両手で数えられるはず」
カイが種明かしとばかりに言うと、ガブリエラは眼を瞠ったまま固まってしまった。
セルはすでに驚愕を通り越してなぜかやさぐれて「けっ」とか言いながら架空の唾を吐き、架空なのに穢らしいものを見る眼をしたアリリルに倦厭されている。
「それは、わたしも予想外でした。ていうか、貴方って……」
というタマキの呆れたような声に、
「えげつないわよね、この男」
アリリルが同調する。
「師匠が手伝ってくれたし、冒険者の規則無視の横行に参っていたクスターさんとかも協力的だったから、あとはコウデルコヴァー夫妻の力があれば簡単な話だった。シェリルさんの台頭で干されて燻ってたネストリさんを移籍させて上司にしてとか色々根回しは必要だったし予想外に時間は掛かったけど」
ちなみにギルド本部長ことクスターは、カイが監察官であることまでは知らない。あくまでもこの監察部署の設立にカイが関わっているという程度の認識であり、監察官はネストリであると思っている。実際は彼はカイの監督役と騎士団との連携役である。
「……立場と権限を手に入れたんじゃなくて、立場と権限を作ったってことですか。方法がないなら作るって……それ割とわたし好みのやり口です。ちょっと感心しました。やりますね」
「うん。オレも意外だったんだけどね。なぜかなかったんだ、冒険者ギルドの監察部署ってのが」
タマキが感心するので、ややズレた受け答えをした。彼女に褒められると嬉しいよりも据わりの悪さが先に来る。
「……ああ、そういうことですか」
はぐらかすようなカイの言い様に、けれどタマキは一瞬だけきょとんとしたあと、何かを深く得心するように頷いた。
「何が?」
「いえ、この場では関係ない……わけではないですが、面倒なので後で纏めて話します。それより、貴方が騎士団所属であることはわかりましたから、わたしの最初の質問のほうに戻ってください」
タマキの最初の質問――『どのように戦争をするのか』。
「まあ、イリィの言ったように、ダンジョン周辺に軍隊を展開して防衛戦を行うっていうのは、やらない。それは現実的に言って不可能だから」
「不可能なんか?」セルが復活して疑問を言う。「これまでの戦争って基本防衛戦だろ?」
「王都や都市の周辺に軍隊を展開するんだったら防衛戦はできる。でも今回はまだ掌握していない土地で、しかもその土地は元は亜人の占領地だったところだ。簡単に言うと大規模な軍隊の兵站を整えることができないんだよ」
元貴族嫡子で冒険者のセルは当たり前に遺跡を使いすぎて忘れているのかも知れないが、亜人や魔物に対抗できるのは武装遺跡だけであり、その武装遺跡は数に限りがあるのだ。騎士団以下の兵士に行き渡らせられるはずもない。
王都周辺であれば、遺跡が造り出す武器(例えば手投げ爆弾。製造系の遺跡は大きい上に燃費が酷く悪い物が多い)を平兵士などに供給して戦力にすることもできるが、ダンジョン周辺ではそれが極めて難しいわけだ。
「しかも王都が警戒しなきゃいけないのは亜人だけじゃなくて、地方貴族とか豪族もなんだ。ダンジョンより先に王都を落とそうとするかもしれない。だから王都には最低限防衛できるだけの戦力を残しておかなきゃいけない。例えばシーグバーン卿みたいな、特に対人に有効な戦力は王都から動けないだろうね」
ちょうどいいので例に出す。
人間離れした――狂気じみた働きをするというのは、特に人間に対して有効なのだ。
簡単に言えば、相手をビビらせられる。
それを言えばミカル・コウデルコヴァーもそうなのだが。
「ミカルさんの場合は、対人に出させると非人道的とか言われかねないから、存在自体が最終兵器扱いになって最後の最後まで出されないんだよね。だから今回はダンジョンか亜人の軍隊か、どちらかの担当になってるはず」
規格外すぎるのも考え物だという話だ。
アリリルのアレを見た後だからセルは納得という感じではあるが、ガブリエラはシーグバーンを貶められたように聞こえたか、やや不満げである。
「それはともかく、どういう風に戦争するかっていうと、つまりはミカルさんを筆頭に、武装遺跡を装備できる少数精鋭の複数部隊が亜人の軍勢に強襲しての勢力削減と移動経路の誘導。一方に余裕があればダンジョンの掌握に乗り出して、可能ならばダンジョンを拠点化しようと動くはず」
ここでカイは調律の手を休め、マップを出して、車座になったメンバーの中心に広げた。
「で、ここからが機密。まず、これらが冒険者パーティが派遣されたと思しきポイントの予想図」
マップに直接書き込んでいく。
「予想図?」セルとガブリエラが同時に首を傾げた。
「さすがにオレも全部を知らされているわけじゃない。けど、これを予想するための機密情報は手に入れられたわけ」
ブラックリストの作成を行ったことに、自分たちやヘリヴェル一行が派遣されたポイントを加味して作製したのがこの予想位置だ。
「で、これらから想定できる、騎士部隊の動きがこう。
どっちにミカルさんがいるかで変わってくるんだけど、少なくとも騎士団と冒険者ギルドは亜人側の動きがこうであるって予想して動いているはず」
「なんか、騎士部隊の一部はすでにダンジョンに潜入していることになってるように見えんだが?」
「ダンジョン発見からすでに八日。今回のダンジョンは積極的に人間を排除しようとしないタイプであるってことは判明しているから、もう進入路くらいは見つかってるんじゃないかって予想」
「積極的に排除しな、い?」
「ダンジョン周辺には致死性の罠だらけの迷いの森が作製されていて、人間だからってその罠が稼働しないわけじゃないし、道が開けるわけでもないそうだ。
けどゴーレムとかは、人間を発見しても襲いかかってこないんだって。あえて襲ってくるわけじゃないってだけで、魔物を排除するときの攻撃範囲に人間がいても外してくれるわけじゃないってことだけど」
こんな感じの答えでいいか、とタマキに伺う。
要はカイも『どのように戦争するのか』を詳細までは把握していないのだ。
「冒険者パーティと動き方の実質は変わらないってことですね」
「そうなるかな。騎士団と冒険者は、討伐の主目的対象が異なるだけって見方はできる」
命令系統の違いなどもあるが、非常令の出ている現在はそれも同じだ。
「ふむ……。どうしましょうかね」
タマキが考え込む。
ようやくカイは、彼女が『魔王の所在の推定』をするために騎士団の動きを聞いたのだと察した。
「予定変更して、ダンジョンの攻略をしているはずの騎士パーティに接触しようと思うんだけど、どうだろう?」
気付いていない態で提案する。
「なんでだ?」
「ガブリエラさんの救援を行ったっていう報告を騎士団に挙げておきたいんだ。要は後々の辻褄合わせの材料を作っておきたい」
元々ダンジョンに潜入する前にこの報告は挙げるつもりだった。そして騎士団に籍を戻して、正式にダンジョン攻略の名分をどうにかねじ込もうというのが計画である。ここまでに溜め込んだポイントだけで充分以上に冒険者ギルドへの面目は立てられる。
カイは非常令以前に調律師としてダンジョン攻略に組み込まれるはずだったから、この辺りはどうとでもなるのだ。
前述した事情のため、騎士団の人手は不足しているはずだから、本来騎士団所属であるカイ率いるパーティは多少の慣例無視をしてでも欲しいところのはずだ。
「別パーティと合流するってことですか?」
「うん。だから――」
「わたしは一時的に離脱したほうがいいですね」
タマキの存在はこのメンバーとシェリル以外には秘匿しておかなければならない。
ミカルやタマキに誰よりも先に”魔王”に接触してもらわなければならないという都合もあるし、何よりタマキは予てより『機会があったら”魔王”に会いに行く』と言っていた。
良い機会だろう。
ダンジョンにタマキに付いてきてもらいたい気持ちもあるが、逆に、彼女がダンジョンと接触して何が起こるかわからないという懸案もある。何しろ彼女の推測が正しければ、ダンジョンが目覚めたのは彼女をダンジョンが探知したためなのだ。
せめて”魔王”のことが片付いてから、その何かを起こしたい。
「わかりました。ま、どうせ外れでしょうから、ちゃちゃっと片付けてきますね」
カイの内心の思惑を充分に汲み取った上で、タマキはそう言った。




