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転生賢者の弟子と転移魔女  作者: 久図鉄矢
序章:コネクター
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9.宿星

 ほどほどのところでカイから離れて、環は高い夜空を飛翔していた。

 もちろん意識の一部はカイに渡した通信用指輪――正確には装着者の意識のハッキングツール――に接続している。


 青いんだか老成しているんだかわからないあの少年のパーソナリティはそれなりに興味深いところではあったが、環にとって彼はあくまでも暫定パートナー。

 彼が装着したツールに意識を繋げているのは単なる保険であって、彼の人間関係の機微に深入りする気はないし、その必要も認めていない。まああんまりアレだったので多少口出ししてしまったが。


 本日の所、彼はもう寝るだけだろう。

 睡眠欲は環にも存在するが、時間がもったいないのでこうして高いところから王都を俯瞰するなど、この世界の情報を集めるのにこの夜は費やすつもりだった。


 そうは言っても、例えば点在する遺跡の反応を一つ一つ探っていくなどのことを考えているわけではない。

 環自身が探そうとすればするほどセンパイは遠ざかる。

 そういう性質なのだ。


 暗所を探るときに(暗視)するように、フォーカスを当てる所を、あえてズラす。

 それがセンパイと環が接触するときのコツだ。


 この場合で言えば、あえてセンパイとは無関係だと考えられるところから調べていく。


「センパイのことだからわかりやすい異能者ってことにはなってないですしね」


 だからコウデルコヴァー家は違う。無関係だろう。

 だからこそ調べる。


 この程々に破綻した論理具合が必要だ。


 今、コウデルコヴァー夫妻は王城にいるはずだ。

 さすがに王城の位置は人に尋ねずとも一目瞭然であり、けれどそれだけに大きく広いため、少しは当たりを付けておかないと面倒だった。

 王城に向けて、アリリルがやっていたように【視覚】で非幻象行使(エクサリファナル)する。

 カイが環の“魔力”を計測するために持ち出してきた遺跡のソースコードを参考にすれば――


 環が『果たして超絶美少女たるわたしが手メガネとかやっちゃって大丈夫でしょうか。でも演出っていうかネタって大事ですし、悩みどころです』とか寝ぼけたことを考えながら大きな“魔力”を検知しようとして、王城が“魔力遮断”されていることに気付いたその瞬間だった。


 ――王城のある一点で、“魔力”が発火(、、)した。


「うーん。わたし寝ぼけてますね」


 やっぱり睡眠は大事だ。

 亜人や魔物が魔力に惹かれるのであれば、巨大な魔力を持つ者が多数集まる王城などでは、基本的にその魔力の遮断ができるなんらかの遺跡が用いられていると推知することは容易かったはずなのに、見落としていた。


「挙げ句に逆探される始末ですよ」


 結構な距離があるので、その超音速で飛んでくる弾丸が到達するまでには一秒程度の時間が掛かった。

 避けることは難しくなかったが、別にそうする必要もない。


 ただの物質弾ならば、環をすり抜ける。

 正確には、すり抜けているように見せかけている。

 環が飛翔する際に風を起こさない理屈だ。


 弾丸は環の体表をなぞるように滑って背後へと回り、進入方向と同じベクトルで飛んでいった。


 明らかに単なる様子見の一発だったので、環は特にリアクションせずに中空で待機する。

 銃弾が放たれた次の瞬間には、翼のような遺跡を纏った女性がこちらに飛翔してきていたからだ。


「こんばんは。いい夜ね」


 妙齢という表現がとてもお似合いの貴婦人といった風貌だ。翼状の遺跡をスカートのようにして滞空し、微笑を顔に浮かべた女性は会釈する。


「こんばんは。確かに天気は悪くないですね」


 環もにっこりと微笑みながら会釈を返す。


「ええ。空で遊ぶにはいい日だわ。ところで、貴女はどちらからおいでになったのかしら。ここを王都の領空と知っていて?」

「領空という概念があることに今驚いているところです」


 察するにこの貴婦人は王都領空を守護する役割を持っているのだろう。てっきりダンジョン発見に伴う亜人の活性化を警戒しているのかと思っていたのだが、どうやらいつであろうと領空を下手に飛び回っては彼女に見つかってしまうのだ。


「先ほどの一発は、ここから立ち去れという意味だったのだけど、領空制度を知らなかったのならさもありなんね」

「いえ、威嚇射撃だったってことは理解してますよ、最初から」


 最初から当たるとは思っていなかっただろうことは明らかだ。

 なぜならこの貴婦人が環を察知したのが、環が“魔力”を行使したからなのであり、環が亜人ではないことはその時点で証明されている。

 王都の制度は未だに全容を把握しているわけではないものの、亜人以外の他国の人間に対して、ちょっと王城を探査しようとしたくらいで殺害するような気風でないことはヘリヴェルの件からも推知できることだった。

 王都は人間に優しくできている。

 従って、先ほどの一発は警告――国家中枢機構をみだりに探ろうとした者に対するちょっとしたお仕置きくらいの意味であろうというのは、最初から見当が付いていた。

 そもそもこんな上空を飛べるような存在に対してたかが銃弾一発でどうにかなるなんて考えるわけもない。それだけでも根拠として充分だ。


「あら?」


 婦人は緊張している様子を見せないというように緊張の気配を発した。


「では貴女は遊び相手をお捜しだったのかしら?」

「そうですね――」


 どうしようかな、と環が首を傾げるや、貴婦人は肩から銃杖を引き抜き、三枚刃の銃剣を展開した。

 あれに切られたら傷がどうしても残ってしまう。つまりは回復しづらい傷を付けるための仕様だと推測され、遺跡が本来向けられるべき魔物とやらはおそらく、多少の傷ならすぐさま回復してしまうのだろう。


「いずれにせよ、(わたくし)に同行していただかなければならないのだけれど」

「それは困りますね」


 仕方がない。

 先ほどからかなり強めの催眠を仕掛けているのに、まるで応えないのだから仕方がない。


「王都最強さんと戯れるのは畏れ多いかなって思いましたけど、仕方ありません」


 今の時点で連行されるのも、先が読めなくて楽しげではあるのだけど、カイに迷惑が及びそうだ。彼のことだから環を救いだそうとしたりするかもしれない。あるいは環が王都を滅ぼすことを防ぐためだろうが。


「あら、私をご存じ?」

「貴女みたいなのがごろごろいたら、それはそれで楽しそうですけど、まあいないでしょうからね」


 まあ言うまでもない。

 彼女はシェリル・コウデルコヴァー(旧名不明)で間違いないだろう。

 特に根拠を挙げるまでもなく、赤毛を栗毛に変えればアリリルの面影とそっくり重なる。

 因みにアリリルは垢抜けてはいないが、割と美人だ。


「そうね。私も若い頃はそう思っていたわ。私くらいのは世の中にごろごろいるって」

「今でも充分お若いですよ」


 皮肉ではない。三女の母とは思えない若さだ。この世界での女性用戦闘衣であろうレオタードが似合う三女の母はそう多くはないに違いない。


「ありがとう――」


 にっこりと品のある風情にシェリルは微笑み、ごく自然な動作で持ち上げた銃剣の切っ先を環に向けて、発射した。



†◇†



 ジャラジャラと音を立てる細い鎖の付いた銃剣に追われながら環は飛翔する。

 鎖の大本にはライフル型の遺跡と、それを操るシェリルがいて、彼女も鎖を辿るように飛翔している。

 しかも環が銃剣――というよりシェリルの意志に応じて自在に動く鎖を避けるのに合わせ、銃身内部で圧縮空気を破裂させて指向性の衝撃波を放ってくる。

 恐るるべきはその威力よりも、その威力からのノックバックを遺跡は完全に緩衝していることだ。

 撃つ度に飛翔速度が落ちるはずなのにシェリルは遅滞なく環へと猛追を仕掛けてきている。


 環はポーズとして、怒濤の波状攻撃と云えるそれらを躱す。


 空気震動波だろうと刃だろうと、環が展開している防御結界を捉えることなどできない。強いて言うなら鎖で囲んでしまえば一応環を捕らえることはできるが、そうなるとちょっとばかり本気を出さなければならない。それをしないためのポーズである。


 いくらシェリル・コウデルコヴァーの非幻象性が強いといっても所詮はヒトのそれ。


 魔女たる環とは比べるべくもない。


 魔女とは環のいた世界に於ける超越者の代名詞。

 条件さえ揃えば一言で局所的世界を崩壊させる。


 魔女とはヒトに非ず。


 言語から幻を熾し、幻から現へ実体を投影し、幻に非ざる(カタチ)とする。


 魔女とは現に非ず、幻にも非ず。

 夢幻にして夢現。

 境涯を揺蕩う玄理の(スフィア)

 その写/現し身(うつしみ)が魔女という存在だ。

 

 環のいた世界では、古き時代の魔女のほうが強い力を持っていたという誤解があった。

 実態は違う。

 そもそも幻想性とは現代の方が強い。合理性と幻想性が相反し、競合すると考えることが間違いなのだ。


 言語の象る現/幻の在り方が変容し、古き時代の魔女は駆逐された。幻想に呑み込まれてしまった。

 今代に適応した魔女とは、その変容した在り方を(つかさど)る。

 それは古き時代とは比較にならない規模の力だ。


――誰が創ったのか知りませんが、この世界は随分とわたしがやりやすくできていますし。


 今代魔女である環でも、非幻象を行使(エクサリファナル)するためには純粋な力が必要だった。

 元の世界では一つの都市を創り変えなければ満足にそれを行使できなかったのだが。


 けれどこの世界では――

 そもそも環がこの世界に意図せず転移してしまったことの原因の一つがそれだと推測される。


 元の世界の位相と大して代わりないのに、奇妙に馴染む。

 あたかも環が整えたあの都市(ふるさと)のように。


 きっとストールもこれに違和感を覚えていたのに違いない。

 例えば遺跡(アーティファクト)を元の世界に持ち込んだところで、この世界と同様の性能を発揮することはできないだろう。

 それでいて元の世界と同じ法則を、遺跡は内包している。

 訳がわからない言い様だと思うが、そうなっているのだから仕方がない。

 そこに彼は気付いたのだ。


 確信はしていても、その証拠を得るとなると厄介な課題になるのだけど。

 それに、その意味というか、『誰がどのような意図で以て』となると環にも見当が付かない。


 王都最強の一角とされるシェリル・コウデルコヴァーならばそのヒントになるかと思ったが――


「この程度だと、参考にできるかどうか微妙なところですね」


 確かにヒトとしては驚異的だが、それだけだ。

 ここまで非幻象性が育つには、確かに何らかの外因が必要なことは間違いないが、そこから根源へと辿るとなると難しそうだった。


 やがてシェリルの猛追が収まる。

 息切れしたというわけではないだろう。


 じゃらじゃらと鎖が彼女の手元に戻るのに合わせて環も普通に滞空し、改めて向き合った。


「ダメね。やっぱり、若い頃の私の所感は正しかったということかしら」


 シェリルは環が自分を誘い出そうしていることに気付いたのだ。

 環が距離感を幻惑させる動きをしていることに気付けただけ、彼女はやはり、アリリルと同じくいい【眼】を持っている。


 王城から離れすぎれば確実に用意されているであろうバックアップ――例えばミカルなどの救援――が届かなくなる。

 それに制空権を護持する役目を持つシェリルが王都上空から離れすぎれば、それだけで彼女の任務は失敗だ。


「というかその遺跡がわたしみたいな存在に対する兵装として向いてないんですよ」


 環としては、彼女の夫(ミカル)もできれば引き出せないかと思ってそんな仕掛けをしていたのが、気付かれても別に構わない。

 穏便に話し合いで終えられるならそれに越したことはないからだ。


 さすがにシェリルや彼女に伍する相手に本気を出されれば、この夜空は大層派手なことになってしまう。

 派手なことになれば収拾付けるのが面倒臭い。

 消耗させればいっかな彼女たちでも環の記憶改竄に抵抗できないだろうが、派手なことをして眼を付けるのが王都だけとも限らない。


 まだ環はこの世界に於ける自分の影響力がどれほどなのか量りきれていない。

 カイのせいとはいえども、すでにダンジョンとやらが起動するといった影響を及ぼしている。

 動乱惹起は魔女の宿命とは云え、だからこそできれば掌握できる範囲に自分を留めたいわけなのだった。

 宿命に抗うヒロインとかセンパイの趣味(ツボ)っぽいので。


「ご丁寧にありがとう。最初に聞いておくべき事だったのだけど、貴女は何者?」

「通りすがりのヒロインです」

「目的は?」

「あ、スルーですか」


 ツッコミ入らないと結構恥ずかしい。

 厨二感満載のオリジナル小説をWebにアップして感想が一つも付かなかったときってこんな感じなのかもしれない。

 

「あ、ええと、目的ですか? ちょっとヒトを探しているんですけど」


 くだらないことを考えていたせいで若干慌て気味の環だ。


「そうなの。その方を見つけられる目処はあって?」

「いえ、手当たり次第って感じですね、今のところ。ただ、なるべく他に迷惑が及ばないようにはしたいと思っていますよ」


 あくまでも平静な調子のシェリルのおかげですぐさま環の動揺も収まる。基本マイペースの環が調子を引っぱられているわけで、結局は動揺しているわけだが。


「私の立場として、貴女の言い分を全面的に信じたとしても貴女をここで見逃すことはできないの。それはわかっていると思うのだけど、かといって貴女には本当に悪意や害意があるように見えないのよね。きっと私を謀るつもりもないのでしょうし」


 困ったわ、と遺跡を抱えていないほうの掌を頬に当てて溜息を吐く。


「偉くなると大変ですね」

「わかってくれて?」

「まあわかります。要するに休戦合意ってことでいいんですよね?」

「そういうことね。できれば何か、そちらで用意していただきたいのだけど」


 迂遠な話運びに具体的な言及を避ける物言いは貴族生活によって育まれたのだろうか。

 つまりはシェリルが環を見逃すための言い訳を用意して欲しいと要求されていた。


「難しいこと言いますね。見なかったフリじゃダメなんですか?」

「難しいわね。私が出撃するということは、おそらく貴女が思っているよりも重いことなのよ」


 それにしてはレスポンスというか、環が逆探知されてからの対応が早かった気がするが、それだけ、こうしたことへのシェリルの判断力が信用されているということだ。勘違いでしたで済まされる余地がない、ということになる。


「貴女はあるいは王都のすべてを敵に回しても平気かもしれないけれど、厚顔を承知でお願いするわ。何か用意できないかしら」


 シェリルが出撃してなんの成果もなかったら、それは彼女の政治的地盤を揺るがしかねない。勘違いだったを言い張っても同様だ。シェリルの判断力が疑われる。


「わたしが一旦捕まって、その後こっそり逃げたのでも同じですしね……」


 むしろ部外者不可侵の王城にシェリルが不審者を招き入れたとして政敵に糾弾の口実を与えることになって、最悪の選択肢だ。


「わたしが誰もが納得する難敵だったので取り逃したってことを誰もが納得できる形で示せばいいんですよね、つまりは」


 それしかない。


「気は進まないけれど。そうね」

「でもそれってわたしが亜人や魔物の首魁クラスの敵だったってことにならないと無理じゃないですか? 同じ人間サイドの者に貴女が敗れたとしたら、結局貴女の政治的地盤が危ぶまれますよ?」


 亜人や魔物が具体的にどの程度、人間側を脅かしているのか環には不明だ。

 けれど大体は想像が付く。“魔力”による攻撃が効きづらいに違いない。それは遺跡の攻撃手段があえて通常物理現象に落とし込まれていることでも示されている。

 つまりシェリルが王都最強とされる根拠の一つである魔力の多寡が、必ずしも亜人や魔物に対して有効ではない。

 つまり、強力な亜人や魔物であれば、シェリルが敗れることはありえるし、それは人間側であれば誰もが同じ立場だ。

 政敵もそこに付け込もうとすれば自らの首を絞めかねないために、突っ込んでこない。


 もちろん多少はシェリルの威信が落ちるだろうが、ミカルが出撃していないという事実がある限り、コウデルコヴァー家の零落は避けられる。

 シェリルには実力があるわけで、いずれ挽回もできるだろう。


 しかし、

 環が探知されてしまったのは、魔力を放ったからだ。

 亜人や魔物は魔力を持たず、少なくとも遺跡を用いることはできないと聞いている。

 従って状況的にシェリルは遺跡の不法使用者――人間を取り締まるために出撃したということになる。

 それに敗れたとなれば、王都最強――人間側でトップクラスの戦闘技能者であるというシェリルの立場は危うい。

 ただでさえペテンを疑われているのだし、これは挽回不可能だろう。


「それならご心配には及ばないわ」


 微笑むシェリルに、はて? と環は首を傾げる。


「今最も大きい勢力の亜人を率いている者は、なぜか遺跡を用いるの」

「え? それっておかしくないですか? 確か、亜人って魔力や遺跡を前にすると理性崩壊するんですよね?」


 あるいは環がそれなのだということにしろということだろうか。亜人側の勢力を率いてこいと?

 なんだか話の雲行きが怪しくなってきた。いや、最初から怪しいが。


「そう。ごく一部の者しか知らないことで、本当に不可解なことなのだけど――何故か、彼は亜人からも魔物からも攻撃を受けないのよね」

「……」


 唖然として環は、はしたなくも口を開きっぱなしにした。


「貴女はそれだったということにしてもらいたいの。幸い、貴女の姿をはっきり目視できたのは私と夫くらい。充分に彼だと言い張れるわ」


 愕然とする環を至極当然のように受け止めて、シェリルはその提案の核心を告げるが――違うのだ。


 環が唖然とするのは、あまりにも露骨すぎたからだ。

 露骨すぎてミスリードにしか見えない。

 けれど、その裏を搔いてくるかもしれない。


「どうあっても、わたしはそういう星なんですね」


 いずれにせよ、関わらなくてはならない。

 確かめて、可能性を潰していかなければならない。

 宿命だ。


 地上に溜息を一つ、落とす。


「了解しました。じゃあ――申し訳ありませんが、少し痛い思いをさせてしまいます。派手なほうがいいですよね?」


 夜空の星に手を翳す。


「こちらこそ、申し訳ないわ。厚かましいお願いに気を遣っていただいて、どうもありがとう」


 もちろん死なない程度に威力は加減するつもりだが、シェリルはあたかも死刑執行を粛々と受け容れているかのようだ。

 それだけ、この無茶な自分の判断を、信じている。

 信用できるはずもない環がこれからすることを疑いもせずに。


「いいえ――」


 環は“痛くすること”の申し訳なさに眉をひそめながらも、翳した手を振り落とした。




†◇† 




 その日、王都領空の片隅で、一つの星が墜ちた。

 それは夜を一瞬だけ昼にするほどの瞬きであったという。

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