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世界不思議発見!謎のクロロンポニーを追え!

黒髪ロングポニーテール、通称クロロンポニーは至高である。という事は地球が丸いという事実よりも当たり前であるが、その理由は咄嗟に思いつくだけでも三つある。

まずは黒髪。

最近は生まれ持った黒髪をわざわざ染めてまで変える愚か者が増えているが、全く以って言語道断。

日本男子として生まれてきたからには「大和撫子万歳!黒髪女子万歳!」という思考は、共通の認識である筈だ。少なくとも俺はそう強く断言したい。

 次にロングヘアー。

 黒髪が一つ目にきたならば、ロングヘアーがくるのは当然。そう、太陽が東から昇るのと同じぐらい当然の理である。

 さらりと視界を流れていく黒髪はやはりロングに限る、うむ。この威風堂々たる威容に敬意を払う事こそ日本男子の誉である。

 そして、最後にポニーテールだ。これだけは外せない。

 例え黒髪とロングという二大要素を兼ね備えても、ポニーテールという第三の要素がなければ豚に真珠!猫に小判!宝の持ち腐れというものだ。

 勿論黒髪・ロング・ポニーテールの三種の神器の魅力はこれだけに留まらないのだが、その魅力を詳しく解説しようと思えば一日を丸々使っても足りないので割愛する。

 だがこれだけははっきりと言っておきたい。「俺が日本で最も黒髪ロングポニーテールを愛している男なのだ」と。

 黒髪・ロング・ポニーテールの美少女を想像するだけで興奮して夜も眠れない。毎晩夢に出てきては楽しい新婚ライフを満喫している。夢の中では。

 それほどまでに黒髪ロングポニーテール、”クロロンポニー”を愛する俺だが、クロロンポニーは年々数を減らしている。実に嘆かわしい。

 彼女達の人格を否定するわけではないが、この事実は耐え難い。何せ脳内嫁との新婚ライフが、二次元・三次元を問わず脅かされているのだから。

 嫌気の差した俺がいよいよ現実からバイバイする計画を本気で考えていた中学三年生の冬、県立高校受験の日、女神を見つけた。





 初めて会った時の彼女の姿は今でも鮮明に残っている。

 教室に差し込む、まだ冬の寒さを残したままの日光に当てられ光沢を帯びた美しい黒髪!

 まるで一本一本が絹糸か何かでできているように細く、長く、さらりとなびくロングヘアー!

 そしてその艶やかな髪を綺麗に束ね、ポニーテールにしている。位置も長さも申し分ない。完璧なバランス。

 髪型もさる事ながら容姿も凄まじかった。

 服の上からでも分かるほどに完成された四肢は、最近の女性にありがちなスリーサイズにのみ重点を置いたスタイルの良さではない。

 どこか鍛え上げられた日本刀を思わせるような細すぎず、太すぎない四肢だ。しかも姿勢も抜群に良い。

 その四肢に更に精彩を持たせているのが顔だ。

 整った目鼻立ち、少々ツリ目がちであり見る者にキツい印象を持たせるが、それが結果的に完璧だがどこか無機的な彼女の容姿に生命の彩りを与えている。

 正しくそれは俺が思い描いた脳内嫁さながら、いや、それ以上の美少女だった。

 あまりの衝撃に面食らって口をパクパクしている俺に試験監督らしき教員が着席を促した。その言葉で我に返り、同じ中学で偶然同じ教室になった数人から「何この痛い奴」的な視線を受けつつ、俺はすごすごと着席した。

 しかし、まさかこんな理想的な女の子が実在していようとは!是非、お近づきになりたい。そのためにもまずきっかけを作らなければ。だが、どうやってきっかけを作ったものか。

 そんな事を考えていると、チャイムの鳴った音で現実に引き戻された。反射的に時計を確認すると、十二時半、アレ?十二時半?

 え、マジで?

 今度は腕時計を確認する。確かさっきまでは八時半を指していた筈だ。しかし、今指しているのは十二時半。何度確認しても十二時半だ。

 オイオイふざけんなよ!

 凄い勢いで顔から血の気が引いていくのを感じる。

 俺の心が平衡を失いそうになるのを、何とか「午後のテストで挽回する」と言い聞かせて誤魔化す。

 とりあえずクロロンポニーの美少女は後回しだ。彼女に気を取られて入試に落ちたんじゃ元も子もないしな。




 日が西に傾き始めた頃、やっと午後のテストも終わり受験生達は同じ中学の奴らで集まってダベるか早々に帰路に着く者が大半だ。

 俺はというと当然テストが終わった瞬間、一目散にあのクロロンポニー美少女の元に近寄っていった。

 とりあえずいくら考えても自然なきっかけ作りが思い浮かばなかった以上、下手に策を講じるよりは真正面からぶつかっていった方が良いと考えたわけだ。

 彼女は特に帰る様子もなく、かといって同じ中学の連中と喋る事もなく、朝と同じようにきっちりとした姿勢でまるで一つの芸術品のように座っていた。

 ただ、朝と違うのは一人黙々と携帯と向き合い何やら一所懸命に文字を打ち続けている。

 そんな所に水を差すのも気が引けたが、俺は兎に角きっかけが欲しかった。

 何せこの受験に落ちていたら、次に会える保証なんてどこにも無いんだから。

「あのさ――」

 すると彼女は唐突にすっと立ち上がって鞄を持ち、そのまま俺の存在にまるで気がついていないかように足早に教室を出て行った。

 何が起こったか理解はしているものの思考が追いつかず、十数秒程立ち尽くす。

 やがて思考がまとまってくると、「これは避けられたのだろうか?」「彼女を追うべきなのか?」という問いが心をよぎる。

 おお、何たる悲劇!俺の淡い恋はこの瞬間終わった―――

 いや待て待て。まだ結論を出すのは早い!どちらかというと俺の存在に気がつかないぐらいに他の事に必死になっていたような感じだったし、始まりもしない内から脈が完全に 途切れたというのは結論を出すにはいささ早計だ。

 だが、ここで追いかけるのもストーカーのようで嫌な感じがする。

 どうする!?どうするよ俺!

 結論から言おう、煩悩には勝てなかったよ……。

 俺は一目散に教室を駆け出し、廊下を駆けて、階段を下り、昇降口へと抜けた。

 しかし彼女の姿はどこにも見えなかった。急いでいたようだし、多分もう駐輪場に向かったのだろう。

 受験生用の駐輪場は確か一箇所に決まっていた筈だから、急げばまだ間に合うか?

 俺は昇降口から駆け出して、一直線に駐輪場へと走る。

 居た。既に彼女は駐輪場から自転車を出して校門から出ようとしている所だった。多分だが、このまま走ったのでは追いつかない。

 うおおお!目覚めよ俺の本能!迸るパッション!

 俺のクロロンポニーへの愛は、こんな所で潰えるようなヤワなもんじゃあない筈だ!

 クロロンポニーの生み出す無限のエネルギーで身体の内側が熱くなってくるぜ!

 覚醒した俺は神速のスピードで自転車に跨り、彼女の後を追い校門を抜ける。

 だが、既に彼女は跡形も無く消えていた。どんだけ早えーんだよ。

 名残惜しいが、行き先も分からないんじゃどうしようもない。仕方なしにチャリを漕ぎ出そうした俺はある事に気がついた。

「……教室に鞄忘れた。」





 その後、教室に鞄を回収しに戻り、特に他に忘れ物が無いか一通り確認した後、万全を期して帰路についた。

 俺の家から県立高校までは直線距離で凡そ三キロほどあり、丁度その中間地点にある駅前商店街を斜めに跨ぐようなルートになっている。

 駅前の商店街は時間が時間という事もあり、割と閑散としている。特に予定の無い俺は家に帰りがてら、左右の商店を眺めつつダラダラと走行していた。

 特に何も考えずに走っていた俺だったが、ふと目に入った人物につい足が止まった。さっきのクロロンポニーだ。

 彼女は商店街の大通りから少し路地に入った部分で男と話していた。見た所、30台半ばぐらいだろうか。

 盗み聞きは良くないが、どうせ乗りかかった船だと思い、近くにチャリを止めこっそりと路地の曲がり角に身を潜める。

 ここならギリギリ二人の話し声が聞こえる。

「やはり、駄目ですか?」

 この声は、クロロンポニーか。ぐへへ、見た目通り良い声してやがる。

「そうだねぇ。年齢偽ってたのもそうだけど、君ぐらいの歳の子を雇うとなると色々問題もあるしね〜。鶴来ちゃんは良い子だし、良く働くだけど流石にちょっと難しい部分が あるんだよね。ごめんね。」

 それを聞くと彼女はうなだれた。げへへ、うなだれる姿も可愛いなぁ。

「ごめんね。でも君の家の事情は分かってるから、今月のは少し多めに入れておいたよ。だからあんまり落ち込まず、次のが見つかるまで頑張って欲しい。」

「有難うございます。」

 そう言って彼女は頭を下げて、こっちへ向かってきた。

 ヤバい、逃げるか?でも間に合いそうにない。だったらいっその事、こちらから仕掛けるか。

「や、やぁ。さっきぶり。」

 我ながら、実に不自然だ。事実、彼女の方も困惑した顔をしている。しかし、こちらとしても話すきっかけを逃すわけにはいかない。

「あ、いや何ていうかさ。ほら、さっき受験会場で話しかけたじゃん?あの時、何か凄い余裕無さそうだったから悩み事でもあるのかなーとかあるなら俺に相談して欲しいなー なんて思っちゃったりとか……はは、自分で言ってて意味分からねぇや、すまん。」

 自分でも何を言ってるのかさっぱり分からない。しかも喋れば喋るほど墓穴を掘っている気がする。

 そもそもにして、今日あったばかりの子を追い掛け回す時点でストーカーばりに気持ち悪い子だしな、俺。

 だが、彼女から返ってきた反応は俺の予想とは違っていた。

「成る程、貴方が。」

 え?と困惑する俺をよそに彼女はさっさと俺の事など無視してすたすたと歩き始めた。

 彼女が俺の横を通り過ぎる時、長い黒髪のポニーテールが微かに俺の顔を撫でた。良い匂いがした。

 それと同時に、俺の鳩尾辺りから得体の知れない感情が沸々と湧き上がってきた。

 何故か彼女を呼び止めたい衝動に駆られた俺は、彼女の方を振り返り

「待ってくれ!」

 そう言うと、彼女の足がぴたっと止まった。だが、その次に言うべき言葉が思いつかない。

 こういう場合何と言ったら良いのだろうか。彼女が俺の方を振り返る。俺のかけるべき言葉は―――

「お、俺と一緒に世界を目指さないか!?」

 俺は自分史上、最高に爽やかなスマイルで親指を突きたてながらそう言った。

 何故、こんな言葉が口を衝いて出たのかは分からない。ただ何となく、空っぽの頭にポっとそのフレーズが浮かんできたのだ。

 後悔は、してる。かなり。何というか、俺はどこに向かおうとしているのだろうか?

 すげーな俺、ここまで完全に滑った言葉を叫べる人間って日本中探してもそうそう居ないんじゃなかろうか。マジすげーわ俺。

 しかし、当の彼女は実に不可解な事に笑いながら俺の手を取って固く握手を交わし

「ああ、一緒に頑張ろう。」とのたまった。

 とりあえず何を頑張るのか、そもそも、自分で言っておきながらどこの世界を目指すというのか。

 俺は1ミリたりとも分からなかった。

 だが、彼女が乗っかってくれる以上はこのチャンスを逃すわけにはいかない。

「お前ならそう言ってくれると思ってたよ。」

 ふっと髪をかきあげる俺。平常心。平常心。

「俺の名前は大川 梓って言うんだ、宜しくな!」

「私は鶴来。鶴来 由美奈という。こちらこそ宜しく頼む。」

 全くわっけわかんねーけど、何か良い感じじゃないか!?

 こうなったらいける所までいってやるぜ!

「とりあえずだ。これから胸を借りるという意味でLINEでも交換しないか?」

「ああ、構わないぞ。」

 マジで?いくらなんでも上手くいきすぎじゃね?

 これホントに現実なのかな、何か疑わしくなってきた。

 実は夢でしたーなんてありきたりなオチだったら、俺悔しさで舌噛み切っちゃうかも……。、

「どうした、早くIDを教えてくれ。それとも私が教えた方が良いか。」

 そんなクロロンポニーちゃんの言葉で現実に引き戻される。

「じゃ、じゃあ俺の方から教えるから。友達してくれると嬉しい……な?」

 俺めっちゃ声上ずってるんだけど!しかも何で疑問形?

 完全にテンパってるのが自分でも分かるぜ!

 俺は震える手で、スマホを操作し半分掠れた声で彼女にIDを伝えた。

「よし、送ったぞ。」

 きてる、きてますよ!人生で初めての女の子が!!ボクのスマホに!!!

 そして友達追加のボタン、プッシュオン!コマンドインストール!

「ふ、ふふふ……。」

 やべえ、興奮しすぎて変な笑いがこみあげてきた。

 きっと傍からみたら世界一気持ち悪い顔してんだろうなぁ、俺。

「じゃあ、改めて……。」

 俺は彼女に向かって手を差し出す。

「よろしくな、鶴来。」

「ああ、こちらこそ宜しく頼む。」

 彼女は俺の手を強く握り返した。

 くぅ〜!めっちゃ可愛いんですけど!惚れてまうやろ!

 そんなわけでこうして俺達二人は初めての出会いを果たしたわけだ。

 さて、全くもって意味不明な出会いを果たした俺達が一体どんな未来を歩むのか。

 待て次回!!!

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