第六話《ドン引きされても構わないッ! 人型スライムに抱き着かれるのが俺の夢なのだ!》
三度目になるピリピリとした感覚が、尻尾の先からじわじわと進行して来る。とぐろを巻いていたからだろう、スライム化し大蛇の境目が曖昧になる。そのせいか『ズンッ』という衝撃と共に下半身が一気にスライム化してしまった。慣れもあり、まぁ大丈夫だろうという考えが甘かった。巨大なジェルの塊となった下半身に、俺の上半身が背中から落ち、沈み込む。白い天井が見えた。そして視界はすぐにエメラルドグリーンで埋め尽くされた。キラキラ光るスライムを『あぁ、綺麗だなぁ』なんて思ったのも束の間、あのピリピリが上半身を襲う。体調が悪い時のようなグルグル回る目眩に見舞われ、全身のピリピリ感もより強烈なジンジンとしたものに変化する。痛いのか? 苦しいのか? 気持ちいいのか? 身体の輪郭が溶けて行く。自分の形が維持出来ない。息が出来ない。頭の中が真っ白になり何も考えられない。そもそも『頭』なんて既に溶けて無くなっていて。なにもわからない。あれ? なんだっけ。えーと、ま、いっか。
◆ ◆
「はぁ、あぅ、はぁ、あれ、はぁ、けほっ」
「ん、やっと起きたか」
「あれ、俺、何してたっけ」
横になっていた俺は、ふらふらしながら上半身を起こす。自分の手を見てみるとスライムまみれで、何故かガクガクと震えていた。
「貴様、変身を甘く見ていただろう。我がついてなかったら危なかったぞ!」
「いや女王、女王がついてなかったら、そもそも変身できない、か、ら!?」
背後からの声に振り返ると、そこにはスライム娘が立っていた! マジか! 寝て起きたらスライム娘と御対面! 果報は寝て待て! うっひゃぁぁあああ!!!!!!!!!!
◆ ◆
「この姿は長くは持たないし、別に貴様と分離した訳でもないんだぞ。あくまで貴様の出した粘液を利用した仮の姿だな」
「舐めても良いですか」
「やめろ!」
スライム状態で暴走してしまった俺の余分なジェル部分を、女王が上手いことコントロールしてくれたらしい。俺がモン娘化に慣れたように、女王も俺との融合に慣れつつあるようだった。そしてその余ったスライムをまとめて人型にしたモノを、女王が遠隔操作しているのだ!
今の女王の姿はスライム幼女ではなくスライム少女だ。半スラ状態ではない完全なスライム娘で、エメラルドグリーンに透けた、見事な、最高に美しいお姿である。
俺が最初にスライム幼女王に襲われた時、女王は人の形をしていなかった。つまり、あの時の俺はドロドロのジェルをぶっかけられた状態だった訳だ。確かに、スライム娘に纏わり付かれて捕食されるという願望は叶ったのだが、しかしだ。
「女王様、俺に抱き着いて下さい。そして、そのまま俺と一つになって下さい! 俺と融合して下さいマジで!」
「うわぁキモい……」
ドン引きされても構わないッ! 人型スライムに抱き着かれるのが俺の夢なのだ!
「そうだ、いくら切り離されているとしても、元々は俺の一部! きっと操れる操作できる動け動け動け」
「なんだその執念! あ、もう溶けてきた」
「もったいない! あ、そうだ」
ひらめいた俺は、息を整え言う。
「女王様、私、女王様のことが、大大大大、だーい好き、なんですよっ! ……愛してます」
きゃぴーんみたいな効果音が出たと思う。最高可愛いポージングで決めた後、背中を向けて小声で『愛してます』と呟く感じも、良い感じ!
「おぅふ、確かに可愛いな貴様……仕方ない、やってやるぞ」
やった! 深い深ーい溜め息ついてたけど、やってくれるのなら構わない! さぁカモーンスライム娘ちゃん!
◆ ◆
「それじゃ、いくぞ」
「お願いすます!」
両腕を広げて立っている全裸の俺(美少女)に、同じく両腕を広げた女王(スライム娘)が抱き着く。ちなみに女王の今の身長は、俺より少し低いくらいである。俺が160cm無いくらい、女王が150cmくらいか。女王は身体を密着させ、背中に手を回す。スライム娘の身体は、ひんやりしていて気持ち良かった。胸に顔を埋めて、上目づかいの女王。顔が近い、ヤバイ可愛い! 髪や瞳などの全てがクリアグリーン一色で、スベスベで突起の少ないスライム娘だが、一応顔のパーツは認識できる。当然その顔は、さっき写真に撮った俺(美少女)と同じもので、あ、しまった! 先に写真撮れば良かった! えぇい、もう引き返せない! 最後までやるぜ!
女王は脚を俺の脚に絡める。俺が後ろに倒れ込むと、仰向けの俺に女王が馬乗りになる形となった。女王は俺に頬擦りするように、ペターっと覆いかぶさる。すると密着した部分が溶け始めた。俺も自分の身体をスライム化させる。女王の身体と俺の身体の境が無くなり、女王の身体が徐々に俺に沈んでいく。溶けた女王のジェル状の肉体が俺の全身を包み込み、そして。
「はぅ」
俺と女王は、再び完全に融合したのであった。
◆ ◆
「女王様! 次はケンタウロスとハーピーのどっちが良いですか!」
「ちょっと待て、余韻とか、なんかないのか!」
「女王様、大好きですよっ」
俺は自分自身を抱きしめるようにして、最高にプリティなボイスで囁いた。
「うふぅ」
さぁ、次は第三の変身だぜッ!
第六話:おわり