第五話《ちょっと照れ臭いけど、でも私、頑張ります!》
「うわ、もう夜中じゃん。え? 俺そんなに夢中になってた?」
「我は時間の概念とか人間と違うから、よく分かんないぞ」
自分の写真を撮る為にケータイを開く俺。画面に表示された時計を見ると、思いの外時間が過ぎていた。この『箱』に入ったのが夕方頃なので、6、7時間くらい経ってる? 楽しい時間はあっという間だね!
「家に帰え……らなくて良いやもう。俺ここに住むね?」
「え、いや、まぁ、うん、えーと、あの」
超嫌がってる! でも断りきれない! 俺を気遣う良い子だ!
「分かった女王様! 俺、一通りモン娘に変身したら帰るからさ! それまで、ね? それまでの辛抱だから!」
気を遣う女王に、俺も気を遣ってみる。
「ま、待て! それはそれで困る! 我の目的を手伝ってもらうぞ!」
あ、やっぱり困ってたんだ、俺がここに住むの。
「そっかー。うん分かった、手伝う。手伝うけど、その『目的』って結局何?」
『百獣の女王』の目的は、何だっけ、モン娘の宣伝とかそんなんだっけ? 何かフワフワした感じだった気がするので、固めてくれないと手伝いようがない。
「我の、目的……」
女王が悩み始めたので、その隙に自分撮り撮影会開幕ッ!
◆ ◆
「……!」
蛇に睨まれた蛙、という例えがある。蛇に睨まれた蛙は身動きが取れなくなる云々というヤツだが、今の俺は正にそれだった。ただし、睨まれている俺も今は蛇なのだが。そして睨んでいる方の蛇も、ケータイの画面に写された俺だった。正確には睨んでいるのではなく、むしろ満面の笑みで、その笑みがめちゃくちゃ可愛かったのだ。ぶっちゃけモン娘とか抜きで普通に可愛い。ヤバイ一目惚れだ。
肩まで伸びた、銀に近い白い髪。赤みがかった瞳の優しい目。本当に楽しそうな笑顔を浮かべた、十代後半から二十歳前後くらいに見える美少女である。その顔は初めて見るはずなのに、どこかで会ったような……?
「あ、女王様……!」
そうか、よく考えればそうだ。女体化した今の俺の姿は、あのキメラ幼女に似ているのだ。一瞬しか見ていないが、ロリコンじゃない俺でさえ可愛いと思ってしまった、あのキメラ幼女。キメラ幼女が成長したら、きっとこんな顔になるのだろう。どこか日本人風なのは、融合した俺要素が混じっているからだろうか。
さて、実は俺は、モン娘だけじゃなく、眼鏡っ娘にも萌えるんだ。待ってくれ、誤解しないでほしい。俺はモンスター娘が大好きだし、眼鏡っ娘も大好きだ。だが、モンスター娘に眼鏡をかけさせるつもりは無い! モン娘はモン娘、眼鏡っ娘は眼鏡っ娘で別物なのだ! だから、ラミア状態の俺が眼鏡をかける事は無い! けれど、だ。NOTモン娘状態なら、良いよね? 某巨大ヒーローは変身する時に眼鏡をかけるが、俺はモン娘に変身する時に眼鏡を外す……それで良いよね? つまりは、この美少女には俺がいつも持ち歩いている『赤縁眼鏡』が最高に似合いそうだって、そういう話だよ!
さてさて、眼鏡の話はさておき。これで美少女(仮)が美少女(確定)になった訳だが、こんな美少女なのに喋り方とか動きが俺のままなのは勿体ない。完璧なラミアの動作を実現した俺なら、美少女らしい言動や動作も実現可能、だろうか。うーむ、とりあえず、ケータイの録音機能で何か台詞を喋ってみよう。
「……好き、だよ。ち、違うよ? モンスター娘が、だよっ!」
「貴様は何をしている?」
女王、復活!
◆ ◆
「貴様には、我の変身能力の全てを教えてやる! 我と同等のチカラを得た貴様がこの世界で何を成すか、我が見届けてやるぞ! ふはははっ!」
中二病ッ! って、あれ? 結局ノープランじゃね? しかし不満も無いのでツッコまない!
「う、嬉しいです女王様! 私、女王様のお役に立てるよう、精一杯がんばりますねっ!」
きゃるーん、みたいな効果音が出たんじゃないかと思う程の、見事なポージングが決まった! モードラミア状態なのを生かした美しいエス字の曲線美に、ギリギリぶりっ子にならない程度の見事な腕の動き! そして、自分があの美少女フェイスである事を意識した上での『ちょっと照れ臭いけど、でも私、頑張ります!』的なはにかみ笑顔! 麗しい美声も合わさり、こりゃヤベェよ。
「だから貴様は何してるんだ……? ポーズ取っても我には見えないだろうが」
「しまった!」
早く携帯のカメラを! あぁ駄目だ! 腕を伸ばしても全身が写らない! セルフタイマー機能とか使った事ねーよ!
「試行錯誤してる所悪いが、貴様そろそろラミア化から戻らないか?」
「くっ、致し方ない……いずれ必ず、この姿を写真に……!」
泣く泣く俺は、次のモン娘への変身へとステップを進めるッ!
◆ ◆
思い出してみよう。最初にスライム娘へと変身した時、俺の身体がどうなったのか。苦痛とも快感とも分からない、むずむずした感覚が内側から溢れてきたモードスライム。今思えばあの時、頭の中が真っ白になった状態が収まるまでに、長い時間がかかったのだ。
そしてさっき、ラミアに変身する際に下半身をスライム化した時。全身スライム化ほどではないにしろ、同じ感覚が下半身を襲った。
それを踏まえた上で女王の話を聞いた俺は、ちょっとヤバイんじゃないかと思ったワケだ。
「ラミアから戻るには、変身した時と逆のことをやればいいぞ」
「……つまり?」
「だから、下半身をスライム化させて、引っ込める感じ」
6mはあろうかという大蛇の下半身を持つ俺。その大蛇が一度に全てスライム化したならば、全身スライム化の時以上のアレな感覚でアレな事になるのは目に見えているじゃあないかーッ!
「どうした貴様、他のモン娘になりたくないのか?」
「なりたい!」
えぇい! 別に痛い訳じゃないしまぁいいか!
◆ ◆
まず俺は、下半身でとぐろを巻いた。ぐるぐる巻いた蛇の山のてっぺんに俺(美少女)の上半身(裸)が乗っている形だ。深呼吸し、覚悟を決めて、下半身を一気にスライム化させる。
「ふぁ、はぅん」
蛇の部分がジェル状になったのだ。当然、上に乗っていた上半身がスライムの中に沈み込む。
「あっ、やば」
上半身が沈んだ部分に、何とも言えない感触。歯医者で口の中に麻酔をして、感覚の無くなった唇を触ったような感じだろうか。その直後、強烈な快感が全身を襲った。半スラ状態を維持できなくなった上半身も完全なジェル状になり、俺は、あれ、なんだっけ、あれ? あれ?
第五話:おわり