第十七話《色々とごちゃごちゃしている。しかし元を正せば、俺はモンスター娘になりたいだけなんだ》
『キメラ』とは複数の生物が合体したモンスターである。キメラ、合成獣のモンスターと言えば、スフィンクスやキマイラなどが上げられる。キメラ型のモンスターは登場する作品毎に、オリジナリティに富んでいるんじゃないかと思う。そう、組み合わせは自由自在なのだから!
ともあれ、複数のモン娘の特徴を兼ね備えた美少女となれば、こりゃあ楽しみだね! 俺が始めに見たキメラ幼女は、獣耳、ハーピーの翼、魚の鱗、トカゲのような尻尾、という組み合わせだった。今度は俺がキメラ娘になる訳だが、やはり変身後の姿は、俺が練習した八種類のモン娘の合成になるのだろうか?
鱗が光るラミアの尻尾、モフモフ羽毛のハーピーの翼、メスの薫りを放つケンタウロスの巨体、甘い蜜が滴るアルラウネの花弁、粘液をまとった人魚の鱗、怪しく艶やかなアラクネのボディ、無数の触手が蠢くスキュラの脚、美しく輝くスライム娘の身体を経て、華奢な少女の肉体に全ての人外が集約される……!
◆ ◆
「少しずつ、組み合わせを変えつつ試しながら合成すると良いぞ」
「なるほど!」
椅子に座ったハオン星人が遠くから見つめる中、俺とスライム娘状態の女王は『モードキメラ』講座を始める! 服を脱ぎ眼鏡を外し、全裸になる俺!
「変身! ミックス! キメラ娘! ハハーッ!」
ふぉぉお! なんか緊張する! 見られてるのも合わせて、なんかゾワゾワするよ!
「女王! これが武者震いってヤツですな!」
「知らんわ!」
うふふふ、それじゃまずは、どうしてくれようか! どうしよう?
「女王、どうすればいいの?」
「うむ、別に変身出来るのは一回きりって訳じゃないんだ。貴様の欲望のままに変身すればいいんじゃないか? 大丈夫、暴走したら我がすぐに止める」
腰に手を当て、胸を張るスライム女王。
「お、おっぱいが凄い!」
「早くやれ!」
◆ ◆
女王の頼もしい言葉に背中を押され、俺は最初のキメラ化に挑む! パターン1だぜッ!
「まず、ベースはケンタウロス娘!」
床に横になり、下半身をスライム化させる。ズルズルとお尻を伸ばす感覚にゾクゾクしながら、馬の身体を作り出す俺。四本の脚で立ち上がると、緊張のせいだろうか、すでに濃厚な獣の匂いが漂ってきた。鼻を突く汗の匂いで余計にドキドキしてくる!
「ふぁ、ふふふ、女王、次はラミアいきますよー」
ケンタウロスのお尻をスライムに変える。初の二段階変身に、胸の鼓動が高鳴る。馬のお尻部分が熱くなり、そしてズルンとした衝撃。
「んぁ、ふぅ、ふぅ、ふぁ、ふふふ」
内側がもぞもぞする感じを伴い、引っ張られた馬のお尻が蛇の尻尾になっていく。2mほど伸びたラミア部分のスライム化を解くと、白銀の毛並みと緑の鱗が混ざり合った、不思議な状態の身体が出来上がる。
「はぁ、はぁ、できた。次は、じゃあハーピー」
俺は両腕を左右に突き出す。突き出した時には既にスライム化が始まっており、床に粘液が飛び散る。指を引っ張られるむずかゆい感覚と共に、大きな翼が完成する。
「ふふ、ふふふ、腕だけなのに、すごいジンジンする。すごい痺れる。すごい気持ちいい」
次は、そうだ、スキュラいってみよう。
「スキュラ〜、触手〜、スキュラぁ〜、触手ぅ〜」
少女の身体と馬の身体の境目近く、腰周りをお腹から背中までぐるりとスライム状態にする。そしてその、馬で言う首の周りの部分を少しずつ伸ばして触手にしていく。
「うぁ、うふふ、ふぁ、ふふっ、んぐっ」
下腹部がビリビリする。心臓が早鐘を打ち、それに合わせて快感が腹に響く。
「あっ、うぁっ」
ガクガク震えた馬の脚では身体を支えきれず、がくんと転んでしまう俺。スライム状態の触手がベチャリと床に溶け、ただただ俺は痙攣していた。
「はい終了!」
スライム女王が俺の脇腹に手を突っ込み、うわ! 超くすぐったい! 俺は最初のキメラ化を終えたのだった。
◆ ◆
「女王、すぐ止める言った! 実際、かなり粘った!(スライムだけに)」
「なんだ、もっと早くに止めてほしかったのか?」
「いえ、丁度良かったです」
気を取り直してパターン2だ! さくさく行くぜ!
「次はアラクネベースでいきます!」
床にうつぶせになった俺は、ケンタウロスと同じく下半身をスライム状態に変える。そして、脚から粘液を噴出するイメージで下半身をスライムの塊にしていく。
「やっぱり、ジンジン、すごいよぉ」
脚を作りアラクネの造形が完成したら、そうだな、アラクネの脚をハーピーの翼に出来るかな?
「んっ、はっ!」
蜘蛛の腹を床につけ、八本の脚を全て羽根に変える。
「んっ、あっ、あっ、うわっ」
スライム化を解くと、細長いアラクネの脚が羽毛で覆われた翼になっていた。
「飛べるのか!? 飛べるのか!?」
なんか別の意味で興奮してきた! 羽ばたけ俺! 一瞬浮いた俺はバランスを崩し、顔面を床にぶつけた!
「はい終わりー」
女王の声が聞こえた気がした。
◆ ◆
「はっ! 俺はいったい!? 確か俺はスライム娘とイチャイチャしていたはずだが!?」
「記憶を捏造するな! とにかくパターン2も失敗だぞ。続けるか?」
床に横になり気を失っていた俺。俺の隣で正座しているスライム女王の、テカテカの太ももを見てたら元気出てきた! むちむち!
「続ける! パターン3はラミアベースで!」
寝そべったままで下半身をスライムにして、ぐいーんと伸ばす。
「ふっ、ふわっ、はっ」
ラミアの身体が出来たら、うーむ、まだ使ってないのはアルラウネのパーツか。上半身をちょっとだけアルラウネにしてみる!
「うぅ、これで、どうだ!」
うつぶせになり、背中に葉っぱを生やした俺! うん、微妙!
「暴走を恐れているな? 貴様らしくもないぞ」
「お、おおお恐れてなんかないやい!」
恐れていないと見栄をはる為に勢いで両腕を翼にする!
「あひゃ、いつっ!? 超痺れた!」
「パターン3も失敗かな」
無念!
◆ ◆
俺は目をつむり、胸に右手を当てる。
あまり深く考えるから上手くいかないのだろう。初めて『ハオンの方庭』に入った時だって、その後に様々なモン娘に変身した時だって、俺はただただ本能の赴くままに、ただただ欲望の求めるままに行動してきたのだ。
女王がスライム娘として分離したり、新たな登場人物であるハオン星人と関わったりして、色々とごちゃごちゃしている。しかし元を正せば、俺はモンスター娘になりたいだけなんだ。
俺はラミアが好きだ。ハーピーもケンタウロスも好きだし、アルラウネや人魚もたまらなく愛おしい。アラクネだってスキュラだって、体験できて本当に嬉しかったんだ。
それを踏まえて考えよう。いや、考えるんじゃない、本能と欲望に従うだけだ。感じるんだ、俺の中の純粋な思いを、変わらない愛を。今の俺なら可能だろう。まだまだ変身したいモン娘はいるが、とりあえず、今までのモン娘の集大成だ。
俺は息を整え、つむっていた目を開く。両腕を左右に広げ、そして。
「……変身」
俺はまばゆい光に包まれた。
第十七話:おわり