第十話《溶解液で溶かされてアルラウネ娘に吸収されたい! 結局はそれだッ!》
『アルラウネ』とは人型の植物モンスターの事である。その香りで人間を惑わすアルラウネだが、その姿形は描く人によって様々だと思う。美しい花を咲かせていたり、食虫(人)植物タイプだったり、つた植物や樹木型だったり。花を付けているアルラウネにも、頭に咲かせる者や、服のように身にまとう者がいる。まさにオンリーワンな存在なのだ。
それじゃあ俺はどんなアルラウネ娘が好きなのかと言うと、自分語りの続きじゃないけれど、小学生の頃に見たホラードラマの影響を少し受けている。簡単に説明すると、登場人物が木になってしまうのだ。手の先から徐々に樹木化してしまうのが、見ていてゾクゾクした。そんな影響で、是非とも樹木的な部分が欲しい次第である。もう一つ幼い日の体験を思い出した。それは幼稚園児の頃に好きだった怪獣図鑑の記憶だ。その図鑑には、怪獣の能力でキノコ人間になってしまった人々の写真が載っていた。やはり、そういう『異形のモノへの変化』に、昔から敏感だったのだろう、俺。
動物ではなく植物であるという点が、他のモン娘と異なるアルラウネ。俺はアルラウネに捕食されたい! 花の香りに惑わされながら訳も分からないまま! つたで拘束され溶解液で溶かされて! アルラウネ娘に吸収されたい! 結局はそれだッ!
◆ ◆
「やり方は今までと同じだが、『モードアルラウネ』には全身のスライム化が必要だぞ」
「なるほど! 全身ですね! ……え? 全身?」
嫌な予感が! 全身スライム化すると、頭が真っ白になって色々と制御不能状態になってしまうのだ。いや、別にあの感覚は嫌ではないんだけども、何だか体とか頭に悪そうだよね!
「植物のモン娘だからな、動物とは身体の作りが違うんだぞ。身体を作り変えるのに全身スライム化が必要なんだ」
「なるほどなるほど、じゃあやります!」
「やるのかよ! 後回しにする雰囲気だったのに!」
「もう女王〜、俺を誰だと思ってるのさ〜、俺だぜ〜?」
「うざい!」
俺の性癖の為にも、女王の目的の為にも、いつかはアルラウネにも変身するのだ。今やろうが後でやろうが同じだ同じ!
「貴様がそう言うのなら、我は止めないけど……」
そう言う女王に、俺は自分の思いを伝える。
「女王、俺ね、今アルラウネに変身するの止めたら、一生後悔すると思うの。もしこれで死んでも本望だよ!」
「うわぁ、末期だ末期。分かったよ、始めるぞ『モードアルラウネ』」
「変身! アルラウネ! ハハーッ!」
◆ ◆
全裸になった俺は身体を半スラ状態に変え、イメージする。ピリピリする頭で考える、俺のアルラウネのイメージ。それは、まず身体の色は緑だ。産毛の生えた花の茎のような緑色の身体。その身体の背中、脇腹から胸、首の辺りは、ゴツゴツの茶色い木の皮で覆われている。髪の毛は植物の繊維のような質感で、薄い黄緑色。頭には綺麗なピンク色の花が一輪咲いている。腰には葉っぱがスカートのように生えていて、その中からは触手の如くツタが数本伸びている。木の根っこのような茶色い脚。腕はツタが絡み合ったような造形をしている。イメージは完成した。俺は目をつむり、深く深く深呼吸し、全身をスライム化させた。
一瞬、意識が飛んだ気がした。目を開ける。身体が不思議な感覚に包まれている。手を見ると、それは手と言うか、手の形をしたツタの塊だった。動かしてみる。ギシギシと木の枝がしなるような音がする。違和感。そうだ、目の見え方がおかしいんだ。音の聞こえ方も。見えると言うより、光を感じている。聞こえると言うより、振動を感じている。いつの間にか座り込んでいた俺は、木の根の脚で立ち上がる。動く度に全身がギシギシとしなる。身体の動かし方もやはり違うようで、ツタや根を引っ張り合っているようだった。また違和感。そうだ、呼吸だ。口呼吸ではなく、全身で息をするような、そんな感じ。
「いい、におい」
何の匂いだろう。ああそうか、頭の上の花の香りか。不思議な香り。意識がトロけそうになる、甘い香り。
「うふふ、いいにおいー、いいにおいー」
自然と身体を揺らしてしまう俺。なんだか楽しくなってきた。
「うふふ、うふふ、あまーい、あまーい、いいにおいー」
顔に何か液体がかかった。何だろう? 舐めてみる。甘い! 美味しい! そうだ花の蜜だ! やった!
「おいしい! みつ! あまい! あまい!」
再びペタンと座る俺。身体を左右に揺らしながら、蜜を舐める。
「うふふ、うふふ、たのしー、たのしー」
うふふ、あれ、なんかよく分かんなくなってきた! うふふ、なんかたのしい! うふふ、うふふ、うふふ。
「たのしー、おいしー、うふふ、あまーい」
うふふ、あれ、なんかヤバイんじゃね? たのしー、なにが? え?
「だいすきー、あまーい、うふふ、たのしー」
ゆらゆらー、うふふ、ゆらゆらー。
「じょーおー、ゆらゆらー、うふふ、だいすきー」
たのしー、たのしー、たのしー、うふふふふふふ。
第十話:おわり