表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平穏な高校生活  作者:
7/18

過去(2)

「うっ……ん」

「お、目が覚めたか」


 学校を出て約10分。部長に背負われてる副会長が目を覚ました。

 街中を歩いてるためか、車の騒音がやけに大きい気がする。いや、そう思うのはセミの声も重なってるからなのか。


「かい……ちょう?」

「おう、会長様だ」

「……」

「……」

「なっ!なななっ!何で!」


 副会長は目の前にある部長の顔に驚き始めた。

 まぁ、背負われてるんだから当たり前っちゃ当たり前なんだけど、その記憶がないのなら妥当な反応かもしれない。


「お前、熱中症で倒れたんだぞ」

「熱中症?」

「おう」


 副会長の顔を隣から覗き込むと、うっすらとまだ赤い……いや、この場合の赤いのは部長のせいだと思うけど。


「佐伯は倒れそうになったお前を(かば)ってくれたんだ。お礼しとけよ」

「庇う?」

「捻挫だよ。全国までには治ると思うけど」

「え……」


 はぁ……部長は口が軽い……。

 副会長にそんな事を言ったら、責任を感じるのが分かってるのに。


「副会長。別に副会長のせいじゃないよ」


 俺は一応フォローを入れる。

 ただ……副会長には無駄なのは分かってるけど。


「佐伯……ごめん。私の体調管理のせいで、せっかくの夢が……」

「いやいや。まだ出れないって決まってないからね!」


 なんか、出れない前提で話し出したから焦ったぞ。


「あ……そうだね」


 そうだね……じゃねーし。

 まぁ、元気そうだからいいか。


「まぁ、そうならない為に家では安静にしとけよ」

「分かってますよ、部長」


 それにしても……2人とも、暑そうだな。

 こんな猛暑の中、身体がくっ付いてるんだもんな。また、熱中症で倒れるんじゃないだろうか。


「なんだ佐伯。羨ましいか?」

「部長。既に頭がおかしくなってますよ」


 暑いだけでしょ、それ。

 何が羨ましいに繋がるんだか……。


「ちなみに、俺に背負われてるこいつは、やけに心臓がバクバクしている」

「いらない情報、どうもありがとうございます」


 そりゃ、好きな人に背負われてたら緊張もするだろ。

 ほら、副会長の顔がさっきより赤いし。


「本当……お似合いだこと」


 なんか、見せ付けられるとイライラするな。

 俺だって彼女ぐらい欲しいよ……。


「あ、そうだ。佐伯」

「なんですか」


 信号が青になるのを待っていると、部長が真剣な声で話しかけて来た。この声音の時は、本気で真面目な話しの時だ。


「俺は今年で卒業だ」

「知ってますよ」


 背負われてる副会長を見ると、いつの間に寝ていた。

 よっぽど、部長の背中が心地良いんだろう。


「こいつの事……任せていいか?」

「何を言ってるんですか」

「俺、寮生活になると思う」

「他県って事ですか?」

「あぁ」


 部長は頭が良い。

 この人にだけは、冗談でも勉強で勝てる気がしない。


「なんで、俺なんです?」

「お前は、人の事を第一で考える大馬鹿だからな」

「褒めてます?」

「ベタ褒めだよ」


 そろそろ信号が青になりそうだ。

 夏休みだからなのか、俺達の隣には女子グループが……慣れない真面目な話しだから、つい視線が他の所に行ってしまった。

 具合いでも悪いのだろうか?2人のうち、片方が1人に「大丈夫?」と声をかけている。


「部長も好きなんでしょ」

「好きだよ」


 本当、カッコいいよな部長は。


「言ってあげればいいのに」

「難しいんだよ……幼馴染って言うのは」


 頭の良い部長が唯一解けない問題……か。


「まぁ……近況報告ぐらいなら」

「宜しくな」


 会話の終わりと共に、信号が青になった。


「じゃあ、俺はこっちなんで」

「あぁ」


 部長と俺はここで別れる。

 今日はこの話をするために、部長が待っていただけ。


「では、お疲れ様でし──」


 俺が部長へと別れの挨拶をした瞬間、突然広がるクラクションの嵐。

 後ろを振り向けば、赤信号を無視し歩道へと突っ込んでくるトラックの姿が。


「なっ!?トラック!?」

「くそっ!居眠りかっ!?佐伯逃げろ!」


 ここの十字路はここら辺一帯でも、指折りの大通り。

 クラクションのおかげで、トラックの信号無視にも早く気付く事が出来、捻挫をしている俺でも余裕に逃げ切る事が出来る時間があった。


「はぁはぁ……ここまで来れば……大丈夫だろ」

「ですね……」


 いくら、陸上部とはいえ、部長は副会長を背おりながら、俺は捻挫をした右足を引きずりながら。

 流石に2人とも息が上がっていた。


「しっかし、トラックに早く気が付いて良かっ──」

「さちー!聞こえないの!?」

「うん?」


 隣から聞こえる、女子の甲高い声。

 その女子の視線の先には、トラックの通る場所に横たわる1人の女子。


「お、おい……まかさ、熱中症か?」


 今日は、いつも元気な副会長ですら倒れる程の気温。

 トラックが突っ込んで来るが、誰も負傷する事がなくて良かった……と、安堵していた空気が一気に変わった。


「助けに……いや、間に合わない!?」


 周りから焦りの声が広がる。

 俺なら……一瞬、そんな考えが頭をよぎった。


「佐伯……変な事を考えるなよ」

「でも!」


 俺の足なら間に合う。

 100mを10秒で走る事の出来るこの足なら。


「さちっー!起きてぇえ!!」

「お、おい!自分の足の事を考えろ!!」


 俺は隣で友人が目を覚ます事を祈る女子の言葉と共に、走り出していた。

 部長の忠告を無視し、少女が倒れている場所へ。




 周りがゆっくり動く。

 全力で走っているのに、自分の一歩一歩が歩いてるように見える。


「はっ……はっ……」


 倒れている少女まで、あと数メートル。

 トラックがゆっくりと、でも確実に少女へと近付いている。


「はっ……はっ……」


 テレビで見たことがある。交通事故に合う直前、世界がゆっくりになったと。

 俺は今、多分それなんだと思う。


「はっ……はっ……」


 右足の痛みが酷くなって来た。

 それもそうだろう。俺は今、全力で走っている。

 それでも……ギリギリかもしれない。


「はっ……はっ……」


 痛みがなんだ。

 痛みなんて、頭の隅にでも追いやれ。


「佐伯!辞めて!」


 後ろから目が覚めた副会長の声が聞こえる。


「はっ……はっ……」


 俺は副会長の呼び止めを無視し、走り続ける。

 ここで止まったら、確実に……少女は死んでしまう。


「もう……少し!」


 あと5歩……あと3歩……。

 トラックが目前まで迫って来ている。


「間に合えぇぇえ!!」


 俺は少女を抱きしめ、走ってきた勢いのまま飛んだ。

 ただ……つい右足で飛んでしまった。捻挫で、力の入らない右足で。


「なっ……届かな──」


 俺は言葉の続きを言うことが出来ず、その記憶を最後に俺の意識は途絶えた。

 頭の片隅で右足の痛みを感じながら。


改訂したので、過去編はここで終了です。


感想、批判お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ