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平穏な高校生活  作者:
6/18

過去

「おい、佐伯」

「なんですか?部長」


 部活の練習メニューも終わり、ダウンがてらのストレッチをしていると、校舎の方から歩いてくる制服姿の陸上部部長が話しかけて来た。


「生徒会の仕事は終わったんですか?」

「ん、まぁな」


 陸上部の部長は生徒会長も同時並行している。

 陸上部での仕事もこなし、同時に生徒会の仕事をこなしている部長には正直頭が下がる。


「佐伯、来週全国だろ?」

「あ、はい」


 夏の全国高校陸上大会。簡単に言うと、陸上部の全国大会だ。

 俺はその大会に出るのが夢だった。走る事しか自慢することがない俺が唯一持っている夢。

 そして、高校2年になりその夢の……いや、夢が叶った。


「明日から全国までは、他の奴と違うメニューを渡すな」

「なんですか?急に」

「今やってるメニューは記録を上げる為の物だが、佐伯には調子を維持するメニューの方が良いと思ってな」

「そう……ですね。ありがとうございます、部長」

「やめろよ、気持ち悪い」

「酷いですよ、部長」


 俺と部長は2人で笑った。


「まぁ、本物の弟みたいに可愛がって従兄弟(いとこ)が夢を叶えたんだ。その夢がどこまで行くか見てみたいしな」

「部長の方が気持ち悪いですよ」


 俺は満面の笑みで先程のお返しを部長に言ってやった。


「言ってろ」

「部長の方が気持ち悪いですよ」

「2度も言う奴がいるか⁉︎」


 部長が『言ってろ』って言ったんじゃないか。


「はぁ……俺、一応先輩なんだがな」

「俺の中では、毎年夏に遊んでくれた1個年上の変な人でしかないですよ」

「変って……」


 部長は俺の従兄弟だ。

 小さい頃は夏休みになる度に俺と遊んでくれた。


「まぁいい……俺も久しぶりに練習にでも出──」

「会長、まだ仕事が残ってますよ」

「げっ」

「『げっ』って……結構傷付くんですけど……」


 部長が練習に出る気満々になっていると、同じく校舎の方から俺の見知った生徒が歩いて来た。


「よっ、副会長」

「佐伯、会長を止めといてありがとう」

「別にそーゆ訳じゃないけどさ」


 部長に睨みをきかしているのは、生徒会副会長。そして、俺と部長と同じく陸上部の1人。


「つか、部長。生徒会の仕事終わったんじゃ……」

「まだ終わって無いわよ。トイレに行くって言ったきり帰って来なかったから探してたの」

「あははは……」


 部長が苦笑いをしている。

 本当、部長は副会長にだけは弱いいよな。


「会長、帰りますよ」

「別に俺がいなくても大丈夫だろー」

「会長、帰りますよ」

「はい……」


 お見事。

 この掴み所がない部長を見事に手懐けている。





「佐伯」

「どうした?」


 部長は既に校舎の中に入っていた。

 そして、副会長は俺の元へと歩いて来る。


「確か、来週全国よね?」

「あ、あぁ」


 副会長は部長と似たよう事を言って来た。


「部長も似たような事を言って来たぞ」

「そりゃ、全国だもの」

「以心伝心してるんじゃなくて?」


 俺は副会長をからかってやった。


「な、何言ってるの!?」

「副会長と部長はお似合いだって言ってるんだよ」


 副会長は部長の事が好きだ。それも、周りの人間が見れば誰もが分かる程分かりやすい。

 まぁ、部長がどう思ってるか知らないけど。


「またそうやってからかってっ!!」

「うーん」


 結構、俺の本心なんだけどな。


「だ、大体私は別に会長の事なんて!」

「……」


 副会長は隠してるつもりらしいんだよな。


「ねぇ、聞いてるの!?私は別に会長の事……なん……」

「お、おい」


 副会長の身体が急に力を無くしたかのように、その場に倒れそうになった。


「う、う……ん」


 俺はギリギリの所で地面に倒れる寸前で、抱き抱える事が出来た。

 この暑さの中、何度も大声をあげたせいで熱中症にでもなったのだろう。何にせよ良かった。


「ふぅ……危なかっッ!?」


 抱き抱えている副会長をゆっくり地面に置こうとした瞬間、右足に痛みが走った。


「いっつ……ヒネったか?」


 副会長を地面に置き、右足を見てみると既に少し腫れていた。


「まぁ……捻挫ぐらいなら、全国までは大丈夫だろ」


 全国までは1週間近くある。

 それだけあれば、捻挫ぐらい治るだろう。


「おーい、お前もサボるなら俺もいいかー」


 捻挫の具合いから、全国には支障が無いことに安堵していると、校舎から部長の姿が。


「おーい……って、どうした!?」


 地面に横たわっている副会長を見て、慌てて部長が駆け寄って来た。


「お、おい。佐伯どうした!?」

「多分、熱中症です」

「熱中症……はぁ、びくらすなよ」


 よっぽど心配だったのだろう……と言うより、この反応的に……副会長の想いは届くと確信した瞬間だった。


「ったく、こいつは昔から……ん?佐伯、足首がどうかしたのか?」

「あ、いや別に」

「見せてみろ」


 右足を庇って立っているのがバレたのか、部長は俺に駆け寄った。


「いっつ!!」

「佐伯……ヒネったのか?」

「……はい」


 部長は俺の目を見た後、副会長を見た。

 理由は言わなくても分かっているようだった。


「で、でも大丈夫ですよ?全国までには治ると思いますので」

「まぁ……それは、俺も同意見だ」


 部長がそう言うなら、本当に大丈夫だろう。部長は何かと詳しい。

 怪我の具合いも、大体見て判断出来たのだろう。


「しょうがない……今日はもう上がれ」

「もちろんそうしますよ」


 全国まで近いのに、こんな所で意地を張って残る理由はないし。


「俺も一緒についていくよ」

「べ、別にいいですよ」

「こいつを家に運ぶついでだ」


 部長は地面に横たわっている副会長を見た。


「ほら、早く帰るぞ」


 部長を副会長を背おり、俺にそう言って来る。


「ったく……こいつは、幾つになっても世話をかける」


 俺はその2人を見ながら、この2人はピッタリだなと口に出せない事を考えていた。

 この後、自分の身に起きる事など予想もせずに。


佐伯の過去です。

次の話しで終わりますが。


次の投稿は明後日の23時に。

感想などお待ちしております。

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