新歓
熱のため、投稿が遅れて申し訳ありませんでした。
『やぁーやぁー新入生の諸君!高校生活は謳歌してるかな!』
『まだ入学してから3日しか経ってないって?だからどうした!』
体育館の舞台の上で2人の男子生徒がマイクを持ち、物凄い勢いで話を続けている。
『今日は待ちに待った新入生歓迎会!略して新歓!』
『この場の成果で今年の新入部員の数が決まるかも!?……え?委員会もある?しらーん!』
舞台下から注意されたが、男子2人組みは勢いを止めない。
『新入生の諸君!この学校は部活動が豊かだ!』
『どの部活で青春を謳歌するかは、君達次第!』
男子生徒2人組みは、さらにヒートアップして行く。
『ちなみに、俺達はバスケ部だ!』
『バスケ部に入れば、モテる事間違いなし!』
フライングをし、部活の紹介をし始める2人組み。
『バスケは体育にもあるから、成績もUP!』
『よし、みんな!今すぐバスケ部に……分かった分かった。俺達が悪かった』
舞台下から注意されるも、あまり懲りてない2人組み。
注意していた生徒は諦めたのか、舞台袖へと走って行った。
『では、始めよ……あ、生徒会長……』
『新歓実行委員だからって……調子に乗るなぁぁあ!!』
舞台袖から出て来た生徒会長によって、男子生徒2人組みの暴走は終了した。
『…………調子に乗るなぁぁあ!!』
「な、なんだ!?」
教室で寝ていると、体育館の方から罵声が聞こえて来た。
「体育館の方か……新歓で何があったんだよ……」
罵声の声に聞き覚えがあったが、気にしない事にする。
「んーっと!よく寝た。新歓が終わるのはまだ先だし……どうするかな」
今日は新入生が入学してから3日目。
そして、今日は新入生に向けて部活動と委員会の内容を説明する日である。その事を新入生歓迎会、略して新歓と言う。
この新歓でどれだけ新入生の心を鷲掴みに出来るか、これはどの部活もが目標にしている。
「帰宅部にとったら、暇な時間だよな……本当」
家に帰っても寝るだけしかすることが無い俺は、今こうして教室で新歓が終わるのを待っている。
「トイレにでも行くか」
俺はトイレに行くため、教室を出た。
「スッキリした」
トイレを出て、手をハンカチで拭いていると切羽詰まった声が聞こえて来た。
「おい手島!早くしろ!」
「分かってるよ!くそっ!」
男子生徒2人はサッカー部のユニフォームを着ながら、廊下を体育館の方へと全力疾走していた。
「セリフ書いてある紙を教室に忘れるとか、なんだよ!」
「悪かったよ!」
サッカー部の1人が、忘れ物をしたのか……大変だな。
俺はその2人の背中を見つめ続けた……その背中が見えなくまでずっと……。
「……」
まだ、未練でもあるんかな……バカバカしい。
そのまま俺は、教室へと戻らず目的もなく歩き出した。
「あーもう!どうしよー!」
「ん?」
4階の廊下を歩いていると、とある教室からわめき声が聞こえてきた。
ただ、この声……どこかで聞いた記憶が……。
「よし!諦めよう!」
「なにを諦めるって」
「い、いえ!何でもありません!……って、佐伯先輩!」
わめき声が聞こえた教室に入って見ると、そこには見知った顔がいた。
「よ、久しぶりだな。伊波」
「え、本当……久しぶりです!」
「なー本当久しぶっ──」
「佐伯先輩だー本物の佐伯先輩だー」
「ゴホッゴホッ……ちょ!くっ付くな!」
いきなり飛び付いて来たため、むせてしまった。
俺はいまだにくっ付いてる後輩──伊波 奈々を身体から引き剥がす。
「むー久しぶりの再会なのにー」
「姿だけなら、見かけるだろ。同じ学校なんだから」
「そうですけど!」
俺は呆れながら、伊波が座っていた机を見る。
「何をしてたんだ?」
「はい?……あぁ!そうだ、まだ終わってなかった!」
伊波は慌てながら、椅子に座り机に向かい出した。
「どうした、慌てて」
「新歓の時に使う原稿を無くしちゃったので、早急に作ってるんです!」
「なるほど……だから副部長の伊波が」
「はい〜……部長は新歓の方で生徒会長としての仕事があるので〜」
そうか……大変だな。
「……」
「…………」
「それ、スタブロだと分からない奴いるぞ」
伊波が書いている原稿を横で見ていると、つい口を挟んでしまった。
「あっ、そうですよね!流石、佐伯先輩です!」
「陸部の発表はいつだ」
「えーと……最後らへんです」
「なら、ギリギリ間に合うか……急ぐぞ」
「え?手伝ってくれるんですか?」
「可愛い後輩のためだ」
「そんな……可愛いだなんで」
「ふざけてないで、やるぞ」
「はーい」
俺はそのまま、原稿が完成するまで伊波に付き添った。
「ふぅー完成です」
「なら、早く体育館へ行け」
新歓が終わる30分前。
これなら、まだ最後らへんの陸部の番はまだのはずだ。
「佐伯先輩も一緒に行きましょうよ!」
「お前な……」
その素直な気持ちは嬉しいが……。
「俺の足じゃ、間に合わないかもしれないだろ」
俺は伊波の頭に手を置く。
「あ……ごめんなさい……そんなつもりじゃ……」
「ほーら!さっさと行け!生徒会長に怒られるぞ」
「そ、そうですよね!」
後輩にまで気を使われるとはな……。
「先輩!」
「ん?」
伊波は教室を出る直前、こちらを振り向いた。
「卒業する前に……1度でいいので、顔出して下さいね!」
「わ……考えとく」
分かった、と言えなかった……嘘になってしまいそうで嫌だったから。
「ほら、さっさと行け」
「あ、はい!」
廊下に出て、足を思いっきり動かし体育館へと向かう後輩を、俺は羨ましそうに見続けた……。
作中に出てきた手島君は、短編『バレンタイン』からの登場です。
本当、チラッとでしたけど(笑)
時間は木曜日の11時頃に投稿します。