責任
「ほらー、お前ら荷物片付けろー」
「先生はえーよー」
入学式の翌日。
高校に入学してから、毎回長期休みの終わった後に来る地獄の休み明けテスト。
「成績に入るから、気合い入れろよー」
そんな事を分かってるんだよ……俺は気合いを入れ、テストに向かった。
「お、終わった……」
国数英の3教科のテストが終わった。
「その終わったはどっちの意味なんだ?」
「仁か……そりゃお前……見事に惨敗だったぜ……」
「お気の毒に」
五十嵐 仁。
高校で出来た中で1番の親友。ただ、俺と違って頭の出来が違う。
「はぁ……ま!終わった事をうじうじ言っててもしょうがないよな!」
「あ、そうだ。生徒会長から伝言だ」
「いきなりだな……つか、何でお前の口から」
「昨日メアドを交換してな」
さいですか。
「『私の友人として、赤点を取るような事はさせない。安心しろ』だそうだ」
「うん、ごめん。なんだって?」
「今度から、放課後は勉強会だな」
なんなんだよ……あの、お節介な生徒会長は……。
「い、いや……別に、赤点とか取ってないし」
「生徒会長は人望が厚いからな。生徒1人ぐらいの点数なら先生に聞けるだろうな」
プライバシーの侵害だろそれ……。
「ま、享。頑張れ」
「くそぅ……」
本当……なんなんだよ……。
「あーそうだ」
「なんだよ……」
教室を出て昇降口へと向かう途中、仁が何かを思い出したのか急に立ち止まった。
「俺、明日の新歓での仕事あるから話し合いがあるんだった」
「あぁ、新歓」
新歓。新入生歓迎会の略。
2.3年生が新入生に対し、部活や委員会などを紹介する場。
「つまり、1人で帰れと?」
「すまん!」
昨日も帰りは1人だったんだよな……。
「どんぐらいで終わるん?」
「そんなに時間はかからないと思うけど」
「そうか……」
なら、校内をぶらぶらでもするかな……。
「終わったら携帯に連絡してくれ」
「ん?どうするんだ?」
「校内をさまよってる」
俺は仁にそう告げ、校内をぶらつく事にした。
「生徒会長に宜しくなー」
「会わねえよっ!」
そうだ……校内で生徒会長とばったりなんて事が無いようにしないとな。
勉強会なんてごめんだからな。
どこに行くかな……とりあえず静かな場所にでも。
ん?あのトイレから出て来たの……。
「ん、奇遇ね」
「生徒会長……」
捕まった……。
「流石に、出会い頭にそんな顔をされると私でも傷付くんだけど……」
「嫌だからな」
ふむ、顔に出るほどだったか。
「はぁ……まぁいいや。それより、休み明けテストはどうだった?」
やっぱり聞いて来たか。
「ま、まぁ……手応えはあったかな……」
「それは良かった。悪かったら勉強会でも開こうと考えていたんだけど、いらない心配だったかな」
やめて……その、嬉しそうな笑顔辞めて……。
「私がちゃんと……面倒見るから。分からない所があったら言ってね」
「お前……生徒会の仕事に加えて、陸部もあるだろ。そろそろ夏の全国に向けての予選があったはずだし」
「大丈夫。なるべく佐伯の事を優先するから安心して」
全然大丈夫じゃないし……安心してって意味が分からないし。
「私のせいだもんね。だから、佐伯のサポートぐらいさせてね」
こいつ……まだ、あの時の事を……。
「はぁ……」
俺は昨日と同じく、生徒会長の頭をど突いてやった。
「なっ!?」
「別に、アレはお前が責任を感じる事じゃないだろ」
去年の8月。
今でも鮮明に覚えている。
「アレは生徒会長が悪いわけじゃない……だから、気にしないでくれ」
「あ、あれはっ──」
「気にしないでくれ」
生徒会長の言葉を遮り、俺は言う。
「で、でも!走れなくなったのは、私にも原因があるんだし!」
俺は生徒会長の頭に手を置く。
「ありがとな」
心から素直に出た言葉。
「勉強……付いて行けなくなったら、頼らせてもらうな」
「……うん」
生徒会長は頭に手を置くと、大人しくなり素直になる。
生徒会長の彼氏情報。
「ごめんな」
きっと、ずっと責任を感じていたんだろうな。
この短い会話の中で気にするなと言っても、意味は無いだろうけど本当に生徒会長は何も悪くないんだから。
「いつでも頼ってね……」
生徒会長はそう残し、俺から離れて行ってしまった。
「本当……いい奴だよな」
生徒会長の背中を見送りながら、俺はそう呟いた。
「…………っと、メールが」
ポケットの中に入れといた携帯にメールが届いた。
「仁か……想像以上に早かったな」
いくらなんでも、もう少しかかると思っていた。
まぁ、早い事に文句はないんだが。
「昇降口で待ってる、ね……りょーかい」
携帯をしまい、1階にある昇降口へと向かった。
「ん?」
階段の踊り場へ来た時、何か視線を感じた。
その方へ顔を向けると、走り去る女子生徒の後ろ姿が。
「あの子確か……」
はっきりと覚えている訳ではないか、あの後ろ姿は昨日……体育館へと向かう途中ですれ違った1年生に似ている気がした。
「まぁ……同じ学校なんだから……たまたまだろ」
俺は特に気にすることもなく、仁の待つ昇降口へと向かった。
生徒会長が感じてる責任。今後、何の事かはハッキリして行きます。
分かっちゃう人もいるでしょうけど(笑)
次回は明後日、土曜日に更新します。