入学式(2)
「遅い!」
「特に時間指定はなかったけど」
体育館へと着いた俺達を待っていたのは、仁王立ちをした生徒会長だった。
腕組みをし、偉そうにしているが……小学生に対して抱く可愛さしか感じられない。
「女の子を待たせるなんて、最低よ」
「……」
突っ込んだら……怒られるんだろうな……。
「で、何の用だよ」
生徒会長とこのまま話していても、一向に本題に入らなそうなので、自分から切り出す。
「入学式の片付けを手伝って欲しいの」
「だそうですよ、仁さん」
「何故そこで俺に振る」
片付けか……なるほど。
今年の生徒会は女子が多いし、それに数人男子もいるが……どう見ても文系男子だよな。
「まぁ……いいか」
「お前、力仕事出来んの?」
「仁……それは俺に力がないと?」
「そーゆ意味じゃねーけどさ」
まぁ、仁の言いたい事も分かるが……大丈夫だろ。
それより……。
「どうした、生徒会長」
なんか、急にしおらしくなったんだが。
「ごめん……そこまで、気が回らなかった……」
「あのなー」
自分の右足を少し見て、生徒会長に向き直る。
「本人が大丈夫って言ってるんだから、気にすんな」
生徒会長の頭をど突いてから、俺は体育館へと入った。
「っしょっと。これでラスト」
想像以上に椅子が多かった。
今年の入学生300人強にその保護者、それに加え来賓の人も入れるから、椅子だけで500近いんじゃないだろうか。
「ご苦労様」
「あぁ、ご苦労さん」
生徒会長もよっぽど動いていたのか、ブレザーを脱いでいる。
「どうする?」
「何が」
「もう、他には力仕事ないし……帰ってもいいけど」
「うーん」
流石に途中で放り出すのは気が進まないよな……それに、家に帰ってもやる事ないし。
「最後までやるよ」
「そう……ありがとう」
生徒会長の本心から来た笑顔……いや、ドキッとかしないけど。
「おーい、じーん」
体育館の隅で2年女子と話してる仁に話しを振る。
「ごめんね。友達が呼んでるから」
なんだあのモテ度は。女子に囲まれてたぞ。
「どうした」
「お前がどうした。モテ期か、あぁ?」
「どこの不良だ」
「見苦しいから、辞めなさいよ」
「くそぅ……」
モテ期と彼氏持ちに言われて、俺は悲しい……。
「あ!」
「五十嵐君はどうする?もう、帰ってもいいけど」
「帰ってもいいんですか?」
「仁、突然だが『卒業式泣き落とし事件』について教えよう」
「黙ってなさい」
「うっ……」
生徒会長の彼氏で思い出したのに……。
いきなり殴るなよ。
「なら俺は帰らせてもらいます」
「そう。休みの日にごめんなさいね」
「どうせ、暇してたのでお気になさらずに。お疲れ様でした」
「お疲れ様」
そう言って、仁は俺と生徒会長の下から離れて行った……。
「って、待てよ!」
「なんだよ」
「え!?帰るの!?」
「この後、美香の妹の入学祝いがあるんだよ」
「親公認のカップル……」
「アホか」
俺は仁に見捨てられた……。
「ほら、続きやるわよ」
「なぁ……俺も帰ってもいいか?」
「バカ言ってるんじゃないわよ」
「疲れた……」
「大袈裟過ぎ」
「生徒会長……最後らへん、どこ行ってたんだよ……」
「見りゃ分かるでしょ」
腕の中には、ペットボトルの山が。
「飲み物ダイエット?」
「殴るわよ」
どうやら、メンバー全員分の差し入れを買いに行ってたようだ。
「何がいい?」
「あー……残り物でいいや。他の奴らに配ってこいよ」
「そう」
生徒会長は腕の中のペットボトルが落ちないようにしながら、生徒会メンバーが集まってる方へと歩いて行った。
「しっかし……生徒会長も少し変わったよな」
何が変わったかと聞かれたら、答えれないが、変わったのは分かる。
その理由が卒業式にあった事も知ってる俺としては、前生徒会長に敬礼したいぐらいだ。
「ほら、残り物よ」
「っと」
配り終えたのか、生徒会長は残ってる2本のうち片方を俺に投げて来た。
「抹茶ソーダ……なんだこれは」
「残り物」
抹茶に炭酸入れて大丈夫なのか?
めちゃくちゃ……マズそうなんだけど。
「嫌なら取り替える?もう口、つけちゃったけど」
「い、いえ!大丈夫です!結構です!」
「何でそんなに嫌がるのよ」
間接キスなんてしてみろ……前生徒会長に知られたら……絶対に殺される……。
「別に会長なら、大丈夫よ。あんただし」
「それは……どーゆ意味で」
「脅威じゃないからだって」
意味が分からないぞ……。
「信用してるって事よ」
「そう……受け取っておく」
俺はこれ以上、この話しをしたくないというアピールも兼ねて、壁に寄りかかり座った。
「抹茶ソーダ……」
「隣いい?」
「あ、あぁ」
見た目はメロンソーダだよな……。
「……」
「…………」
いや、でも……飲んでみたら意外に美味いかもしれない。
「別にあんた……女子には、それなりに人気あるわよ」
「そう」
よし……一気に飲んでみよ……う。
「今、なんつった」
「2回も言いません」
「ちっ」
なんか今、とても嬉しい事を言われた気がしたんだが。
「で、これからどうするの」
「どうするって、片付け終わったから帰るけど」
時計を見ると既に5時を回っていた。
「さてと、じゃーな生徒会長」
俺は体育館の出口へと向かう。
「家に帰って何しようかな」
俺が体育館を出る直前、後ろから声が聞こえた。
「いつでも帰って来なさい……みんな、待ってるから」
「……」
俺は生徒会長の言葉を無視し、体育館を出た。
『いっちにーさんし』
入学式も終わってる為か、午後からは部活が行われていたようだ。
陸上部に野球部、珍しい所ではアメフト部なんてのもある。
「……」
抹茶ソーダの口を開けながら、部活中の生徒を眺める。
『おーい、スタブロかたせー』
やけに、陸上部の声が耳に届く気がする。
「……帰るか」
部活をしている生徒達に背を向け、俺は歩き出した。
「抹茶ソーダ……」
口に含んだ抹茶ソーダが、少ししょっぱかったのは元々なのか、それとも……。
入学式と言うなの、題名詐欺でした(笑)
出て来た五十嵐 仁と生徒会長は『質問』『卒業式』の二つの短編からの登場でした。
興味ある方は、そちらもよろしくお願いします。
次回は明日…か明後日に更新です。
出来れば明日に……。
感想お待ちしております。