清算
少し、遅れてしまいすみませんでした。
最初に会ったのは、小学校5年生の時の遠足。
班決めの際、ルールとして他のクラスと組む事になった。その中に光がいた。
でも、それだけ。班と言っても20人ほどいる大きな班だし、光と頻繁に話してた訳でもない。
今思えば、いつ、どうして仲良くなったのかは分からない。でも、自然に、そして気が付いた時にはよく話しをしていた。
光は、俺の中では異性というより兄妹みたいな……年が一緒だから、双子なのかな。とりあえず、そんな感じ。
どんな事でも気兼ねなく話せる仲。
4月も中旬。
ブレザーも暑く感じるこの頃、注文したホットコーヒーに失敗したのがさっき。そして今、コーヒーカップに触れるといつの間にかひんやりとしていた。
「俺の中でさ……光は兄妹みたいな感じなんだ」
「何でも気兼ねなく話せる相手……」
「そう。家族を除けば、光が1番大事だって思えるぐらい」
これは恋とかじゃない。これはもう……兄妹愛。
「中学に上がってから、光がアパートから俺の家の隣に引っ越して来て」
「まさか、引っ越した先の家の隣に佐伯がいるなんて思わなかったなぁ」
光の家は共働き。
俺の両親はそれが気になったのか、光の両親と話し、光は夕飯を俺の家で食べる事になった。
最初は異性が家の中に……とかあったけど、気付いた時にはもう気にすらならなかった。
光と一緒に夕飯を囲むのが普通になってた。
「……久しぶりに食べに来いよ」
「うん。絶対行くね」
去年。
俺が事故にあった後、光は俺の家に来る事はなかった。
後から聞いた話しだけど、光は何度も俺の両親に謝っていたらしい。
──ごめんなさい……私が全ていけないんです。
何度も何度も。
俺の両親が止めても、何度も……俺が退院する日まで。
俺の病室にも毎日来てくれた。日に日に元気がなくなって行く光を見るのが辛かった。
それでも、光は誰がどう見ても分かるような空元気を続けた。
「別に俺は……光が悪いなんて思ってない……」
俺が何度も光に言っている言葉。でも、届かぬ言葉。
「ううん。佐伯、中学の時からずっと頑張ってたもん。近くで見てたから知ってるよ」
いつも通りのやりとり。
決して、光は自分の背負ってる物を下ろそうとしない。
「私ね、今結構幸せなんだよ。会長とも付き合えて、佐伯も部活に顔出してくれたし」
「な、ならっ──」
「でもね、私が佐伯にやったことは消えないし……だから、ちゃんと佐伯に色々返さないといけないの」
「なんで……なんでそんなに背負い込むんだよ……」
俺はいったい、どうしたらいいんだ。
光が背負い込む責任なんてない。もしあったとしても、もう十分清算しただろ……。
「それとね、佐伯」
「……なんだ」
「昨日のことなんだけど……佐伯は悪くないよ」
「い、いや。あれは俺が──」
「私の心が醜くて、自分が嫌になっただけ。佐伯は何も悪くない。悪いのは全部私」
「なに……言ってるんだよ」
本当に何を言ってるんだよ、光。
「ごめんね、佐伯」
なんで……なんで光が謝るんだよ。
お前は何も悪くないだろ……それどころか、俺が走れなくなってからずっと俺を気に掛けてくれたじゃないか。
「本当……最悪な人間だよね、私って」
やめてくれよ……そんな風に自分を卑下するのは、やめてくれよ。
「ねぇ、佐伯もそう思わない?私って、本当さいあ──」
「少し黙れっ!」
俺はテーブルを乗り越え、光の襟首を掴む。
「光……お願いだから……もう、何も言うな」
俺は泣きながら、でも自分の言いたい事をゆっくりと光に告げた──。
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