話し合い※会長視点
前話『話し合い』の、会長視点です。
「あ、部長!」
駅近くの喫茶店。ここのケーキが好きで、去年はよく3人で来たっけ。
私に手を振る後輩の奈々に笑顔向けながら、近付く。
近付くにつれ、奈々の他にもう1人いるのが分かってきた。
(男子……?)
一嫌な予感が頭の中を覆い尽くす。
でも、そんな予感を自分で否定しながら奈々に近付いて自分の勘の良さを呪った。
(佐伯……)
学校を出た直後にかかって来た奈々からの電話。
最初は気晴らしのつもりで奈々の誘いに乗った。でも、電話を切ってから何故か足取りが重かった。
コレが原因か……。
「ぶ、部長。待って下さいよ」
踵を返し帰ろうとした私を奈々は外まで追い掛けて来た。
「部長」
私は奈々に向き直る。
「何で佐伯がいるの?」
「えっとー……」
奈々は下を向き口ごもる。
「奈々」
「だっ、だって!……部長、元気無くて……佐伯先輩なら力になってくれると思って相談したら……『会長が落ち込んでるのは俺のせいだ』って……」
「本当に佐伯が言ったの?」
「は、はい……」
何で佐伯が……佐伯は何も悪くないのに……。
それどころか、私はまだ何も佐伯に返せてないのに……。
「そ、それで……勝手だと思ったけど、早く元気になって欲しくて、部長に電話しました……」
私の元気が無かったのは、自分の心の狭さに気付いたから。
私が出来なかった事を、年下の子に見せ付けられて……悔しさの中に嫉妬があると気付いたから……。
少しの会話で元気付けられたのに、長い付き合いの私は出来なかった、そんな自分の力の無さに気付いたから。
「……佐伯は悪くない」
私がいつまでも、落ち込んでるから佐伯が自分のせいとか言い出すんだろうな……。
「ぶ、部長?」
「奈々、ありがとう。私、佐伯と話してみる」
私はけじめをつけるために、喫茶店のドアノブに手をかける。
「え、えっと、頑張って下さい!それと、ケーキ代は佐伯先輩が奢ってくれるそうです」
「それは、朗報ね」
私は喫茶店のドアを引いた。
「……佐伯」
「よっ」
意気込んだはいいけど……何を言えばいいんだろう……。
「奈々が……あんたが、言いたいことがあるって」
「あ、あぁ……」
謝る?それだけじゃ、ダメだ。ちゃんと、話し合わなきゃ。
あ、そーいえば。
「それと……あんたが、ここのケーキ代を出してくれるって」
「あぁ、出すよ。何でも頼めよ……」
なんか、佐伯の罪悪感に漬け込んだみたいで悪いけど、ケーキは譲れないしね。
「じゃ、じゃあ!この、チョコレートケーキと──」
「分かった分かった。好きなだけ頼んでいいから……」
私はこれからの、話し合いの事など忘れて、ケーキを頼んだ。
「えっとさ……会長」
結局、何を言えばいいんだろう……。
「なぁ、会長」
謝って……佐伯のせいじゃないって言って。
「あのさ……会ちょ……なぁ、光ひかり」
ううん。考えるより、まずは話さなきゃね。
「なぁ、光。ちょっと、話しを聞いてくれないか」
何でか、私の名前を呼んでる佐伯を見る。
「なぁ、ひか──」
「聞こえてる……」
私は佐伯の言葉を遮りながら、持っていたフォークを皿の上に置く。
「少し……話しがある」
「……うん」
店内に流れる音楽。店内にいる客は私と佐伯だけ。
私はその空気に少しの気まずさを覚えながら、覚悟を決めた──。
毎週、月曜日更新です。
感想、批評、お待ちしてます。