話し合い
伊波が会長に連絡を入れてから、10分近くが経った。
その間、伊波は先程の悲しい表情から一変、俺の奢りであるケーキを美味しそうに食べていた。
「……美味しそうに食べるな」
「はい!美味しいですよ」
伊波の中では、会長の件は解決済みらしい。
『私がどうこうするより、先輩次第で解決するから』
だそうだ。
確かに、俺が原因だし俺が解決しなきゃいけない事なのは分かってるけどさ。
「……」
伊波はケーキを平らげ、メニューに目を向けていた。
俺は二つ目は許可してないんだけどな……注意する気力も失せ、店内に流れている音楽に耳を傾けていると、入り口方面かチリリンとベルが鳴る音が聞こえた。
「あ、部長」
伊波はメニューから、入り口の方へと視線を向け声を上げた。
俺も伊波につられて、視線を動かす。そこには、伊波に対して笑顔を向け、俺を見つけ踵を返す会長の姿があった。
「ぶ、部長。待って下さいよ」
伊波は会長を追い掛ける。
2人はそのまま、俺の事を置いて外へ行ってしまった。
「出会い頭に嫌な顔されりゃ、俺でも傷付くぞ……」
俺はぼやきながら、2人を待った。
「……佐伯」
「よっ」
時間にしたら5分ほど経った頃、会長が1人店の中へ戻ってきた。
伊波はと言うと、外から店内にいる俺に手を振り、さっさと帰ってしまった。
「奈々が……あんたが、言いたいことあるって」
「あ、あぁ……」
伊波……確かにそうなんだが、まだ、何を言えばいいのか分からないんだよ……。
「それと……あんたが、ここのケーキ代を出してくれるって」
あんにゃろ。
「あぁ、出すよ。何でも頼めよ……」
会長も女子だって事なのか、俺と2人でいる事が嫌なくせに、俺が奢ると言うと顔を輝せた。
「じゃ、じゃあ!この、チョコレートケーキと──」
「分かった分かった。好きなだけ頼んでいいから……」
会長を元気付けためだと、自分を納得させながら、俺は自分の財布の中身を確認せざるをえなかった……。
「えっとさ……会長」
「……」
無視……と言うか、ケーキに夢中になっている。いや、無意識的に俺の声を遮断してる可能性も否めないけど。
「なぁ、会長」
「……」
また無反応。
正直、今も何を言えばいいのか分からないし、このままでもいいって心のどこかで思ってる俺もいるけどさ……それはダメって思ってる俺もいるわけで。
「あのさ……会ちょ……なぁ、光」
俺は久しぶりに、会長の名前を口にした。
本庄 光。別に普段呼ばない理由はないけど、光自身が生徒会長という物に対しての誇りを持っていたので、ずっと会長と呼んでいた。
「なぁ、光。ちょっと、話しを聞いてくれないか」
俺は会長の名前を呼び、会長と向き合う。
「なぁ、ひか──」
「聞こえてる……」
会長は俺の言葉を遮りながら、フォークを皿の上に置き俺を見る。
「少し……話しがある」
「……うん」
店内に流れる音楽。店内にいる客は俺と会長だけ。
俺はその空気に少しの気まずさを覚えながら、ゆっくりと口を開いた──。
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