入学式
一度消去した作品です。読者の方にもっと楽しんで頂けるように試行錯誤した作品です。それでも、至らない所はあると思いますが、今後も色々頑張って行くので、よろしくお願いします。
『今日はこのような式を開いてくださってありがとうございました』
人々は出会う。
『新入生代表、本郷 光』
例えそれが、高校という小さな場所であったとしても。
『次は在校生代表からの挨拶です』
恋愛、挫折、不満……色々な事を抱えた者が。
『在校生代表兼生徒会会長の──』
自分では分からないうちに人は交差する──。
「俺たちも、もう3年か」
「そうだな」
4階の自分たちのクラスから、今現在行われている入学式を見ていると自分たちが3年だということを、改めて実感させられる。
「お前の知り合いも今年入ってきたんだっけ」
「美香の妹だ」
「あの人の……」
俺たちが2年の時、ある噂が流れた。
学年でも成績が優秀で有名な新垣 美香が、今俺の隣にいる五十嵐 仁を教室内で恐喝していた、と。
「懐かしいな。恐喝事件」
「余計なことを思い出させるなよ」
その噂が流れてから……まぁ、【新垣様親衛隊】なる物から、仁は追いかけ回された。
『新垣様がそんな事をする訳がない。あの男が嫉妬してテキトウな噂を流したんだ』という理由のもと、新垣さんが止めに入る1ヶ月の間仁に平穏は訪れなかった。
「っと、入学式終わったんじゃないか?」
仁の言葉を聞き、体育館を見ると人だかりが出来ていた。
多くの生徒が制服を着ているというより、着せられているかのような初々しさがある。多分新入生達だろう。
「それじゃ、行きますかね。生徒会長の元に」
「そーいや、何で呼ばれたんだ」
「さぁな」
昨日。つまり、3年になってからの初めての登校日。
仁が1人、先に帰ってしまったので俺は1人悲しく帰り支度をしていた。
そんな時、俺のクラスに1人の女子生徒が入って来た。
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「いたいた。やっと見つけた」
身支度も終わり、俺は教室の出口へと向かう。
今日はせっかくの午前授業だ。家に帰って何をしようか……と考えていると、出口を塞がれた。
「待ちなさいよ」
「すみませんが、そこをどいてくれませんか」
「人が呼んでるの分からない!」
「どなたかに用なんですか?でも、出口を塞ぐのは良くないかと」
「あなたよあなた!佐伯 享!」
「佐伯さんですか?おーい、佐伯さーん、この人が呼んでますよー」
俺は教室を振り返り、佐伯という人物を呼ぶ。
ただ、何故だろう。クラスメイトが俺の後ろの人を見て、青ざめているのは。
「さーえーき!人をおちょくって、楽しいっ?」
肩を掴まれ、俺は強制的に出口の方へと身体を向けさせられた。
「そうですね……人をおちょくるのが楽しいかと聞かれたら、分からないと答えますね。ただ……」
「ただ?」
俺は満面の笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「生徒会長をおちょくるのは、めちゃくちゃ楽しい」
俺はその言葉を言い終わると同時に、生徒会長による渾身のアッパーにより撃沈した。
「いってぇー……何するんだよ、生徒会長」
「あなたが人をバカにするからでしょ!」
「楽しいんだから、しょうがないだろ!」
「逆ギレ!?」
この学校の生徒会長。
その生徒会長様が俺にいったい何用だ。
「ちょっとお願いがあるの」
「デートか?それはちょっと……」
「ち・が・う・わ・よ!」
生徒会長が頭を抱え初めてしまった。
よっぽど疲れているのだろう。
「やっぱり、生徒会の仕事は忙しいんだな」
「あなたのせいよ!」
今日も元気な生徒会長様でした。
「んじゃ、俺は帰るな」
「あ、うん……じゃなくて!」
生徒会長は俺の襟首……は、背の関係上持てなくて俺の上着のはじを持つ。
「なんだよ」
「お願いがあるって、言ってるでしょ」
「だから、デートは勘弁」
「違う!」
流石に生徒会長の堪忍袋が切れそうだ。
「手伝って欲しいのよ」
「天誅を?」
「そこで、男手が欲しくてね」
あ、とうとう俺の事を無視し始めた。
「どうせ、あんた明日暇でしょ」
「人聞きの悪い」
聞きもしないで、人を暇人扱いしないで欲しいな。
「え?用事あるの?」
「いや、ないけどさ」
「殴るわよ」
「悪かった……から、その拳を下げてくれ……」
すぐに手を出すのは、良くないと思うんだよな。
「はぁ……暇なら明日、もう1人誰か連れて学校に来て」
「明日って、休みじゃねーかよ」
「それじゃ、明日宜しくね」
「お、おい」
生徒会長は俺の言葉を無視し、教室を出て行ってしまった。
「明日か……仁でも誘うか」
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「なんで、俺を巻き添えにした……」
「どうせ、暇だろ」
体育館へと続く廊下を歩きながら、何故今日ここに来たのかを説明した。
「確かに暇っちゃ、暇だったけど」
そんな話しをしていると、向こうから生徒が歩いて来る姿が見える。
「新入生か?」
「上履きの色的にそうだろ」
この学校は上履きの色で、学年が分かるようになっている。
「喜多村さん、早く」
「う、うん」
喜多村?
横を通り過ぎた新入生の口から聞こえた『喜多村』という苗字……どこかで……。
「おい、享」
「ん……あぁ」
多分、気のせいだろう。
俺に年下のしかも、女子の知り合いなどいないし。
「早く行かないと、生徒会長様がうるさいからな」
「そうだな」
仁に急かされ、俺は考える事を辞め体育館へと向かった。
「喜多村……か」
それでも、『喜多村』という苗字が俺の中で何故か引っかかっていた。
早くて今日、遅くても明日の夜には続きを