混乱
静かな街をすごい形相で俺は自転車を漕いだ。
自転車のカゴには表紙が赤く染められた一冊の本が無造作に投げられていた。
まだ家に帰るには早い。
そう考えながら帰り道をそれる事にする。
確かこの先にコンビニがあってその前が公園だったはず。
コンビニでなにか買って公園で時間を潰そう。
そう思い自転車を急がせてコンビニへと向かう、流石に朝とは違い出歩く人も増えていたが、あからさまに酒気を帯びている人や、精神的に傷ついている人の割合が明らかに多い気がした。
まぁこの状況酒くらい飲まないとやってられないと思う。
コンビニについて自転車を止めてコンビニの中へと入るとあまりにもひどい光景が目に飛び込んできた。
陳列されていたであろう商品は床などに散らばっていて、人もおらず、足の踏み場もないような状態だった。
秩序が終わったんだ。
そう実感した後、自分の考えがいかに甘いか笑えてきた。
父親に頼んだお金をおろして来てもらうと言う行為。
金は結局のところ、社会秩序が成り立っているからこそ有効なだけであって、こんな状況。
意味があるわけがない。
床から一つ踏みつけられたお菓子の袋をとるとそのまま店を後にした。
そして、そのまま自転車を押して公園に入り、カゴから本を出して、ベンチに腰をかけた。
お菓子の袋を開いて中身つまみながら本を一ページづつ開いて読み始めた。
時々血のりに張り付いて開かないページもあったが、それでも内容は把握できた。
おおかたメガネ君が教えてくれた内容と合致したが、最後の方だけ若干違っていた。
確かに主人公は自害する。
が、終わりは絶望のみで終わるものではなかった。
今まで苦しめられてきた生き残った野生の動物や樹々は人間がいなくなった嬉しさで歓喜の涙を流したが、同時に星も悲しみの涙を流し、雨を降らせた。
その雨は人間達の血を流し、残った肉は良質な肥料になった。
そして星は緑の星となり、また新たな生命を育める環境になった。
まるで聖書の一説にでもあるような話だ。
読み終えた俺は静かに本を閉じた。本に染み込んだ血は時間がたったからだろう、黒く酸化していた、酸化した血は触れると砂のようにポロポロ取れるものもあった。
確かにこの本から伝わる事は多いにある。
ある民族では死が怖くないと言う。
それは死は肉体と言う牢獄からの解放であると言われているからだ。
そういう見方ある。
、
、、
、、、。
ふざけるなよ。
こんな事納得できるか?
そんなの理不尽な事を飲み込むために自分に言い聞かせてるだけじゃないか。
よし。
俺は抗う。
抗ってみせる、そして、最後の最後まで諦めないんだ。
ベンチから立ち上がった俺は自転車へと歩いて行くと、公園の端のベンチに自分の父親が座って居るのを見つけた。
結局の所家族を不安にさせまいと仕事に行く振りをして家を出たが会社に行っても誰もいなかったのだろう。
ゆっくりと父に歩みよっていく、すると父親の方に走っていく黒いレインコートの人がいた。
それに気がついた父はなんの事かわからずに立ち上がった。
そして、男はそのまま父にぶつかった。
しばらく動かない二人を俺はただじっとみていた。
そして、その後に起こる衝撃で、俺は自転車に飛び乗ってその場を後にしていた。
日本が、三権分立で上手く回っているように社会も法や秩序で統率がとれている。
しかしそう言ったばかりの国だけでは決してない。
地域によっては歩くだけで襲われたり殺されたりする地域や迫害や差別によって固められた地域もある。
そのような国の話を聞くと日本のような国に生まれた事を感謝する。
しかし今は逆に日本に生まれた事を後悔してしまう。
日頃から乱れきった国であるならば常に警戒をしているだろう。
日々の平和で失ってしまっているのだ、危機管理能力を。
結果、出てくる異常者、殺人鬼のような人間に殺される。
目に焼き付いている。
レインコートと父さんの間には木製の柄が見えていた。
カッターシャツは柄の部分から染色されていく。
崩れ落ちる父さんをじっと見ているレインコート。
公園の土を赤く染めて行く。
そこからは見ていない。
自転車を漕ぐスピードがあがる。
その分思考回路をなるべく回さないためだ。
カゴの中で本が飛び跳ねている。
押さえようと右手をハンドルから離し手を延ばす。
しかしその手の横を通り抜けてカゴから本は落ちてしまう。
しかし自転車を止める事ができない。
頭で父さんの顔がちらつく。
自転車を止めたら死んでしまう。
油断をしたら死んでしまう。
忘れていた人間の本質。
常に周りに命を狙う動物が居た時代。
そんな時代に戻ったのだ。
ジェームズのせいで。