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Final Hit 「先生と生徒のいけない関係」



『紅茶のブレンドについて質問がある。アールグレイ1に対して、ダージリンは7か?』

 

 大原は生徒達を送り出した後、職員室に戻って片づけを始める。教師達も休みの前は持ち帰る物の仕分けをしなければならず、大掃除のように時間がかかる。その間、大原は無意識に時計を気にしながらやっていた。


「大原センセ、どうしたのですか? 時計ばかりを見て? 今日はデートとか?」


「えっ? いえっ! まさか! 私にそんな……特定の人なんて……。そう言えば、横田先生の方は…」


「へくちょんっ!」


 大きなくしゃみによって、大原と横田先生の会話は中断となった。不満そうな顔をしながら大原が声のした方を見ると、本田教諭主任が鼻を噛んでいるところだった。それを見た大原は、口元を緩ませながら横田先生に小声で言う。


「主任でも風邪引くんですね!」


「なんでも、合コンに気合を入れてミニスカートと生足で行ったら、ああなっちゃったって話ですよ! うふふ」


「主任がミニスカート? ぷっ……」


 二人で肩を揺らして笑っている所に、本田の金切り声が飛んでくる。


「そこの二人! 口よりも手を動かす! 私はこの後用事があるんですからねっ!」


「はぁ~い!」


「大原先生っ! 返事は短くっ! 生徒達に示しがつきませんよっ!」


 鬼の形相な本田主任の目の前で、二倍速の動きを見せる大原と横田先生であった。




「ああ参ったな。ホント主任といると息が詰まる。あれじゃあいつまで経っても彼氏なんて出来ないな」


 大原は、学校から歩いて五分程の河原に来ていた。時間は午後五時。ダージリンが指定してきた十七時だ。携帯では隠語を使ったやり取りしか出来ないため、直接会って話をする必要がある時はこの場所でと決めている。


 鉄道が架かっている橋のコンクリート製の橋脚にもたれかかっていた大原は、すぐ横に人が来た気配を感じ取った。


「そちらの茶葉はグラムいくらだ?」


「悪いね。うちのは売り物じゃないんだよ」


 低い声を出す男に、大原はそう答えた。すると男は、コンクリートの角の向こう、90度の陰から話を始める。


「テロ組織、『終末の風』が厄介な男を招聘した。元アメリカ陸軍特殊部隊、ジョン・マーティンだ」


「元グリーンベレーか。ジョン……マーティン。どこかで聞いた名前だ」


「奴が軍隊から追い出された理由は、C4に取り憑かれたからだ」


「そうか。……『マーティン爆弾魔(ボマー)』か。なら、ワシントンでC4プラスチック爆弾を使って博物館を吹き飛ばした奴だ。死者百五十人、内子供が三十人。見学に来ていた小学校の一クラス全員が殺された……」


 大原は自然と拳を強く握っていた。


「そいつをお前に頼みたい。居場所はじきに見つかる」


「馬鹿を言うな。俺は暗殺部だ。狙撃が主な仕事。どこにいるか探し当てたなら、そのまま強襲部隊にやらせるべきだろ」


「お前は特別として、暗殺部も強襲部も情報が漏れないようにするため二人一組でしか動かさないのは知っているだろう? ジョン・マーティンは只者ではない。強襲部隊に確実に奴に勝てるペアはいない。無駄に戦力を減らさないために、国家特殊部隊は最強カードを最初に切る事にした」


「おいおい。俺がエースだったとしても、それは狙撃と言う得意技(スキル)があるからだ。相手は恐らく狙撃を警戒してそれ相応の場所に潜むだろう。俺は拳銃を使っての近距離射撃(ショートシュート)は一般警官並…」


「へくちょんっ!」


「はぁ?」


 コンクリートの影から、鼻をかむ音が大原に聞こえてくる。


「すまない。……なんだったかな?」


「……風邪か? 最近流行っているみたいだから気をつけろよ。で……えっと、なんだっけかな? ……そうそう、俺より近距離射撃(ショートシュート)が上手い奴は強襲部に何人も……いや、全員だろ。俺は無理だ」


「何を言っている。お前はミャンマーで現政府に反目する組織の幹部を全て殺った時、その半分は近距離射撃(ショートシュート)だったはずだ。いや、近距離射撃(ショートシュート)にこそお前の本来の力が…」


「やめろ。今回はどうも気が進まない。他の奴にやらせてくれ」


「ジョン・マーティンが日本に放たれれば、また子供が沢山死ぬかもな……」


「…………」


 大原はうつむく。彼の脳裏には、資料で見た凄惨な現場が思い出された。


「それに、今回の事は別のテロ組織『火の国』も粛清の動きに出ているようだ。あの子も動くかもな……」


「何っ!」


 大原の目がくっと開かれた。下唇を噛んでから男に言う。


「知っていたのか?」


「うちの情報網と捜査力は警察以上だ。もちろん転校してきた時は知らなかった。しかし、この間の橋口議員に使われた銃や、お前の態度からおおよその見当はついた」


「分かった。俺がやる。お前らは全力でマーティン爆弾魔(ボマー)を見つけろ。……『火の国』よりも早くな」


「了解し……し……し……ちっ、へくちょんっ!」


「療養するのは見つけた後にしてくれよな」


 そう言うと、大原は橋脚からまっすぐ歩いて遠ざかる。


「言われなくても! 分かっているわ…ぜ!」 


 ダージリンはコンクリートの陰から大原に向かってそう叫んだ。





 それから数日後のクリスマスイブ、舞花の家に背広の男が現れた。舞花に指令を伝える『火の国』幹部の男だ。


「……でジョン・マーティンらしき男が確認された。急行し、殺せ。良いか?『火の国』はテロ組織ではない。『終末の風』とは同調しない」


「了解した」


「ところで、どうして少し派手な服を着ているんだ? どこかに出かける用事だったか?」


「別に。もしそうなら、部屋で正座してボーっとしている訳が無いだろ」


「……そうだな。では、すぐに仕事にかかれ」


 男が出て行った後、安物の生地だがドレスのような服を脱ぐ舞花の表情は、少し残念そうに見えた。



 

 数時間後、慌てて自宅を飛び出す大原の姿があった。


「舞花……今のお前じゃ、本物にはまだ勝てない……」


 原付では無く、珍しくタクシーに飛び乗る大原だった。




 工場が乱立するコンビナート地帯。ここには朝から晩までひっきりなしに船が行き来をする。そこに立ち並ぶ巨大な倉庫。その扉を小さく開け、隙間から中を覗き込みながら拳銃の弾装を舞花は確かめる。その後ろには濃紺の背広を着た男が立っている。


「まだC4は受け取ってないとの情報だ」


「ああ。入手していたら、いつまでも受け取り場所であるここにはいないだろうからな」


 背広の男にそう言うと、舞花は中に入って言った。


 男は、首を振って辺りに誰もいないのを確認すると、巻き添えを嫌ったのかその扉から離れて行く。


―トントン―


 その男の肩を後ろから叩く人物がいた。スーツの男は顔を引きつらせながら振り返る。同時に右手は上着の懐に突っ込まれていた。


「久しぶりね、喜多田君。元気してた?」


「ほ…本田先輩……」


 それは大原の学校、教諭主任の本田沙織であった。本田の手のひらは背広の男の肘に当てられており、男が懐から容易に腕が抜けないように押さえられていた。


「特別兵士養成所以来ね。そこで、喜多田君は実技で私に勝てた事あったかしら?」


「……ありませんでした。腕相撲ですらも同様に。ですが、私は養成所でも平均以上の結果(スコア)を出しており、本田先輩がずば抜けていただけであります」


「はいはい。その話は耳にタコが住んじゃうくらい聞いたわ。その優秀な喜多田君が『火の国』に入信して以来の再会ね」


「ご……ご存知でしたか……。先輩はあのまま優良兵士(エリート)として国家特殊部隊、特部に入ったって聞きました……」


「今はしがない中間管理職だけどね。優秀なのが下にいるから、私の出る幕が無いのよ」


「まっ……まさか! 先輩よりも上が?」


「そう言う事。でも、現場から一線を引いた私だけど、『火の国』の幹部はみすみす見逃す訳にはいかない」


 本田は髪からピンを一本引き抜いた。上に纏め上げられていた髪がふわりと肩に落ちた。


「先輩は……おろした方がお似合いですよ」


「嬉しい事言ってくれるわね。合コンの男達もそんな事言えないのかしら……? まあ良いわ。さて、問題。喜多田君は懐に銃。私は手にピンが一本。戦えばどちらが勝つでしょうか?」


 誰もが勝つのは男だと思いそうな問題だったが、喜多田は懐から手を下ろした。


「興味あるのは舞花ですか?」


「あら、勘の良い男ね」


「分かりますよ。組織の事を聞きだす気なら、とっくに私の意識を刈り取っているはず。じゃあ殺す気だったとしたなら、肩を叩く代わりに瞬殺でしょうからね」


「ふふふ……。で、あの少女、こっちに譲ってくれない? 私の部下がとっても気に入っているのよ」


「良いですよ」


 その答えに、百戦錬磨だと思われる本田沙織も驚いた。




[ガァーン ガァーン]


 工場の中で息を切らせながら舞花は走っていた。額を汗が一筋流れる。


[ガァーン]


「うっ!」


 弾が腕をかすめ、舞花は銃を落とした。拾い上げもせずに物陰に飛び込んだ舞花だったが、その表情は覚悟を決めていた。


「……私に足りなかったのは経験。相手を甘くみていた」


 うつむいた舞花は、コンクリートの床を見つめながら呟く。


「経験……。他にも体験すべきことがこの世の中には山ほどあったのだろう。その一つとして……ケーキ。もう少し……味わいたかったものだ……」


「味わえば良いじゃない? これからいくらでも」


 舞花が隠れていた物陰に本田が滑り込んできた。すぐさま立ち上がった本田は、手榴弾のような物を二つ工場内に投げた。手榴弾は破裂せず、白い煙をもくもくと噴き出す。


「来なさい! 逃げるわよ!」


「馬鹿な! 背を見せるくらいなら、死ぬ気で敵の喉下に噛み付けと私は教育されて…」


 有無を言わせず軽い舞花の体を抱えあげると、本田はオリンピック選手のような瞬発力で二十メートルを駆け抜けて扉から工場の外へ出た。



「高田っ!」


 そこへ、ようやく大原が駆けつけてきた。その大原に、本田は抱いた舞花を見せないように背を向ける。


「ほ…本田主任? どうしてこんな所へ……? いやっ! 高田さんは?」


 髪を下ろしていた本田にすぐ気が付かなかった大原だった。本田は大原に向かって首を振って口を開く。


「とりあえずすぐに病院に連れて行くけど……手遅れかもしれない……わ……」


「なっ……」


 大原の顔は蒼白になった。


「中にいるジョン・マーティンにやられたのよ……。お願い、仇をとってあげて……」


「ジョン・マーティン……。よくも俺の生徒を……。俺の家族を……」


 そう呟いたが最後、大原の顔から表情が消え、何も言わなくなった。その瞳は黒から灰色に変貌する。



 大原が倉庫に入っていった後、口を塞がれていた舞花が本田の手を払いのけて言う。


「どうしてあんな事を言ったのだ? 私の怪我は大した事は無い」


 本田は笑顔で舞花を地面に下ろした。


「大原先生に本気を出してもらうためよ。彼は大事にしていた物を無くした時、本来の力が出る。例えば、ミャンマーで某反政府組織を、一人で壊滅させた時とかね」


「なにっ! あれは……奴が? まさか……? 奴……が……」


 しばし呆然とした舞花だったが、鋭い目で大原が消えた倉庫を睨んだ。


「さっき喜多田君から聞いたわ。あなたはあそこの生き残りなんだってね? そして、組織を壊滅させた者を憎んでいるとも」


「その通りだ。奴は殺す」


「どうして殺すの?」


「何っ? ……それは、私の家族である者達を殺したからだ」


 すると、本田は舞花に対して声のトーンを落として話をする。


「知ってる? 十六年前、父親の仕事のために家族でミャンマーを訪れていた大原先生とその両親は、舞花ちゃんが育てられていた組織に誘拐された。日本人の人質をとって政府を交渉の場に引き出そうとした訳だけど、政府からは何も答えが返ってこなかった。そして……その家族は組織によって処刑されてしまった。当然日本では結構問題になったの」


「何? なら……奴はどうして生きているんだ?」


「それが運よく処刑前に彼だけ逃げ出せたの。ひょっとして両親が自分の身を犠牲にして逃がしたのかもしれない。彼はその事を何も語らないから分からないけども。それから十年間、彼はあなたの組織や似たような反政府組織がいるジャングルを……一人で生きた」


「……そ…れは無理だ。不可能だ。何の装備も無くあの森を、我々に見つかる事無く生き抜く事など……。十六年前と言うと、奴が私と同じくらいの歳か? 訓練を積んだ私でも一週間身を隠せるかどうかのような試練だ。それをただの小学生が十年も森で隠れて生き延びるなど……」


「私は兵士として訓練を積んでいる時に噂を耳にした事があった。ミャンマーの森には精霊となった黒豹が住むと。そんな話を聞いた事はない?」


「ある。襲われた兵士は装備も体も見つからないと言う伝説だ。私が兵士とされるために連れてこられた六年前くらいから聞かなくなったと言う話だ。……そう言えば、それは私の組織の幹部達が暗殺された時期と重なる……」


 視線を落とし、考える舞花に本田は頷いて見せる。


「そう、それが若き日の大原先生の仕業。今は丸くなっちゃったけどね。彼は1キロ超の長距離射撃が得意だけど、それと同じく近接戦闘能力もとてつもない。全て、ミャンマーの密林で兵士達から盗んだ独学らしいけどね」


「独学……。1キロを超える狙撃……。本当だったのか」


「さて、どうする? 大原先生を殺す気? 彼は家族の仇を討っただけ。あなたも家族のような組織の仇を討ちたいらしいけど、大原先生の家族は何の罪も無かった」


「…………」


 舞花は本田の顔を見ながら黙り込んだ。本田は、舞花に向かってゆっくりとした口調で、先生らしく話しかける。


「これが本当の意味でのお勉強よ。あなたの選択支は何か分かる? 答えは? 一つ間違えばあなたは闇に落ちる。土壇場での選択、これを何度も重ねて人は成長するの。舞花ちゃん、あなたにとって、生まれてはじめての大きな選択になるかもね?」


「…………」


「あ、一つ大切な情報がある。舞花ちゃんの所属は『火の国』から私達の組織へと変わった。平和的に譲り受けたのよ」


 それを聞き、舞花は驚いて強烈に首を横に振った。


「何っ? まさかっ! 嘘をつくんじゃない! 国の組織に移動など、道理に合うわけが無い!」


「本当よ。あなたの上司にあたる喜多田君だけど、舞花ちゃんには普通の少女の幸せも与えたくて小学校に通わせ始めたらしいの。でも、普通には生きられない事も良く分かっていた。つーまーりー」


 そこで一端切り、また続ける。


「学校の先生と一緒に私の組織で働く事は、一石二鳥だって事。兵士として生き、学校へも通う事が出来る。どっちもこなせるって訳! 都合よく大原先生には相棒もいないしね! きっと、大原先生があなたを導いてくれるわよ! もちろん、彼に残っている心の闇も舞花ちゃんが溶かしてくれるかもしれないしねっ!」



 その時、倉庫の扉を開けて表情を持たない大原が出てきた。しかし、立って話をしている舞花をみつけると、瞳の色が灰色から黒へと戻る。


「高田! お前、生きてたのかっ!」


「あら、銃声が止んだと思ったら、もう元グリーンベレーをやっつけてきたんだ」


 肩をすくめた本田の前で、大原は舞花を抱きかかえた。自分に向けられた満面の笑顔を見て顔を赤くした舞花に本田は問う。


「さあ選択よ。舞花ちゃん、どうするの?」


「本田主任、何を言っているんですか? それよりあなたがどうしてここに……?」


 舞花の答えは、目の前にいる幸せを与えてくれる可能性に対して抱きつく事であった。




 

 その夜、舞花のアパートでケーキとチキンを囲む三人がいた。


「七面鳥なんてどこに売っているのか分からないから、ケンタのチキンで許してくれよな」


「こんな手の込んだ鳥料理など初めて食べる。いつもは焼いて塩を振っただけで……」


 舞花は珍しそうにチキンの衣を引っ張って感触を確かめる。手に付いた油を舐めて首を傾げてみせたりもする。


 料理を小さなテーブル一杯に並べ、乗せ切れない分はダンボールで作った即席のテーブルの上に乗せた。ノンアルコールシャンパンを注ぎ、三人はそれぞれグラスを手にした。


「そう言えば、話しておかないといけないことがあったんだ」


 言った後、大原は舞花の顔を見ながらまた口を開く。


「君を育てた組織を潰したのは、他でもない俺だ。でも、俺はまだ死ぬ訳にはいかなくて……」


「知っている。戦争で親を亡くした子供達にお金を送ったり、地雷撤去費用の募金を行ったりしているんだろ? お陰でお前は生徒達が哀れむほど日々貧乏な生活を送っている。全て本田から聞いたぞ」


 大原は、舞花と本田の顔を交互に見た。そんな大原に、舞花は大きな目を向けながら続けて話す。


「私がミャンマーで所属していた組織などどうでも良い。良く考えたら、幼い日本人の私をさらって兵士に教育したなど非人道的な連中だった。先ほどインターネットで調べていて、私は『洗脳』と言うものを受けた疑いが高い事が分かったんだ。あ、パソコンは喜多田が餞別に置いていってくれた」


 舞花が目を向けた部屋の隅には、黒いノートパソコンが一台置いてあった。


「高田……。お前、本気で言っているのか? 物心ついた時から受けた洗脳はそんな簡単に解ける物じゃないし、兵士としてのお前の忠誠を考えると…」


「これからは舞花と呼べ。お前と私はパートナーだ。以後、共同で仕事に当たる。人と組むのをお前は嫌うらしいが、確かお前は私に『狙撃』を教えてくれると言っていたぞ。教師は生徒に物を教えねばいけない。これは当然の(ことわり)だ」


「…………。考えれば、舞花を一人にするのは色んな意味で危険だ。俺がいつも見張っていた方が良いな……」


 大原が小さく笑うと、その手にしていたグラスに舞花が自分のグラスを軽く当てた。お互いの目を見ている二人に本田が言う。


「最強のコンビが誕生ね! 私も鼻が高いわっ!」


 本田も二人のグラスに自分のグラスを当てた。その浮かれた顔を見た大原は、少し呆れたように口を開く。


「しっかし、本田主任も人が悪いなぁ。ダージリンならそう言ってくださいよぉ。隠すだけならともかく、どうしてわざわざ男の声に変換して俺と電話をするんですかぁ?」


「そっ……それは……。私の元へ配属される大原先生の写真を初めて見た時……何となく……秘密にしてやろうかなって……」


「それに、どうして今日はミニスカートなんですか? この後に合コン? 良い歳してまったく、だから風邪をひく…」


―ゴリ―


 言い終わる前に、笑顔の大原の額に本田の銃口が押し付けられていた。


「大原君、これからはダージリンとしても厳しくいくわよ」


「ええっ! 学校でも外でも、休まる暇が……」


 両手を挙げている大原を見て、舞花が隣で言った。


「大原も私と同じだな。しかし大原は特に、女心をもっと勉強する必要があるようだ」


 そして、大原の前で舞花は笑った。その顔を見た本田も顔をほころぶ。しかし、その本田を指差しながら大原はまた余計な事を言う。


「女心ぉ? 無理だって! だって、本田主任なんて俺が教師だから、英語でteacherで、最初の三文字をとってTea、つまりお茶って事で紅茶の名前で呼び合うとか決めた人だぞっ! ダサいっ! ほんと三十路はこれだから…」


「お前も小学生からやり直せ!」


 本田のパンチを食らって大原は目をバッテンにして倒れた。


 それを見て、大きく口を開けて笑う舞花だった。




「teacherとstudentのGURDだから、ティーデントガードよ!」(本田談)



                             〈了〉


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