サークル勧誘
「よーし、帰りのホームルーム始めんぞー」
七限が終わり、ナヅ先生が教室に入ってくる。
「ホームルームの内容なんだが、特に話すようなことはない。仲良くしろって言うのと、あとはー……」
先生はだるそうに頭を掻く。
「気を付けろよ、ってことぐらいだな」
ん?気を付ける?
圧倒的に安全なこの王立魔法学園で?一体何の話だ?
「最近は貴族のプライドのかけらもねぇカスが多い。特にお前らA組は格好の的だからなー。気をつけろー」
「はい。ホームルーム終わり」
先生はそう言い終え、教壇にあった椅子に座る。
あれ?
ホームルームは終わったはず。なぜ教室を出ないんだ?
朝はあんなに爆速で教室を出て行ったのに。
クラスメイトの大人しそうな女子がそそくさと教室を出ようとした。
ギィ
ドアが開く。
「ひっ……」
その瞬間、その子はたじろぎ、しりもちをついた。
ドアの向こうにいたは、ぎゅうぎゅう詰めになった人間。
「「「「「*?+>+*‘++{サークルにぜひ!!!」」」」」
前半はいろんな人がぐちゃぐちゃしすぎて聞こえなかったが、最後だけ少し聞こえた。
なるほど。サークル勧誘ね。
サークルというものは知っている。同じ趣味の人間の集まりみたいなやつだ。
確か、学園内の評価の一部にサークルでの活動もあった気がする。サークルとしての結果を残すために優秀な人材が欲しいってことか。
成績の上位十名が集まっているこのA組に人が殺到するのも当然だ。
ドアの向こうを改めて見る。
人が人を押しあいながらも、教室にはぎりぎり入ってきていない。
人間ってここまで密度高くなれるんだな……それにしても、本当に貴族か?
「サークル勧誘は教室に入るの禁止。そんで教室棟が閉まる五分前までっていう制限がある。時間が来るまで寮棟に帰るのは諦めた方がいいぞー」
先生が言う。
……そんなことあっていいのか?
ここ、貴族が通う学園だよな?
「先生しつもーん」
アリアが声を上げた。
「ん?なんだ?」
「今だけ魔法の使用オッケーになりません?」
この学園では安全のため魔法実技棟、体育館、校庭、闘技棟以外では魔法の使用が禁止されている。
ここ、教室棟は魔法禁止区域だ。
「許可してーけど無理だな。魔法禁止のとこで魔法を使うと、魔法を感知してアラートが鳴りやがる。人力で薙ぎ払ってくれ」
先生の答えはノーだった。
アラート……そんなの鳴るんだな。初めて知った。
「クソッ……仕方ねぇなぁ」
後ろを見てみると、デリヴェが椅子から立ち上がっていた。
「アリア、やってやんぞ!」
「あぁ、行くぜ!」
デリヴェの誘いに、アリアは乗り気だった。
やってやるって、もしかして人力で薙ぎ払う気か?この人数を?
流石に無理じゃ……
「「うおおおおお!!!」」
二人はドアの前まで走るって行くと、人波に突っ込んだ。
すると、サークル勧誘の間に体をねじ込んだ二人の姿はすぐに見えなくなる。
「興味ないですううう!!!」
「結構ですううううう!!!」
最初は二人のサークル勧誘を拒否する叫び声が聞こえたが、やがて勧誘の声にかき消されていった。
「死んだな……!」
キュナが言う。
……まぁ、実質的に死んだと言っても過言ではないか?
「では、我も向かうとしよう」
次はキュナが勧誘たちの前に立った。
「我は探しているサークルがある!!」
そして、大きな声を出す。
すると、さっきまでの喧騒が嘘のように静かになった。
「アクマサークルはどこだ!!」
誰も声を上げない。
しばらくして、ひとつの長い手がゆっくりと上がった。
「悪魔サークル”ヴェラー・ヴェル”なら、こちらに……」
「なんと!通せ!!」
キュナは勧誘たちの中に埋もれていく。
しばらくの沈黙ののち、サークル勧誘たちが声を取り戻した。
悪魔サークル……そんなのもあるのか……っていうかあっていいのか?そんなの。
悪魔なんて魔女に並ぶような魔法界の禁忌だぞ。
……そういえば、メリーはサークルには興味があるのだろうか?
あまりそういうものに興味があるようには思えないが……。
「メリーさんは何のサークルに入るんですか?」
僕がメリーに聞く。
「入る予定はないわ」
メリーが答えた。
なるほど、じゃあ僕と同じか。
うーん、メリーが入らないなら僕も入らなくていいかな。でも、せっかく学園生活を送るんだし入った方が何となく良さそうな気もする。評定にも響くしな。
残ったクラスメイトは誰も動かない。誰もサークルに興味ないのだろう。前提として何のサークルがあるのかが分からないっていうのが大きいだろうけど。
「仕方ない……」
その時、フェトムが大きなため息を吐く。
「帰りたい奴は王であるこの俺の後ろに並べ」
そして、ドアの方へ向かっていった。
「あー、なるほど」
誰かが納得する。
僕も何が起こるか分かった。
フェトムの後ろに何人かクラスメイトが並ぶ。
「お前ら心して聞け!!」
フェトムが声を張り上げる。
「俺はこの王国の第一王子フェトム・ラリエルだ!!道を開けろ!!」
そして、堂々とそう言い放つ。
流石王族。権力をちゃんと使いこなしてるな。
「ラリエル様だ……」
「マジか。しゃーねーな」
勧誘たちは潔く道を開ける。
「行くぞ」
「さっすがラリエル様~」
フェトムたちは教室を出ていく。
僕は教室を見渡した。
残った生徒は僕とメリーともう一人か……。
残ったのは、確かルースという名前の女子。
ルースは、周囲をキョロキョロ見渡したのち、教室の後ろからゆっくりと歩いてきた。
フェトムと共に帰らなかったということは目的のサークルがあるのだろうか?
前までゆっくり歩いてきたルースはメリーの前に立つ。
そしてさらに、身をかがめて座っているメリーに視線を合わせた。
「トゥメルトさん、ちょっとお願い聞いてもらってもいいかな?」
そして、ゆっくりとした喋り口でそう聞く。
「なんですの?」
メリーが返す。
「その、頭を……」
「頭を、撫でてもよろしいでしょうか?」
ルースがためらいながら言った。
……へ?
メリーも理解ができないという顔をしている。
頭を……撫でる……?
メリーの……?
「あっ。べ、別に、ちょっとだけでいいのよ?ほら……トゥメルトさんって可愛いじゃない?朝からずっと気になってたんだけど、怖くて話しかけられなくて……その、えっと……」
ルースが一歩引く。
「いい、かなぁ?」
見ると、ルースは少し震えていた。震えるくらいならするなよ、そんな質問。
「貴方、自身の身分はお分かりで?」
メリーが冷たく聞く。
「そうだよねぇ……ごめんね……」
しょんぼりとした顔で下を向くルース。
「とろいせいで帰り損ねちゃったし、どうしようかなぁ……」
そして、困ったようにドアの方を見た。
教室には三人しかいないというのに勧誘の人間の数は減っていないように見える。すごいな、執念が。
「…………」
メリーはルースをじっと見つめる。
「一回だけなら、いいですわよ」
「「え!?」」
僕とルースが同時に大声を出した。
「な、なななんでですか!?」
「いいのぉ!?なんでぇ!?」
どういう風の吹きまわしだ!?部屋に帰れなくなったルースを可哀想に思って……とかは性格的に考えてないはずだ。一体なんで!?どうして!?
「わたくしとしては撫でさせる理由はありません……しかし、撫でさせない理由もございませんわ」
メリーは僕を見る。
「それに、今日は少し考えが変わりましたの」
考えが変わる……?それって、もしかして昼食の時の……。
「わぁい!じゃあ……」
ルースはゆっくりとした所作でメリーの頭の上に手を乗せる。
「すっごいもふもふでつるつるでもうすっごい……」
そして、ゆっくりとゆっくりと一撫でした。
ルースはゆっくりと撫でた後の手を眺める。
「わぁ……もう手洗えない……」
もう、完全に感極まっていた。
「フローレちゃんにあとで自慢しちゃお~」
そして、嬉しそうにその場でゆっくりとくるくると回るルース。
しかし、頭を撫でさせるなんて……漫画のメリーじゃ絶対に許さなかったはずの言動だ。
撫でさせる理由はない。けど、撫でさせない理由もない。
言われてみれば、それはそれでメリーらしい。
…………。
「……僕も、撫でていいですか?」
僕が思い切って聞く。
メリーは無表情のまま何も答えない。
まぁ流石にこれは冗談だ。僕が撫でていいわけ……
「一回だけですわよ」
メリーが言った。
「え!?いいの!?」
メリーは特に嫌そうな顔をしていない。さっきと同じ無表情だ。いいのか?本当に?
僕は、軽くメリーの頭に手を乗せた。
あっ。すっごい柔らかい……。
そして、優しく一回撫でる。
「よかったねぇ、ヒューマくん」
「はい……」
メリーの髪の毛の感触が手から離れない。
鮮明な髪の感触が。
……流石にキモいな。
でもまぁ、多分このことは忘れられないだろう。
初めて好きな人の頭を撫でたことなんて。
最後まで作品を読んで下さりありがとうございました!
面白かったらぜひブックマーク、高評価、感想をよろしくお願いします!
次話もお楽しみに!




