ホームルーム
僕はさらにメリーに話かけようとして、やめる。
メリーの言葉を信じるとするなら、メリーは僕のことを覚えていないらしい。
となると、まず最優先事項は僕のことを思い出してもらうところからかな。
……でもまぁ最悪、思い出してもらえなくてもそばにおいてくれればそれでいい。
目的はメリーが破滅しないことなのだから。
少し、寂しいけど。
ギィィ
ドアが開く。
「む。ヒューマ」
教室に入ってきたのはフェトム。
フェトムは一瞬驚いたように目を見開くと、にやりと笑う。
「いい度胸じゃないか。この俺が隣に座ってやろう」
そして、僕の隣に腰を落とした。
「トゥメルト嬢の隣に座るなんてな。随分豪胆な男だ」
フェトムが僕に喋りかける。
随分豪胆……?まぁ確かに怖がられているという情報は知っているが、それほどか?
「どうしてですか?」
僕が聞くと、フェトムは
「貴様は知らないかもしれないが、トゥメルト嬢は貴族の間じゃ”冷酷の令嬢”と恐れられているんだ。ただでさえトゥメルト家だというのにな。だから、誰も近づこうとしない」
と教えてくれる。
あぁ……そこまでだったのか。
てっきり僕はメリーが学園に入ってから怖がられたのかと思っていた。しかし、どうやら家単位で恐れられているらしい。
通りで周りの席が空いているわけだ。
「きっと貴様こっぴどく言われたのであろう?だが安心してほしい。貴様には王である俺が……」
バンッ!
教室のドアが乱雑に開かれた。
「ういー、成績優秀者どもー。最初のホームルーム始めんぞー」
白衣を着た、小柄で少し日焼けをしている女性の先生が教室に入ってくる。
「なかなか粗雑な教師だな」
フェトムが言った。
確かに、かなり雑そうな先生だ。一般的なイメージの先生らしくない。
「んじゃあな~、まずはなにしよっかな~」
先生は教卓に頬杖をつき、唯一手にしている生徒帳簿と思しきものをぺらぺらめくる。
「今年のA組は例年通り十人。王子様もトゥメルトも居て……ん?聞いたこともねぇ貴族も居んな。誰だこいつ」
先生は教室を見渡すと、僕を見つけて笑いかける。
「ヒューマ・スノーベルってのはお前か。頑張ってんな」
ん?なんか……気に入られた?のか?
頑張ってんなって、僕座ってるだけなんだけど……。
よく分からない教師だ。
「はい。んじゃホームルームっつーわけだけど喋ることなんて……あー……初日は自己紹介か。うし。前から自己紹介してけー」
先生はメリーを指さす。
「お前から」
メリーが立ち上がった。
「メリー・トゥメルト。よろしくお願いします」
そしてすぐに席に座る。
それだけ……?何か一言とか言うものじゃないのか?こういう場では。
「次」
隣の席に座っている僕は立ち上がる。
どうしよう。何か一言付けたすべきか?多分付けたすべきだ。少しでもメリーに僕のことを知ってもらうために。
しかし、最適な言葉……何かないか?僕を端的に言い表せるような……
…………あ。
いや、これは流石にキモいか?でも、もしかしたらこれだけでメリーに少しでもとっつきやすいイメージがつくかもしれない……
「なんだー。早くしろ」
先生が僕を急かす。
……やるしかない。
「僕はヒューマ・スノーベル」
生唾を飲み込む。
「メリー・トゥメルトさんが目的でこの学園に入りました。よろしくお願いします」
誰も何も言わない。
教室は、一瞬静寂に包まれた。
「ふっ」
「「「はははははは!!!」」」
次に、教室で爆笑が起こる。
「ヒューマよ、流石に、それは……」
隣でフェトムも笑いをこらえていた。
「お前最高だな!ヒューマ!」
先生が目から涙をこぼしながら教卓を叩く。
メリーは……
僕のことを見つめ、ぽかんと口を開けていた。
これは……どっちだ!?いや、まぁいい!確実に認知はされたはず。
悪名は無名に勝るんだ。これでいい……はず!
「よっしゃ次ィ!やりにくいだろうが頑張れ!!」
先生はハイテンションに次を促す。
フェトムが立ち上がった。
「俺はフェトム・ラリエル……本当にやりにくいな。まぁ、次の王であるこの俺に媚を売っておいて損はないと思う。よろしく頼むぞ」
そして、順々に生徒たちは自己紹介をしていった。
生徒の自己紹介が終わる。
最後に、先生の自己紹介。
「私は担任のナヅだ。お前らには攻撃魔法学を教える」
たった一言だけ言い、先生はドアの方へ歩き出す。
「ホームルームは終了!一限の準備しとけぇ!」
そして、教室から出て行った。
ガタッ
その瞬間、席を立つ音とともに、僕の前には三人の生徒がやってきた。
「ヒューマ!お前やべぇな!トゥメルトさん目的って!イカれてるぜ!」
「ねぇねぇヒューマくん!私恋バナ大好きなの!馴れ初めをお聞きしても!?」
「この世で最もアクマに近い女、トゥメルトを選ぶとは賢いな!!」
えーっと、デリヴェにフローレにキュナだな。
「言うかどうかは最後まで迷いましたね。でも、自分に嘘はつけないんで」
僕はなるべくキリッとした顔で言う。内心バクバクなのを隠し、なるべく堂々と。
自己紹介のキャラは徐々に崩していけばいい。まずは僕とメリーがクラスに馴染むことだ。
「「ヒュ~~!!!」」
デリヴェとフローレが僕を茶化すような音を出す。
「トゥメルトさんはどうなんだよ!」
デリヴェがメリーの方を向いた。
「……どうでもいいわ」
メリーは教科書を読みながら冷たく言い放つ。
どうでもいいかぁ……。
「はははっ!こえぇ~!」
デリヴェは笑いながらさらに机に寄りかかる。
「でも、その態度……トゥメルトさん、本当はヒューマくんのこと好きなんじゃないのぉ!?どうなのよ!!」
「アクマの恋路をお聞きしよう!!」
フローレとキュナがメリーを煽った。
……あれ?メリーって怖がられてるんだよな?そのはず……だよな?
僕は少し周囲を見渡す。他の生徒は全員様子見をしていた。
ってなると、この三人がおかしいだけだ。
「心底どうでもいいわ。どうせ家柄にしか興味ないでしょうし」
「からのぉ~~??」
フローレが追撃を加える。
距離感……。
「…………」
メリーは喋らなくなった。
「ふっ……やはりアクマか……!」
キュナが勝手に納得する。
「そうだな……ヒューマ、貴様の雄姿は尊敬に値するぞ。気を落とすな」
フェトムが僕の肩にポンと手を置く。
気を落とす?まさか。そこまで悲観する必要はない。
僕の一言で、”怖がられている”はずのメリーの評価が少しは変わった。
近寄りがたくはあるが、少なくともこの三人からは怖がられてはいない。
「で、ヒューマくんはトゥメルトさんのどこが好きなのよ~」
フローレが僕に聞く。
「ふふふ……秘密です」
「焦らすね~!」
大丈夫。
運命は少しづつ変わっていっているはずだ。
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次話もお楽しみに!




